航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第111話~Cipher's Death~

「(あ~、クソッ…………体が重いぜ………やっぱ、出発前に人目盗んででもポーション飲んどけば良かったな…………)」

 

ラファールのアフターバーナーを全開にして飛び立ち、巡航速度に調節した神影は、内心そう呟いていた。

戦闘機を使った戦いにおいては対地対空を問わずガルム隊トップの座に君臨するような腕を持つ神影でも、流石に重傷を負った状態では本調子など出る訳が無いのだ。

「(まあ、出てきちまった手前、ノコノコ戻るなんて出来ねぇからな……あのデカいのを連中の所に行かせる訳にはいかん。此処で潰しとかねぇと……………ッ!)」

 

等と呟いていると、泥人形達が一斉に、神影へと襲い掛かってきた。

 

「来やがったか…………ガルム1、交戦(エンゲージ)!」

 

神影もラファールのアフターバーナーを再び全開で噴かし、泥人形達へと突進する。

その際、ラファールの特殊兵装の1つである長距離空対艦ミサイル、LASMを呼び出し、直ぐ様照準を合わせた。

 

「LASM,launch!」

 

ラファールの主翼下に搭載されている空対艦ミサイルが切り離されて自由落下するが、直ぐロケットブースターが火を噴き、勢い良く飛んでいく。

「Fox2!Fox2!」

 

だが、それ1発だけで終わらせる神影ではなく、兵装を切り替えて両翼端につけられているサイドワインダーを発射する。

 

合計3発のミサイルを向けられた泥人形の1体は、その巨大な腕を振ってミサイルを叩き落とそうとするが、其処でLASMが爆発。

エースコンバットでの対地対艦向け特殊兵装の中でも、それなりに高い威力を持つこのミサイルの爆発により、その泥人形は振るった右腕を吹き飛ばされ、さらに2発のサイドワインダーを胴体に受け、右半身を粗方食い破られる。

だが、それでも泥人形は倒れない。それどころか再生する始末だ。

 

「……………嘘やろ?」

 

あまりにもショッキングな結果に、神影は関西弁で呟く。

そうしていると、別の泥人形が神影に向けて拳を降り下ろす。

 

「……………ッ!」

 

神影はブレイクでそれを避けると、ハイGターンで反転し、機関砲である"30 M 791"を向ける。

 

「Fox3!」

 

毎分2500発と言う頻度で撃ち出される30㎜弾は、泥人形の体に次々吸い込まれていき、その体を食い破るものの、やはり結果は同じ。

 

「(クソッタレ…………………ミサイルや機銃じゃ、何れだけ撃っても再生されるのがオチだってか………)」

 

神影は内心で舌打ちした。

何時もはミサイルや機銃で敵を倒していたため、今のような相手は初体験だった。

 

「ったく、ミサイル通じないなら打つ手も……………うおっ!?」

 

悪態をついているところに、また別の泥人形が腕を振るい、神影は慌てて回避する。

 

「チッ…………また別のヤツかよ」

 

神影は自分に攻撃を仕掛けてきた泥人形を睨んだ。

 

「(それにしても、コイツ等はどういう原理で再生してるんだ?魔力がある限り再生する……………ってんなら、ラリー達に援護要請してひたすら魔力削りまくれば、何時かは魔力切れで倒れるとは思うが……………そんな単純なやり方は通じないだろうな)」

 

そんな時、神影の頭に、ある案が浮かんだ。

 

「(もしかしてコイツ等……………植物みたいに地面から養分的な何かを吸収してるんじゃ……………?)」

 

神影はそんな事を思いつく。

 

「(こう言う泥人形が再生する理由としては、さっき考えた魔力の他にはコレしか思い付かん。と言う事は、コイツ等を地面もろとも焼き払っちまえば…………!)」

 

──再生も出来なくなり、倒せるのでは?

