航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第91話~今日中には帰れません~

「本当に申し訳ありません、陛下。エミリア様を………止められませんでした………」

 

さてさて、同盟云々の件については一先ず保留と言う事で話をつけた俺達。

それからルージュに帰れば全て解決なのだが、やはり世の中そう上手くはいかないもので、何と、姫さんことエミリア・シェーンブルグ殿下が客室に乱入し、俺に飛び付いてきたのだ。

 

そんな訳で今、女王陛下の目の前では、胸元が開いた法衣に身を包んだ、青みがかった銀髪に紫色の瞳を持つ美女が深々と頭を下げている。

「まあ、過ぎた事は仕方ありません。大方、何処からかミカゲ殿の情報が漏れて、それを聞いたエミリアが暴走したのでしょう?」

「………………」

 

女王陛下がそう言うと、その女性はコクりと頷いた。

 

「やはり、そうですか…………」

 

そう呟くと、女王陛下は幸せそうな表情で俺に抱きついている姫さんにジト目を向ける。

 

「えへへへ………ミカゲ様ぁ~…………」

 

だが当の本人は、頭を下げてる女性や女王陛下の事などそっちのけで俺に頬擦りしている。

 

「…………取り敢えず、頭を上げなさい」

 

女王陛下がそう言うと、先程まで頭を下げていた女性が、ゆっくりと頭を上げた。

 

「あの、ミカゲ殿…………その、家のエミリアが失礼を…………」

 

すまなさそうに謝る女王陛下に、俺は苦笑を浮かべながら手をヒラヒラと振った。

それから姫さんへと視線を落とし、頭を撫でてやる。

 

「ふわっ………えへへ…………」

 

だらしなく笑みを浮かべて甘えてくる姫さんは、まるで妹のようだ。

 

…………日本に残した我が妹よ、君は今頃、どうしているだろうか?

 

「えっと、陛下………この方が、姫様が常に仰有っていた…………?」

「ええ、そうです」

 

日本に居る妹の事を考えていた時に2人のやり取りが耳に入り、俺は再び、女王陛下へと視線を向けた。

 

「(そう言えば、この人誰なんだ?)」

 

姫さんと入ってきた銀髪美女を視界に捉え、俺はそんな事を考える。

 

「ミカゲ殿、此方はエミリアの教育係のフィーナです」

 

女王陛下が言うと、フィーナさんがペコリと軽く頭を下げた。

 

「あ、どうも。神影です」

 

俺もペコリと頭を下げて会釈する。

 

「貴方の事は、姫様から伺っています。大分懐かれているようで」

 

そう言われ、俺は苦笑を浮かべた。

それから、取り敢えず女王陛下からの話は終わったと言うのもあり、俺はラリー達と合流するため、ラリー達が待機している部屋の場所を教えてもらい、その部屋に向かった。

 

因みに、その際に姫さんがついてこようとしていたが、女王陛下とフィーナさんに止められて、何処かに引き摺られていった。

多分、説教だろうな。姫さん、骨は拾ってやるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっす」

「あ、お疲れ。相棒」

 

ラリー達が居る部屋に来ると、ソファーに腰掛けているラリーが一番に俺に気づき、声を掛けてきた。

ラリーの隣には、クルゼレイ皇国宰相のクレアさんが座っていた。

クレアさんが、ラリーに矢鱈と近い場所に座っているのを見る限り……どうやら、かなり仲良くなったみたいだ。

まあ、それに越した事はないから良いのだが。

 

「「………………」」

 

だが、向かいのソファーに座っているエメルとリーアは、何やら警戒するような視線をクレアさんに向けている。

まあ、自分達が好意を寄せている男が他の女と密着するように座ってたら、恋する乙女として、警戒もするか。

それに、ラリーと話しているクレアさん、何か楽しそうだからな。

宰相としての顔ではなく、1人の女性としての顔をしている。

 

「(何か、俺と天野を見てるような気分だな…………)」

 

内心そう呟き、俺は高1の頃を思い出した。

 

体育委員の仕事からの帰りに、外に出ていたテニス部のボールを拾ってコートに入った時に、天野がぶん投げたラケットが顔面直撃した事で知り合って、それからと言うもの、体育委員の仕事からの帰りにコートに立ち寄って、天野と世間話してたっけ…………

 

「ねえ、ミカゲ。ちょっと良い?」

 

昔の事を思い出していると、何時の間にか傍に来ていたエメルに話し掛けられた。

その横にはリーアも居る。

それから俺は、2人に連れられるがままに部屋を出た。

 

部屋のドアを閉めたエメルは、俺に向き直るや否や問い掛けてきた。

 

「単刀直入に聞くけど…………あの2人、どう思う?」

「…………"あの2人"ってのは、ラリーとクレアさんの事か?」

 

そう聞き返すと、2人は頷いた。

 

「あの人、ミカゲさんを待ってる間ずっと、ラリーさんにベッタリなんです…………」

 

