「我々クルゼレイ皇国と、同盟を結んでいただけませんか?」
その蒼い瞳に大きな決意を宿して、女王陛下はそう言った。
普段の知的美女な雰囲気も、その中に隠れる穏やかな雰囲気も成りを潜め、真面目な表情になっている。
成る程、一国王としての
「ど、"同盟"…………ですか?」
「ええ、そうです」
ラリーが聞き返すと、女王陛下は頷いた。
「何てこった………昨日考えた事が本当になっちまったよ……………」
口調を乱して小さく呟いたラリーに、俺は苦笑を浮かべた。
そんなにショックが大きかったのだろうか………?
まあ、それより聞かなければならない事がある。
「ところで女王陛下、その同盟とやらの内容は?」
「はい、それなのですが……」
そう言うと、女王陛下は黙り、俺達ガルム隊のメンバーを見る。
そして、再び俺に視線を戻した。
「ミカゲ殿…………貴殿方は、我が国とエリージュ王国との関係についてはご存知ですか?」
唐突に、女王陛下はそんな事を聞いてきた。
「…………仲悪い?」
「その通りです」
ああ、即答ッスか。そうですか…………
「人間主義を掲げているエリージュ王国にとっては、ヒューマン族と他種族との共存主義を掲げている我が国は邪魔な存在です。何れ、我が国を滅ぼそうと戦争を仕掛けてくるでしょう」
「そりゃまた物騒な話ですな」
俺がそう言うと、またしても例の貴族が喚き始めた。
「他人事か!先程から適当な態度ばかり取りおって!貴様には緊張感と言うものが無いのか!?」
…………もうホントに何が言いたいのコイツ?
俺等がただの冒険者だからって見下したような事ほざいたかと思ったら、今度はこの反応…………
結局コイツ、俺等にどうしてほしいの?
クルゼレイ側の味方してほしいの?してほしくないの?その点ハッキリさせてくれないと、俺等マジで帰りますよ?
《ねえ、相棒。もう帰らない?こんな事に時間割いても意味無いよ》
ラリーが僚機念話で話し掛けてきた。
《まあ、そう言うなよラリー。それに、目くじら立ててごねてるのは彼処の貴族っぽいのぐらいだし…………適当に喚かせとけば良いさ》
《そんなモンなのかなぁ…………?》
俺が返事を返すと、ラリーがいまいち納得いかないと言った声色で言った。
「あの…………ミカゲ殿?」
すると、女王陛下がおずおずと声を掛けてきた。
例の貴族は、此方を忌々しそうに睨んでいる。
「先程は、此方の貴族が失礼しました。どうか、お許しを…………」
そう言って深々と頭を下げる女王陛下。
それを見たお偉いさん達は慌て出し、女王陛下に頭を上げるように言い始めた。
まあ、そうなるわな。何せ、国のトップが一介の冒険者に頭下げてるんだから。
「いえ、別に気にしてませんので………」
俺はそう言った。
「それより女王陛下、そろそろ同盟の内容について詳しく聞きたいのですが…………」
「ええ、そうでしたね」
そうして、女王陛下は語り始めた。
「…………と言う訳です」
話の内容はこうだ。
この種族間戦争が起こり、エリージュ王国を宰相が仕切るようになってからと言うもの、エリージュ王国とクルゼレイ皇国の関係は悪くなった。
宰相は異種族撲滅の足掛かりとして、先ずは共存主義国家への攻撃を始めた。
それにより、幾つかの小国がエリージュ王国に滅ぼされてしまった。
そこそこの規模を持つために、隣国でありながらも何とか攻められるのは避けられたクルゼレイ皇国だが、エリージュ王国側で勇者召喚が行われた今、自分達の勝ち目は薄くなってしまった。
「そんな時に現れたのが…………貴殿方、ガルムの皆様です」
女王陛下は、まるで救世主が現れたような言い方でそう言った。
「実はエリージュ王国には、数年前から何度か密偵を送り込んでいまして…………その際に、貴殿方の事を聞いたのです」
おい、エリージュ王国。お前等んトコ、敵から密偵なんて送り込まれてるぞ。
警備とかちゃんとしとけよ。
「始めは驚きました。冒険者登録を済ませたその日に、あの黒雲を壊滅させたと言う事を聞いたのですから」
まあ、連中を潰す事自体は簡単だったからな。戦闘機使ったし。
確か、機体はAV-8Bだったかな?
「それから密偵が報告に来る度に、貴殿方の活躍の数々を聞きました」
"活躍の数々"って言ったって、迷宮荒らしまくったり、魔物の群れ潰したりしただけなんだけどな………
それに、そう言う時って基本的に戦闘機使ってるし。
「そして極めつけには、魔物の群れに襲われていた、娘と護衛騎士団をお救いくださった事です」
…………あ~、あれか。A-10AのGAU-8で無双しまくったヤツ。
「それに貴殿方は、下手をすれば国1つを軽々滅ぼせるような力を持っていながら、決してそれをひけらかすような事はせず、自然体で、町の住人達からの信頼も厚いと聞きました」
おいおい、一体俺等の事を何処まで知ってるんだよアンタは…………?