 

神影はそう考えた。

 

「(良し……………そうと決まれば、先ずは!)」

 

そうして、神影は一気に上を向いて急上昇し、高度を上げていく。

下に居る泥人形達は、再生する事は出来ても体を伸ばす事は出来ないのか、どんどん離れていく神影を見上げるだけだ。

 

「ぐぅ……………ッ!」

 

突然の垂直上昇で、ゾーイを庇っての被弾・墜落で酷く傷ついた体が悲鳴を上げ、神影が表情を苦痛に歪ませる。

そして、高度5000メートルまで到達した時、神影は再び水平飛行に移る。

 

「さあ、此処からだ……………Lancer!」

 

神影が叫ぶと、先程まで纏っていたラファールが光を放って消え、別の機体が装着された。

 

背中からは、先程のラファールとは比べ物にならないような巨大な主翼が展開され、腰には水平尾翼と垂直尾翼がセットになったパーツが取り付けられる。

それから下腿の辺りには、左右2基ずつ、計4基のエンジンが装着された。

加えて、体の前面を覆う装甲には、何やら小さめのコンテナらしきものが装着されていた。

そして、本来なら腕に装着される筈の機関砲や、主翼下に取り付けられるミサイルが、今回は無い。

 

これ等の事から、勘の良い方は神影が何を展開したのか予想出来たと思う。

そう、神影が展開した機体は、"B-1B Lancer"。つまり、"爆撃機"なのだ。

ただのミサイル攻撃が通じず、あの泥人形達が、地面から養分的な何かを吸収してるのかもしれないと予想を立てた神影は、爆撃で地面ごと焼き払ってしまおうと考えたのだ。

 

F-14(トム・キャット)Su-24(フェンサー)のような可変翼を搭載しているB-1B(ランサー)は、超音速飛行が可能であり、その巨体からは考えられないような速度や高い運動性も、"ランサー"と呼ばれる由縁だと言っても過言ではないだろう。

「(戦闘機みたいな機動は出来ねぇが、コレなら……………ッ!)」

 

そうして神影は、アフターバーナーを全開で噴かして高度を下げ、泥人形達へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、王都ではラリー達ガルム隊メンバーや、勇者・騎士団一行、そして王都住人や貴族達が、神影の戦いを見ていた。

 

「おい、中宮。大丈夫なんだろうな…………?」

 

彼等の意識が神影に向いているのを利用して場所を移した慎也達。

其所で秋彦が、慎也に訊ねた。

 

「"大丈夫"って……………何がだい?」

「あの泥人形の事に決まってんだろ。ミサイル喰らってたじゃねぇか」

「……………ああ、それについては問題無いよ」

 

慎也が矢鱈と自信満々な様子で答えた。

 

「……………どういう意味だ?」

 

今度は功が訊ねる。

 

「あの泥人形はね、地面からエネルギーを吸収してるんだよ。何かの攻撃を受けても、土を欠損部分に供給して再生する。地面丸ごと焼き払われない限り、あれは倒れないよ。後は、彼奴が勝手に体力を消費して、死にやすくなってくれるって訳さ」

 

慎也がそう言うと、残りの面々は下卑た笑みを浮かべて笑った。

 

 

自分達が長い間恨み続けた相手の、無惨な姿を想像しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相棒…………君は一体、何をするつもりなんだ…………?」

 

空を見上げ、ラリーはそう粒やいた。

神影が泥人形達との戦闘を始めてから現在まで、神影は1度も、彼等ガルム隊メンバーには何の連絡も入れていないのだ。

そうなると当然、神影がやろうとしている事に気づく者など、誰1人として居ない。

 

「な、なあ…………ガルムの奴、一気に上がっていったぞ?」

「彼奴、あんなに空高く上がって、一体何をするつもりなんだ?」

 

王都住人や貴族達から、そんな声が上がった。

 

「まさか、あのなり損ない勇者……………我々を捨てて、1人だけ逃げようとしてるんじゃないだろうな?」

 

其処で、ブルームがそんな事を呟いた。

 

「確かに。あの火を噴いて飛んでいく矢みたいなのが、あの変な魔道具モドキの武器みたいだし、それが通じないなら逃げても不思議じゃないわね…………なり損ない勇者なら、尚更……………きゃっ!?」

 

