夢の道行振   作:チェシャ狼

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都市伝説(トシデンセツ)
現代に広がった。根拠が曖昧・不明に口承される噂話。
民間説話の下位にある伝説。口承の歴史あるいは擬似的な歴史。
特定も出来ない人が体験した。起承転結が見事に流れる話。
本当にあったとして語られる、実際には起きていない話。
実存しない可能性が高い人間が体験した虚偽についての物語。
身近なようで、実際には顔も名前も解らない人々に起きた奇妙な噂話。




『都市伝説』──P.四

 オカメ面が張り付いた騒動に始まり、グレモリーからの頼まれ事

鎮伏屋として塗壁退治と続き、その極めつけが、パステルナークとの夜遊びだ。

昨日は濃密で、愉しい一日だった。 久しぶりの当たり日と言っても過言ではない程に

 だから、今日も、昨日と同じぐらい愉しい日になれば良いなぁ……。

 とか、そんなことを願いながら

大召喚後に出来た、神魔伝説を教えてくれる教科。 魔解のテスト用紙に答えを記入してく

 

 "大召喚"で地球上に召喚された魔界の城、"万魔殿"はバラバラに分割され

主要階層は世界の七カ所に現れると、そのそれぞれが地球統治機構「中央」本部になった。

 

 授業は面白いから好きだけど、テストはツマラナイので好きじゃない。

 やってることは復習だし、仮に良い点を取ったところで

競う相手もいなければ、見せる相手もいないのだ。 それに、点数が悪かったとしても

此所、万魔学園は小・中・高に大学まで付いたエスカレーター式の大学園。

困ることは、あんまりないのである。

 

 主要階層以外の階層や、ソレ以外の建築物も七カ所の国を繋ぐように

他の国にも出現し、その一つが此所"秀真(ホツマ)国立万魔学園"になったのだ。

 

 まァ尤も、魔解の教科は全然特徴的なこともあり

頭に入ってきやすいので、勉強してないにも関わらず、点数は意外に良かったりする。

──とはいえ、ソレとコレとは別問題。

 どんなに点数が良かろうと、楽しくなければ意味がない。

 

「はぁ……。 今日は、どーやって楽しもうかなー?」

 

 回答欄も埋まり、本格的に手持ち無沙汰になってしまい。

 仕方がなく、テストが終わるまでの間。

窓の外を眺めながら、今日の予定について考えることしか出来なかった。

 

 どーーーしよう、なーんにも思い付かん……。

 

 しかし、今日をどう楽しむか考えてみた所。

 昨日を楽しみ過ぎたせいか、面白そうな事がまるで浮かばず

結局、放課後を迎えた今になっても、何を思い付くとゆーこともなく

退屈に頭を抱えるしかなかった。

 

 グレモリーに頼まれた、"魔武具(アバドン)"ってのを探すついでに 

集合都市(バビロン)の方でも、適当にブラブラしてみるか? ……イヤ、無いな。

なんか、集合都市って気分じゃない。 かといって、不思議町って気分でもないんだよなー

 

 胸の中がモヤモヤしていく感覚、何かしなきゃいけない焦燥感。 

 この感覚は嫌いだ。 こうしてるだけでも、テンションがだだ下がってしまう。

これ以上いけない、早くなんとかする必要がある。

 

 取り敢えず、適当に彷徨ってみるかなーーー。

 

 兎に角、じっとしていたくなく

知り合いに逢いたいと思う反面、探してまで会いたいとゆー気分でもないので 

学園内を漫(そぞ)ろ歩くことに決め、さっさと教室を出て行くことにした。

 

「何してんのさ? 体育場(こんなところ)で」

 

「un? ああ、光前寺か。

ちょっと、暇つぶしがてら学園内をぶらぶらしてたとこ」

 

 そんなワケで、学園を歩き回っていたら、後ろから声をかけられる。

 反射的に振り返ってみれば、片手に本を持った光前寺(コウゼンジ)が居た。

 こんな所で逢えるなんて、なんて丁度良い。

光前寺なら、きっと、この状況を好転させてくれるハズだ。

 

「光前寺こそ、どーしたよ?」

 

「うん。 いや、これに書かれてる事が気になってね。

その正体を確認してたところだよ」

 

 なので、何をしているのかと訊ねてみる。

すると光前寺(コウゼンジ)は、手に持った本の裏表紙をPanPanと叩きながら

その行動を教えてくれた。

 そんな光前寺のやってることは、これまた面白そうなことであり

これは是が非でも、同行させてもらう必要が出てきた。

 

「それ、一緒に行っても良いか?」

 

「んーーー……。 まぁいいけど」

 

「好し! 決まりだな。

──それで、なんの正体を確認するんだ?」

 

「ああ、言ってなかったな。 そういえば

このノートには、万魔学園の七不思議が書かれてるんだよ」

 

 七不思議! そういうのもあるのか。

というか、この学校にも七不思議とかあったんだな。

 悪魔や妖怪が居る以上の不思議。 なるホド、そりゃ確かに気になる。

 一昨日のこっくりさんの事もあるし、本当にことが起きても不思議じゃない。

これは、思った以上に面白そうじゃないか! ヤバい、ワクワクしてきた

 

「開校して、まだ10年にもかかわらず

学校怪談とゆう、伝統文化があるのはオカシイだろ? だから、些か気になってな」

 

「俺的には、開校してから10年とかより

悪魔に妖怪とか。 どっちかっていえば、怪談にされる側が多い学校なのに

学校怪談なんてのがある方が気になるな。 ──あ、別に差別とか偏見じゃないよ」

 

「うん、まーーー。 そうね。

誰かの悪戯が正体でも不思議じゃないしな。 ──フム、なるホド。

言われてみれば、確かに、怪談で片付いたままなのは気になるな」

 

 光前寺(コウゼンジ)の疑問に便乗して、自分の感じた疑問を続けてみたら

それが以外にも、彼女の興味を引いたようだった。

 光前寺と話したことは数あれど、こんなことは初めてかもしれない。 これは得をした。

 そんなことを話しながら歩くこと数分。

 前を歩いていた光前寺が足を止めたので、後に附いていた俺も足を止める。

 

「まぁ話を戻そう。

仮に誰かの悪戯だとしても、元は魔界とゆう西洋文化の城なのに──。

どうして、トイレの花子さんに成る?」

 

「学校怪談の定番だからじゃないか?

俺もやったことあるし。 何も起きなかったけど、あれはあれで楽しかったな」

 

「やったのかよ。

……イヤ、つーか、待て。 オマエ、女子トイレに入ったのか?」

 

「入ってないヨ! やったのは花子さんの男版、太郎くんの方だよっ!」

 

 引くわーと言いながら、距離を空けていく光前寺に慌てて弁解する。

 入りたいと思ったことはあれど、結局、今に至るまで女子トイレに入ったことはないのだ

それなのに、距離をとられたら堪ったもんじゃない。

 

「あーーー……。

そういえば、あったな。 そんなバリエーションも」

 

「花子さんぐらいだよな、こんなにバリエーションがある学怪もさ。

──因に、此所の花子さんはどうやるんだ?

