航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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合宿最後の夜に投稿です。

寝る前にコツコツ書いてました。
明日に帰還です。さあ、寝るか。


第116.5話~その頃の王都~

ブルームとドロワットが率いるグループが、ルージュでラリーの逆鱗に触れている頃、王都では、今は亡き神影が率いていたガルム隊と2人の魔人族による戦闘で倒壊した建物の瓦礫の撤去作業が行われていた。

 

王都住人は勿論だが、F組勇者の面々や騎士団、魔術師団も作業に駆り出されているのだが、彼等に向けられる王都住人からの眼差しは、非常に冷たいものだった。

それどころか、嫌悪感すら含まれていた。

 

その原因は、間違いなく魔人族との戦闘によるものだろう。

 

"ヒューマン族に残された最後の希望"として召喚された、F組勇者の面々。

召喚された当初の彼等に向けられていたのは期待の眼差しだった。

彼等を召喚するために税率が上がったり、召喚されてからは勇者への特待制度が設けられたりして生活が苦しくなった住人達だが、それでも未だ耐える事が出来ていた。

 

──勇者達が必ず。魔王を討伐してくれる。そうすれば、この苦しい生活も終わる──そう信じていた。

 

魔人族の襲撃を受けた時も、勇者達が直ぐに、魔人族を倒してくれると信じ、避難した王宮内で彼等の健闘を祈っていた。

だが、結果は彼等の予想から大きく外れていた。

 

 

最初こそ優勢に見えていた勇者達だが、使役している魔物の多さで攻めてくる魔人族に徐々に苦戦の色を見せ、最終的には女魔人族、セレーネの催淫魔法をモロに受け、公衆の面前で発情し、挙げ句の果てには女性型の魔物に男性陣が陵辱される始末。

 

この出来事は、勇者への期待を募らせていた王都住人達を失望させるには十分な威力を持っていた。

 

その後、救援を呼ぶために勇者パーティーを1人抜けた奏によってガルム隊が到着し、魔物の群れを瞬く間に殲滅。そして、魔人族との空中戦を繰り広げる。

 

途中、富永一味の5人や慎也、秋彦の7人が影に隠れ、慎也が何体もの泥人形を作り出すと言うハプニングに見舞われ、魔人族との戦いで重傷を負った神影が回復する間も無く再出撃する事になるが、爆撃で地面ごと焼き払った事により、泥人形の件も解決した。

その際に魔人族の2人は撤退していたため、このままいけば全てが丸く収まっていたのだが、功達7人が裏切り、戻ってくる神影に攻撃を仕掛けて撃墜し、墜ちてくる神影を慎也が土の槍で貫いて殺害すると言うトンでもない事態が起こる。

 

それから登場した魔王、グラディスによって、犯人が功達7人である事が明かされると、勇者達への信頼が粉々に砕け散った。

 

 

勿論、神影の殺害に勇者全員が関わっていた訳ではないが、可哀想な事に、F組女性陣すら風評被害に遭う羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホント、勇者達もトンでもない事してくれたモンだ」

「ああ。まさか、ガルムのリーダーを殺すなんてな」

「恩を仇で返すなんて、最低な連中………」

「コレでガルムの奴等が仕返ししに来たらどうしてくれるのよ?」

「もしそうなったら彼奴等、自害なり何なりして責任取れよな」

 

王都住人からの冷たい視線や心無き言葉の雨を受けながら、奏は沙那や桜花と共に、瓦礫を取り除いていた。

以前よりも格段に質素になった3食で朝から晩まで休み無しと言う、ブラック企業同然の労働スケジュールに、彼女等の疲労はピークに達していた。

おまけに王都住人からの視線や心無き言葉の雨により、精神もガリガリと削られている。

特に奏は、神影に助けを求めた張本人であると言う立場から、彼女が感じている精神的苦痛は人一倍大きなものだった。

 

「……………………」

「奏、大丈夫?少し休んだら?」

 

今にも倒れそうな表情で作業を続ける奏を心配し、沙那が声を掛けた。

想い人が殺された事に深いショックを受け、桜花共々数日寝込んだ彼女だが、目覚めてからはその気持ちを押し殺し、クラスメイトと共に復興作業に身を砕いていた。

 

