航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第110話~怪我をしてもこの扱いですか~

「本当にありがとう、白銀さん!」

「ええ。取り敢えず、早く避難しなさい。もう殆んどが避難しているわ」

「うん。白銀さんも、早くね!」

 

神影達ガルム隊と魔人族2人による戦いが繰り広げられている中、奏はクラスメイト達の回復に務めていた。

奏に礼を言った女子生徒が王都内へと走っていくと、奏は辺りを見回した。

 

「……………どうやら、さっきの娘で最後みたいね」

 

周囲に、未だ回復していないクラスメイトが居ない事を確認すると、奏は収納腕輪の中を覗き見た。

 

「これだけ使えば、流石に底を突くわよね……………それにしても、30人以上に使えるだけのポーションとか…………迷宮を幾つ攻略すれば手に入るのやら」

 

苦笑混じりにそう呟き、奏は空を見上げる。

 

彼女の視線の先では、神影達ガルム隊と魔人族2人が未だ戦っている。

 

手下の魔物が居なくなった魔人族2人は、ガルム隊の連携を前にして徐々に追い詰められているのだが、神影もかなりの傷を負っているのが見えた。

彼が今纏っている機体からも、黒煙が上がっている。

 

「……………………」

 

此処で奏は、何も出来ない自分の無力さを恨んだ。

「(勇者ともあろう者が、情けないわね…………)」

 

自嘲するかのように、奏は内心そう呟いた。

 

そんな時、数発の魔力弾がゾーイに迫っていた。

大きさ自体は大したものではないが、それでも魔人族幹部が放つもの。威力が高いのは誰でも分かる。

それに気づいたゾーイだが、回避しようにも時間が足りない。

 

「……………ッ!」

 

彼女の行く末を悟った奏は、思わず目を覆う。

だが、それから聞こえたのは、彼女が予想したものとは大きく違っていた。

 

「ミカゲ様ぁ!」

「……………え?」

 

奏は一瞬、自分の耳を疑った。

何故、其処で神影の名前が出てくるのかと疑問に思い、恐る恐る目を退ける。

すると、神影が黒煙を噴き上げながら、王宮方面へと落ちていくのが見えた。

 

「古代君………………ッ!」

 

もう、収納腕輪にあるポーションは底を突いている。

だが奏は、王宮へ向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は移って、此処は王宮。

奏に回復してもらい、彼女より一足先に王宮に来ていたF組勇者と騎士団一行は、長時間に及んだ戦いの疲れを癒していた。

ゲルブに殴り飛ばされた事によって瓦礫の下敷きになっていた富永一味の取り巻きや航も救出され、今は沙那や桜花、そして他の"回復師"の天職を持つ生徒からの治療を受けている。

 

『『『『『『『『………………』』』』』』』』

 

だが、彼等の表情は何処と無く暗く、気まずそうでもあった。

その原因は……………

 

「クソッ、何が勇者だよ?敵の前で盛ってたとか、ふざけやがって………俺等がどんな思いしてたと思ってんだ…………ッ!」

「ああ、全くだ」

「娘を嫁になんて、言うんじゃありませんでしたわ」

「それでノコノコと……………しかも無傷で戻ってるとか、一体どういう神経してやがる?」

「こちとら、逃げる時のゴタゴタで怪我人多数出てるんだぞ……………まあ、城の回復師が何とかしてくれたけど」

 

自分達に向けられる、王都住人や貴族達からの蔑みの眼差しや心無き言葉の雨だった。

野次馬をしていた住人から、勇者と騎士団一行が催淫魔法をモロに受けていたと言うのを知らされた瞬間、王都住人や貴族達からの勇者への信頼は失墜していた。

 

「んだよ彼奴等………力もねぇ癖に偉そうな事ぶつくさ言いやがって……」

 

心底忌々しげに、秋彦が呟いた。

他の男子達も王都住人や貴族達を睨み、女性陣はただ俯き、中には涙を流す者も居た。

 

今にもF組男子VS王都住人と貴族達での争いが起こりそうな雰囲気の中、神影達ガルム隊が轟音を轟かせながら飛び回り、2人の魔人族と戦っている。

そんな時だった。

 