やりかたぐらいは教えてくれよ。 流石に、女子トイレを覗き見てるワケにもイカンしね」

 

 花子さんを呼ぶ方法は、面白いことに学校によって区々(マチマチ)なのだ。

 三階のトイレを選ぶこともあれば、決まった階を持たずに三番目の個室だったり

男子トイレの便器の周りを三回まわる。 なんてのもあった。

そんな多種多様にある花子さんの中から、男の俺にも出来る花子さんをやるのは楽しかった

女子トイレの花子さんを出来ないのが、本当に悔やまれてならない。

 

「うん? ああ。 ──入り口右側、数えて三番目の個室。

三回ノックして"花子さん"と呼びかけると、はーいって返事が返ってくるヤツだな」

 

 質問に答えながらも、光前寺(コウゼンジ)の奴は足を止めることなく

さっさと女子トイレへと踏み入ってしまう。

 その後を追うワケにもいかないので、取り敢えず、入り口近くの壁に寄り掛かる。

 

「よくあるタイプだな。 ──そういえば、光前寺。

花子さんの正体が、三頭を持つ体長三メートルのトカゲって話しは知ってるか?」

 

「……たしか、女の子の声に油断した人間を喰うんだったか?」

 

「そう、それ」

 

 中に入ることが出来なければ、その様子を窺うことも出来ないとゆうのは

あんまり面白くないので、花子さんを調べている光前寺へと話しを振った。

 学校怪談は、身近にある楽しい要素だったこともあり

花子さんをはじめ、他の怪談も調べたのだ。 今回の話題にはうってつけといえるだろう。

 

「正直、そこまで変わってると

花子さんじゃない。 別の、典型的な都市伝説にしか聞こえないよな」

 

「ああ、面白いよな。 同じ花子さんでも、それだけの違いがあるんだぜ?

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。 もしかしたら、その内のどれかは本物かもしれないんだ。

そう思ったら、なんか、ワクワクしてこねー?」

 

「しないな。 ──とゆーか、そもそも、学校怪談の花子さんは

都市伝説である"三番目の花子さん"が原型だぞ? それ以外に本物はないんじゃないか?」

 

「原型!? そんなのあったのか!?」

 

「あるよ。

三番目の花子さんの他に、とある女児の殺人事件を原型とする説もあるケド

年代は三番目の花子さんの方が古いし、他の花子さんにも"三"とゆう数字が共通してるから

三番目の花子さんの方が原型だと、私はそう考えてるよ」

 

「へぇーーー」

 

 こうゆう発見があるから、光前寺(コウゼンジ)と話すのは大好きだ。

 花子さんに原型があることなんて、光前寺と話さなければ、絶対知らなかった事だろう。

 

「三番目の花子さん。 ねぇ

なんで、三番目なんだ? ──アレか、綾波レイみたいに三人目だったりするのか?

多分、私は三番目だと思うから。 的な」

 

「んーーー……。 どうだろうな? その辺は、検索しても出てこなかったんだよ。

多分、三番目のドアを三回ノックするからだと思うケド。

花子さんの流布ぶりをみると、三人目の花子さんって説は案外悪くないかもな。 ──所で

誰なんだ? その綾波レイってのは」

 

「ああ、うん。 アニメの登場人物だけど?」

 

「ふーん。 ま、いいや。

今から始めるから、ちょっと待っててくれ」

 

 そんな話をしていたら、遂に花子さんを始めるようなので

光前寺(コウゼンジ)の邪魔にならないよう、言われた通りに口を噤ませておく。

中の様子を見たい所ではあるが──。 流石に、女子トイレを覗くワケにもいかず

仕方がないので、聞こえてくる声に意識を集中させる。

 ドアをノックする音と、花子さんを呼びかける声は聞こえてきたケド

その後に、続くような声は聞こえてこない。 とゆう事は、つまり、そーゆー事なのだろう

先のこっくりさんみたいに、もしかしたらと、期待していただけに残念な結果だった。

 

「残念だったな。 ──んで、次はどうするんだ?」

 

「そうだな……。

うん。 校舎の方は後に回して、取り敢えず、近場から済ませていくか」

 

 程なくして、トイレから出てきた光前寺に話しかけるが

彼女は別段、落胆した様子はなく。 何時もと同じ、平然とした態度を崩していない。

なので、俺も気持ちを切り替えることにして。

何処に行くのか分からないまま、歩き出した光前寺(コウゼンジ)の後に附いていく

 

「それにしても、動物霊のこっくりさんは出来たのに

どうして、人間霊の花子さんが出てこなかったんだろうな?」

 

「うん。 イヤ、あのこっくりさんは特殊な条件が重なったから。 とゆーのもあるケド

元々、降霊術だしね。 怪談話でしかない、花子さんが出来なくても不思議じゃないよ。

──それと、花子さんは別に人間霊じゃないぞ」

 

「マジで!?」

 

 ただ向かうのも退屈なので、さっきの花子さんを話題にしてみれば

なんとも、驚きの言葉が光前寺から返ってきた。

 

「ま、これも一説なんだケド。

厠神の信仰が盛んだった時、厠神が祀るのに、赤や白い服を着た女子の人形とか

花飾りを便所に供えてたんだよ。 花と、女子の人形を飾るから"花子"

花子さんが白いブラウスに赤いスカートを着てるのも、この辺が由来したんだろうね」

 

 つまり花子さんとは、元が人間だったワケでもなければ幽霊ですらなく

厠神の祀り物だった花と、人形の組合わせから創られた。 怪談の為だけの存在とゆー事か

なるホド、それが本当なら、こっくりさんは成功? したにも拘らず

花子さんが出てこなかったのも合点がいった。

 そりゃそうだろう。 在りもしないモノが、出て来るハズもないんだから……。

 

「──まぁ尤も、之は花子さん全体の話であって

各々の学校に伝わってる、花子さんのルーツってワケじゃないけどね」

 

「へぇ! するってーとアレか!?

他の学校になら、花子さんは実在するかもしれないってことか!?」

 

「うん。 ま、なくはないんじゃないか?