そう言って、リーアが顔を伏せた。

ガルム隊メンバーの中でも一番子供っぽい体型をしている上に、未だ13歳である彼女だが、それでも(れっき)とした"恋する乙女"だからな。心中穏やかではないだろう。

 

「コレは由々しき事態だわ………ただでさえラリーは、ルージュの町で魔術師の女の子達に好かれてるのに、今度は国の上層部の女まで惚れさせるなんて…………ッ!」

 

エメルが言葉を続けた。

 

「ラリーさん、凄くモテてます………それについて、ミカゲさんはどう思いますか…………?」

「………………」

 

リーアにおずおずと訊ねられ、俺は胸の前で腕を組んで考えた。

 

まあ、彼奴は何だかんだで顔立ちは整ってるし、実力だってある。

魔法分野だけなら、多分この世界の誰よりも強いだろう。

だって、ノーマル状態での魔力・魔耐のステータスの桁が万で、制限解除(リミット・ブレイク)すれば、桁が一気に十万まで跳ね上がるんだからな。

それでいて気取らず自然体だし、面倒見も良く、自分が教えた事を相手が出来ないからって、見捨てたり、見下したりはしない。

相手が納得するまで、とことん付き合ってくれる。

そんな奴なら、好かれて当然だろう。

それに、彼奴は他人の肩書きには全く興味が無いからな。宰相であろうが何だろうが、ラリーからすれば、"ただの1人の女性"なのだ。

其処も、彼奴がモテる理由なのだろう。

 

あ、因みに俺も、他人の肩書きには興味無いです。

 

 

…………まぁ、そんなこんなで俺は、自分の考えを2人に話した。

俺の考えには2人共同感らしく、賛成していた。

 

そうして話を終えた俺達は、再び部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻ってから団欒していると、もう夕方になっていた。

時計を見ると、午後6時45分を指している。

 

「もう、こんな時間なのか…………」

 

時計を見てそう呟いた俺は、クレアさんに向き直った。

 

「クレアさん。今更ですけど、そっちの用件は終わりですか?」

「…………?ええ、そうですが………」

 

俺の質問に、クレアさんは頷いた。

 

「そっか…………んじゃ、そろそろ帰るか」

そう言って、俺はソファーから立ち上がる。

 

「ん?もう帰るのかい?」

 

そう聞いてくるラリーに、俺は頷いた。

 

「ああ、女王陛下からの用事は終わったみたいだからな。コレ以上居ても意味無いだろ。未だ里帰り期間中だしな」

「まあ、確かにその通りね」

 

俺の言葉に、エメルが同調する。

 

「ところでミカゲ様。先程、謁見の間でミカゲ様に怒鳴り散らした方についてはどうなさいますか?」

「あ~…………そういや居たっけな、矢鱈と突っ掛かってきた人」

 

ゾーイに言われ、俺は謁見の間での事を思い出す。

 

「まあ、最初は聞いてて少しムカついたけど、今となってはどうでも良いよ。あんなの、俺がF組に居た頃に男子達から受けた嫌がらせと比べたら可愛いモンだ」

 

F組に居た頃は、やれ『キモオタ』だの、『戦闘機マニア』だの言われたし、教室でエスコン3Dやろうとしたら、俺の教室での居場所を無くそうとした富永一味から『エロゲーしてんじゃねぇよ!』って言われるし、スマホで戦闘機の画像見ようとしたら、『エロ画像見てんじゃねぇよ!』と言われたからな。

んで、この世界に召喚されて俺のステータスが最弱だった頃は悪口やものを隠すと言った子供染みた嫌がらせなんてザラにあったし、極めつけには富永一味からの集団リンチだからな。

そのお陰で眼鏡はブッ壊れて、挙げ句消滅したし。

 

それと比べりゃ、あの餓鬼みてぇに喚いてた貴族なんて、大して気にならない。今更だが、あんなのは勝手に言わせりゃ良いのだ。

まあ、俺の恋人達に手を出そうとしたら、速攻で潰すけどな。

 

 

 

「まあ、取り敢えず俺は帰ろうと思ってるんだけど………お前等はどうする?宿で1泊したいなら、別にそれでも構わねぇけど」

 

俺はそう訊ねる。

 

「君が帰ると言うなら、僕もそうするよ」

 

そう言ってラリーが立ち上がると、残りの面々も続いて立ち上がった。

 

「それじゃあクレアさん、俺等はこの辺で」

「え、ちょ………」

 

戸惑うクレアさんを残してドアを開けると、其所には1人の衛兵が立っていた。

 

「おや、ガルムの皆さん。どちらへ?」

「ああ、女王陛下からの用事は終わったみたいなので、女王陛下に挨拶してから帰ろうかと思いまして」

 

俺はそう答えた。

 

「で、衛兵さんは?もしかして、クレアさんに用事ですか?」

「いえいえ、私はガルムの皆さんに用がありまして」

 

衛兵はそう言った。

 

「俺等に?」

「はい…………と言っても、女王陛下が皆さんにお話があるとの事ですので、それを伝えに来ただけなのですが」

 

衛兵は苦笑しながら言った。

 

「そうですか…………」

 

