航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第112話~悲しみと蔑み、最後に魔王!?~

「ふむ、コレが勇者のする事か…………何とも卑劣だな。まさか、同胞にこのような事をする者が居るとは……………」

 

此処は、魔族大陸にある城。

其所に住む魔王、グラディス・ヘルシングは、水晶玉に映し出されている映像を見て、そんな評価を下した。

その水晶玉には、瓦礫の影に隠れて下卑た笑みを浮かべている慎也達の姿があった。

 

「申し訳ありません、グラディス様。我々が勝手に撤退したばかりに、ミカゲ・コダイが…………」

 

その後ろで膝をついている2人の魔人族の内の1人、ゲルブがそう言った。

 

「良いのだ、ゲルブ。今回の事については、お前達に落ち度は無い。出るタイミングを掴み損ねた私の責任だ」

 

グラディスはそう言うと、水晶玉の映像を切り替えた。

 

「ミカゲ・コダイよ、すまなかった……………許されるとは思っていない。だが、謝らせてほしい…………」

 

そう言って、水晶玉に映し出される神影の死体に深々と頭を下げた。

そして頭を上げると、その水晶玉を手に取る。

 

「あの、グラディス様?何を…………?」

 

それを見たセレーネが、訝しそうに声を掛ける。

 

「エリージュ王国に行く」

「「ッ!?」」

 

突拍子も無い発言に、2人は目を見開いた。

 

「恐らくだが、ミカゲ・コダイを殺した少年達は、コレに関する一切の責任を我々に擦り付けるか、適当な言い訳をして、この事を闇に葬ろうとするだろう。コレでは、死んでしまった彼も浮かばれない」

「「…………………」」

 

そう言うグラディスに、2人は納得した。

 

「だからこそ、この水晶玉に記録されている証拠をもって、連中の不正をぶちまけてやる。非道な連中に、情けなど無用だ!」

 

そう言って、グラディスは転移魔法で王都へと向かい、ゲルブとセレーネも、彼の後を追って転移魔法を使い、王都へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の王都では、突如として現れた土の槍に胸を貫かれた神影を視界に捉えたガルム隊メンバーが、まるで時間が止まったかのように固まっていた。

槍が刺さっている部分から血を流している神影はピクリとも動かず、ただ項垂れるだけ。

自分を見る仲間達に、何の反応も示さなかった。

 

「あ……相棒…………?」

「………………………」

 

ラリーがポツリと神影を呼ぶが、反応は相変わらず返されない。

 

「み………ミカゲ……様……………」

 

ゾーイがヨロヨロと、神影を貫いている土の槍に歩み寄る。

そうしている内に、神影は纏っている機体の重さによってズルズルと下がり始める。

それによって傷口が開いていき、最終的には、左の胸から左半身を食い破られ、そのまま地面に落ちた。

 

どちゃっ!とグロテスクな音を立て、神影は地面に叩きつけられた。

 

落下した時に軽く回っていたのもあってか、神影はうつ伏せに突き刺さっていた状態から、仰向けになって転がっている。

光を失った目は見開かれ、食い破られたような傷口からは、彼の骨や臓物が見え、血が流れ出ていた。

第三者からしたら、恐怖のあまりに卒倒しても不思議ではない光景だった。

 

「ミカゲ様…………!」

 

愛する者の死を改めて認識したゾーイは、震える声で恋人の名を呼ぶ。

その傍らに歩み寄ってきたアドリアも、無惨な姿になった恋人の姿を目の当たりにする。

 

「……酷い…………こんな………こんな事……………!」

 

言葉が口から漏れ出すのと共に、大粒の涙が溢れる。

そして、ゆっくりと腰を下ろしたアドリアは、神影の両目を優しく閉じ、流れ出る血や臓物で服が汚れるのも構わず、神影を抱き起こした。

 

「ミカゲ様………ミカゲ様…………!うッ………うぅぅ………!」

 

アドリアは小さく嗚咽を漏らし、ゾーイはその場で泣き崩れてしまう。

 

「………ッ!ぐすっ………ミカゲさん………!」

「リーア………」

 

大粒の涙をポロポロと溢しながら泣き始めたリーアを、エメルが抱き締める。

グランもギャノンに抱きついて嗚咽を漏らし、彼女を受け止めているギャノンも、固く瞑った両目から涙を流していた。

 

