航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第115話~神影が死んでから~

僕の相棒、ミカゲ・コダイが勇者に殺されてから、早いもので1週間が過ぎた。

あれから僕達は、毎日欠かさず相棒の墓参りをしている。

最初は皆、相棒の死を悲しむあまりに無気力になり、ルージュの住人達やガルム隊メンバーは勿論、町の雰囲気も死んでいた。

ただ呆然として、(いたずら)に時間が過ぎるだけな生活を送っていた。

それは、僕も同じだった。

 

でも、ある日の夜、1人で墓参りして、相棒の墓石をまじまじと見た時、僕は何と無く、相棒が悲しんでいるような気がした。

何故そう思ったのかは、僕自身にも分からない。

でも、以前の活気が無くなってしまった町を、天国から悲しそうに見ている相棒の姿が、脳内に浮かんできた。

 

 

 

 

──こんな生活を、何時までも続けてはいけない──

 

……………………そう思った僕は、町の人達にその事を伝えた。

最初は真面目に聞いてくれなかった皆だったけど、ソブリナ達が思い直してくれたのを皮切りに、1人、また1人と、同様の反応を見せた。

 

天国から僕等を見てくれているであろう相棒のためにも、何時もの、あの明るい自分達を取り戻したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………そんなこんなで、今まで過ごしてきたんだよね」

 

ベッドの上で目覚めた僕は、上体を起こしてそう言った。

僕の両サイドでは、エメルとリーアがスヤスヤと寝息を立てている。

此処は3人部屋だからベッドは3つあるのに、2人は態々、僕のベッドに潜り込んでくるのだ。

 

「やれやれ、この2人は相変わらず……………」

 

僕はそう呟くと、先ずは2人を起こし、次は隣の部屋に行って、ゾーイとアドリア、グランさんとギャノンさんが起きているかを確認する。

それからアルディアの3人と合流して朝食を摂り、何時もの服装に着替えてから宿を出て、町の人達と挨拶を交わしながら、ある場所へと向かう。

その場所は勿論、相棒が眠る墓だ。

 

「あっ、おはようございます。皆さん」

 

墓の前には、ギルドの受付嬢であるエスリアさんが居た。

 

「どうも」

 

僕も返事を返すと、他の面々も返事を返していく。

それから11人、2列になって墓の前に膝をつくと、両手を合わせる。

 

「(相棒、今日も頑張るから…………安心してね)」

 

内心で、今は亡き相棒に語り掛ける。最近、相棒に言っている言葉がコレだ。

 

それが終わると、エスリアさんは受付嬢の仕事をするためにギルドへと向かう。

 

「この町も、すっかり前の雰囲気を取り戻したわね…………」

 

エスリアさんを見送ると、ソブリナが染々とした様子でそう言う。

彼女が向いている方を見ると、店のシャッターがガラガラと音を立てて開き、住人達が行き交っている。

 

「ええ、そうね…………」

「……ミカゲが、望むものだから……………」

 

ソブリナの呟きに、エリスとニコルがそう返した。

「ところでラリー様、エミリア様の件ですが……………」

 

其処へ、アドリアがおずおず話し掛けてきた。

 

「うん、分かってるよ。アドリア」

 

僕はそう答えた。

 

今のところ、相棒の死を知らないのはクルゼレイ皇国の人達だけだ。

この1週間はルージュでの事で精一杯だったけど、それも落ち着いてきたし、そろそろ話しに行こうと思う。

あまり先延ばしにするのも、良くないからね。

 

「ラリー、行くの?」

「うん……」

 

そう訊ねてきたソブリナに、僕は頷いた。

 

「そう………行ってらっしゃい」

 

そう言って、ソブリナはエリスとニコルを連れて去っていった。

 

「それじゃあ皆、行こうか」

 

そう言うと、僕の足元に魔法陣が展開され、エメル達が魔法陣に乗る。

それを見たルージュの人達は、巻き込まれないように魔法陣から距離を取った。

 

「…………行ってくるね、相棒」

 

転移する寸前、相棒の墓に向かって、僕は小さくそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、面倒な事になったな…………」

 

此処は、エリージュ王国王宮内にある一室。

其所を自室とするエリージュ王国宰相、グリーツ・ボーアンは、部屋の真ん中で立ち尽くしていた。

 

「それにしても、まさか魔人族幹部に加えて魔王までもが出てくるとは思わなかったな……………まあ何れにせよ、連中が私の野望の邪魔になる事には変わりない。勇者達に余計な事を…………ッ!」

 

そう呟き、グリーツは歯軋りした。

彼が、当時2年F組だった神影達を召喚したのは、魔王を討伐し、呪いを掛けられた国王を助ける事ではなかった。

 