原型とかは検索できたケド、花子さんの発祥は見当たらなかったしな」

 

「なるホド」

 

 そいつは好い事を聞けた。

 向こうに居た時、やっても駄目だった学校怪談の類いが

出来るかもしれないなら、もう一度、やって回るだけの価値はあるかもしれない。 

──とは言え、前と同じことをするのは、なんてゆーか、気持ち的に憚られてしまうので

いよいよもって、やる事がなくなった時にでもやることにしておく。

 

「コレか?」

 

 そんな事を考えながら歩いていると、次の目的地に到着したのか

 少し前を歩いていた光前寺(コウゼンジ)が、一本の木の前で立ち止まると

万魔学園の七不思議が記されているノートを開き、見比べるように木を調べ始めた。

 

「その木がどーかしたのか?」

 

「うん、イヤ。

"風が吹いて振り返ると、桜の木にぶら下がっている首つり"ってゆーのが載ってるんだケド

──ホラ、ここの所を見てみろ」

 

 光前寺に言われるがまま、彼女の指差した先へと目を向けてみれば

うねるような幹に盛り上がってるコブが、まるで、首を吊っているようにも見える。

 

「……真逆。 これが、ソレなのか?

その、"風が吹いて振り返ると、桜の木にぶら下がっている首つり"ってヤツ」

 

「だろうね。 ──まぁ、あれだ。 火星の人面岩とか、ピラミッドとかと同じで

脳が視覚情報を"既存の物"に置き換える。 なんかそんなヤツだね」

 

 そうでないことを願いつつ、光前寺(コウゼンジ)に尋ねてみたものの

彼女から返ってきた言葉は、俺の予想を裏切らないものだった。

 面白味のない、一番嫌いな終わり方である。

 出来なかっただけなら、まだ、出来るかもしれない可能性が残ってくれるんだケド

怪談の正体が判明してしまったら最後。 これ以上、追求することは出来ない。

所謂、夢も希望もない終わり方とゆーヤツだ。

 

「つまんねーオチだな」

 

「うん、まーーー。 そうね。

けど、怪異の正体なんてこんなモンだろ? んじゃ、次いくか」

 

「ういよ」

 

 怪談の正体が判明した以上、此所に留まり続ける意味もないので

光前寺(コウゼンジ)の提案を蹴る気もなく、彼女と一緒にこの場を後にするのだった。

 何処に行くか分からない道中、ふと、何気無しに光前寺へと目を向けてみると

彼女の人差し指に、五百円玉の指輪がはめられているのが見えた。 

そういえば、昨日も付けてた気がする。 あれで、結構気に入ってるんだろうか?

 

「なぁ、光前寺。

その指輪、気に入ったのか? 今日も着けてるみたいだけど」

 

「un? ああ、これか。

別に、気に入ってるワケじゃないよ。 引っぱっても、取れなかっただけで」

 

「石鹸とか、洗剤とか使っても駄目だったのか?」

 

「駄目だね。 まァ、そこまで気になるもんじゃないから、これといって気にしてねーケド

いよいよ気になってきたら、消防署行って切ってもらえばいいだけだし」

 

 無頓着な物言いだけど、本人がそれで善しとしているのなら

当事者じゃない俺が、兎や角いえる立場じゃない。 まァ、言おうとしたところで

何て言うんだって話になるどな。

 

 ムウ。 大して面白くもならんかった。

さっきの怪談のオチが、あまりにもあんまりだったから。 口直しになればと思ったんだが

そうそう上手くはいかないか……。 仕方ない、もう少し話したら移動しようかな。

 

「そーいえば、今、ふと思ったんだけどよ。 なんで、花子さんだけなんだろうな?」

 

「……はぁ? なにがだ?」

 

「イヤ、ほら。 だって"花子さん"だけじゃん?

決まった手順をすれば、呼び出すことの出来る学校怪談ってさ」

 

 気持ちの先走りから、話を切り出してしまったせいだろうひ

困惑した表情を浮かべた光前寺(コウゼンジ)に、話しの内容を咄嗟に補足していく

 話題が花子さんに戻ったのは、記憶に新しかったというのもあるケド

他に、共通の話題が思い付かなかったからである。 光前寺の趣味とか知んねーしな。

 

「……だから? なんだよ?」

 

「えっ!? だから、花子さんは呼ぶ方法があるケド。

他のトイレの怪談。 "赤い紙"とか"赤いマント"とかを呼ぶ方法なんてねーだろ?

なんでかなーって思ってさ。 ──光前寺は、何か知ってない?」

 

 しかし、それでも説明が足りてなかったようなので

俺は、更なる補足を追加した。

 

「んーーー……。 多分それは

単純に恐怖心を煽るか、好奇心を煽るかの違いじゃないかな?」

 

 すると漸く、俺の話しに合点がいったようで

人差し指と親指を顎に添え、光前寺(コウゼンジ)は、考えをまとめるように答えてくれた。

──だが、そんな彼女の答えは、それがどうゆーことなのか解らず

どういうことかと、反射的に聞き返してしまう。

 

「"赤いマント"も、その派生である"赤い紙、青い紙"も

正解を答える必要がある上、何時遭遇するかも分からない恐怖心を煽る怪談。

お化け屋敷みたいに、自分から怖いモノを体験しにいけるのが。 好奇心を煽る"花子さん"

と、まァそんな感じだろう」

 

「なるホド」

 

「因に"赤いマント"も、"赤マント"ってゆー都市伝説の派生だぞ。

トイレと全然関係ねーし、内容も全く違うけどな」

 

「なん……だと!?」

 

 今明かされる衝撃の事実である。

 ずっと同じもんだと思ってたのに……。 この日、一番の驚きかもしれない。

 

「その"赤マント"ってのは、どんな話なんだ?

……アレか? 実は、赤マントの正体は"赤いマント"の九十九神的な妖怪で

人間の血を浴びるため、人間に自分を羽織らせては、その人間を操って人を殺し続ける。

その人間が朽ち果てたら、また、新しい人間に羽織らせる。 ──とか、そんな感じ?」

 

「違うよ」

 

「ですよねーーー」

 

 取り敢えず、思い付いた考えを口にしたのだが

そんな俺の予想は、光前寺(コウゼンジ)にバッサリ切り捨てられてしまう。

 

「"赤マント"ってのは、色んな風説があるんだよ。

検索してみればすぐ出るけど、"青ゲットの男事件"が流布してく際に赤マントに成ったとか

"赤マント"って演目の紙芝居と、少女暴行殺人事件とが混ざっただとかさ」

 

「へぇ、結構面白そうだな」

 

 面白そうだとは思うし、気にもなるんだけど

光前寺との怪談巡りを切り上げてまで、調べたいと思える程の事でもなかったので

赤マントの事を調べるのは、またの機会へと先送りすることに決めた。

 

「──って、あれ? 次いくんじゃなかったのか?」

 

 正門までやってくると、次に行くと言ってたハズの光前寺が

駐輪所の方へと向かい、停めてあるロードバイクを持ってくるのを見た俺は

確認もかねて、光前寺(コウゼンジ)に声をかける。

 

「うん? ああ、帰るついでにな。

正門の上にある考える人が、夜になると動くそうだから、それを見てくだけだよ」

 

「なるホド。 ……けどさ、今調べても何も判らないんじゃないか? まだ、夜じゃねーし

なんなら、俺が代わりに調べとこーか? 俺も気になるし」

 