「…………ッ!?お、おい!何か落ちてくるぞ!」

 

住人の1人が空を指差して叫んだ。

空を見上げると、黒煙を噴き上げた"ナニカ"が物凄い勢いで落ちてくるのが見えた。

 

「皆伏せろ!下手したらぶつかるぞ!」

 

その言葉を受け、その場に居る全員が伏せる。

F組勇者や騎士団一行も、両手を頭に乗せてしゃがんだ。

 

落ちてきたそれは、ちょうど王都住人達と勇者一行の間で地面に叩きつけられて火花を散らし、大きな衝突音を響かせる。

そして、そのままバウンドし、破片らしきものを撒き散らしながら勇者一行の方へと転がり、最終的には、王宮の敷地を取り囲む壁にぶつかり、砂埃を巻き上げた。

 

「い、今のは一体…………?」

 

恐る恐る顔を上げた桜花が辺りを見回す。

 

「み、皆!」

 

其処へ、奏が駆け寄ってきた。

 

「奏さん!今、何かが物凄い勢いで落ちてきて…………」

「その事なんだけど、それ古代君よ!ガルムの1人を庇って攻撃を受けたの!」

『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』

 

奏の言葉に、その場に居る全員が、驚きのあまりに勢い良く頭を上げ、壁の方へと視線を向けた。

巻き上がる砂埃が徐々に晴れていき、ボロボロになり、黒煙を噴き上げているSu-37を纏っている神影が姿を表した。

「古代君!」

 

奏が叫び、神影に駆け寄った。

沙那や桜花、他の女子生徒達もワラワラと駆け寄る。

 

「こ、コレは…………」

「酷い…………」

 

沙那と桜花の口から、そんなコメントが漏れ出す。

 

纏っている機体の損傷具合から、あの攻撃でかなりのダメージを受けたのは明確だ。

おまけに、何度も地面に叩きつけられたためか、右腕に装着されている機関砲はひしゃげ、装甲もあちこち剥がれていた。

服も所々破れており、血も流れ出ている。

特に、腕や頭部からの出血が酷かった。

 

奏がミカゲを抱き起こし、沙那に回復魔法を使うように言おうとした、その時だった。

 

「ミカゲ様ぁぁぁああああっ!!」

 

悲鳴に近い声で神影の名を叫びながら急降下してきたゾーイが、非常に乱暴な着陸を決め、機体を解除して神影に駆け寄った。

 

「えっ、ちょっと。何この人?誰?」

「て言うか今、"ミカゲ様"って……………え、何?この人、古代君のメイドさんなの?」

 

急に現れたゾーイに、F組女性陣は戸惑いを見せるが、涼子や春菜は、リーアの一件の事もあり、何と無くだが、ゾーイの事を知っているかのように目を丸くしていた。

 

「やべっ、このメイドさん超タイプなんだけど」

「うはっ、見ろよこのメイドさんの服。エロくね?」

「コイツには勿体ねぇだろ」

 

自分達の代わりに戦って撃墜された事など一切に気に留めず、男性陣はそう呟いていた。

 

「(この人、確か……フュールの町で………)」

 

そんな中、ゾーイの姿を視界に捉えた慎也は、フュールでの一件を思い出した。

 

「あ、貴女は確か…………?」

 

駆け寄ってくるゾーイに気づいた奏が話し掛けようとする。

 

「ゾーイ・ファルケン。その人の恋人です!早く退いてください!!」

 

ゾーイが叫んだ。

 

「えっ、嘘…………」

「古代君の……………恋、人……………?」

 

まさかのカミングアウトに、女性陣は目を丸くし、男性陣も言葉を失った。

特に沙那と桜花は、まるで彼女等2人だけ、時間が止まったかのように固まっている。

そうしている内に、奏から神影を引ったくったゾーイが、必死に呼び掛けた。

 

「ミカゲ様!しっかりしてください!ミカゲ様!ミカゲ様ぁ!!」

 

