航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第116話~王国騎士団の来訪と、ラリーの怒りの覚醒~

ラリー達がクルゼレイ皇国に向かって暫くした頃、ルージュの町に入るための門の傍に、槍を持った門番が1人立っていた。

 

「…………………」

 

無言で立ち尽くす門番は、チラリと後ろを向く。

彼の視線の先では、住人や冒険者達が行き交い、出店の店員達が呼び込みをしている。

神影の死後から1週間は見られなかった、久し振りの光景だった。

 

「でも、やっぱり彼奴が居ないと、何か物足りないな…………」

 

そう言って、その門番は空を仰いだ。

 

「ミカゲ………お前は天国で何やってるんだ………?上から見てないで、此方に降りてこいっての。皆、お前に会いたがってるんだぜ?」

 

そう独り言を呟き、門番は無意識の内に浮かんでいた涙を拭った。

 

『神影の死を悲しんでいるのは自分だけではない。自分以上に悲しんでいる奴も居るんだ』と、自身に言い聞かせた。

 

「やあ、マーキス」

「ん?」

 

突然後ろから声を掛けられた門番、マーキスが振り向くと、其所にはルージュ冒険者ギルドの支部長である、アリステラが立っていた。

 

「何だ、支部長さんか………………また仕事すっぽかしてきたのか?」

「"すっぽかす"とは失礼だね。私は、自主的に休憩に入っただけさ」

「よく言うよ」

 

呆れたような口調で呟くマーキスに、アリステラは軽く笑ってみせた。

 

「そういや朝からラリー達の姿が見えねぇが、何処行ったんだ?」

「クルゼレイ皇国だよ。エミリアちゃん達に、例の件を報告するらしい」

「そうか…………」

 

そう言って、マーキスはまた空を仰いだ。

 

「向こうのお姫さん、ミカゲが死んだって事知らされたら泣くだろうな」

「それはそうだよ。何せあの娘も、ミー君の恋人なんだ。恋人の死を悲しまない者なんて居ないだろう?」

 

アリステラが言うと、マーキスは頷いた。

 

「どうも、支部長さん。門番さんも」

「「ん?」」

 

不意に、背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。

2人が振り向くと、其所にはラリー達が居た。

 

「やあ、ラリー君。お帰り」

「おっす」

 

2人は挨拶を返した。

 

「お前等、クルゼレイ皇国に行ってきたんだって?」

「うん。相棒の事を報告しに」

 

そうしてラリーは、クルゼレイ皇国に行った時の出来事を話した。

「……………やはり、お姫さんは泣いたのか」

 

マーキスがそう呟くと、ラリーは苦笑を浮かべた。

 

「仕方無いよ。だって、姫さんにとって相棒は、恋人であり、兄みたいな存在だからね。心の拠り所だった相棒には、凄く懐いてたし」

「成る程な……………まあ何はともあれ、コレでエリージュ王国(コッチ)の王都が孤立するのは確定したな。何せ俺等の家族でもあり、外国のお姫様の恋人を殺しやがったんだから」

「まあ、実際に殺したのは勇者だけどね」

 

ラリーがそう言った。

 

「だからこそ問題なんじゃねぇのか?」

 

其処へ、ギャノンが口を開いた。

 

「『王都で召喚された勇者が、王都を救った英雄を殺した。おまけに騎士団員も、その英雄を蔑んでいた』……………勇者や騎士団の権威が失墜するには、十分すぎるカードだと思うぜ?コレ」

 

その言葉に、全員が同意だとばかりに頷いた。

 

「それにミカゲ様は、未だ城に居た頃は国の重鎮からも蔑まれていたようですし……………その辺りも、後々響いてくるのでは?」

 

ゾーイがそう言った。

 

「何と言うか、この国の上層部ってロクなのが居ねぇよな…………」

 

マーキスがそう呟いた時だった。

 

「…………………」

 

突然、ラリーが平野へと視線を向けた。

 

「………?ラリーさん?」

 

そんなラリーを疑問に思い、リーアが声を掛けた。

 

「………………」

 

暫く黙っていたラリーだが、やがて、ポツリポツリと口を開いた。

 