「イヤ──。 うん、そうか。

そういえば、オマエは学校で暮らしてるんだったな。 それなら、任せた」

 

「おう、任されよう」

 

「ん、じゃね」

 

 どうやら、思いの外早く、赤マントを調べる機会が巡ってきたようだ。

 下校していく光前寺を見送った俺は、此処に留まる意味もなければ理由もなかったので

早速、大図書館に向かうことにするのだった。 

 

 

 

 そんなこんなで、万魔殿(バンマデン)学園大図書館までやってきた俺は

都市伝説に関係する本をかき集め、そこから"赤マント"に関する情報だけを洗い出していく

すると、光前寺(コウゼンジ)の言ってた通り

"赤マント"には色んな由来があったが、どうしても納得出来ないモノもあった。

 

 "青ゲットの男"事件。

 

手ぬぐいをほおかむりにして、その上から更に青っぽい毛布(ゲット)をかぶった男により

とある家の夫、夫の母、妻が殺害された事件である。

事件当初、夫の死体だけが見付からず、犯人は夫であると考えられていたそうだケド

残されていた血痕から、夫も殺害されていると判断されたらしい。

 そして、事件が時効を迎えた後。

別件で逮捕した男が、この事件の犯人だと告白。 ──だが、この時の証言はあやふやで

なおかつ捜査資料も散逸していた為、結局、この事件の真相は解明されなかったそうだ。

 

 ……なるホド、さっぱり分からん。

 

 確かに、凄い事件だとは思う。 しかしである、この事件のどこをどうすれば

赤いマントの怪人物が、子供を誘拐しては殺す。 という都市伝説の由来に成るんだ?

一応、子供も殺そうとしたみたいだけど──。

結局は未遂だったし、羽織ってるのも赤マントじゃなくて、ただの青っぽい毛布である。

おまけに、青ゲットが赤マントに変わった経緯は不明ときた。 

 もしかしたら、俺の調べ方が下手なだけで

ちゃんとした経緯があるかもしれないから、この辺は後日、光前寺に訊いてみるとにしよう

 

 ……さて、これからどーすっかな?

 

 赤マントの事が段落したので、次は何をして楽しむか?

そんな考えを巡らせながら、かき集めた都市伝説の本を棚へと戻していく

 この"赤マント"とゆう怪異が、"花子さん"みたいに呼び出せる怪談だったなら

良し、やってみよう。 とゆー流れに出来たけど、生憎、"赤マント"を呼び出す方法はない

 退屈に燻るのも避けたいので、すぐにでも面白いことをしたい。 ──したいのだが

面白そうな事を求めた末の"赤マント"だ。 そんなモノがあったら、最初からやっている。

 

 何かないかなぁ……。

一人でも出来て、なおかつ夜中ぐらいまで遊べそうな。 スゲー面白いナニか。

 

 そこまで考えてから、はたと気付いた俺は

本棚に戻そうとしていた本を引き戻し、その本のタイトルに注目する。

 

 巡り歩く都市伝説、ねぇ。 ……なんだ、あるじゃねーか。 とびきりなのが!

万魔の七不思議を光前寺(コウゼンジ)が調べるなら、俺は都市伝説を調べてやろーじゃん!

そうと決まれば、早速っ!

 

「すいませーーーん!」

 

「はーい!」

 

 これからの予定が固まった以上。

最早、長居は無用。 此所に留まり続ける意味もなければ、理由もなくなったので

この本を貸し出してもらうため、司書の女の子の元へと駆け出すのであった。

 

「この本借りたいんですけど」

 

「じゃあ、これに記入してね。 

……それにしても、今度は都市伝説かー。 この間は、学校怪談の本を借りてく人も居たし

最近、そーゆーのが流行ってたりするのかな?」

 

「イヤ、別に流行ってないですよ。

俺は暇つぶしだし、多分、学校怪談の方は趣味じゃないかと。 ──ハイ、書けました。

これで大丈夫ですか?」

 

「……うん、問題なし。 どうぞ」

 

 司書の女の子から、貸し出しの了承を得た俺は、女の子に挨拶して図書館を出た後

たった今借りてきた本の、適当なページを開いてみる。

 取り敢えず、出来る出来ないは別にして

今日の所は、開いたページに載ってる都市伝説を探し回ってみるつもりだ。

さて、記念すべき最初の都市伝説はどんなモノだろうか?

 

「さとるくん?」

 

 そのページに書かれていたのは、"さとるくん"という都市伝説だった。

 初めて見る名前だが、一通り目を通してみれば、メリーさんに近い怪異なのが分かった。

しかも、それだけじゃない。 基本、悪い結末ばかりの都市伝説にしては珍しく

このさとるくんという怪異は、手順さえ違わない限り、どんな質問にも答えてくれるのだ。

呼び出す方法は簡単だし、見返りも大きいので、はじめの一歩とするには都合良い。

 

 問題は、何を質問するかだけど……。

ああ、丁度良いのがあったな。 魔武具(アバドン)の事でも訊いてみるか

それにしても"さとるくん"って、何かに似てるようなーーー。 ああ、こっくりさんだ。

 

 あの時は、当事者に成れなかったせいで、悔しい思いをさせられたから

今度こそは楽しませてもらう! と、そう願いを募らせつつ

考える人の飾られている正門をくぐった俺は、"さとるくん"に必要な公衆電話を使うため

集合都市(バビロン)方面へと向かうことにする。

 万魔から集合都市までは、それなりに距離があり、電車を使うのが一番楽なのだが

別に急ぐ用事でもなし。 集合都市まで歩いて行くことにした。

 

 折角、集合都市に行くんだから

ついでだし、公衆電話以外に面白そうなことでも探すかーーー。

 

 今週の日曜になれば、また、パステルナークと一緒に集合都市に行くことになるケド

アレは刀剣や銃の店に行く予定だから、それ以外の場所で楽しめば問題ないかな?

あとは、何をするかとゆう問題だが──。 まァ、集合都市なら何かしら見付かるだろう。 

そんな考えをまとめながら、俺は集合都市へと足を進めて行く

 

 んん? お! 通り抜けられそうなスキマ発見!

