航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第125話~遅かったようだ~

「さてと……………アリさん、着きましたよ」

 

王都より数百メートル手前で着陸した俺は、ブラックホークのエンジンを切り、コンテナの中に居るアリさんに声を掛けた。

すると、コンテナのドアがスライドし、アリさんが姿を現した。

そして辺りをキョロキョロ見回すと、機体を解除した俺に近づいてきた。

何処と無く不満げなご様子だ。

まあ、その理由は分かってるんだけどね。

 

「ちょっとミー君。此処、王都より少し離れてるじゃないか」

「(やっぱりね……………)」

 

予想通りの言葉に、俺は苦笑を浮かべながら口を開いた。

 

「すんません。でも、仕方無いんですよ。王都のド真ん中に着陸したら、絶対面倒な事になりますからね」

 

俺はそう言って、ジト目を向けてブー垂れるアリさんを宥める。

 

「何なら、お姫様抱っこで王都まで行きましょうか?……なぁ~んt…………「是非ともお願いします」………嘘やろ?」

 

軽い冗談で言ったつもりなのだが、この人本気にしちゃいましたよ。

 

「ん?どうしたんだい?まさか、『"お姫様抱っこ"と言ったな?あれは嘘だ』なんて言うつもりじゃないだろうね?」

 

おい、ちょっと待て。なんでアンタがそのネタ知ってんだ?

 

「それで、どうするんだい?お姫様抱っこ、してくれるのかな?」

「……………………」

 

そう言って、アリさんは俺をジッと見つめる。

どうやら、覚悟を決めなければならないようだ。

 

「…………分かりました」

 

そう言う訳で、俺は王都までの数百メートルを、アリさんをお姫様抱っこした上に、彼女を抱いての全力疾走をする羽目になった。

 

何でも軽々しく言うものではないと言う事を、改めて学びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでアリさん、その請求書は誰に渡すんですか?国の上層部の連中ですか?」

「う~ん、そうだねぇ……………まあ正直な話、勇者なら誰でも良いとは思うんだけど……………やっぱり、カナデちゃんかな。何せ、彼女は依頼人だからね。それに、騎士団にあんな命令を出すような国の上層部が、報酬なんて払う訳が無い」

「ああ…………確かにその通りだ」

 

さて、そんなこんなで王都に入った俺達は、そんな会話を交わしながら町を散策していた。

以前の戦闘で瓦礫の山と化していた王都は、あの宴会でアリさんから聞いたように、長い間瓦礫の撤去作業をしていたのもあってか、町は思いの外片付いていた。

 

作業をしている住人達の話によると、どうやら今は、瓦礫の中でも未だ使えるものを集めて、住人達のための仮住居を作っているらしい。

 

「皆、大変だなぁ。他の町からの援助も無いんだから………」

 

作業する人達を流し目で見ながら、俺はそう呟いた。

 

「おい、彼処の2人見てみろよ、超美人じゃね?」

「ああ、それは俺も思った」

「あの紫ポニテの人、結構タイプだな」

「そうか?俺は隣の人が良いと思うけどな」

 

不意にそんなやり取りが聞こえたので、チラリとそちらに目を向けてみる。

すると、其所にはF組男子が居た。どうやら、コイツ等も作業中らしい。

 

「つーか、あの2人はそもそも何者なんだ?」

「さあ、分からないけど……………取り敢えず、王都の住人じゃないってのは確かだな」

「はぁ……………誰だか知らんが、呑気に散歩する暇があるなら手伝ってくれねぇかな…………?」

「そうそう。ただでさえ何処の町も義援金出してくれない上に、資材も人も送ってくれないんだからさ」

 

王都の住人達も、そんな話をしている。

 

「…………とか何とか言われてるけど、どうする?」

「別に気にしませんよ、こう言うのは連中の好きなように言わせとけば良いんですから」

 

小声で話し掛けてきたアリさんに、俺はそう答えた。

 

取り敢えず言えるとしたら、手伝う気などこれっぽっちも無い。

こちとら重傷負ってまで戦ったんだ、それからさらに要求されると、流石に気分が悪くなる。

ただでさえ国の上層部やらF組男子やらに要らない子扱いされた上に惨殺された所に戻る事になって若干気分が悪いってのに。

 

………………まあ、それなら最初から来なければ良かったんだけどな。

 

そうして暫く歩いていると、王宮が見えてきた。

 

「此処から、ミー君達の異世界生活が始まったんだよね…………?」

「ええ、そうですよ」

 

俺がそう答えると、アリさんは突然笑みを溢した。

 

「……………?ちょ、アリさん。いきなり何ですか?」

「いや、すまないね。ただ……………国の上層部も、惜しい事をしたなって思っただけさ」

「…………あ~、成る程ね」

 