「…………前方から、騎馬の小集団が近づいてきてる。数は10」

『『『『『………………?』』』』』

 

何を言っているのかと首を傾げるリーア達は、ラリーの視線の先へと目を向ける。

すると、前方で小さく砂埃が上がっているのが見えた。

それは段々大きくなり、ラリーが言ったように、騎馬の小集団が姿を現した。

そして、先頭を走る騎馬が掲げている旗を視界に捉えると、ラリー達は表情をしかめた。

 

「王国騎士団か……………彼奴等、今頃どの面提げて此処に来やがった」

 

風に靡く旗を忌々しげに睨み、マーキスがそう言った。

そうしている間に近づいてきた騎馬の小集団は、ラリー達の目の前で止まった。

そして、騎士団員達が続々と馬から降り、その中でもリーダー格と思わしき銀髪の男と金髪の女が、彼等に歩み寄った。

見覚えのある2人に、ラリーの目に殺意が宿った。

 

「クソッ、よりにもよってコイツ等かよ…………ッ!」

 

鋭い目で2人を睨み付け、ラリーがそう呟いた。

 

「俺は、王国騎士団のブルーム・ド・デシール。そして此方が、ドロワット・デュノイスだ」

 

そんな彼の心情を他所に、ブルームが名乗った。

彼の紹介を受けたドロワットと言う金髪の女性騎士も、軽く頭を下げる。

 

「早速だが、この町のギルド支部長と、其所に居るラリー・トヴァルカインに話がある」

「「僕(私)に?」」

 

ラリーとアリステラが同時に聞き返した。

 

「ん?…………ああ、貴方がこの町のギルド支部長だったのか」

 

まさか、目の前に居る女性がギルド支部長だとは思っていなかったらしく、ブルームが目を丸くしてそう言った。

 

「ああ、そうだが………………私に何の用だ?」

「実はな……………」

 

そうしてブルームは、話を始めた。

 

「1週間前、魔人族の襲撃を受けた王都は、その戦闘によって壊滅的被害を受け、王宮を除き、9割程の建物が瓦礫の山と化しているのだ」

 

そう言って、ブルームはラリー達ガルム隊メンバーにチラリと視線を向けると、再びアリステラに視線を戻した。

「それで、先日から王都の復興作業が行われているのだが……………如何せん、倒壊した建物が多過ぎて、瓦礫の撤去に時間が掛かっている。勇者や騎士団も参加しているのだが、それでもだ。おまけに、復興のための資材も不足している」

「成る程……………つまり、人や資材が足りないから、このルージュから人材を派遣すると共に資材を提供しろと……………そう言いたいんだな?」

「ええ、そうよ。理解が早くて助かるわ」

 

アリステラがそう言うと、ドロワットが頷いた。

 

「王都が瓦礫の山で、騎士団や勇者共も動員か…………連中も大変だね」

 

ラリーが呟くと、ブルームが鋭い視線を向けて怒鳴った。

 

「他人事か!そもそもコレは、貴様等の戦闘による被害なのだぞ!!」

 

ブルームがそう言うと、他の騎士達も同意だと言わんばかりに鋭い目を向けているが、ラリーは知った事かとばかりの表情を浮かべていた。

そんな彼に苛立ったのか、ドロワットが睨んだ。

 

「…………………貴方、ガルムとやらのメンバーになってから随分と態度が大きくなったわね。冒険者としてはそれなりに活躍してるみたいだけど、所詮貴方は士官学校の落ちこぼれ。没落魔術師である事は変わらないのよ?この評価が覆る訳も無いし、ましてや王都に呼び戻される事があるとは思わないことね。王妃様や王女殿下も、貴方には失望していたからね」

「ふ~ん……………だから何?」

 

ラリーはそう言った。

 

「と言うか、僕としてはもう、士官学校とか王族なんてどうでも良いんだよ。あんなクソッタレ共と居るより、此処に居る方が何倍も良い」

「なっ!?」

 

そう言われたドロワットは、言葉を失った。

 

「"王妃様が失望してる"?そんなの勝手にしてろよ。僕は僕で、幸せに生きる道を見つけたんだ。今さら、あの王都(ファッキンシティー)に戻る気なんて微塵も無いね」

 