 

 けど、ただ向かうのも面白くないので

面白そうな小道や脇道、更には道じゃない所ばかりを選りすぐり

集合都市を目指すことにした。

 そんな道ばかりを通って、集合都市まで辿り着けるかどうかは解らないが

最早、辿り着けるかどうかは二の次である。 元より、明確な目的は無いのだから……。

 

 

 

 

 幾多の小道や脇道、塀や屋根の上を渡り歩くこと数時間。

 大小様々な店や、ビル等が立ち並んでいる都会。 集合都市(バビロン)まで辿り着けた。

流石は集合都市、万魔の比ではないぐらい。 様々な種族でごった返しており

人混みは好きじゃないが、こんな雑多なら大歓迎である。 だって、眺めるだけでも面白い

──とはいえ、いつまでも惚けているワケにもいかない。

 取り敢えず、集合都市に到着したのだから、当初の予定通りに"さとるくん"をこなすべく

裏路地から出た俺は、公衆電話のある駅前へ向かうことにした。 

 

 えーーーっと、駅は向こうの方だっけ? ──って、有ったし

 

 しかし、目的の公衆電話が目と鼻の先にあったので

駅に行くことを取り止め、その公衆電話を使わせてもらうことにした。

 "さとるくん"のやり方はこうだ。

まずは受話器を取り、拾(10)円を投入する。 その次に、自分の携帯へと電話をかけて

繋がったら、"さとるくん、さとるくん。 おいでください。"と、唱えるだけ

 

 後は、"さとるくん"の電話を待つだけだな。

 

 そして、"さとるくん"が成功していた場合。

電話をかけてから24時間以内に、さとるくんから電話がくるらしく

今から24時間が経過するまで、成功したのか、失敗したのかは判らないのだ。

 まァ尤も、それが今後の予定に影響することはない。

成功だろうと、失敗だろうと、面白そうなことをやり続けるだけの話なのだから。

 

 ……さて、今度は何しようかな?

 

 そんなことを考えながら、集合都市をブラブラしていると

一際賑やかな音が聞こえてきたので、音のする方に目を向けてみれば

其所にはゲームセンターがあった。

 

 ゲームセンターか。 うん、ちょっと覗いてみよう。

そういえば、こっちのゲームは始めてだな。 面白そうなゲームでもあれば好いけど……。

 

 向こうに居た時から、ゲームはジャンルにこだわらずやってたので

その懐かしさもあってか、久々にゲームセンターを満喫するのも悪くない。

そう考えた俺は、ゲームセンターへと入っていく

 途端、一変して周囲が騒がしくなるものの

これも醍醐味のひとつだ。 どうせ、次第に慣れて気にならなくなる。 

 

 さて、どれから遊ぼうかな? 取り敢えず、一通り遊ぶのは確定事項として

まずは定番のアクション、シューティング辺りから攻めようか? ──ん?

 

 等と考えながら、面白そうなゲームを物色していると

ゲームをプレイしている。 鎧兜にジャケットとゆう、奇妙な出で立ちの巨漢を見付けた。

そんな格好で、どんなプレイをして魅せてくれるのだろうか? 興味が湧いて仕方がない。

 

 決めた、決まりだっ! 自分の目で見物しようじゃないか!

 

 男の向かい側の席に腰掛けた俺は、財布から百円玉を取り出して投入する。

 初めてやるゲームだが、そんな手探りにやるゲームも嫌いじゃない。

筐体に貼ってあるキャラの技表と、ゲームのシステムを解説するPOPに目を通しながら

キャラクターを選択していく

 侍や忍者、加えて西洋の騎士など、選べるキャラクターは侍スピリッツのノリに近い

 取り敢えず、使用できるキャラを一通り流し見た後。

俺は、ランダムセレクトの項目を選択する。 これは別に、自分の腕に自信があるからでも

相手を舐めてるワケでもない。 ただ、この選び方が一番楽しめるのだ。

 

 何が出るかな、何が出るかな。 ──ハグルマ、忍者キャラか

 

 選ばれたのは、両肩、両手首に歯車を着けた頭巾の忍者キャラだった。

そのキャラ性能はかなり良く、初心者の俺でも、それなりに戦うことが出来たものの

システムの把握すら出来てない状態で勝てるハズもなく

一回目の挑戦は、俺の完敗で幕を閉じてしまう。 だが、ゲームの流れは掴むことが出来た

 

 なるホド、如何に属性アイテムを三つ揃えて

相手キャラの弱点超技を打ち込むかが、このゲームのキモってワケか……。

 

後ろに待つ人も居なかったので、すぐさま筐体に百円を投入、再度の挑戦を挑み込む。

結果は敗戦。 だが、さっきのゲームよりは善戦できた。 

また百円を投入、負ける。 投入、負ける。

 それを何度か繰り返していると、向かい側の筐体から不意に声をかけられる。

 

「なァ、挑んでくるのは構わないんだけどよーーー。

キャラぐらい絞ったらどうだ? 一つ一つが甘いままじゃ、この先もずっと勝てねぇぞ?」

 

「だろうねー。

けど、同じキャラを使い続けるより、色んなキャラを使った方が面白いじゃん?」

 

「フム。 一理ある」

 

「それがランダムなら、自分がどんなキャラを使うのかも分からないんだ。

そっちの方が、なおのこと面白くなるだろう?」

 

「それも一理ある」

 

 談話を交えつつ、俺と兜の男との対戦は続けられる。

 次第にコツも掴めてきたので、接戦や善戦。 偶に勝ちを拾えるようにもなり

面白くなってきたのだが。 それはそれ、そろそろ他のゲームでも遊びたくなってしまう。

 

「──なァ、この試合が終わったらさ。 何か、違うゲームで遊ばねぇ?」

 

 折角見付けた、面白い遊び相手だのに。 これだけで「ハイ、サヨナラ」は憚られる。

だから俺は、お向かいさんを誘ってみることにした。

 

「……遊ぶ相手だったら、他に幾らでも居るだろうに

なぁんで、オレを誘うんだ? 友達でもなけりゃ、知り合いでもねぇんだぞ?」

 

「そりゃ、決まってる。 これまでのゲームが面白かったからさ

つまんなかったらこんなに遊んでないし。 誘ってみたりもしなかったよ」

 

「……」

 

 すると、一ラウンド目が終わった時。

向かいの台から、今の誘いに対する疑問を投げ掛けられたので

思っていたことを即答するが、反応が返ってこないまま、二ラウンド目が始まってしまう。

駄目だったかな? と、思いつつも意識をゲームにへと移していく

 ゲームは俺の敗北で幕を閉じる。

返事も貰えなかったことだし、これ以上、この場に留まり続ける意味はない。

なので俺は、席を立ち、向かいの筐体を横切るように歩き出す

 

「──このゲームが終わるまで、ちょっと待ってろ」

 

「! おう!」

 

 ──だが、筐体を横切ろうとした。 まさにその瞬間。

座っていた男に引き止められ、俺は言われた通り、男のゲームが終わるのを待つことにする

これからのことを思えば、ゲームが終わるまでの待ち時間なんて、大した問題ではない。

 その後、ゲームを終えた男と遊ぶため

取り敢えず、目に付いたガンシューティングゲームへと向かうことにした。

 

「オマエはさぁ、遊ぶ友達とか居ないのか?」

 

「いるよー」

 

「ならなんで、その友達やらと遊ばねぇんだ?