ブルームの傍に居た金髪の女性騎士がそう言うと、彼女の目の前を禍々しい色の魔力弾が掠めた。

その魔力弾が飛んできた方向へと目を向けると、怒りの形相を浮かべたラリーが右手を突き出した状態で睨んでいた。

 

「おい、貴様!コレは何の真似だ!?」

「いきなり魔力弾で……………しかも、この私達に攻撃してくるなんて、随分と良い度胸をしてるわね。自殺願望でも芽生えた?」

 

犯人を突き止めた2人が、其々の剣を抜いてラリーを睨んだ。

他の騎士も、ラリーが2人に攻撃を仕掛けた事を知り、剣を抜いて構える。

 

「それは此方の台詞だ、カス共。黙って聞いてりゃ相棒を馬鹿にするような事好き勝手にほざきやがって……………誰のために相棒が、重傷を負った体に鞭打って戦ってると思ってんだ?ああ?」

 

全身にドス黒いオーラを纏い、ラリーがそう言った。

 

「貴様……………格下の、それも没落魔術師の分際で、俺達に意見すると言うのか?随分と偉くなったものだな」

「貴方、ちょっと有名になったぐらいで良い気になりすぎなんじゃないの?貴方がこうして成り上がってきたのも、元を正せば、その訳の分からない魔道具モドキあってのものでしょう?貴方単体では大したものでもない癖に。身の程を弁えなさいよ」

 

そう言う2人だが、それは火に油を注ぐようなものだった。

 

「立場を弁えるのはテメェ等だよ役立たず共。プライドと口だけは一丁前でも、結局こうして相棒に頼ってるんだからな」

「な、何ぃ……………!?」

 

ブルームと女性騎士が目付きを鋭くしてラリーを睨み、他の騎士団員や魔術師も、ラリーに鋭い目を向けた。

 

「何なら、相棒呼び戻して撤退してやろうか?正直テメェ等がどうなろうが、俺の知った事じゃねぇ」

 

すっかりぶっきらぼうになった口調でそう言って、ラリーは、ある建物へと視線を向けた。

 

「あの建物には、生死も分からん国王や、ソイツを心配してる王妃や王女さん、それから宰相やら他の重鎮やらが居るんだろうが、ソイツ等もどうでも良いぜ。勝手に死んじまえゴミ共」

「ッ!貴様、陛下や王妃様方にもその言い草…………それでも士官学校の卒業生か!?」

「やはり貴方は、何処に行っても役に立たないクズだったのね」

「フンッ!プライドしか取り柄のねぇテメェ等よりマシだ」

 

ラリーはそう言い放つと、これ以上話す事は無いと言わんばかりに顔を背けた。

 

「ラリー様…………」

 

彼の傍にはゾーイとアドリアが居り、心配そうな表情でラリーを見ている。

 

「……………大丈夫。きっと相棒は、ちゃんとやり遂げて帰ってくる。君達は相棒の恋人であり、僕達ガルム隊のメンバーなんだから、それを信じて待たないとね」

 

ラリーはそう言って、2人の頭を優しく撫でる。

 

そして彼自身も、神影の生還を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして視点は、再び神影へと移る。

 

機体をラファールからB-1Bに変え、一撃離脱戦法による爆撃を敢行する事にした神影は、全開で噴かしたアフターバーナーの轟音を響かせながら降下する。

 

「(さあ、ド派手に吹き飛ばしてやる!)」

 

内心そう呟き、神影は爆撃モードに移行する。

すると、腹を覆っていた装甲が開く。どうやら此処から爆弾を落とすようだ。

 

「(それなら爆弾は……………やっぱコイツで決まりだ!)」

 

神影が選んだのは、爆撃用改良型無誘導爆弾(MUGB)だった。

 

「(インフィニティなら1回で4発しか落とせないが……………どうやら、AH(アサルト・ホライゾン)の方を採用してるみたいだな…………やりやすいぜ)」

 

そうして神影は、泥人形達の上に来ると、直ぐ様爆弾の雨を降らせ始めた。

 

「Bomb's away!(爆弾投下!)」

 