重傷を負った恋人に、必死で呼び掛けるゾーイ。

すると、閉じられていた神影の目が僅かに動き、ゆっくりと開かれた。

 

「………おぉ、ゾーイか…………」

 

これだけのダメージを受ければ、流石に何時ものような喋り方は出来ないようで、神影は若干辛そうな表情を浮かべてゾーイの名を呼んだ。

 

「怪我は………無さそうだな。良かった良かった……」

 

ゾーイが無事なのを確認した神影は、満足そうに頷いた。

 

「良い訳がありません!こんな傷を負って……………!幾らミカゲ様と言えど、あれを受ければ無傷では済まないのですよ!?」

 

目尻に涙を溜め、ゾーイが言った。

 

「おぉ………そりゃ、何かすまん…………」

 

重傷を負っているのに、何処と無く元気そうな様子を見せて答える神影。

そんな神影に、ゾーイは自分の収納腕輪からポーションを取り出して神影に差し出した。

「さあ、早くコレを!」

「お、おう…………」

 

ゾーイから差し出されたポーションを受け取ろうとする神影。

 

「(回復しようったってそうはさせねぇぞ、無能野郎。お前は此処で死ぬんだからな……………ただの戦闘機マニアの分際で粋がってるとどうなるかを教えてやるよ)」

 

内心そう呟いた功は、取り巻きや秋彦と言った、アンチ神影の過激派とも呼べる面々を呼び寄せ、さらに、隣に居る慎也に話し掛けた。

 

「おい、中宮。お前の天職って"土術師"だったよな?」

 

誰にも聞かれないように、功は小声で言う。

 

「う、うん。そうだけど…………」

「なら、王都の外にデカい泥人形みたいなのを作る事って出来るか?」

「ま、まあ……レベルも上がってるから、出来るには出来るけど…………」

「それなら…………」

 

そうして、功は慎也に何やら耳打ちした。

それを聞いた慎也は、最初こそ驚いていたものの、功が言葉を続けるにつれて、その表情を下卑た笑みへと変えた。

 

「そんじゃあ中宮、言った通りに頼むな。下準備は、俺等の方でやっとくから」

「了解」

「あまり時間掛けるなよ?」

「大丈夫だって。僕に掛かれば、そんなの数秒で作れるんだからね」

 

歪んだ笑みを浮かべながらそう言って、早速作業に取り掛かる慎也を、祐二を除いた功の取り巻きと秋彦が囲んで周囲から見えなくする。

 

そして、機体を纏いっぱなしだった事に気づいた神影が機体を解除し、何時の間にか集まっていたガルム隊メンバーに見守られて、ゾーイから渡されたポーションを飲もうとした時だった。

 

「お、おい!何だあれは!?」

 

不意に立ち上がった功が態とらしく、驚いたような声を上げた。

隣に立った祐二も何やら喚き、作業を終えた慎也達も、功が叫んだのを不思議に思うような素振りを見せながら立ち上がる。

突然の出来事に、その場に居る者全員の視線が彼等に集中し、神影もポーションを飲もうとする手を止めて、功達の方へと視線を向ける。

 

「ちょっと、いきなり何叫んでるのよ?古代君が重傷負ってるのよ?静かにしなさいよ」

「それどころじゃねぇんだよ!ホラ、あれ見ろよ!」

 

責めるような口調で言う奏に言い返すと、功がある方向を指差す。

 

「全く、何があるって………………ッ!?ちょ、ちょっと、何なのよ………………一体何なのよあれは!?」

 

功が指差した方向には、巨大な泥人形が、王都全体を見渡すように立っていた。

そして大きな足音を響かせながら、ゆっくりと近づいてくる。

 

「ちょ、おい!何だあれは!?」

「また新しい魔物か!?」

 

住人や貴族達も、突然現れた巨大な泥人形に慌てふためく。

 

「ちょ、何だコレ!?こんなの生み出した覚えはねぇぞ!」

「落ち着きなさい、ゲルブ!一時撤退よ!」

 

自分達の目の前で現れた謎の泥人形を目の当たりにした2人は、転移魔法陣を展開してその場を離脱した。

 