見ず知らずの誰かと遊ぶより、友達と遊んだ方が面白いだろうに」

 

「ん? んーーー……。 今日は、たまたまだけど

友達が居るからって、友達以外のヤツと遊んじゃいけない。 なんて、考えてたらさ。

遊びたいものも、遊べなくなっちまうじゃんか。 そんなの、俺はごめんだね。

誰と遊ぶからじゃなくて

自分の遊びたい時に、遊びたいモノで、遊びたいだけ遊ぶから面白いんだよ」

 

 筐体に掛けられている銃を手に取り、百円玉を投入した俺たちは

そんな話を交わしながらも、次々と襲ってくるゾンビたちを撃ち抜いていく。

ガンシューティングをやるのも久々だが、格闘ゲーよりかは訛りが少ないようで

今のところ、ミスらしいミスはない。

 

「……なるホド、そりゃ面白い考え方だな。

お前、名前はなんて言うんだ? オレは梅夜。 修羅道・梅夜(シュラドー・ヴァイヤ)だ」

 

「俺? 俺の名前は外城・縁(トジョウ・エニシ)。

コンゴトモヨロシク。 修羅道さん。 ──あ! ロケットランチャー落ちてるっ!」

 

「何っ!? 取れ取れ!」

 

 修羅道・梅夜。 ──また一人、遊べる相手が増えた。

 それから暫くして、やっていたガンシューティングをクリアした俺と修羅道は

取り敢えず、目に付いたゲームを片っ端から遊び倒していくことにする。

 どれだけ遊んだだろう?

ゲームセンターにあるゲームを、あらかた遊び尽くしてしまって

次に遊ぶゲームで困っている時だった。 腰下まで伸びた、綺麗な黒髪を後ろで結んだ。

帯刀してる、ポニーテールの女の子が小走りでやってきた。

 

「梅夜(ヴァイヤ)ーーー!」

 

「ん、どうした?」

 

「そろそろ、他んトコ行こうよ」

 

「そーーーだな。 こっちもあらかた遊んじまったところだし

そろそろ頃合いかもな。 ──そうだ、お前も来い」

 

 どうやら、その女の子と修羅道(シュラドウ)は親しい間柄ようだ。

 そんな二人の間に割って入る気はないケド、黙って離れるワケにもいかないので

仕方がなく、二人の会話が一段落するのを待っていると

修羅道のヤツに突然肩を掴まれ、遊びの延長戦を強引に誘われた。

 そんな修羅道の行動に釣られてか。 初めて、女の子の顔が俺の方へと向けられる。

 

「誰?」

 

「ああ。 ゲームをしてる時に知り合ってな。

ついさっきまで一緒に遊んでたんだが、これが結構おもしれーヤツでよ」

 

「ふぅん」

 

「俺は外城・縁(トジョウ・エニシ)。

外城でも、縁でも、言い易い方で呼んでくれちゃって良いよ」

 

「真武・沙叉(シンブ・サシャ)」

 

 頭から足まで、俺のことを流し見た女の子の反応は

なんとも、そっけないものだった。 けど、拒絶されたとゆう感じでもなかったから

最高とは言えないまでも、楽しく遊ぶことは出来るだろう。

 とか、そんなことを考えながら

修羅道(シュラドウ)にされるがまま、暗くなった繁華街へと繰り出して行くのであった。

 

 

 

 修羅道(シュラドウ)に連れられて歩くこと暫く

何所へ向かってるのかは判らないが、だからといって、それを自分から尋く気はなかった。

尤も、このまま黙々と歩く現状を良しとするつもりもない。 なので、さっきからずっと

話題を模索していたのだが──

 

「なぁ、修羅道。 その鎧って、何時も着てるのか?」

 

 これに勝るものは考え付かなかった。

 何を措いても、取り敢えず、コレを尋かないことには始まらない。

 戦ってるワケでもねぇのに、態々ジャケットの下に着込んでるぐらいだ。

何時もじゃないにしても、相当長いこと着てるのは間違いない。 だからこそ、興味が湧く 

 

「……un? ああ、もう永いこと着たっきりだな。

それが、どうかしたのか?」

 

「いや、ただ気になっただけ。 そんで、だ。

どうして、そんな鎧を何時も着て──っ!? なんだ!? これから面白いトコなのに!!

ハイ! 外城(トジョウ)だけどっ!?」

 

 今のは触り、こっからが本命。 だのに、そんな意図を見計らったかの如く

俺の言葉を遮るように、ポケットに入れていた携帯の着信音が鳴ったので

苛立ちを隠さずに電話に出てやった。

 

「もしもし、ボク、サトル。 今、万魔殿学園の校門前に居るよ」

 

 すると、携帯の向こうから聞こえてきたのは、聞き覚えのない平淡な子供の声で

 それだけを告げると、俺の反応を待たずに通話を切ってしまう。

 

「なん、だと!?」

 

 オマエ(さとる)かよっ! いや、悪くはないよ。 寧ろ、喜ばしいことなんだけどさっ!

どうして、よりにもよって! 今、このタイミングなんだよっ!

こんな流れじゃなきゃ、素直に喜んでたってのに! 間が悪いったらない!

──でもまぁ、問題はないかな? 電話に出るだけだから、これからの予定に支障はないし

 

「どうした?」

 

「ああ、うん。

さとるくんからの電話だったから、ちょっとばかし驚いただけ」

 

「さとるくん? お前の友達か?」

 

「違うよ。 "さとるくん"って言うのは、都市伝説とゆうか怪談話に出てくる怪異の名前。

公衆電話から、自分の携帯電話に電話をかけるとね。 メリーさんの要領で近付いてきてさ

後ろまでやってきた時に、どんな質問にも、答えてくれるらしいんだけど……」

 

 そんなことを思いながら、ズボンのポケットに携帯を戻すと

俺の様子を伺うように、修羅道(シュラドウ)の奴が話しかけてきたので

今の電話の相手が、さとるくんであったことを伝えた。

 ──しかし、それで分かってくれるだろう。 とゆう、思惑は簡単に外れてしまい。

"さとるくん"について、簡単な説明を付け加えることになる。

 

「学校じゃ、今、そんなモンが流行ってんのか? ……まァ、何を訊く気かは知らねぇけど

本当に知りたい答えってのはな、自分で見付けるしかないもんだぞ」

 

「うん。 いや、そんな大袈裟な事を訊こうだなんて思ってねーよ?

加えて言うなら、訊きたい事とか考えてない。 完全な見切り発車だったしな」

 

「はぁあ? だったら、なんでそんな事してるんだ? 意味ないだろーが」

 

「そんなの、決まってんじゃん! 面白そうだったからだよ!

