航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第10話~悩んで話して、覚悟を決めろ!~

 さて、無事に冒険者登録を終えた俺だが、今はその余韻に浸っている暇は無い。その理由は、今、俺達の前で椅子に座っている銀髪シスターさんこと、シルヴィアさんにある。

 

「…………つまり貴女は、盗賊団に連れ去られた友人と、その他に捕らえられた女の人達を助けてほしいのね?」

「はい、そうなんです………」

 

 確認するように言う女性冒険者からの質問に、シルヴィアさんはか細い声で答えた。

 

 彼女の話の内容はこうだ。

 

 先ずシルヴィアさんは、とある村で友人のエレインさんとシスターをしていたのだが、ある日、その村が比較的レベルの高い魔物の群れに襲われたと言うのだ。

 エレインさんが魔物を数匹倒すと、何故か群れは撤退していったので一先ず安心していたのだが、魔物のレベルが予想以上に高く、エレインさんは体力を激しく消耗してしまった。

 その後、エレインさんがまともに戦えないと言う状態につけこむかの如く盗賊が村にやって来て、村の食料を略奪し、村の若い女達とエレインさんを連れ去ってしまったのだと言う。

 そんな中、物陰に隠れていたために運良く連れ去られずに済んだシルヴィアさんは、助けを求めてこの町まで走ってきたのだ。

 

「このままでは、エレインも、村の女達も……あの盗賊団の、慰み者にされてしまいます。ですから、どうか…………お願い、します………………!」

 

 シンと静まり返ったギルド内に、彼女の嗚咽混じりの懇願の声が響く。

 俺は何とも言えない気分で、ラリーと顔を見合わせていた。

 

「何か、冒険者登録をして早々トンでもない事になっちゃったね………」

 

 そう耳打ちしてくるラリーに、俺は小さく頷いた。

 そうしていると、さっきの女性冒険者が、シルヴィアさんに再び質問した。

 

「取り敢えず、その盗賊団の名前を教えてもらえるかしら?」

「………ろ……も………です…………」

 

 ん?何か言ってるみたいだが、ボソボソ言うから全然聞き取れん。

 それは女性冒険者の方も同じらしく、聞き返していた。

 

「悪いけど、聞き取れなかったからもう一度言ってくれるかしら?」

「…………」

 

 そう言われ、暫く黙っていたシルヴィアさんだが、やがて口を開いた。

 

「……黒雲、です…………」

「黒雲ですって!?」

 

 女性冒険者が声を張り上げると、他の冒険者達も戦いている。

 つーか、何だ?“黒雲”?一体何者なんだ?

 

「おい、ラリー。黒雲って何だ?どんな奴等なんだ?」

「このエリージュ王国では、結構有名な盗賊団だよ」

 

 曰く、エリージュ王国と、その隣にあるクルゼレイ皇国を隔てる山岳地帯を根城にしている大規模な盗賊団で、エリージュ王国内の村々を襲っては、収穫物を奪ったり、村の若い女や女性冒険者をアジトに連れていき、略奪してきた食料を肴にして宴会を開き、連れ去ってきた女達を裸で踊らせた後、あまり言い方は良くないが、性の捌け口にして楽しんだ後、奴隷商人に売り払うと言う、トンでもない奴等だそうだ。

 

「質の悪い事に、連中は大人数な上にレベルも結構高いから、並大抵の冒険者じゃ返り討ちにされるがオチなんだ。今までに結構な冒険者が奴等に挑んで殺られてる。女性が連中に挑もうものなら…………ね」

「成る程な………」

 

 後は察してくれとばかりに言葉を濁すラリーに、俺は頷いた。

 

「く、黒雲とか……マジかよ………よりにもよって彼奴等とか………冗談じゃねぇぞ……」

「コレ、そんじょそこらの小規模な盗賊を相手にするのとは話が違うぞ………」

「流石に、コレばっかりはパスだわ」

「わ、私達も………パス……」

「ああ。シスターさんや、連れ去られた子達には気の毒だが、流石にコレばっかりはな…………」

 

 そう言って、冒険者達はシルヴィアさんから徐々に距離を取り始める。

 

「そ、そんな…………!お願いです!もう、他の町に移動している暇は無いんです!此処だけが………貴殿方だけが頼りなんです!」

 

 悲痛な声を上げながら、冒険者達に懇願するシルヴィアさん。その光景は、見ていて胸が痛むものだった。

 

「……………」

「ミカゲ、どうする?」

 

 必死になって冒険者達に懇願するシルヴィアさんを見ていると、ラリーが話し掛けてきた。

 ラリーからの質問に答えられずに黙っていると、ラリーは俺を、外に連れ出した。

 

 

 

 

 

 

「ミカゲ…………正直な話、君なら何とか出来るんじゃないかな?君の力を使えば、ね」

 

 外に出ると、ラリーが単刀直入に言った。

 

「ああ、出来ると思う。黒雲とか言う連中のアジトの大まかな場所も聞けたからな。戦闘機を使って飛んでいって、後は連中に攻撃すれば、一気に片付く」

「そうだね…………でも、君は戸惑っている」

 

 そう言うラリーに、俺は黙り込んでしまう。

 

「コレは、僕の予想でしかないけど…………君は今まで、“人を殺した事”が1回も無かった。だから今回の話を聞いて、連れ去られた女性達を助けるためには、盗賊の連中を殺さなければならない事を悟って、彼女等を助けたいと言う気持ちと、人を殺す事への戸惑いが小競り合いをしている……………違うかい?」

「………ああ、全くもってその通りだよ、ラリー」

 

 核心を突いてくるラリーには誤魔化しようも無いため、俺は素直に言った。

 

