さて、そんなこんなでクルゼレイ城に1泊する事が決まった俺達ガルム隊は、前にクルゼレイ城で生活していた時に使わせてもらった部屋に居た。
グレンさんやギャノンさんがメンバーに加わっているのもあり、先ずは女王陛下や姫さんに2人を紹介し、2人の分の部屋を用意してもらえるように頼んだ。
そんな訳で決まった部屋割りだが…………何かがおかしいと思うんだよね。
先ず女性陣だが、エメルとリーア、ゾーイとアドリア、そしてグランさんとギャノンさん。
コレについては、何もおかしい点は無い。
だが、問題は俺とラリーだ。
先ず、俺は姫さんと一緒の部屋で、ラリーはクレアさんと一緒の部屋と割り当てられたのだ。
「うん、コレ絶対おかしいよね」
姫さんの部屋にあるソファーに腰掛け、俺はそう呟いた。
「…………?ミカゲ様、"おかしい"とは?」
俺の隣に腰掛け、寄り掛かっている姫さんが訊ねてくる。
「いやね?どう考えても、俺と姫さんがこうして同じ部屋で過ごすと言うのは、おかしいと思うんだ」
俺はそう答えた。
いや、だって"王女"と"冒険者"と言う立場云々の話を脇に置いておくとしても、恋人でもない相手と同じ部屋で寝るってのはどうなんよ?
しかも"年頃の男女が"だぜ?
流石にマズいだろ。
「ですが、ラリー様だってクレアと同室なのですから、何も問題はありませんわ」
いやいや、その『他の人もやってるから問題無い』的な感じで言われてもなぁ…………
「それともミカゲ様…………私と一緒の部屋で過ごすのは、嫌なのですか…………?」
そう言って、涙目&上目遣いで俺を見る姫さん。
ヤバい、マジで破壊力抜群の可愛さだわコレ。
「いや、別にそう言う訳じゃないんだが………」
俺は胸の前で手をヒラヒラ振りながら言う。
すると、さっきまでの涙目&上目遣いは何処へやら、姫さんは、まるで花が咲き乱れたかのように、パアッと明るい笑みを浮かべた。
「なら、問題ありませんよね?」
期待に満ちた目で、姫さんはそう言った。
「いや、でもだn……「あ り ま せ ん よ ね ?」………はい、一切ございません」
こ、恐ぇ~。今、一瞬だが姫さんの目がハイライトを失ってるように見えたぞ。めっちゃ恐かったんですけど。
何コレ?所謂"ヤンデレ"ってヤツなの?
そんなのマジ勘弁だからな?こんな純粋で可愛い娘がヤンデレとか、マジ勘弁だからな?
止めろよ?絶対止めろよ?
「フフッ。それで良いのです」
機嫌を直した姫さんは、再び俺に頬擦りし始める。
「(ホントに妹みたいだよな、姫さんは………)」
そう思いながら姫さんの頭を撫でていると、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
姫さんの代わりに返事をすると、ドアが開いて1人のメイドさんが入ってきた。
「エミリア様、ミカゲ様。お食事の準備が出来ました」
どうやら、もう夕飯の時間になったらしい。
俺は姫さんを一旦離れさせ、メイドさんの後に続いた。
「…………What the hell is this?(何だこりゃ?)」
さて、メイドさんに連れられて食堂に来た…………と思ったのだが、連れてこられたのは何故か謁見の間だった。
辺りを見回すと、女王陛下に同盟の話を持ち掛けられた時の貴族や国のお偉いさん達が居て、純白のテーブルクロスが敷かれたテーブルの上に、様々な種類の料理やらスイーツやらが並べられている。
…………はて、一体全体どうなってんだ?
「おっ、相棒。やっと来たんだね」
其処へ、ラリーが話し掛けてきた。
「なあ、ラリー………コレ、一体何事?」
「いやぁ~、それがね?」
「…………と言う訳なんだよ」
ラリーが言うには、女王陛下に同盟の話を持ち掛けられた時、謁見の間に入ってきた俺等を見た国のお偉いさん達の態度や、貴族の1人が矢鱈突っ掛かってきた事について、俺等が怒って同盟の話を断るのではないかと考えた人が居たらしく、その謝罪の意が込められてるんだとか。
後は、クルゼレイ皇国と同盟を結んでもらうための投資のようなものだと。
「おいおい、そりゃ幾ら何でもやり過ぎってモンだろ。別に怒ってる訳じゃねぇんだし」
てか、この国の上層部の人達はドンだけ俺等が恐いんだよ?