ラリーはそう言い放つと、もう話す事は無いとばかりに鼻を鳴らす。

 

すると、ブルームがこんな事を言い出した。

 

「まさかとは思うが…………………貴様、本当に魔人族やクルゼレイ皇国の愚民共と手を組み、この国を転覆させようとしているのではあるまいな?」

「はあ?お前いきなり何言い出すんだよ?」

 

突拍子も無い話に、ラリーが聞き返す。

最早口調が安定しておらず、何時もの優しげな口調が乱暴なものへと変わっている。

 

「此処に来る前、宰相から話を聞いた……………貴様等が、クルゼレイ皇国と繋がりを持っていると言う事をな」

「ふ~ん……………それで?」

 

ラリーが続きを促した。

 

「貴様は、昔起こした事件で、士官学校での成績を強制的に最下位にされて卒業した。そして本来なら、卒業後は何れかに属さなければならない騎士団にも魔術師団にも受け入れられなかった……………つまり貴様は、この国の不用品となった」

「……………………」

 

随分な物言いにラリーの眉がつり上がるが、ブルームは構わず続けた。

 

「それに加えて、先日の一件で、貴様の相方なのであろう、あの成り損ない勇者が死んだ。これ等の境遇を理由に、敵と手を組んで反旗を翻すと言う事も、十分に有り得る」

「念のために言っておくけど……………理由が何であれ、国に牙を向く事は許されないわよ。貴方が反乱を起こしたら、真っ先に首を跳ねてあげるわ」

 

ブルームに続くようにして、ドロワットが口を開いた。

 

「(コイツ等、黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって……………反乱だのカッコつけた事言ってるが、結局ただ仕返しされるのが恐いだけじゃねぇかよ…………ッ!)」

 

あまりにも酷い2人の物言いに、ラリーの怒りのボルテージは限界まで達しようとしていた。

だが次の瞬間、そのボルテージは限界を振り切る事になる。

 

「ところで話は変わるが、あの成り損ない勇者の死体は何処にある?」

 

突然、ブルームがそう言った。

 

「ミカゲの遺体なら、向こうに墓を作って、其所に埋めたよ」

 

忌々しげに、マーキスが門の向こうを指差した。

 

「そう……………なら、それを今直ぐ掘り起こして、此方に渡しなさい。王都の方で処分(・・)するわ」

「…………………あ?」

 

ドロワットがそう言うと、ラリーがピクリと反応した。

 

「テメェ…………………今何て言いやがった!!?」

 

ラリーが怒鳴ると、全身からドス黒いオーラを撒き散らし、彼の身体中を蒼白いスパークが迸る。

 

「聞こえなかったの?成り損ない勇者の死体を掘り起こして、此方に渡せと言ったのよ」

「奴はこの世界を救う勇者として召喚された1人でありながら、勇者の称号を持たぬ上にステータスも最弱だった。そして、奴が持っていた魔道具擬きを我々に提供する事を、愚かにも拒んだ……………まあ、コレは貴様等ガルムの連中全員に言える事だが、宰相の慈悲で、奴の死体を処分するだけで済ませてやるとの事だ。ありがたく思え」

 

ブルームがそう言った瞬間、ラリーは表情を消して俯いた。

 

 

「ふざけた事ほざいてんじゃねぇぞテメェ!そんなんでミカゲを渡せってのか!?」

「士官学校の連中も国の上層部も、随分と堕ちたものだな……………ッ!」

「ロクに戦えない貴方達のために、ミカゲ様が何れだけ傷ついたのか知らない癖に!」

「お前等なんてヒューマン族のクズだ!とっとと消えろ!」

 

沈黙するラリーの傍らで、ギャノンやアリステラ、アドリア、マーキスが怒りの声を上げる。

 

すると、何時の間に集まっていたのか、ルージュの住人達も次々に怒りの声を上げ始めた。

 