やっといてあれだけど、真逆、電話がかかってくるとは思わなかったけどな。

まァ、願ったり叶ったりだから良いけど。 ──っと、悪い」

 

 修羅道(シュラドウ)の疑問に答えていると、またもや話の流れを切るように

電話の着信音が鳴るが、さっきとは状況が違うので普通に出る。

すると案の定、それはさとるくんからの電話だった。

 そしてどうやら、さとるくんは、俺の通ってきた道と同じ道を追ってくるようで

俺の後ろに着くのは、まだまだ先になるだろう。

 

「また、さとるからだったよ。 で、なんだったか?」

 

「イヤ、その話はもういい。 知りたかった事は訊けたしな。

それよりも、だ。 今を楽しもうとしている、オマエに訊きたいんだが──。

これから、どうしたい?」

 

「ええっ!? そうなーーー……」

 

 携帯をポケットに戻し、話の続きをしようとしたら

修羅道の奴に、そんなことを尋ねられた。 一体、何を思ってのことなのか?

そんなことは考え至らないが、こうして訊かれてしまった以上

何かしら、言葉を返さないワケにもいかない。 いかないのだが──。 土地勘のない俺は

咄嗟に答えることが出来なかった。

 

「そろそろ、いい時間だし

まずは飯食って、それから遊びたいかな? 何して遊ぶかは──、そっちに任せた」

 

 取り敢えず、思い付いたことだけを簡潔に述べ

後のことは全部、修羅道(シュラドウ)に丸投げしてしまうことにする。

先に振ってきたのは向こうだし、それに、遊べれば何でも好い俺が決めるよりずっと良い。

 

「そうか。 ……じゃあ、その辺で腹ごしらえしたら

カラオケにでも行くかーーー」

 

「カラオケかーーー。

いいね! 面白そうじゃん! ──お、さとるから電話だ」

 

 ……そーいえば、こっちの歌とかどーなってんだろ?

知ってる歌とか有ればいいけど、まぁ、無きゃ無いで構わないんだけどな。

なんにせよ、話はまとまったのだ。 後は、この流れに身を委ねてしまえばいいのである。

 さとるくんの方も、着々と近付いて来ているので

これから先、飽きない時間が流れることは想像に難しくなく、自然と顔がニヤけてしまう。

兎も角、今は何も考えずに遊べば良いのだっ!

 

 

 

 そんなワケで、夕食を手早く済ませた後。

 近くにあったカラオケ店へと入り、早速、歌を唱うことになったワケだが

歌を唄おうとした矢先、またもや、さとる君から電話がかかってきてしまったので

その電話に対応していたら、修羅道に先に歌われてしまった。

 出ばなを挫かれたのは悔しケド、まぁ、どんな曲があるか分からんかったから

どっちにしろ、すぐには唱えなかったんだけど……。 とゆーか、それはそれとして

 

「〜〜〜♪ 〜〜〜♪」

 

 真逆、RXがあるとは思わなかった……。 映像も出てたし

 しかも、RXだけじゃない。 他にも、俺の知ってるアニメや特撮の主題歌などがあり

ほんの一瞬だけ、どうなることかと思ったケド

その心配は杞憂に終わる。 これなら、俺にでも十分に歌えそうだ。 

 

 さて、何から歌おっかな? ──って、またかよっ!

 

 それならば、と、歌を選ぼうとした。 次の瞬間、そんな俺の出端を挫くように

まさるからの電話がかかってくるのだった。

 

 ううん。 楽しみは多いに越したことはないケド、こうもタイミングを駄目にされるとな

いい加減邪魔臭くなってきた。

無視して遊んでも良いんだけど──。 こんな調子じゃ、腰を据えて遊べそうにないし

先に、さとる君の方から済ませちゃうかーーー。

 

 幸い、さとるくんもすぐそこまで来ている。

俺の方から出迎えにいけば、間もなく遭遇することが出来るだろう。

さとるくんに遭遇さえしてしまえば、もうしめたもの。 後は、適当に質問して終わり

難しいことなんて、何一つとしてないのだ。

 

「悪い。 ちょっと、さとるくん終わらせてくるわ」

 

「おう」

 

 それなら、さっさとやるに越したことはない。 思い立ったが吉日

修羅道(シュラドウ)たちにそう言うと、俺は一旦、カラオケ店を出て行くのであった。

──しかし、そんな俺を待っていたのは、まさるくんからの電話ではなかった。

 カラオケ店を出てすぐ、俺の前に顕われたのは

真っ赤なマントを羽織っている、青白い顔をした長身の男。 その風貌は、まさに──っ!

 

「赤いマントはいらんかい?」

 

「おおうっ!?」

 

 予想だにしない存在の登場に、思わず驚きの声を上げてしまう。

 そもそも、この赤マントとゆう怪異。

子供を攫って殺すのと、トイレに顕われるヤツとの二種類が存在してるのだケド

赤マントの要否を聞いてくるのは、トイレに顕われる"赤い紙、青い紙"と同系統の方なのだ

こんな風に、道端で遭遇する類いではない。

 

 だのにっ! なんで、ここに居やがるんですか! ……真逆、そうか!

この赤マントも、昨日の塗壁(ヌリカベ)と同じ。 正真の怪異ってヤツなのかっ!?

 

「赤いマントはいらんかい?」

 

 そんなことを考えていると、赤マントは自分に反応した俺に対して

返答を催促するように、同じ質問を繰り返し尋ねてくる。

何も知らなかったら、要ると即答していたカモだが、言ったら死ぬと判っている以上。

口が裂けても欲しいとは言えない。 だからと言って、要らないと言って良かったものか?

こうなったら、最後の手段を使わざるを得ない。

 

 三十六計逃げるに如かずっ!

 

 俺は、赤マントの横を抜けるように駆け出した。

 相手は正真正銘の怪異。 ただの人間がかなう相手じゃない。

吐噶喇(トカラ)に天牛(テンギュウ)、そしてパステルナークが居てくれたからこそ

塗壁の時は、生き延びることが出来たのだ。 だから、走り続ける。 逃げ続ける。

 

 クソッ! ──クソッ! なんでだ!? なんで、こうなったんだ!?

俺はただ、さとるくんを済ませたかっただけなのにっ! どうする? どうすればいい!?

 

 人込みを縫うように走りながら、この状況を打破する方法を考えている時だった。

携帯に、一本の電話がかかってきた。

 こんな時にかかってきた電話になんて、本当は出る気なかったんだけど

ついさっきまで、かかってきた電話に出続けたせいか、その電話も条件反射的に出てしまう

 

「もしもし!?」

 

「もしもし? ボク、サトル。 今、カラオケ店の前に居るよ」

 

 するとやっぱり、とゆうか案の定。 それは、さとるくんからの電話だった。

 その内容こそ、これまでの電話同様。 自分の所在を伝えるだけのものだったが

お陰で、気付くことが出来た。 この状況を打破できるかもしれない、たった一つの光明に

 

 さとるくんは、どんな質問にも答えてくれるっ!

だったら、答えて貰おうじゃないか! あの赤マントから逃げ果せる方法をっ!