彼の本当の目的は、魔人族や他の亜人族の撲滅と、魔族大陸にある魔鉱山の権益の独占だ。

魔鉱山から採れる魔鉱石は、魔物が落とすものよりも魔力の質が格段に良い。

その気になれば、勇者召喚に準ずる程の膨大な魔力を消費する事を連続で行う事が可能なのだ。

彼はそれを利用して、この世界よりも下位の世界を征服するつもりなのだ。

 

「人外共を殲滅する駒として召喚したのに、まさか、こうも呆気無くやられるとはな…………何のために国民から多くの税を徴収して精鋭の魔術師を集め、あの召喚に踏み切ったと言うのだ…………」

 

暗礁に乗り上げつつある自らの野望を思い、グリーツは溜め息をついた。

 

「何より厄介なのは、あの成り損ないだ。数人の勇者が奴を始末したから良かったと思えば、この有り様か」

 

そう呟いた彼は、背後に置かれている箱にチラリと視線を向ける。

この箱の中には、エリージュ王国内において、神影達ガルム隊と交流のある町や村からの抗議文が山程入っていた。

その中でも、ルージュからの抗議文が一番多いのは言うまでもないだろう。

 

「おまけに…………」

 

そう言って、グリーツは窓から外を見る。

彼の視線の先には、王宮を取り囲み、衛兵達と揉み合いをしている王都住人が居た。

勇者や騎士団の信用が地に堕ちた今、彼等の心は荒れ模様だった。

 

何を信じて、何をしていけば良いのか分からず、ただ町に広がっている瓦礫の山そっちのけで喚き立てるだけだった。

 

「いっそ、奴等がクルゼレイ皇国と繋がっている事を暴露してやるか。後は、連中が敵国や魔人族と手を組んでいたと言う事にして、あの成り損ないの死体を処分しておけば良いだろう。勇者達は……………まあ、一先ず置いておくとしよう」

 

そう言うと、グリーツは騎士団員数人を集め、ルージュから神影の死体を回収してくるように命じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっと着いた………まさか、また囲まれるとは…………」

 

さて、転移魔法でクルゼレイ皇国王都にやって来た僕達は、王宮の敷地内に入るための門の前に居る。

此処に来るまでの間、やはり王都住人達に囲まれた。

これから、姫さん達に重大な話をしなければならないのに、何か出鼻を挫かれたような気分になったのは秘密だ。

 

まあ、何はともあれ着いたんだ、気を取り直していこう。

 

「すみまs……………あっ」

 

衛兵に声を掛けようとした僕は、見知った女性の姿に足を止める。

 

背中までの長さを持つ深緑の髪、それなりの豪華さを持つドレスと、その上からでもはっきり分かる豊満な胸……………

クルゼレイ皇国宰相、クレア・ネクサスさんだ。

 

あの人、矢鱈絡んできた上に告白してきたから、若干気まずいんだよなぁ………

取り敢えず、あの人が居なくなるのを待ってから…………

 

「ん?…………おお、ガルムの皆様!」

 

ゲッ、見っかった!つーか大声出すんじゃねぇよ衛兵!空気読め!

 

「ラリー様………ッ!」

 

ホラ言わんこっちゃない!クレアさんが気づいちゃったよ!

 

「ラリー………」

 

止めてくれ、ギャノンさん。そんな、『ドンマイ』とでも言いたげな眼差しを向けないでくれ。

 

なんてやってる間にも、クレアさんが駆け寄ってくる。

てか、この人が走ると胸が揺れ……………ッ!?

 

「イテテテッ!?」

「「……………………」」

 

何か不満そうな表情のエメルとリーアに腕つねられてるんですけど?

 

「ご無沙汰しています、ラリー様…………またお会い出来て、嬉しいですわ…………ッ!」

 

駆け寄ってきたクレアさんはそう言って、正面から抱きついてくる。

色々と柔らかいものが当たっているが、今はこんな事をしている場合ではない。

 

「ご無沙汰です、クレアさん。後、今はこんな事してられないので、取り敢えず離れて」

 

そう言ってクレアさんを優しく引き剥がし、改めて見つめる。

すると彼女も、重大な話だと言う事を悟ったのか、真面目な表情に変わった。

 

「…………何か、あったのですか?それに、ミカゲ様がいらっしゃらないようですが…………」

「ええ、それも含めて重大な事が……………兎に角直ぐ、女王陛下と姫さんにお会いしたいのですが…………」

「分かりました。どうぞ此方へ」

 

そう言って歩き出したクレアさんの後に続き、僕達は王宮の敷地内へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急にすみません、女王陛下」

「いえいえ、お気になさらず」

 

さて、そんなこんなで僕達は、女王陛下の部屋へと通された。

今回は話の内容が内容だから、なるべく他人に聞かれないような場所にしてくれるように頼んだのだ。

 

