航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第113.5話~事件後の王都~

これは、魔人族襲撃事件の収束後、ラリー達がルージュへ向けて飛び立った時の出来事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ………クソッ、行っちまったか。つーか前から思ってたけど速すぎだろ、あの空飛ぶ鎧みたいなヤツ…………」

「…………………」

 

轟音と共に去っていくラリー達を引き留められず、小さく呟いているゲルブの隣で、グラディスはラリー達の後ろ姿を眺めていた。

 

「コレでは、魔王様の本来の目的が達成出来ない……………あの、魔王様、どうしますか?お望みとあらば、今から行って彼等を連れ戻し…………」

「いや、止めておけ」

 

セレーネの言葉を遮るように、グラディスが言った。

 

「あのような事があったんだ、ラリー達もショックを受けているだろうからな…………一先ずは様子見だ」

「…………畏まりました」

 

若干腑に落ちないような様子で、セレーネが言った。

 

「ゲルブ、お前もそれで良いな?」

「魔王様が、そう仰有るなら」

 

グラディスに声を掛けられたゲルブが、振り向いてからそう言った。

 

「ところで魔王様、あれはどうしましょう?」

「ん?」

 

セレーネに声を掛けられ、グラディスは彼女が指差す方へと目を向けた。

その視線の先には、地面でもがき苦しむ功達を必死で移動させようとしているF組男子の姿があった。

 

 

「ぐぅ………うぐぇぇえええっ!」

「クソッ…………航!ちゃんと押さえてくれ!」

「やってるっての!だけどコイツが暴れまくるんだよ!」

「いぎぃぃいいいっ!!」

「うわっ!?おい元浜!暴れんな!ちょっとは落ち着けって!」

 

奇声を上げ、兎に角もがき苦しむ功達7人に、正義達は苦戦していた。

取り押さえてから運ぼうとするものの、7人は形振り構わず暴れるため、取り押さえるので精一杯だった。

 

「クソッ、コレじゃ埒が明かねぇな……………おい、女子!回復魔法使える奴は此方来てコイツ等に回復魔法掛けてやってくれ!」

『『『『『『『『『『…………………』』』』』』』』』』

 

取り押さえて運ぶのは無理だと悟った航は、先程から成り行きを見守っている女性人に声を掛けるが、彼女等からの返事は返されなかった。

 

「どうしたんだよ!?早く!」

 

航が声を荒げて言うのだが……………

 

「"早く"って言われても…………」

「富永君達、古代君を殺したんだよね…………?」

「そんな人達を助けるのって………」

 

このように、女性陣は揃って難色を示す。

担任のシロナも、流石に人殺しをして何とも思っていない功達を庇う気は無いようで、無言を貫いている。

 

「そもそも、あの金髪の人って私達よりも強いんだよね?そんな人が掛けた呪いを解くなんて、出来る訳無いよ…………」

 

暁葉がそう言った。

他の女性陣も同意なのか、ウンウンと相槌を打っていた。

 

 

 

「あ~らら、仲間割れしちゃってまぁ…………」

 

未だ残っている自分達をそっちのけにして言い争っている彼等に、ゲルブが呆れたような眼差しを向けてそう言った。

 

「まあ、あの7人は同級生を殺して悪びれた様子も無いんだもの、女性陣が難色示すのも無理ないわ。寧ろ、それで回復させようとしてる男性陣が異常なのよ」

 

セレーネが言葉を続ける。

 

「そもそも思うんだけど、あの呪いは他の奴等が頑張って解けるものなのかしら…………?」

「いや、それは無理だな」

 

セレーネの呟きに、グラディスが即答した。

突然口を開いたグラディスに、ゲルブとセレーネは視線を向ける。

 

「呪魔法を解く事自体は、解呪魔法を使えば誰でも出来る。だが、解呪するには呪魔法を使った者が問題なんだ」

「……………"使った者が問題"と言いますと?」

 

そう聞き返したゲルブに、グラディスはチラリと視線を向けてから、再びF組の面々へと視線を向けて口を開いた。

 

「ラリーは彼奴の…………………レーヴェの息子だ。コレだけ言えば分かるだろ?」

「「ッ!」」

 

グラディスの言葉に、2人は目を見開いた。

 

「(魔法に関しては、私でさえ足元にも及ばない彼奴の息子だ。呪魔法に込められた魔力の質も桁違いだろうからな……………)」

 

内心そう呟いたグラディスはある事を思い出し、セレーネに声を掛けた。

 

「そう言えばセレーネ。お前は勇者との戦闘中に、あの眼鏡を掛けた少年に陵辱されそうになっていたよな?」

「……ッ…………ええ」

 

一瞬表情をしかめたセレーネだが、魔王であるグラディスが居る手前、直ぐに表情を戻した。

 

「あの時、お前が解放されるきっかけを作ったのは、ミカゲ・コダイだったぞ」

「えっ………?」

 

セレーネは目を丸くして、グラディスに視線を向けた。

 