「それを聞いた時…………いえ、もっと前でしょうか…………彼等なら、きっと、種族間戦争と言う、この世界の困難を解決する、大きな力になってくれると確信しました」
うへぇ~…………何やら知らない間に、クルゼレイ皇国における俺達ガルム隊の評価が爆上げされてるんですけど…………
知らない間に爆上げされていた俺等の評価にドン引きしていると、突然、女王陛下が玉座から立ち上がった。
『『『『『『………………?』』』』』』
俺達ガルム隊やお偉いさん達は、そんな女王陛下の行動の意図が分からずに首を傾げた。
「…………」
女王陛下は何も言わずに歩き出し、俺達に近づいてくる。
そして俺の目の前で足を止めると、俺の手を取り、両手で包んだ。
「ミカゲ殿……私達は…………」
そう言うと、女王陛下は口を閉ざして俯く。
だが、直ぐに顔を上げて、俺を真っ直ぐ見つめた。
「共に力を合わせ、この世界の困難に立ち向かう事が出来るでしょうか…………?」
「………………」
そう言って、俺を真っ直ぐ見つめる女王陛下。
此処で頷いてしまうのは簡単だが、その後が大変だ。
何せ、俺の選択1つで、残りのガルム隊メンバーを巻き込む事になるんだからな。
それに下手をすれば、ソブリナ達アルディアの3人やエスリアをも巻き込みかねない。
俺1人の選択で、仲間や恋人達を巻き込む訳にはいかない。
それに加えて、このクルゼレイ皇国の上層部も、全員が俺達に好意的だとは限らない。
あのキャンキャン吠えてた貴族みたいに、俺等を邪魔に思う奴等だって居る筈だ。
そうなれば、ある意味エリージュ王国と変わらなくなるだろうし、下手をすれば敵対する事も有り得る。
この国にはそれなりに世話になったし、住人達とも仲良くなった。
姫さんにも懐かれ、フィオラさんを始めとした騎士団とも打ち解けている。
そんな彼等と敵対するような結果に繋げる事は出来ない。
さて、どうしたものか…………
「陛下、よろしいですかな?」
其処へ、初老の男性が挙手した。
「何です?ウィーン元帥」
「ガルムの活躍は私も聞いております故、同盟自体に意見はありませんが…………」
そう言うと、ウィーンさんは俺達の方を見た。
「私としましては、現段階での彼等ガルムの実力が如何程か、少しばかり興味がありましてな…………え~、ミカゲ殿…………で、よろしいですかな?」
「はい」
俺は返事を返し、1歩前に出た。
「貴殿方の実力を、見せていただく事は出来ませんかな?」
「…………俺等としては構いませんが、具体的にはどうやって?」
「うむ、そうですなぁ………」
そうして暫く悩んだウィーンさんは、ポンと手を打った。
「訓練場で、ガルムのメンバー同士で模擬戦………と言うのは如何でしょう?」
そう言うウィーンさんだが、俺としては訓練場より外の方が良い。
だって訓練場だぜ?女性メンバーなら未だ話は別かもしれんが、俺とラリーだったら訓練場を跡形残さず消しちまうもん…………"ラリーが"、な。
「むむっ、相棒。今何か失礼な事考えなかった?」
「滅相もございません」
チッ、鋭い。
「出切れば、町の外でやりたいんですが……………」
取り敢えず駄目元で頼んでみる。
「外、ですか………」
話を聞いていた女王陛下が、顎に手を当てた。
てか、アンタ話聞いてたんだな。俺とウィーンさんでの話になってたから存在忘れてた。
「…………良いでしょう」
何が良いのやらと内心呟く俺を他所に、女王陛下はウィーンさんに向き直った。
「ウィーン元帥、魔術師団を今直ぐ集めなさい」
「はっ」
そう言うと、ウィーンさんは謁見の間を後にした。
「…………ねぇ、相棒。コレ何がどうなってんの?」
「俺とお前で模擬戦する流れになっちまってんだよ」
耳打ちで聞いてきたラリーに、俺はそう答えた。
「ミカゲ殿、ラリー殿」
其処へ、女王陛下からのお呼びが掛かる。
「お二人の実力、見せていただけますか?」
「「………………はい」」
断れないと悟った俺とラリーは、肩を落としながら返事を返した。
女王陛下は満足したように頷くと、他のお偉いさん達と護衛の騎士を数人伴って謁見の間から出ていこうとする。
それを見た俺達も、彼女等に続いた。
「(同盟の話から、なんで模擬戦やる話になるんだよ?おかしいだろコレ)」
俺は内心そう呟いた。
もう、こうなったらヤケクソだ。町吹っ飛んでも知らねぇからな?