航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第124話~勇者達への請求書~

出だし早々こんな事を言って申し訳無いが、最近、ゾーイの様子がおかしい。

 

ラリーの一件が解決し、エミリアをクルゼレイ皇国に帰してから3日経ったのだが、この間、ゾーイは全く甘えてこなかった。

アルディアの3人やエスリア、アドリアは相変わらず甘えてくるのだが、最近のゾーイには、今までのような積極性が無くなってしまっている。

一応、話には応じてくれるのだが…………………何と言うか、俺の事をちゃんと見てくれていないような気がするのだ。

その癖、後ろからチラチラと俺を見て、俺がそっちに視線を向ければ直ぐに逸らすか、物陰に隠れてしまうかのどちらかだ。

 

その事をアドリア達に相談してみたのだが、彼女等には心当たりが無いらしい。

他の女性冒険者達にも聞いたが、返答は同じだった。

 

「ゾーイの奴………一体、どうしたって言うんだ…………?」

 

王都での戦いで受け取れなかった、俺とエミリアの分である伝魔石の指輪を受け取って店を出た俺は、ルージュの町を歩き回りながらそう呟いていた。

 

ゾーイがこうなる事は、今までに1度も無かった。

もしかしたら、何か悩み事が出来てしまったのかもしれないし、もしそうなら、出来る限り相談に乗ってやりたい。

 

「(だが、肝心のゾーイの反応がなぁ……………)」

 

1度、何か悩んでいるのではないかとゾーイに訊ねた事があるんだが、『何でもありません』の一点張りで押し通されて、全く話してもらえなかった。

だが、その後も何処か上の空なのは変わっていないため、心配になった俺はちょくちょく声を掛けているのだが、やはり話してくれない。

おまけに1度、怒鳴られた事すらあった。

 

突然俺の方を向き、『ミカゲ様と言えど、しつこいです!いい加減にしてくださいッ!!』と……………………

まあ、それからゾーイは取り乱しながらも謝ってきたので、一先ず苦笑を浮かべて誤魔化したんだけどな…………いやはや、あれは中々にショックだったぜ。

 

まあ、そう言う訳で俺は、これ以上ゾーイの様子について訊ねたりするのは止めたのだ。

 

「…………………ん?」

 

不意に何かの視線を感じ、後ろを向く。

すると、ゾーイがサッと物陰に隠れるのが見えた。

 

「はぁ……………またかよ、ゾーイ」

 

溜め息をつき、俺はそう呟いた。

勿論、この呟きはゾーイには聞こえていない。だって、そこそこ離れてるからな。

 

「(まあ取り敢えず、こんな微妙な関係が何時までも続くのは良くない。何とかしないとな…………)」

 

内心そう呟きながら宿へ向かおうとした時、向こうから見慣れた女性が、俺に手を振りながら歩いてくるのが見えた。

ウェーブが掛かったクリーム色のロングヘアを持つ美人さん。

ルージュ冒険者ギルド支部長、アリステラ・リューズこと、アリさんだ。

 

「やあ、ミー君。こんな所に居たんだね。探したよ」

 

俺の傍にやって来ると、アリさんはそう言った。

 

「……………?俺に何か用ですか?」

「ああ」

 

アリさんは頷いた。

 

「実は、君にちょっと頼みたい事があってね……………時間貰えるかな?」

「………まあ、良いですよ」

「本当かい?いやぁ、助かるよ!それじゃ、取り敢えずギルドに行こう。話はそれからだ」

 

そうして歩き出したアリさんに続き、俺はギルドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、王都では瓦礫の撤去作業を終え、その中でも使えるものを再利用して、仮の家を建てる作業が行われていた。

 

「おい、聞いたか?ルージュの町に行った騎士達の話」

「ああ。何か知らんが、ガルムのリーダーの死体を回収しようとして、ガルムのメンバーにズタボロにされたって話だろ?2、3人ぐらい殺されたってのも聞いてるし」

「大方、向かった連中がガルムのメンバーに失礼な事言ったのが原因じゃねぇのか?」

「そりゃ言えてるな。だって王国騎士団って、士官学校の卒業生なんだろ?プライドだけは凄い連中だからな、そうなっても不思議じゃない」

「はぁ、何てこった……………それが原因で、ガルムの連中が王都を攻撃しに来るような事になったらどうしてくれるんだよ?全く…………」

 

王都の住人達が、作業しながらそんな会話を交わしている。

 

「ところで、復興の義援金とか資材とかの話はどうなってるの?」

「それが、どの町からも断られてるらしいわ」

「此処だけの話だけど、ある町に義援金とかのお願いをしに行った勇者が、その町に居た冒険者達に袋叩きにされて帰ってきたんだって。それに殆んどの町や村が、王都の住人を誰も入れないようにしてるらしいわよ」

「最早、王都だけが完全に敵扱いされてるわね」

「はぁ…………本当にトンでもない事をしてくれたわよね、勇者達も」

「お陰で私達、ずっと瓦礫の山の中で生活しなければならないんだから」

 

今となっては、勇者や騎士団、魔術師団、そして国の上層部への陰口を話すのが、王都住人の日課になりつつあった。

 

「……………………」

 

住人達の会話を聞き流しながら、正義と航は、未だ利用可能な瓦礫を運んでいた。

 

「ったく、住人達も言いたい放題してくれるよな。彼奴を殺したのは俺等じゃないってのに」

 