「……いいえ、大丈夫よ………」

 

努めて笑みを浮かべ、奏はそう言った。

 

「古代君が、感じた痛みは………こんなものじゃ、ないんだから……………」

「「……………………」」

 

そう言って作業に打ち込む奏に、沙那と桜花は痛々しげな視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫が積まれた手押し車を押す手を止め、F組担任であるシロナは空を仰いだ。

空は、王都に充満しているギスギスした雰囲気とは正反対な清々しさを見せており、照りつける太陽が彼女等を見下ろしている。

 

「(古代君…………)」

 

シロナは心の中で、逝ってしまった生徒の名を呼んだ。

 

「(貴方に助けられておきながら、私は……………)」

内心そう呟くシロナの目尻に、涙が浮かぶ。

勇者の1人として持て囃されておきながら魔人族相手に手も足も出なかった上に、窮地を救われておきながら、自分は何もしてやれなかった事への申し訳無さや、無力な自分への怒りが、その涙に含まれていた。

 

だが今の王都住人達は、感傷に浸る時間すら与えてくれない。

 

「おい、お前!何サボってんだ!」

 

シロナと同じように手押し車を押していた住人の1人が、彼女に怒鳴った。

 

「そうやって泣いてる暇があるなら、さっさと手ぇ動かせ!娼館に売られてぇのか!?」

 

そう怒鳴り付けると、その住人は去っていった。

周りを見ると、他の住人達もシロナを睨んでいる。

 

シロナは涙を拭い、再び手押し車を押し始めた。

 

 

 

 

 

王都住人達の心がこんなにも荒んでいるのは、勇者達への嫌悪感だけではない。

彼等は、あるものに怯えているのだ。

 

それは、残されたガルム隊メンバーからの報復攻撃だ。

重傷を負った神影に再出撃を急かし、神影がロクな回復もせずに出撃すると言う結果を招いたのは自分達である上に、神影は、自分が守った勇者達に殺された。

それをグラディスが見せた映像で目の当たりにしたガルム隊メンバーが王都に向ける憎悪は半端なものではないだろう。

 

 

──何時か、ガルムが自分達に牙を剥くかもしれない──

 

そんな恐怖心を植え付けられた王都住人は無意識の内に、このような事態になったきっかけとも言える勇者達にキツく当たるようになったのだ。

 

 

「はぁ……………」

 

憂鬱な気分になりながら、シロナは瓦礫を集めているスペースへとやって来た。

 

「…………では、その瓦礫は向こうにお願いします!」

 

其所では1人の少女が、シロナと同じように手押し車を押してきた住人や勇者達の誘導を行っていた。

 

首筋から下をゴムで結わえた長い金髪にエメラルドグリーンの瞳と言う、かつてのラリーと酷似した容姿に加えて、ガルム隊のアドリアに匹敵する豊満な胸を持つ彼女の名は、ユミール・フォン・エルダント。

このエリージュ王国の第1王女である。

 

「あっ、シロナさん!」

 

手押し車を押してきたシロナに気づいたユミールが、彼女に手を振った。

彼女は、今や迫害される立場にあるF組勇者達にも対等に接する、数少ない人物だった。

 

シロナが手押し車を押して近づくと、ユミールは柔らかな笑みを浮かべて迎えた。

 

「お仕事、お疲れ様です。朝から働き通しで、大変でしょう?」

 

気遣いに溢れた言葉を投げ掛けるユミールに、シロナは苦笑で返した。

 

「確かに大変だけど…………………コレも、仕方無い事よ。ロクに戦えなかった上に、古代君を死なせてしまったのだから」

「ですが、実際に彼を殺したのは………」

 

納得がいかないと言わんばかりの表情を浮かべるユミールの口を、シロナは指で制した。

 

「ええ、分かっているわ。でも、彼が重傷を負いながら戦わなければならない原因を作ったのは私達だし、あの7人を止められなかったのも事実よ」

 

シロナはそう言った。

 

「ガルムの人達は………きっと、私達を恨んでいるでしょうね……特に、ラリーって人からの恨みが一番恐いわ。あの人、古代君と凄く親しかったみたいだから」

「………ッ」

 