ガコンッ!ガコンッ!と音を立てて、爆弾が次々に投下されていく。

どんどん降ってくる爆弾の雨を不思議そうに見上げる泥人形達だが、次の瞬間には連続で起こる大爆発により、地面や瓦礫もろとも焼き払われる。

爆発で粉微塵になった泥人形達は、土を供給しようも無い程に身体中を破壊し尽くされた上に、供給源である土も焼き払われ、復活出来ない。

 

「うっしゃあ!俺の読みは当たったぜ!」

 

神影は、自身が重傷を負っているのも構わず歓声を上げた。

 

「このまま復活出来ねぇように何もかも焼き払ってやるよ!」

 

そうして神影は、あの泥人形達が2度と復活出来ないよう、王都内は勿論、周辺の広野にも爆撃を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい中宮!どうすんだよ!?何か知らんが泥人形が全滅したじゃねぇか!」

「そ、そう言われても……………」

「早く新しい泥人形作れ!」

「無理だよ!供給源の土が全部焼かれてるんだ!」

 

その頃、慎也達は自分達の計画が台無しにされた事に焦っていた。

 

「クソッ、本当にロクな事しねぇな彼奴は……………!」

 

立ち上がった功が、忌々しげに遠くで飛んでいる神影を見る。

 

「……………おい、もう殺っちまおうぜ。流石に我慢出来ねぇ」

 

其処で、秋彦がそう言った。

 

「い、いや。そうは言うけど、どうやって殺すんだよ?魔力弾でも撃つのか?それも今」

 

功の取り巻きの1人が言うと、秋彦は首を横に振った。

 

「いや、今直ぐ殺る訳じゃねぇ。彼奴が此方に戻ってきて、油断してる時に俺等が魔力弾で攻撃する。そして中宮」

 

そう言って、秋彦は慎也の肩に手を置いた。

 

「お前が止めを刺すんだ」

「……………ッ!」

 

その言葉に、慎也はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「了解……………おっ、そうしてる間に戻ってきた」

「よっしゃ……………殺るぞ!」

 

そうして、7人は一斉攻撃を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっと終わったぜ…………」

 

その頃、泥人形が復活しなくなったのを確認した神影は、負担を掛けに掛けた体を騙し、ヨロヨロと王都に向けて飛んでいた。

 

《よお、ラリー…………》

《………ッ!相棒!》

 

僚機念話で通信を入れると、ラリーの嬉しそうな返事が返された。

 

《やったわね、ミカゲ!貴方が1人で泥人形を全滅させたのよ!貴方は英雄よ!》

《ミカゲ様、お見事です!》

《あの怪我を負いながら、よくぞ、ご無事で……………!》

 

エメル、ゾーイ、アドリアも声を掛けた。

 

《ミカゲさん、凄いです!!》

 

リーアも興奮気味に声を上げた。

 

《流石は、私が見込んだミカゲ君だね》

《オレはお前に惚れたぞミカゲ!早く帰ってきな!お祝いのキスしてやるよ!》

 

グランとギャノンからも声が掛かる。

 

「あははは…………」

 

全員からの……………特にギャノンからの言葉に苦笑を浮かべながら、神影は着陸出来る場所を探し始める。

 

……………その時だった。

 

「……………!相棒、避けろぉぉおおおおおッ!!」

 

数百メートル前方から、"拡声"を使ったラリーの声が響く。

神影がそれを認識した時には手遅れで、何処からともなく飛んできた夥しい数の魔力弾が、神影に次々と叩き込まれた。

 

「ぐあああぁぁああっ!?」

 

幾ら高いステータスを持っていても、重傷を負っていれば、無傷で受ける時とはダメージの感じ方が全く違う。

そして、高い防御力を持っているB-1Bも、この集中砲火には耐えきれず、遂に爆発し、神影は空中に撒き散らされた他のパーツと共に、地面へと落下していく。

 

「相棒!」

 

それを見たラリーが転移魔法で神影の下に移動し、彼を受け止める態勢になる。

ゾーイ達も遅れて飛び立ち、ラリーに駆け寄ろうとするが……………

 

 

 

「……………………ッ!」

『『『『ッ!?』』』』

 

ズシャッ!と音を立てて、神影は突然地中から現れた土の針に胸から突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其処で、彼等の時は止まった。


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