そう言って、後ろに居る他の面子に視線を向けると、全員頷いた。

 

「了解です。それで、女王陛下は何処に?」

「ご案内します」

 

そうして歩き出した衛兵に続き、俺達は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此方です」

『『『『うわぁ~…………』』』』

 

衛兵に案内されてついてきた俺達は、視界に飛び込んできた光景に感嘆の溜め息をついていた。

 

四方を茂みに囲まれ、中央には学校にあるものの半分程度の大きさのプールがある。

夕日に照らされて、水がオレンジ色に光り輝いていた。

すると、視線の先に何やら1階建ての建物らしきものが見える。

 

「あの、衛兵さん。あれは…………?」

「彼処で、エミリア様が生活しております」

 

俺等に同行してきたクレアさんが答えた。

どうやら、姫さんの家らしい…………いや、"家"と言うより"生活スペース"と言った方が…………って、どっちも意味的には同じじゃねぇか。

 

「陛下は、あの中でお待ちです」

「あ、はい。態々どうも」

 

俺が礼を言うと、衛兵は軽く頭を下げて会釈してから立ち去った。

 

「それでは皆さん、行きましょう」

 

何時の間にか場を仕切り始めたクレアさんに、俺達は続いた。

 

建物のドアの前に来ると、クレアさんがドアをノックした。

 

「ガルムの皆様をお連れしました」

「入りなさい」

 

中から女王陛下の返事が返される。

クレアさんがドアを開け、中に入るように促してくる。

 

「ミカゲ様!」

 

俺の姿を視界に捉えた姫さんが、目を輝かせる。

そのまま俺に飛び付こうとするが、女王陛下に止められた。

 

「呼び出してすみません、ガルムの皆さん」

「いえ、構いませんよ」

 

すまなさそうに言う女王陛下に、俺はガルム隊を代表してそう返した。

 

「今回、ガルムの皆さんを呼んだ理由なのですが……………皆さんはこれから、どうするおつもりで?」

「…………普通に、ルージュに帰りますけど?」

 

俺はそう答えた。

 

「えっ…………」

 

女王陛下の後ろに居る姫さんの表情が固まる。

 

「み、ミカゲ様…………もう、お帰りになるのですか?」

「まあな。未だ里帰り期間中だし、女王陛下からの用事も終わったみたいだからな」

「そんなぁ………」

 

姫さんの表情が、悲しげに歪む。

 

「………………」

 

それを複雑そうな表情で見た女王陛下は、俺の方に向き直った。

 

「ミカゲ殿。お帰りになるのは、明日でも良いのではないでしょうか?」

 

突然、女王陛下はそんな事を言い出した。

 

「もう直ぐ夕食の時間ですし、エミリアも、ミカゲ殿と再会出来るのを心待ちにしていましたから。せめて明日まで、彼女と一緒に居てあげてください」

 

女王陛下はそう言った。

「(まあ、俺としては別に構わねぇけどさ…………)」

 

内心そう呟き、俺はゾーイとアドリアに視線を向けた。

明日まで姫さんに付き添うとなれば、下手したら浮気と見られかねないからな。

 

「ミカゲ様」

 

すると、その視線の意図を察したのか、ゾーイが声を掛けてきた。

 

「私達は、別に構いませんよ?」

 

ゾーイはそう言い、アドリアも頷いた。

 

「…………良いのか?」

「ええ」

 

俺が聞き返すと、そんな短い返事が返された。

 

「それにミカゲ様、この前エリス様が仰有った事をお忘れですか?」

 

アドリアにそう言われた俺は、ゾーイ達に告白の返事を返した時の事を思い出した。

 

「たとえエミリア様に好かれていても、それで私達を愛してくれなくなる訳ではない…………そうですよね?」

「当たり前だ」

 

俺が即答すると、アドリアは穏やかな笑みを浮かべた。

 

「それなら、私達は構いません。ソブリナ様方も、きっと分かってくれるでしょう」

「………………」

 

そう言ったアドリアの目は、自信に溢れていた。

ゾーイも同じような雰囲気を纏って、俺を見つめている。

俺は、そんな2人に頷き返した。

 

「そうだな…………んじゃ、1泊させてもらうか」

 

俺はそう言って、ラリー達に向き直った。

 

「相棒が決めたなら、それに従うまでさ」

 

俺が言い出す間も無くラリーがそう言い、他の面子も頷いた。

 

「ちょうど、城での生活を体験してみたかったからな。良い機会だぜ」

 

快活な笑みを浮かべて、ギャノンさんが続けた。

 

「お城でのご飯か…………どんなのが出るのか、楽しみだね……………」

 

グランさんも、期待に目を輝かせてそう言った。

 

俺は、そんな面子を見て苦笑を浮かべながら頷き、女王陛下に向き直った。

 

「女王陛下、1泊させてもらっても良いですか?」

 

そう言うと、女王陛下は笑みを浮かべて頷き、姫さんも大喜びで跳び跳ねた。

 

 

 

 

 

こうして俺達は、またクルゼレイ城に泊まる事になった。


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