「水晶玉で見たんだがな…………ゲルブを追い回した、あの火を噴いて飛び回る矢みたいなものを放って爆発を起こさせたんだ」

「そう、だったのですか…………」

 

そう言って、セレーネは空を見上げた。

会って礼を言おうにも、神影は既に死んでいる。礼など言えそうになかった。

 

「せめて心の中で、彼奴に礼を言っておけ」

「はい………」

 

セレーネは頷いた。

 

「(セレーネからある程度の話は聞いてたが…………例の爆発を起こしたのは彼奴だったのか……………やれやれ、相変わらず俺を驚かせてくれやがる)」

 

ゲルブは内心そう呟いた。

 

「そういや、勇者共は何してんだ……………?」

 

ふと思いついたゲルブは、F組の面々へと視線を向ける。

彼の視線の先では、表情を怒りや憎悪に染めた沙那が、正義に詰め寄っていた。

 

「………………」

「魔王様?」

 

それを見たグラディスがゆっくりと歩みを進め、ゲルブ達も慌てて、それに追随するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、勇者一行では、沙那と正義が言い争っていた。

 

「…………だから、沙那。確かに富永達がやった事は許されない。でも、だからと言って彼等をこのままにしておく訳にはいかないだろう?こんな状態で放っておくなんて間違ってる。なら、先ずは回復させて、それからしっかりと罪を償わせるべきなんだ」

「そんなの知らないよ!ずっと神影君に酷い事をして、挙げ句の果てに殺したんだよ!?そんな奴等を助ける義理なんて無いじゃない!こんな奴等、さっさと死んじゃえば良いんだ!」

 

自分達の恩人にして、初恋の人を殺された怒りで捲し立てる沙那。

 

「沙那、幾ら何でもそんな言い方は…………」

「じゃあ正義君は、コイツ等の肩を持つって言うの!?こんな人殺しに!?」

「いや、だからそう言う訳じゃなくて…………」

 

何とか功達を回復させようと説得を試みる正義だが、沙那は頑なに拒否する。

「私も反対です。恩人を殺すような方を助ける気はありません」

 

何時の間にか気絶状態から復活していた桜花もそう言った。

 

「それに、さっき相生さんが言っていたように、沙那達の解呪魔法が通じるとは限らないのよ?」

「そんなの、やってみないと分からないだろ!」

 

さらに言葉を続ける奏に正義がそう言った、その時だった。

 

「いや。お前達の力では、その呪いを解く事など不可能だ」

「ッ!?」

 

聞き覚えのある声に振り向くと、其所にはグラディスが立っていた。

 

「お前…………ッ!」

 

キッと鋭い目で睨む正義だが、グラディスは何処吹く風とばかりに受け流し、功達に視線を落とすと、暫くそのまま見つめる。

 

「……………やはりな」

 

そう呟き、グラディスは視線を上げた。

 

「……何が、"やはり"なの?」

 

奏が訊ねる。

 

「この呪魔法に込められている、魔力の質を見ていたんだ」

「"魔力の質"?」

「そうだ」

 

そう聞き返した奏に、グラディスは頷いた。

 

「それが濃ければ濃い程、魔法はより強力なものになる。普通の攻撃魔法なら威力が上がったり攻撃範囲が広がったりするし、彼等に掛けられた呪魔法では、効果が強くなり、解呪するのに多くの魔力が必要になる」

「そう……………なら、彼の魔力の質は、何れ程のものなの?」

「………………」

 

その質問に、グラディスは暫く黙る。

それから何を思ったのか、小さく頷いてから再び口を開いた。

 

「…………少なくとも、私が解呪出来るようなものではないな………つまり、この呪いを解けるのはラリー本人だけと言う事だ」

『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』

 

グラディスが言うと、F組の面々が揃って目を見開いた。

あの魔王でさえ解呪出来ない魔法を、ヒューマン族でありながら使える者が居るとは……………

 

「それなら、早く彼奴を連れ戻して、この呪いを解かせないと!」

 

そう言って、正義はラリー達が飛んでいった方向に向けて走り出そうとする。

「やれやれ…………」

 

小さくそう言って、グラディスは正義の目の前に転移すると、その首に手刀を落として気絶させる。

 

「今のお前が行ったところで無駄だ。それぐらい理解しろ」

 

吐き捨てるようにそう言うと、グラディスは正義を引き摺ってF組の面々の前に放り投げた。

 

「さて、我々はこの辺りでおいとまさせてもらうが……………」

 

そう言いかけて、グラディスは鋭い目を向けた。

 

「明日から、何時ものような生活が出来るとは思わない方が良いぞ」

 

そう言葉を繋げて、グラディスはゲルブとセレーネを連れて、自らの住まう城へと戻った。

 

その後には、何も知らずに昇ってくる朝日に照らされて、呆然と立ち尽くしている勇者や騎士団一行。そして、戦いが終わってからの彼等のやり取りから、勇者達に見切りをつけたような視線を向ける王都住人達が残された。


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