「相棒……………!」

 

悲しみに暮れているのは、ラリーも同じだった。

ゾーイ達のように泣き叫んだりはしないものの、やはりガルム隊メンバーの中でも神影との付き合いが一番長いのは彼だ。

そんな彼を失った傷は、誰のものより深かった。

 

「神影君!!」

 

そんな時、後ろからバタバタと音が聞こえてきた。

振り向くと、沙那や桜花、奏を先頭に、F組勇者や騎士団一行、そして怖いもの見たさなのか、王都住人や貴族達がワラワラとやって来た。

 

「ッ!?神影君!」

 

ゾーイに抱き締められている神影を視界に捉えた沙那が、真っ先に駆け出す。

そして、ゾーイの直ぐ傍まで来た時、彼女の足は止まった。

彼女の前に横たわっている神影は、左半身を食い破られ、血や臓物を外に出していたのだ。

 

「うっ……………!?」

 

あまりにもグロテスクな光景に、沙那は思わず口を両手で覆う。

続いてやって来た桜花は、衝撃が強すぎたのか卒倒し、奏に抱き留められた。

 

「そ、そんな………古代君……」

「こんなの、酷いよ………誰が、こんな…………!」

 

見るも無惨な姿を晒す神影に、女子生徒達がそう言う。

 

「うわっ、何だよコレ?めっちゃグロい…………」

「おい、あれ見ろよ。彼奴の傷口から、血の他にも骨とか色々出てるぞ」

「俺、彼処で大人しくしといて良かった。あんな形で死にたくねぇし」

 

F組男子や騎士団、魔術師団のメンバーが口々にそう言う中、住人や貴族は顔を青ざめさせ、ある者は気絶し、ある者は目を覆い、またある者は、盛大に吐瀉物をぶちまけていた。

「神影君…………」

 

そんな中、どうにか吐き気に打ち勝った沙那は、ゾーイの隣に膝をつき、神影の死体に視線を落とす。

彼女の視界に映るのは、見るも無惨な姿になった想い人の姿。

親友である桜花と共に、何時か2人で想いを伝えようと誓った相手が今、目の前で覚める事の無い眠りについている。

 

──彼が動いていない、彼が喋らない、彼が笑い掛けてくれない…………

恐ろしい程の虚無感と悲しみが、一気に沙那を襲った。

 

「神影君……………!」

 

地面が血の海になってるのも構わず両手をつき、嗚咽を漏らす沙那。

「……………………」

 

奏は、依頼を持ち掛けた挙げ句このような結果を招いてしまった事への申し訳無さや、信頼出来る友人を失った悲しみを感じ、桜花を抱き留めながら啜り泣いた。

シロナも地面に両膝をつき、両手で顔を覆って泣いている。

 

「納得いかない…………」

 

其処で、ラリーが小さく呟いた。

 

「どうして、相棒ばかりがこんな目に遭わなきゃならないんだ………相棒が、何をしたって言うんだ………!」

 

震えるラリーの拳から、血が流れ出る。

 

「相棒は、心の強い奴だった…………優しい奴だった………………誰からも愛された………!僕を、ありのままの僕として見てくれた…………そんな相棒が!なんでこんなに遭わなきゃならないんだッ!!!」

 

ラリーの悲痛な叫びが、王都一帯に響き渡る。

 

「私も同感よ……………こんなの、納得出来ないわ」

 

其処へ、涼子に桜花を任せた奏が口を開いた。

 

「そもそも、誰なのよ……………古代君にこんな事をしたクソ野郎は……………ねえ、誰なのよ!今直ぐ名乗りでなさいよ!この場で八つ裂きにしてやるわ!!」

 

目尻に大粒の涙を浮かべた奏が、今では形見同然になってしまった神影の収納腕輪から1本の剣を取り出して振るった。

 

「ち、違う!私じゃないよ!」

「そ、そうだよ!俺でもねぇ!!」

「な、何故私に剣を向けるのだ!?私に彼を殺す事など出来る訳が無いだろう!?」

「わ、私だってそうよ!そんな物騒なの向けないでよ!」

 

最早、怒りと悲しみで制御が利かなくなり、クラスメイトや騎士団員、挙げ句王都住人や貴族と言うように、手当たり次第に矛先を向けていく奏に、全員が口々に否定の言葉を発する。