2本の角材を両肩に乗せた航がそう言った。

 

「ああ、そうだな……………幾ら何でも、あんなに言われるのは流石に堪える」

 

正義がそう言った。

 

「ところで正義、今日の水浴びは誰が行けるんだっけ?」

「えっと…………確か、沙那と奏と雪倉さん、それから先生だな。作業が一段落したら、水浴びをしに行くらしい」

「そうか………………全員、無事に帰ってきてくれれば良いな。俺等勇者の立ち位置って、今じゃ最悪だし」

「ああ、そうだな…………」

 

航の言葉に、正義は複雑そうな表情を浮かべて頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、アリさんと共にギルドにやって来た俺は、支部長室に居た。

 

「それでアリさん、一体、何の話を?」

ソファーに腰掛けた俺は、向かいのソファーに腰掛けたアリさんに訊ねた。

 

「ああ、それなんだけど………………君に1つ、依頼をしたいんだ」

「ほう…………」

 

まさか、支部長直々に依頼を持ち掛けられるとはな。

 

「それで、依頼の内容なんだけど…………」

 

そう言うと、アリさんは少しの間を空けてから再び口を開いた。

 

「実は、王都に用事があってね。君には、此処から王都までの送迎と護衛をしてもらいたいんだ」

「成る程……………ってちょっと待った。王都に行くんですか?なんでまた?」

 

俺は思わず聞き返した。

 

「まさか、上層部の連中が?」

「ああ、いや。別にそう言うのじゃなくてね…………」

 

そう言うと、アリさんは1枚の羊皮紙を取り出した。

 

「勇者達に、この請求書を叩きつけに行くんだ。カナデちゃんが持ち掛けてきた、あの依頼のね」

「あ~、あの報酬って未だ支払われてなかったんですね」

「まあ、あの時は王都も此方も大変だったからね。それで、此方の方も落ち着いたし、そろそろやってしまおうと思った訳さ」

 

アリさんはそう言った。

てか、王都の方は考えないんだな……………まあ、別に良いけど。

 

「取り敢えず、勇者達に請求する報酬の内容を書いてるから、一先ず見てくれないかな?他の皆には見せて了承を得ているから、後は君だけなんだよ」

「何時の間にそんな事を……………まあ良いや、了解です」

 

羊皮紙を受け取り、俺は内容に目を通した。

 

 

書かれていた報酬の内容は、金貨800枚と高位ポーション36個だった。

 

「……………あの、コレ請求額高過ぎませんかね?少なくとも今まで貰ってきた報酬の中で一番高額だと思うんですけど」

「まあ、そうだね。でも、高過ぎるなんて事は無いよ。腐った連中しか居ない王都だけど、一応この国の中心都市だからね。何せ、王族や国の重鎮、おまけに勇者も住んでいるんだ。其所を、魔人族幹部の襲撃から守ったんだよ?しかも、建物の倒壊こそあったものの、ガルムと魔人族の戦いで、流れ弾による死傷者は0。王族や重鎮、勇者達も無事……………聖金貨を請求しても文句言えないぐらいだよ」

 

アリさんが即答した。

因みに聖金貨とは、日本で言う10000円札みたいなもので、つまり、最も高い位のお金なのだ。

コレ1枚で、金貨1000枚分の価値があるんだとさ。

 

「(多分だが、金銭面の報酬が聖金貨じゃなくて金貨800枚なのは、あの時の戦闘で倒壊した建物とかの事もあってのものだろうな…………)」

 

俺はそのように予想を立てた。

 

「ついでに言わせてもらうと、この報酬には賠償金も含まれているんだよ……………勇者達が君を殺した事への、ね」

「でも俺、今こうして生きてますよ?」

 

俺はそう言うが、アリさんは首を横に振った。

 

「確かにそうだけど、命懸けで守ってくれた恩人を惨殺するなんて、無礼以外の何物でもない。その辺りの落とし前も、しっかりつけてもらわないとね」

 

其処まで言われると、俺にはどうにも出来ない。

それに、アリさんの言う事も合ってるからな。

 

そもそも、白銀が持ち掛けてきたのは"依頼"……………つまり仕事なので、当然ながら、報酬も発生する。

幾ら彼奴等に恩があるとは言え、それはそれ、コレはコレだ。

あんな出来事があってからの高額の請求だから、当然ながら不平不満も出てくるとは思うが……………まあ、本来請求されていたであろう報酬額より金貨200枚分も安いって事で納得してもらうしかないな。

それから連中のために使ったポーションだが……………まあ、人数分返してもらうだけだから、大して問題にはならないだろう。

 

「それで、どうだろう?納得してもらえたかな?」

 

なんて考えていると、アリさんがそう訊ねてきた。

 

「ええ、まあ」

「良かった、じゃあ行こうか……………あっ、この護衛の報酬だけど………」

「別に良いですよ、コレぐらい」

 

俺はそう言った。

 

「いや、そう言う訳にはいかない。コレも依頼だからね」

 

だが、あっさりと却下されてしまった。

 

それから外に出てるまでに話し合い、取り敢えず銀貨5枚って事で納得してもらった。

そして外に出ると、俺は僚機念話でラリー達に連絡を入れ、俺の体の修復作業を中断して飛んできたラリーから、ラリーの魔力で作り出した特殊な槍と剣を受け取って収納腕輪に入れ、ブラックホークを展開してコンテナにアリさんを乗せると、王都に向けて飛び立った。


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