アリさんが言いたい事を悟り、俺は頷いた。

 

そんな時だった。

 

「あの…………貴女方は?」

 

ゴムで結わえた長い金髪にエメラルドグリーンの瞳と言う、一瞬、ラリーの姉か妹ではないかと思うような容姿を持ち、法衣らしき服に身を包んだ、俺と同い年ぐらいの女の子が出てきた。

はて、誰だっけ?何か見た事あるような気がするんだが…………

駄目だ、全く思い出せない。

 

「これはこれは、ユミール・フォン・エルダント殿下。お会い出来て光栄です」

 

なんて考えていると、アリさんが突然、如何にも芝居がかった動きを見せた。

 

「私は、ルージュ冒険者ギルド支部長のアリステラ・リューズ。そして此方は、私の付き人です」

 

軽く腰を曲げ、胸に手を添えて名乗ると、アリさんは俺の事を紹介した。

取り敢えず、何も言わずに軽く頭を下げて会釈しておく。

 

「今日は、勇者カナデに用があって来たのですが、今は何処に?」

「カナデさんでしたら、もう水浴びをしに行かれましたが…………」

 

どうやら、遅かったようだ。

 

 

まあ、そんなこんなしている間に、2人の話は終わった。

どうやら、白銀達が何処へ向かったのかを聞いていたようだ。

 

「そうですか…………分かりました、ありがとうございます」

 

そう言うと、アリさんは俺に一目くれてから踵を返した。

俺もアリさんの後に続いて歩き出す。

 

「彼女等が向かったのは………………この森林の奥らしい」

 

地図を取り出したアリさんは、ある一点を指差した。

 

それは、以前にエメルとゾーイ、アドリアが拉致された森林地帯だった。

 

「この森林に入って西に進んでいくと、洞窟があってね。その奥に滝坪があるらしいんだ。それで勇者達は、幾つかのグループに分かれて、日毎に交代で水浴びをしているらしいんだ」

「此方とは思いっきり違いますね」

 

俺がそう返すと、アリさんは苦笑しながら地図をしまう。

 

「仕方無いよ。今や勇者達の立ち位置は平民程度……………いや、下手をすれば、それ以下になってるからね」

「ま、マジですか…………」

 

思いの外キツい境遇に立たされているらしいF組勇者達に、俺は少し同情する。

 

「それで……………行くんですか?この森に」

「私としては行っておきたいけど……………ミー君は嫌かな?」

「別に良いですよ。どうせ暇なので」

「そうか……………じゃあ、行こうか」

 

そう言うと、アリさんは俺の前に回り込んで腕を広げた。

 

「え~~っと……………アリさん、一応聞きますが、何してるんですか?」

「ん?見ての通り、お姫様抱っこをしてもらおうとしてるだけだが?」

「あれ未だ続いてたのかよ!?もう良いだろ!?」

 

しれっとした様子で言うアリさんに、俺が盛大にツッコミを入れたのは言うまでもない。

それで結局、俺はアリさんをお姫様抱っこした状態で王都を出る羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、こうして歩かずに済むのは良いものだねぇ」

「アンタは楽で良いですね」

 

そんなこんなで王都を出た俺達は、ブラックホークを展開してもバレない程度に距離を取っていたのだが、アリさんは相変わらず降りようとしなかった。

 

「さて、この辺りならバレないな……………ホラ、降りてください。コンテナに乗ってもらわないと駄目なんですから」

「は~い…………」

 

不満そうに返事をしながら、アリさんは降りた。

そして俺はブラックホークを展開してエンジンを掛け、アリさんをコンテナに乗せる。

 

「では、離陸します!」

 

そうしてエンジンの出力を上げ、アリさんに言われた森林地帯に向けて飛び立った。

 

ん?そう言えば、何か大事な事を忘れてるような気がするのだが…………まあ、良いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、沙那、桜花、奏、シロナの4人は、水浴びをするために森林地帯に来ていた。

 

「えっと…………此処で、合ってるわね」

 

地図を見た奏が、そう呟いた。

 

「『腰までの高さがある草が生い茂ってるから気を付けて』って、ユミール言ってたけど……………」

「殆んど生えていませんね」

 

出発前にユミールに言われたものとは違った光景に、沙那と桜花が首を傾げる。

 

「恐らく、昨日来たグループか、それよりもっと前のグループの誰かが、予め草を取り除いてくれたのでしょうね」

 

シロナがそのように予想する。

 

「まあ何はともあれ、通りやすいに越した事は無い訳だし、行きましょうか」

『『はい!』』

 

シロナの呼び掛けに、3人は返事を返した。

 

そして一行は、森の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、死んだ筈の神影と再会すると共に高額の請求を突きつけられる事になるとは、今の彼女等には知る由も無かった。


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