急に時間を作らせた事を謝ると、女王陛下は柔らかな笑みを浮かべながらそう言った。

姫さんにも謝罪を入れると、女王陛下同様の反応を見せてから僕達を見て、不思議そうに首を傾げた。

ガルム隊1番機……………即ちリーダーであり、彼女の恋人でもある相棒が居ない事を気にしているのだろう。

 

「それでラリー殿。本日いらっしゃったのは、同盟の件ですか?」

「それもあるんですが……………先ず、別の話から」

 

僕はそう答えた。

 

「"別の話"……………もしや、此処にミカゲ殿がいらっしゃらないのと、何か関係が?」

 

その問いに、僕は頷いた。

 

「相棒が…………………………勇者に殺されました」

『『えっ……………?』』

 

僕がそう言うと、女王陛下と姫さん、そしてクレアさんの間の抜けた声が重なった。

 

「な、何を仰有るのですか?ラリー様……………ミカゲ様が、殺されるなんて…………有り得ません」

 

酷く狼狽した様子で、姫さんがそう言った。

 

「残念だけど姫さん、コレは本当の事なんだ」

 

そうして僕は、ルージュの人達に言ったように、事の次第を全て話した。

 

相棒が、魔人族との戦いでゾーイを庇って被弾・墜落し、大怪我を負った事。

その後数体の泥人形が現れ、王都住人や勇者数人に急き立てられ、回復する間も無く再出撃する羽目になった事。

それが、相棒を殺すために数人の勇者が仕組んだ罠だった事。

そして、その泥人形を殲滅した相棒が僕達の元に戻ろうとしていた時、その数人の勇者達による魔力弾の集中砲火を受けて墜落し、1人が作り出した土の槍に貫かれて死んだ事を……………

 

 

「そんなの…………そんなの嘘です!何かの間違いです!」

 

僕が話を終えると、姫さんが叫んだ。

 

「……………」

 

女王陛下は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべ、クレアさんは両手で口を覆っている。

 

「ミカゲ様は、そんな簡単に死んでしまうようなお方ではありません!きっと、何かの間違いです!」

「……………………」

 

そう叫ぶ姫さんに、僕は収納腕輪から"あるもの"を取り出し、彼女に渡した。

 

「ッ!こ、コレは…………ッ!」

 

それは、相棒の収納腕輪だった。

何時も相棒にくっついていた姫さんなら、それを見れば直ぐ分かる。

 

「……そ、そんな…………そんなのって………………」

 

そう言いながら、姫さんはゾーイとアドリアに視線を向ける。

自分と同じ、相棒の恋人なのだから、きっと否定してくれると思っているのだろうが……………

 

「「………………」」

 

2人は顔を伏せると、首を横に振った。

 

「…………ッ!」

 

姫さんの目が見開かれ、次の瞬間には悲しみに歪み、目尻に涙が溜まり始めた。

 

「……そんな………ミカゲ様……………ッ!」

 

相棒の収納腕輪を抱き締め、姫さんは床に崩れ落ちてしまった。

そっと広げた掌の上に置かれている収納腕輪に、姫さんの涙が落ちる。

 

「…ッ!………嫌……嫌よ…………ッ!」

 

姫さんが、小さくそう言った。

 

「………ッ!……約束、したのに………また、会ってくれるって!私を、愛してくれるって!約束したのにッ!!」

 

沸き上がる激情に任せ、泣き叫ぶ姫さん。

クレアさんと女王陛下も、悲しげな表情を浮かべている。

 

「なのにッ…………なのに、死ぬなんて……あんまりです………ミカゲ様……………ミカゲ様ぁ…………ッ!」

 

再び収納腕輪を抱き締め、床に涙の染みを幾つも作りながら、姫さんはそう言った。

そんな彼女を、僕達はただ見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………では、女王陛下。僕達はこれで」

「ええ………」

 

さて、あれから泣き続ける姫さんをクレアさんに任せ、僕達は女王陛下と共に王宮の外へと出てきた。

その際、同盟の話を改めて考えたいので、期間を延ばしてくれるように頼んでおいた。

 

「ミカゲ殿の腕輪は、また後日お返しします。それまでは………」

「はい、分かっています」

 

僕は頷いた。

 

すると、女王陛下の目から涙が溢れ落ちた。

 

「あっ…………」

 

小さく声を漏らし、彼女は涙を拭った。

 

「私とした事が…………すみません」

 

そう言う女王陛下に、僕は首を横に振った。

何だかんだで、彼女も相棒と親しかった人物の1人だから、思うところもあるだろう。

 

「では、女王陛下。姫さんの事、お願いします」

 

そう言うと、僕は残りのガルム隊メンバーと共にルージュへと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………其所で、また事件が起こる事も……………そして……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………僕が、"ヒューマン族"じゃない事が判明する事も知らずに。


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