「俺が元々居た世界でも、人殺しをする奴は居る。でも、少なくとも俺や、俺のクラスメイト達は、そんなのとは無縁な生活を送ってきたんだよ………」

 

 そう言うと、俺は小さく溜め息をついた。

 

「こう言う展開は、物語でもよく見掛けたモンだよ。こんな展開を、俺は何度も見てきた」

「でも、いざ自分がその立場になると……………って感じかな?」

 

ラリーがそう言うと、俺は頷いた。

 

「………ああ、情けねぇ話だがな」

 

 俺が自嘲混じりにそう言うと、ラリーは首を横に振った。

 

「そんな事はないよ、誰だって、最初はそんなものさ。僕だって、今こうして偉そうに言ってるけど、やっぱり心の何処かでは、人を殺す事への戸惑いや、恐怖感がある。でもね……………」

 

 そう付け加えると、ラリーは1つ溜め息をついてから言った。

 

「この世界では、君が思っている以上に人の命は軽いんだ。ボーッとしていると、何時の間にか誰かに殺られてる…………そんな世界なんだよ。魔族と人間の争いもそうだけど、国同士の争いもある訳だからね。気を抜いていると、簡単に死んだり、殺されたりするような世界なのさ」

「…………………」

 

 ラリーからの尤もな話を、俺は黙って聞いていた。

 

「人殺しをするのが恐いとか、そんな事を悠長に言ってられるようなものじゃないんだよ………この世界は………」

「………………」

 

 ラリーは表情を曇らせ、明後日の方向を向いてそう言った。

 それから少しの間、俺達の間に沈黙が流れた。

 

「……………偉そうな事を言ってゴメン。まるで、僕がこの世界の全てを知っているような言い方だったね」

 

 そう言うラリーに、今度は俺が、首を横に振った。

 

「いや、良いんだ………ありがとな、ラリー。お陰で俺も、覚悟を決める事が出来た」

 

 そう言って、俺は再びギルドに入ろうとする。だが…………

 

「待って、ミカゲ」

 

 ラリーが俺を呼び止めてきた。

 

「…………?どうした?」

 

 俺が訊ねると、ラリーは少しの沈黙の後に口を開いた。

 

「僕も、君と一緒に行くよ。君にあんな偉そうな事を言った手前、僕だけ此処で呑気に待ってるなんて事は出来ないからね」

「だがラリーよ、俺は戦闘機で行くんだ。歩いて行くのとは、訳が違うんだぜ?」

 

 俺がそう言うと、ラリーは頷いた。

 

「それは百も承知さ。だから、君に頼みたい事がある」

 

 そう言って、ラリーは真面目な表情で、真っ正面から俺を見据えた。

 

「………君の能力…………確か、『僚機勧誘』って言ったよね?それで僕の天職を…………君と同じものにしてほしいんだ」

「ッ!?」

 

 ラリーの言葉に、俺は驚きのあまりに目を見開いた。

 ラリーが言った事は、つまり、ラリーが元々持っていた天職を捨てると言う事だ。

 

「ら、ラリー…………お前、正気なのか…………?」

 

狼狽えながら言う俺に、ラリーは頷いた。

 

「ああ、勿論正気さ。こんな事を、冗談で言える訳が無いだろう?」

「…………お前が元々持ってた天職を、捨てる事になるんだぜ?」

 

 俺はそう言うが、ラリーの表情は変わらなかった。依然として、俺を真っ正面から見据えている。

 

「ああ、分かってるよ。昨日、君から聞いたからね。でも、それは天職が変わるだけであって、ステータスも変わったりする訳じゃないんだろう?」

「まぁ、確かにそうだが………」

「それなら、問題無いさ」

「だが、騎士団とか親衛隊とかはどうするんだ?お前って一応、騎士・魔術師士官学校の出なんだろ?」

 

 俺がそう訊ねると、ラリーは少しの沈黙の後に言った。

 

「あんな奴等の事なんて、もう、どうでも良いさ。僕の力だけを目当てに擦り寄って、力を無くしたら格下として見下し、蔑む………あんなクソッタレ共と一緒に居るより、君と同じ天職を得て、君の“僚機”として、君と共に行動する方が何倍も面白そうだ」

「そ、そうッスか…………」

 

 うへぇ~!聞きましたか皆さん?今『クソッタレ』って言いましたよコイツ。

 ラリーの奴、ドンだけ騎士団とかに嫌悪感抱いてるのさ………

 

 ラリーの口調の豹変ぶりに眉間を押さえていた、その時だった。

 

「さて…………次はミカゲ、君が答える番だよ」

「ん?」

 

 不意にそう言われて顔を上げると、ラリーが俺の両肩に両手を置いていた。

 

「念のために、もう一度言うよ」

 

 そのエメラルド色の瞳に俺を映し、ラリーは言った。

 

「君の能力で、僕を………………君の、僚機にしてほしい」

「……………」

 

 そう言われた俺は、暫くラリーの目を見つめていた。

 その間、ラリーが目を逸らす事は無かった。

 

「………………本気、なんだな?」

「ああ」

 

 俺の最後の質問にも、ラリーはそう答えた。

 

「(此処まで来たら、ちゃんと応えてやらなきゃな)」

 

 内心そう呟いた俺は、小さく頷いてから言った。

 

「分かったよ、ラリー。俺の僚機になってくれ……………そして、盗賊共に連れ去られたって言う連中を助けよう!」

「…………ッ!ああ!」

 

 俺の言葉に、ラリーは力強く頷いた。

 

 

 こうして、此処に航空傭兵部隊の誕生が決定した。




 冒険者ランクの最高位を、SからSSSに変えました。

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