俺等がSSSランクの冒険者パーティーで、おまけに姫さんや護衛騎士団を助けたとは言え、ただの高ランク冒険者パーティーに対して、この待遇はやり過ぎだと思うんだがな…………
「まあ、君の気持ちも分かるけど、相手の厚意を無下にする訳にもいかないからね」
「まあ、そうだけどさ」
苦笑混じりに言うラリーに、俺はそう返した。
「ところで、ゾーイ達は未だ来てねぇのか?おまけに姫さんも、何時の間にか居なくなってるし…………何か知らね?」
そう訊ねると、ラリーは首を横に振った。
「いや、さっきまで此処に居たんだけど…………はて、皆して何処行ったのかな」
そう言って、ラリーはキョロキョロと辺りを見回すが、姫さんはおろか、ガルム隊女性メンバーも見当たらない。
多分、お手洗いにでも行ったのだろうと予想を立てていると、急に国のお偉いさん達や貴族がざわめき始めた。
何事かと思って振り向くと、其所にはドレス姿のガルム隊女性メンバーが居た。
「「うわぁ~………」」
それを見た瞬間、俺とラリーは感嘆の溜め息をついた。
「ラリー、俺等は夢でも見てるのかもしれん」
「ああ。それについては心底同感だよ、相棒」
そんな会話を交わす俺とラリーの元に、6人は近づいてきた。
「ミカゲ様、何時から来ていたのですか?」
「ああ、ついさっきな」
俺に気づいて声を掛けてきたゾーイにそう答えると、俺は辺りを見回した。
相変わらず、姫さんの姿は何処にも見当たらない。
ゾーイ達にも聞いてみたのだが、彼女等も見ていないらしい。
「それもそうですが、ミカゲ様」
不意に、アドリアが話し掛けてきた。
「私達のドレス姿……如何でしょうか…………?」
頬を赤く染めながら、アドリアはそう言った。
因みに、今のアドリアが着ているドレスは、胸元が大きく開いた水色のドレスだ。
ゾーイは青を基調として、深いスリットの入った花柄の中華風ドレスに身を包み、グランさんとギャノンさんは、何を思ったのかお揃いにしており、露出が控えめなワインレッドのロングドレスを着ていた。
エメルは橙と黒を基調とし、両肩が露出したフリル多めのドレス。
最後にリーアは、普通の桃色のドレスを着ていた。
他の面子と比べると大した特徴は無いが、それもまた新鮮で良い。
「うん、皆よく似合ってるよ」
俺はそう言った。
こう言う時、俺の褒め言葉のレパートリーが少ない事が悔やまれる。
「ゾーイもアドリアも、ミカゲ君に少しでも見てもらえるようにしようと必死だったよね」
其処へ、グランさんがクスクスと笑いながらそんな事を言い出した。
「ちょ、グランさん!それは秘密にする約束だった筈です!」
「あら、そうだったかな?フフッ………」
惚けたように言うと、グランさんは微笑を浮かべた。
「相変わらず、グランは人をからかうのが好きだよな」
胸の前で腕を組んだギャノンさんがそう言った。
そして、俺とラリーに視線を向けて口を開く。
「ところでミカゲにラリーよ。お前等、此処でもその服着てんのか?『タキシードもあるのに勿体無い』って、メイドが言ってたぜ?」
「いや、流石にタキシードは…………な?」
俺はそう言って、ラリーに視線を向けた。
「そ、そうそう!僕等にタキシードは似合わないと言うか、そもそも、今着てるのが僕等の正装と言うか………………」
俺の視線の意図を察したらしく、ラリーも同調した。
「何だよ、つれねぇなぁ。お前等のタキシード姿、1回見てみたかったのに」
そう言って、ギャノンさんが口を尖らせた。
「ミカゲ様!」
すると、後ろから姫さんの声が聞こえてきた。
「おお、姫さん。お前何処行って…………ん?」
そう言いながら振り向いた俺は、そんな声を発してしまう。
「えへへ、着替えてきました…………どうですか?」
姫さんは頬を赤く染め、上目遣いで感想を求めてくる。
「(う~ん………そもそもドレスなのか?コレ…………)」
姫さんが着ている服は、水着のように上下に分かれていた。
上は、白の布地に赤や青、緑で模様が描かれており、下は黄緑色の布地に黄色のリボンが付けられ、丈が膝までのスカートだった。
最早"ドレス"と言うより、"何処かの民族衣装"と表現した方が適切とも言える服装だった。
「な、何と言うか…………そもそも、それドレスなのか?」
「はい、そうですが…………何か変ですか?」
『コレが普通でしょ?』と言わんばかりのばかりの表情で首を傾げる姫さん。
あれ?コレもしかして俺がおかしいの?
この世界には、上下に分かれた民族衣装みたいなドレスもあるの?
俺、そんな話聞いてないんですけど…………
「えっと………ミカゲ様?」
顔に手を当てていると、姫さんが話し掛けてきた。
「どうかしたんですか?具合でも悪いんですか?」
心配そうな表情で聞いてくる姫さん。
俺は、取り敢えず彼女を安心させようとして、姫さんの頭を優しく撫でた。
「ふわっ………えへへ…………」
すると、先程まで浮かべていた心配そうな表情は何処へやら、姫さんの表情は、まるでだらけてる猫みたいに、にへらぁ~っとしたものに変わった。
「それから、そのドレスも似合ってるぞ。そんなタイプのドレスは1回も見た事が無いから、スッゲー新鮮だ」
「そうでしょう?特注品なんです!」
『えっへん!』と言わんばかりに胸を張る姫さん。
成る程、見た事無いタイプのドレスなのは、それが理由だったのか。
別に俺がおかしい訳ではないんだな。
安心したと言うか、残念と言うか…………複雑な気分だ。
「ミカゲ様は、今日もその服ですか?」
そう言って、姫さんは俺が着ている冒険者の服の裾を軽く引っ張った。
「まあな。かれこれ1年以上着てるよ」
ソブリナ達に勧められて新しいのを買うまで、ずっと同じ服だったからな。
…………ん?『それだと衛生的に良くないのではないか』って?
ああ、その辺は大丈夫だ。ラリーに
…………良し、取り敢えず考えるのは止めよう。コレについて深みに嵌まったらキリが無い。
「ええっ!?い、1年も同じ服を!?」
『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』
「ちょ、コラ姫さん!声デカいぞ!」
驚きのあまりに大声を出す姫さんに、俺はそう言った。
慌てて口を塞ぐ姫さんだが、時既に遅し。
国のお偉いさん達や貴族にしっかり聞かれていた。
心底驚いた様子で俺を見るお偉いさん達に、俺は、この先に起こり得る事を想像して深く溜め息をついた。
ん?それからどうなったのかって?それは、皆さんのご想像にお任せしよう。