航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第109話~ガルムは暴れ、勇者達は……………~

「す、凄い……………」

 

数時間にも及ぶ魔物の群れや2人の魔人族幹部との戦いでボロボロになった体で這いつくばる銀髪の女性、夢弓シロナは、目の前で繰り広げられる戦いにそんな感想を溢した。

 

今、彼女の目の前では、去年エリージュ王国に召喚されてから少しした頃、彼女が担任を務めていた2年F組を離脱してしまった神影率いるガルム隊が戦っている。

 

神影はSu-37を纏い、ミサイルや機銃を撃ちながらゲルブを追い回し、ラリーはセレーネや、彼女が使役する魔物に攻撃を仕掛け、残りの面々は他の魔物に徹底的な対地攻撃を仕掛けている。

 

本来なら、王都をパニックに追い込んだ2人の魔人族を倒す、或いは無力化し、拘束するのは彼女等勇者や騎士団の役目だ。

だが、次々向かってくる魔物の群れに体力を奪われる上に、セレーネの催淫魔法によって強制的に発情させられ、野次馬精神で見に来た王都住人達からの蔑みの眼差しで精神的にも深いダメージを負い、そして極めつけに、魔人族2人が本格参戦する第2ラウンド。

 

この時点で数時間にも及ぶ戦いからの第2ラウンドにて、彼女等が、ほぼ無傷の魔人族相手に敵う訳が無かった。

 

「(情けないわね………教え子1人助けられず、こうして地面に這いつくばるなんて……………こんなので、何が勇者よ。何が教師よ!)」

 

自らの無力さを恨み、シロナは握り拳を作ってワナワナと震わせる。

その際、爪の間に土が入っていようが、僅かに肌に食い込んだ部分から血が出ようが、彼女は気にしなかった。

 

「先生!」

 

そんな時、爆発による砂埃などを掻い潜って、奏が駆け寄ってきた。

 

「白銀さん…………」

 

煤だらけの顔で、教え子の1人を見るシロナ。

奏は、神影に渡された収納腕輪からポーションを取り出す。

 

「コレを今直ぐ飲んでください」

「それは………ポーション…………?」

 

奏から差し出された小瓶を手に取り、シロナは問う。

 

「古代君がくれたんです。『この収納腕輪にあるポーションを、あるだけ全部使ってやれ』って」

「ッ!?」

 

シロナは驚愕に目を見開いた。

そもそもポーションと言うのは、専門店に売っていたり、迷宮で宝箱から入手するものだ。

回復薬であるため、値段もそれなりにする上に、タダで手に入れるためには、迷宮に行き、宝箱から手に入れなければならない。

つまり、どちらにせよ入手するのに多少は苦労する代物なのだ。

 

そんなものを、『全て使え』と言って軽々と人に渡せてしまう神影の気が知れなかった。

 

「兎に角先生。早くコレを飲んで、安全な場所に避難しt……「ギュヤァァァアアアアアッ!!」………ッ!」

 

奏の言葉を遮るようにして、一体のキメラが、彼女の背後で咆哮を轟かせた。

 

「ッ!白銀さん!逃げて!」

 

渡されたポーションを投げ出して悲鳴を上げる体を無理矢理動かし、自分の後ろへと奏を突き飛ばすシロナ。

 

──たとえ自分がどうなろうと、生徒は絶対に守る──

 

彼女の思いは、それだけだった。

 

「ッ!先生!駄目ぇ!!」

 

不意に突き飛ばされた事によって、地面に転がった奏が叫ぶ。

 

そんな彼女の叫びを無視して、キメラは大きな口を開け、シロナを噛み殺そうとする。

 

「(ごめんなさい、皆……………)」

 

近づく死を前にして、シロナは内心で、教え子達に謝る。

だが、シロナが噛み殺される事は無かった。

何と、ゲルブがシロナとキメラの間を横切ったのだ。

 

「ッ!?一体、何………「人の恩師に何してやがんだテメェはぁ!」……きゃっ!?」

 

だが、ゲルブがあまりにも高速で飛ぶので姿を捉えられなかったシロナは、ゲルブが通り過ぎていった方向に目を向けた途端、怒号と共に飛んできた爆音に怯み、その場に蹲る。

そして、その爆音の次に轟音が彼女の前で一瞬轟き、衝撃波が彼女を吹き飛ばす。

 

「あっ…………うぐ………」

 

幸いにも其所に魔物は居なかったため、シロナは軽く地面を転がっただけで済んだ。

 

「あっ……キメラが…………」

 

そんな中、吹っ飛ばされなかった奏は、大きな音と共に地面に倒れ伏すキメラを見た。

 

「……………」

 

少しキメラを見た後、上空へと視線を向ける。

 

「Fox2!Fox2!」

「だからその火ぃ噴いて飛んでくる矢は何なんだよぉ!?」

 

彼女の視線の先では、何故か若干涙目になっているゲルブと、彼を追い回す神影が空中戦を繰り広げていた。

 

「やっぱり、貴方なのね…………………ありがとう、古代君……………」

 

それを見た時、自分達を助けてくれたのは神影だと、奏は確信した。

それから奏は、シロナが投げ出したポーションを拾って彼女の元に駆け寄ると、そのポーションを大急ぎで飲ませて避難させると、未だ回復していない仲間達の元へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ…………」

 

その頃、フランクはボロボロになった体を騙して剣を構え、一体のミノタウロスと対峙していた。

 

「やれやれ…………まさか、ボロボロになっても……こんな、デカブツと対峙するとは…………俺も、ツイてないな」

 