シロナがラリーの名を口にすると、ユミールの表情が強張った。

 

「……………?ユミール、どうかしたの?」

 

そんな彼女の様子を疑問に思い、シロナが訊ねる。

 

「い、いえ………何でも、ありませんわ……」

「……………?」

 

シロナは首を傾げつつも、下手に踏み込むのは野暮だと内心言い聞かせてから彼女の指示を仰ぎ、指定された場所へ瓦礫を置くと、再び手押し車を押して瓦礫の撤去作業へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうですか…………ラリー・トヴァルカインが…………」

 

そう呟いた彼女が思い出すのは、未だラリーが学生で、尚且つ彼が全盛期だった頃だ。

 

エリージュ王国北端にある片田舎、ルビーンの出でありながら膨大な魔力を持ち、貴族や富豪の出身が多い、王立騎士・魔術師士官学校に特待生として入学し、多種多彩な魔法で多大な功績を収めた彼には、多くの期待が寄せられていた。

エリート思考が強く、プライドの高い生徒が殆んどである中、彼は何時だって自然体であり、その人柄故に、ユミールや、エリージュ王国王妃、ロクサーヌ・フォン・エルダントもラリーには期待を寄せており、社交会で彼と親しげに話す事もあった。

だが、例の暴走事件が発生し、ラリーについて根も葉も無い噂が蔓延し始めてからと言うもの、ラリーの立ち位置は一気に最底辺へと落ちぶれた。

魔術師としての高い実力と人柄で信頼を得る傍ら、ブルームやドロワット、ゴルドを始めとした貴族や富豪の出身である数人の生徒からは、片田舎の出身と言う立場故に良く思われていなかったのもあり、蔑みの眼差しや嫌がらせを受ける日々を強いられるようになった。

 

ユミール達も、当初は噂を真に受けてしまい、勝手に裏切られたように感じ、結果としてラリーを見捨てる形となった。

 

そうしている間に、ラリー達の世代の卒業証書授与式が執り行われた。

生徒である手前、ラリーも出席するのだが、やはり彼の立ち位置は最悪。それに違和感を感じる者など、誰1人としていなかった。

 

そして、卒業生は騎士団か魔術師団の何れかに所属するのだが、ラリーは魔術師団の団長からは勿論、騎士団長のフランクからも冷たく突き放され、ルビーンへと戻る事になったのだ。

 

 

 

 

 

 

「……………でも、実際は違うんですよね」

 

この世界を救う勇者として召喚されたものの、勇者の称号を持たなかった上にステータスも最弱で、それによる扱いの酷さに嫌気が差してクラスを離脱した神影とパーティーを組んだラリーは、彼と共に王国中で活躍した。

エリージュ王国やクルゼレイ皇国、この両国の悩みの種であった盗賊団・黒雲を、冒険者登録をした初日に討伐し、幾つもの迷宮を攻略。

そして1日に複数の依頼を解決し、短期間で最高ランクであるSSSに上り詰めると言う快挙を成し遂げた。

ルージュを拠点に活動していた彼等は、其所の住人からも絶大な信頼を得ている。

今では最早、勇者よりも彼等ガルム隊の方が、ルージュ住人達には人気だ。

 

そして、神影が勇者に殺された一件から王都に殺到し続けている、王国内にある町や村からの夥しい数の抗議文。

この抗議文から、神影やラリーの人柄の良さが窺えると共に、あの事件において、ラリーが潔白だと言う事を、ユミールや王妃は確信した。

 

「でも、今頃気づいたところで…………もう、遅いんですよね……………」

 

あの出来事以来、ラリーは騎士団や王国上層部を恨んでいる。

今になって謝ろうとしても、『手のひら返しの謝罪なんて要らない』とばかりに拒否されるか、謝罪すら聞かずに攻撃されるのが関の山だろう。

 

おまけに先日の一件だ。ラリー達が報復として王都を滅ぼしに来ても不思議ではない。

 

「……………………」

 

憂鬱そうについたユミールの溜め息は、風に乗って何処へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから彼女等の元に満身創痍のブルーム達が放り込まれるのは、約1時間後の事である。


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