 

「か、奏。そんな手当たり次第に剣向けんなって」

「航の言う通りだ、奏。先ずは落ち着くんだ」

 

焦りながら話し掛けた航に、正義が言葉を続ける。

だが、その説得は無意味で、火に油を注ぐようなものだった。

 

「"落ち着け"ですって!?アンタ、古代君が怪我してるの知ってて向かわせた癖に、よく言えるわね!彼処でポーション飲んでたら、あの魔力弾喰らっても平気だったし、この土の槍に串刺しにされる事も無かったのよ!」

 

奏が正義の胸倉に掴み掛かって怒鳴る。

 

「でも、彼奴は戦闘機で体はある程度覆われるんだろ?なら、それで大丈夫だと…………」

「その結果がこの有り様なんでしょうが!!アンタの無茶ぶりのせいで!古代君が!!」

 

そう叫び、奏が怒り任せに正義を殴り付けようとした、その時だった。

 

「ちょっと待ってくれないかな?」

 

この場には相応しくない、矢鱈と落ち着き払った声が響いた。

 

一同が声の主へと振り向くと、其所には慎也と秋彦、そして富永一味の5人。計7人の姿があった。

 

「お前等、今まで何処行ってたんだ?」

 

航が訊ねる。

 

「ああ、ちょっと周辺の確認をしてたんだよ」

 

秋彦が自然な様子で答える。

 

「そしたら僕等、分かっちゃったんだよねぇ~……………」

 

そう言って、慎也は見下したような目をチラリと神影に向けてから、クラスメイト達に視線を戻す。

 

「……………あの泥人形を暴れさせ、古代を殺した犯人がね」

『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』

 

その言葉に、一行は目を開いた。

 

「一体、誰だって言うの?」

「"誰"って……………………そんなの直ぐ分かるだろ?」

 

勿体振るような態度で言うと、功は慎也に視線を向ける。

それを感じ取った慎也は、小さく頷いてから口を開いた。

 

「……………あの2人の魔人族だよ」

 

そう言うと、場の雰囲気が硬直する。

 

「ホラ、周りを見てごらん?さっきまで余裕面してた2人が、何時の間にか居なくなってる。彼奴等は置き土産に、あの泥人形を出して暴れさせ、最終的には土の槍で古代を串刺しにしたのさ」

 

やりきったと言わんばかりの笑みでそう言って、慎也はラリーに顔を向けた。

 

「どうやらコレで、魔人族が如何に酷い連中なのかが分かった訳だけど……………ところで誰だっけ?『魔人族は悪い奴じゃない』なんて言ったのは」

「…………ッ!テメェ……………」

 

ラリーが涙を含ませた目に強烈な殺気を宿して、慎也を睨み付けた。

 

「おお、恐ぇ。ガルムの奴ってこんなに乱暴なのか?」

「それでよく人気者になれたよな」

「今まで調子に乗りまくってたから、古代にバチが当たったんじゃねぇのか?」

 

下卑た笑みを浮かべて富永一味の男子達が言うと、残りのF組男子や騎士団が笑い出す。

 

「殺す…………生きて帰れると思うなよ……………ッ!」

 

ラリーがドス黒いオーラを纏いながらそう言い、他のガルム隊メンバーも殺気混じりの視線を向け始めた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほう?勇者と言うのは随分と卑劣な事をする連中なのだな」

「……………ッ!?だ、誰だ!」

 

突然、何処からともなく声が響き渡り、その場に居る者全員が、あちこち見回し始める。

ラリーは神影の死体に防腐の術式を施し、冷凍魔法で氷付けにした上で、収納腕輪にしまった。

 

「み、皆!あれ!」

 

すると突然、春菜が上を指差して叫び、全員が見上げる。

彼等の視線の先には、長めの黒髪に2本の角を生やした男と、ゲルブとセレーネが空中に留まり、彼等を見下ろしていた。

そして、彼等はゆっくりと地面に降り立つ。

 

「はじめまして、諸君。私の名はグラディス・ヘルシング。諸君等が……………特に、異世界より召喚された勇者と、この国の騎士・魔術師団諸君が倒したがっている、"魔王"をしている者だ。どうぞよろしく」

 

そう言うと、グラディスは不敵な笑みを浮かべた。


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