自嘲気味に、フランクはそう呟いた。

 

「だが、俺は騎士団長。此処で倒れられるか!」

 

そう言って、ミノタウロス目掛けて一直線に駆け出したフランク。

だが、突如として飛んできた"ナニカ"にミノタウロス直撃し、爆発する。

 

「ぐわぁっ!?」

 

突然の爆風に対応出来ず、フランクは吹っ飛ばされて地面を転がった。

そして、一体何があったのかと辺りを見回した時……………

 

「ッ!?彼奴は……………」

 

フランクの視線の先には、飛び回るセレーネを追い回し、機銃やミサイル攻撃を喰らわせようとしているラリーの姿があった。

 

去年の卒業式の日、魔術師団から受け入れを拒否されて、自分の元へと回されてきたラリー。

だがフランクも、当時のラリーの噂を真に受けており、ラリーを非難した上に、騎士団への受け入れも断固として拒否した。

その際、酷くショックを受けていたラリーの顔は、今でも覚えていた。

「……………………」

 

だからフランクは、ラリーにどう声を掛ければ良いのか分からなかった。

ラリーに礼を言おうにも、彼は王国騎士団も魔術師団も恨んでいるので、自分を不要扱いしたフランクの言う事など聞きもしないだろう。

 

「……………………」

 

そんな複雑な気持ちを誤魔化すかのように、周囲に居る騎士を連れて前線から後退していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、F組男子達も体力の限界に到達しつつあった。

 

富永一味では、ゲルブに殴り飛ばされて町の防壁の向こうに消えた上田祐二に加えて、新たに2人の取り巻きが戦闘不能に陥った。

おまけに、F組男子のNo.2とも呼ぶべき存在であり、正義の親友、斉藤航も戦闘不能になる。

今となっては、男子の過半数が戦えなくなり、前線を退く事になっている。

 

「はぁ……はぁ………」

 

聖剣を杖代わりにして辛うじて立っている正義が、巨大なベヒモスと対峙する。

その鋭い目で正義を睨み、化物ならではの唸り声を低く響かせるベヒモス。

それに対して、正義はボロボロだ。そんな状態でベヒモスとマトモに戦った時の結果は、見え透いている。

 

「クソッ………ここまで、なのか………」

 

流石に戦う気力も残っていないのか、そう呟く正義。

周囲には、秋彦や功など、残った一部の男子生徒が居る。

攻撃してこないのを見て好機だと思ったのか、ベヒモスが駆け出す。

そして、正義に飛び掛かろうとした時……………

 

「おい、其所の奴!今直ぐ其所を退け!巻き添え喰らって吹っ飛ばされても知らねぇぞ!」

「えっ……………?」

 

不意に聞き慣れない男の声が聞こえ、正義とベヒモスの動きが止まる。

 

「あーもう!邪魔だからさっさと退けっつーのに…………もう良い、忠告はしたんだから後は知らん!やっちまえ、リーア!」

「ガルム6、LSWM launch!(LSWM発射!)」

 

そんな声が聞こえた次の瞬間には、バシュッ!と大きな音が響く。

そして、猛烈な勢いで筒状の"ナニカ"がベヒモスに叩き込まれ、次の瞬間には大爆発を起こす。それによって一時的に周辺の視界を大きく奪った。

 

「ぐぁああっ!?」

 

その直後、あまりにも強い衝撃波に襲われ、正義は後方へ勢い良く吹っ飛ばされ、防壁に叩きつけられた。

「ぐっ…………一体、何が……………?」

 

何が起きたのかを確認しようとする正義だが、未だに視野が回復しない。徐々に視界が回復すると、彼の眼前には″其所に居た筈のもの″が何も映っていない。

ベヒモスは勿論、未だ数体は居た筈の魔物も忽然と姿を消している。視界に飛び込んできたのは、徐々に消えつつある、青白く上下に伸びた光の柱のようなものだった。

 

「目標を殲滅!よくやったぞ、リーア!」

「はい!」

 

上空からそんなやり取りが聞こえたかと思うと、金髪の男と白髪の少女が飛んでいくのが見えた。

正義に声を掛けたのはラリーで、ミサイル攻撃による爆風で其処らにあるものを纏めて吹っ飛ばしたのはリーアだった。

 

「彼奴等、人が居るのも構わず撃ったのか……………ッ!?」

 

そんな2人に、正義は恨みがましい視線を送った。

吹っ飛ばされた他の男子生徒達も、正義と同様の視線をラリー達に向けている。

 

「(あの金髪野郎もそうだが、一番気に入らねぇのは古代の野郎だ。ただの戦闘機マニアの分際でこんなにも活躍しやがって。無能は無能らしく、どっかで野垂れ死んでりゃ良いんだよ……………ッ!)」

 

忌々しげな表情を浮かべて、功が内心そう呟いた。

「(そうだ、彼奴に恨みがあるのは俺だけじゃない。祐二達もそうだが、元浜や中宮だって彼奴を嫌ってる……………なら、それを利用してあの無能野郎を…………)」

 

今の彼は、窮地を救われた事への恩など微塵も感じていない。

彼の心の中にあるのは、『邪魔者を消したい』……………ただ、それだけなのだ。

 

ゲルブとの戦いで徐々にダメージを負っていく神影を見て歪んだ笑みを浮かべた功は、自分の考えを伝えるべく、他の男子達と共に一旦前線から退くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………それが、王都が周辺の町やクルゼレイ皇国からの批判を受ける事に加え、自分達F組勇者が迫害されると言う結果を招くのも知らず。


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