 

 しかし、そうなると話は変わってくる。

 このまま逃げ続けるより、今からでも、カラオケ店の方へと戻った方が良いだろう。

そうすれば、より早く、さとるくんに遭遇することが出来るハズ。

問題があるとすれば、後ろから追ってきてるだろう。 赤マントの奴をどう抜き去るか、だ

捕まりでもしたら、さとるくんどころではない。

 それでも俺は、意を決して振り返る。

 すると、振り返った先にはもう、赤いマントを羽織った男が佇んでいた。

 

「赤いマントはいらんかい?」

 

 赤マントの問いかけを合図にして、俺は一気に駆け出した。 

 そして、さっきと同じように、赤マントの横を抜けてやろうとしたのだが

そうはさせじと、赤マントの中から腕が伸びてくる。 今度は、逃がすつもりもないらしい

 

「うおっとぉっ!?」

 

 とんだ不意打ちだったが、つんのめりになりつつも

既の所で躱すことの出来た俺は、転びそうになっていた体勢を、走りながら立て直していく

その甲斐あって、無事に逃げることが出来た。

 これで後は、さとるくんからの電話を待つばかり……。

最後の電話がカラオケ店からだったので、此処まで来れば、そんなにかからないハズだけど

頼むから、早くかかってきてくれ!

 そんな願いが届いたのか。 電話の着信音が鳴ったので、俺はすぐさま携帯を取る。

 

「もしもし!?」

 

「もしもし? ボク、サトル。 今、キミの後ろに居るよ」

 

「──っ! 俺を追ってくる赤マントから、どうすれば逃げ切れるのか教えくれっ!」

 

「……」

 

 さとるくんにそう質問するが、その答えはすぐには返ってこなかった。

 予想だにしなかった事態に、真逆、こうゆう質問は駄目なのかっ!? とか

もう、これだけが頼りだったのにっ! ──など、考えが悪い方悪い方に傾き始めてしまう

それでも俺は、依然として無言のままの携帯を耳に当て続ける。

 

「……赤マントを倒すこと。 それが、赤マントから逃げれる唯一の方法だよ」

 

「へ? ──え!? ちょっ!? さとるくん!?」

 

 そして、ようやく反応が返ってきた。 そう思ったのも束の間。

今までの例に漏れず、さとるくんからの電話は、云うだけ云うとすぐに切れてしまった。

思わず名前を呼んでしまうが、携帯からは不通音しか聴こえてこない。

 

 赤マントを倒せって? それが出来るんなら、こんなに困ってないっつーの!

 

 さとるくんの答えに悪態をついていると、突然、頭上から影が差してきたので

俺は反射的に上を向いてしまう。 すると其処には、今まさにナイフを振り下ろさんとする

赤マントの姿があった。

 あまりにも突然な出来事に、何の反応も出来なかった俺は

赤マントのナイフに喉を掻っ切られ、大量の血が噴き出しながら倒れていく……。

 

 ──ハズだった。

 しかし、俺にナイフが届くよりも早く

ナイフを持つ赤マントの腕が、横から入ってきた手に捕まれ、そして投げられたのである。

 

「何時まで経っても戻ってこねぇから、様子を見に来てみれば……。

なにやってんだよ? オマエは」

 

「修羅道さん……っ!?」

 

 修羅道(シュラドウ)に話しかけられ、呆然としていた意識を引き戻された俺は

その時になって漸く、自分が修羅道に助けてもらったのだと、理解することが出来た。

だけど正直、まだ現状に頭がついていってない。 

 

「赤マントは、いらんかい?」

 

 ただ、まだ終わってないことだけは解る。

 修羅道に投げ飛ばされた赤マントは、何事も無かったかのように立ち上がり

代わらない視線を俺に向け、これまでと同じ問いの是非を問うてくる。

 

「取り敢えず、さっさと片付けて歌い直すとするか」

 

「合意」

 

 そんな赤マントを阻むようにして、修羅道(シュラドウ)と真武(シンブ)が前に出て往くと

一瞬にして、場の空気が引き締まるのを感じた。

 もしかしなくても、あの二人は鎮伏屋(ハンター)なのかもしれない。

だとすれば、好い事を知った。 この後にでも、そのことについて訊いてみなきゃな。

 

「みなごろし丸!」

 

「拙者を抜刀せしは汝・真武! 汝・真武は何を求むか?」

 

「刀が喋った!?」

 

 真武が刀を抜くと、その刀身より声が発せられる。

 あの刀は所謂、インテリジェンス・ソードと呼ばれる類いのモノなのだろうか?

 真逆、そんなモノまで有るとは思わなかった。

何処で買ったんだろう? パステルナークに連れてってもらう武器屋にも有るかな? とか

真武(シンブ)の刀を見た俺は、色々と考えさせられてしまう。

 

「赤マントはいらんかいいいぃぃぃっ!?」

 

「──私は何も求めない。

ただ、醜いヤツはキライなの」

 

「仔細承知!

然らば! 汝・真武! 汝の赴くがままに事を成すべし!」

 

 そして、真武は刀を振るい。 赤マントの身体を上半身と下半身とに両断した。

 二つに分離した赤マントの身体は、そのまま地面へと崩れ落ちていく

だが、その次の瞬間! 赤いマントに眼や口が表れ、真武(シンブ)目掛けて飛びかかるっ!

 

「赤マント、着セマショウカーーーっ!」

 

 しかし、ソレを修羅道(シュラドウ)が薙ぎ払い。

それで、事なきを得た。 かに見えたが、修羅道によって打ち払われたマントは

そのまま修羅道の腕へと絡み、巻き付き、そして締め上げはじめた。

 凝、凝と、強く締め付ける音が、俺にまで聞こえてくる。

 ただ事ではないハズなのに、修羅道は獰猛な笑みを浮かべながら

赤いマントが巻き付いた腕を掲げ上げた。

 

「出ろ! 王鉄! 大切断っ!」

 

 修羅道がそう叫んだ瞬間、腕に巻き付いていた赤マントに異変が起きる。

 まるで、内側から押し上げられるように膨らむと

やがてマントを突き破り、両肩に幅広く、巨大な刃を付けたロボットの上半身が顕われる。

 

「すっげ」

 

 巻き付いていたマントを四散させ、その役目を終えたとばかりに

ロボットは自分の体を折り畳んでいき、後には、元の修羅道の左腕だけが残された。

 

「──やれやれ、余計な時間を食っちまったな。

さっさと戻って歌いなおすぞ」

 

「うん」

 

 すると、今までのことなど、なんてことなかったように

修羅道(シュラドウ)はカラオケ店へと戻って行き、真武(シンブ)もそれに附いていったので

そんな二人に続いて、俺もカラオケ店へと入っていくのであった。

 予想外な出来事も面白かったけど、これで何を気にすることもなく

ただ目の前のことだけを、思いっきり楽しむことが出来る。

 まだまだ夜は長い。 次は、どんな面白いことが起きるのか?

そんなことに思いを馳せながら、楽しい夜はゆっくりと更けていくのであった。

 

 

 


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