「おいおい、冗談だろ?何をどうしたら、あんな泥人形が何体も現れるんだよ…………?」

 

神影もコレには驚いたようで、戦慄の表情を浮かべている。

 

「な、なあアンタ!アンタってガルムのリーダーなんだろ!?ボヤッとしてないで早くあの泥人形共を何とかしてくれよ!」

 

そんな時、住人の1人が神影に向かって叫んだ。

 

「そ、そうだ!あのガルムのリーダーなら、傷負ってたって何とか出来るだろ!」

「早くあの泥人形を消してくれ!俺等死にたくねぇんだよ!」

 

口々に叫ぶ王都住人や貴族達。

それに不快感を示したのはラリーだった。

 

「ギャーギャー勝手な事ばかり喚いてんじゃねぇぞテメェ等!相棒に重傷負った状態で戦えってのか!?そもそも死にたくないのは誰でも同じだっての!戦えないからって好き放題言えると思ってんじゃねぇぞ!この王都(ファッキンシティー)もろとも消されてぇのか!?」

 

怒気・殺気全開で怒鳴るラリー。

今の彼の心情をそのまま表したようにドス黒いオーラを纏い、肩の高さにまで上げた右手に禍々しい色の魔力を纏わせて、住人達を睨み付ける。

『『『『『『『『『『…………………………』』』』』』』』』』

 

自分達の頼みを聞いてくれるものだと思っていたラリーに怒鳴られ、王都住人や貴族達は黙り込んだ。

そんなラリーに、正義が口を挟んだ。

 

「おい、今は町の人達に怒鳴ってる場合じゃないだろ?今は、早くあの泥人形を何とかするのが先だ!」

 

重傷を負っている神影より、泥人形の方を優先させようとする正義。

そして神影の方を向くと、再出撃するように急き立てる。

 

それを見たラリーは、目に殺意を宿して正義に怒鳴った。

 

「温室育ちのクソ餓鬼風情が、口慎みやがれよ!!相棒がドンだけ戦い、ドンだけ傷ついたと思ってやがる!?此方としてはテメェ等を助ける義理も義務も無かったんだぞ!なのに此処に来て、テメェ等のために戦って傷だらけになった相棒に、回復する暇も与えないってのか!?」

「そんなものは後でも出来るだろ!人々の命が懸かってるんだぜ!?」

 

此処で功が正義に加勢し、取り巻き達も喚き始めた。

 

「ッ!いい加減ムカついたぞ、この下等生物めが……………今この場で殺してやろうか!?」

 

ラリーがそう言った時だった。

 

「ラリー、もう良いよ………止めろ」

 

神影が、ラリーに声を掛けた。

ラリーが振り向くと、応急処置のつもりなのか、ゾーイやアドリアに包帯を巻かれた神影が立っていた。

 

「あ、相棒………でも……」

「良いんだよ、ラリー。俺は未だ、戦える」

 

そう言って立ち上がった神影は、殆んどが大破して使えなくなった、カタパルトを使用可能な艦上戦闘機の中で辛うじて残っていた、フランス海軍が誇るオムニロール艦載機、"Rafale M"ことラファールを展開し、同時にカタパルトを錬成してセッティングを済ませた。

 

「ああ、そうだ」

 

そう言って、神影はラリーの方を向いた。

 

「ラリー。お前は此処に残って、万が一流れ弾が飛んできた時に対処してくれ」

「……………分かった」

 

此処まで来れば何を言っても神影は退かないと悟ったラリーが返事をすると、神影はエンジンの出力を徐々に上げながら、ゾーイとアドリアを呼び寄せると、

 

「ゾーイ、アドリア………………そして、この場には居ないが、ソブリナ達も…………お前等全員、愛してる」

 

とだけ囁き、其々に短くキスをすると、ゾーイに未使用のポーションの瓶を渡し、エンジンの出力を最大に上げてカタパルトを動かすと、轟音と共に勢い良く飛び立ち、泥人形へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その際、数人の男子生徒がほくそ笑んでいる事に気づいた者は、不運にも、1人も居なかった。




次回、遂に神影が……………!?

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