「そうだ!テメェ等のために傷つきながらも戦ったミカゲの気持ちも知らねぇ癖に、後から訳知り顔で偉そうな事言ってんじゃねぇよ!」

「プライドしか取り柄の無いアンタ達に、ミカゲの何が分かるって言うのよ!?」

「勝手ばかりぬかしてんじゃないわよ!」

「さっさと帰りやがれゴミ共が!」

「ああ!テメェ等みてぇなプライドだけの連中なんぞお呼びじゃねぇんだよ!」

「田舎に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな!」

 

普段、ギルドで神影と馬鹿騒ぎをしている冒険者や、店主、宿の女将も出てきて口々に叫んだ。

 

『『『『『『『『『『か~え~れっ!!!か~え~れっ!!!か~え~れっ!!!』』』』』』』』』』

 

終いには騎士達へ向けての帰れコールが始まり、住人達が投石の雨を降らせる。

 

「ッ!?き、貴様等ぁ……………力の無い一般市民と、金と名声にしか目がない、薄汚い冒険者の分際で………ッ!」

「……………ッ!」

 

ブルームがそう言った瞬間、先程まで沈黙していたラリーが顔を上げ、ゆっくりとブルーム達の方へと歩き出した。

 

「お、おい。ラリー?」

 

急に歩き出したラリーに戸惑ったマーキスが声を掛けると、住人達はそれに気づき、帰れコールや投石の手を止める。

 

ラリーは立ち止まると、住人達の方へ振り向いた。

 

「……………全員、死にたくなければ今直ぐ此処を離れろ。許可を出すまでは、町の外には絶対出てくるな」

 

低い声で、ラリーがそう言う。

住人達は戸惑いながらも従い、門の向こうへと引っ込んでいった。

マーキスも町の方へと引っ込むと、門を閉ざした。

 

「さて………」

 

そうしてラリーは、騎士団の方へと向き直る。

 

「始める前に、1つだけ言ってやる」

 

そう言ってから暫しの間を置き、ラリーは再び口を開いた。

 

「貴様等は選択を…………………………………………………………間違えた」

 

そう言った瞬間、ラリーの体から膨大な魔力が放出され、その衝撃波がブルーム達を吹っ飛ばす。

その後、禍々しい色のオーラがラリーを包み込み、彼の姿を隠してしまう。

 

「な、何なんだ………あれは………………ッ!?」

 

地面に転がったブルームがそう言った。

 

『……う……って……………まらは………るの……ッ!』

 

すると、そのオーラの中から声が響く。

 

「な、何…………?何が、起こっているの…………?」

 

ドロワットが目の上に手を当て、指と指の隙間からオーラの塊を睨み付ける。

 

『そうやって貴様等は、愚かにも滅びを選択するのだなッ!!』

 

低い男の声が、オーラの塊から響き渡った。

 

そして、そのオーラの塊が大きな音と共に弾けて砂埃を伴う衝撃波を起こし、ラリーが姿を現すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………!こ、コレは……まさか……………ッ!?」

 

その頃、此処は魔族大陸にある城。

其所に住んでいる魔人族の長、グラディス・ヘルシングは、急に玉座から立ち上がった。

 

「ま、魔王様!この膨大な魔力の波動は一体……………!?」

 

玉座の前に膝をついていたゲルブがグラディスに問い、彼の横に居た別の魔人族の男が、何事かとばかりに辺りを見回している。

 

「…………ら、ラリーに掛けた封印が……解かれた………」

 

焦燥感に染まった表情を浮かべ、グラディスがそう言った。

 

「ふ、"封印"…………?あの、魔王様。前々から気になっていたのですが、ラリー・トヴァルカインとは、一体何者なのでしょう?」

 

ゲルブの隣に居た魔人族の男が、おずおずと訊ねた。

 

「ああ。彼奴は…………」

 

そう言ってから暫しの間を置き、グラディスは再び口を開いた。

 

「太古の昔に滅んだとされている、我々魔人族のさらに上を行き、私をも上回る、最強の存在…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………魔神だよ」




夏休みだ!投稿しまくるぜ!……………と言いたいところですが、明日から部活の合宿なので、更新ペースは遅くなります。
と言うか、更新すら出来ないかもです。
4日間とか長すぎるよぉ~…………………(つД`)

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