現界突破   作:逆本 兼幸

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ボリュームアップを図るとなかなか時間かかりますね。

改めて小説を書いている人たちの凄さがわかります。



~この想い重ねて~

―京の都―

 

ここヨシテル様が治める都はとても活気がある。皆笑顔で話したり、買い物をしたり、大変だがそれでも楽しく仕事をしているという感じの人も。

子供なら何人かで集まって笑いながら鬼ごっこをしたり。

実に平和な都だ、それこそもうすぐ群雄割拠の戦国時代が来るとは思えないほどだ。

いやもしかしたら本来の歴史とは違うのだから来ないかもしれない。

『足利義輝が女性でした』なんて聞いたことがないのだから。

 

さて、何故俺が京の都を歩いているかを説明するなら少し遡らねばならない。

実は明朝の鍛錬中にヨシテル様から『朝食後に話があります』と言われたので、朝食後ヨシテル様の部屋へ向かったのだ。

 

――――

――

 

「ヨシテル様。正虎参上いたしました。」

 

「はい。入ってください。」

 

「失礼します。」

 

襖を開け中に入る。うん今日は抜刀してない、良かった。

しかしヨシテル様の話とはいったい何だろうか?

もし『鍛錬の強度を上げます』なんて言われたらついて行ける気がしないんだが。

 

「正虎、貴方は刀を持っていませんね?」

 

「あ、はい。」

 

「では今日より貴方に合う刀を京の都に行き買ってくるように。お金についてはご心配なく、正門の兵士から受け取ってください。」

 

「それは有難いのですが、この二条御所で見繕ってはならないのですか?」

 

「それも考えたのですが、やはりよりよい武具を見てくるのも必要になってくるのではと考えました。この京では刀職人もいますし、なにより正虎には是非京の都を見てもらいたいですからね。」

 

ということは武器を揃えれる上に散策もできるのか、なんとも嬉しい話だ。

どんな都か今からすごく楽しみだ。

 

「ええ、思う存分見てまいります。」

 

「まあ心配はないとは思うのですがコタロウに付き人をお願いしています。楽しんでくださいね。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

――

――――

 

・・・というわけで俺はコタロウと共に京の都を歩いているのだ。

 

「正虎さん!ここが有名な刀鍛冶の店ですよ!」

 

コタロウが店の前で大きく手を振っている。

 

「ああ、すまんな。今行くよ。」

 

おお、刀の文字がでかでかとのれんに書いてある。

名前は・・・『武威』?すごい名前の店だな。Vの字に斬られそうな・・・。

とりあえず店の前に着いた俺はコタロウと一緒に店の中に入る。

 

「いらっしゃい!あれ、相田コタロウさんかい?」

 

入るとかなり大柄で腕なんてすさまじい筋肉をしている豪快そうな男が奥から出てきた。この店の店主なのだろう。

 

「はい、今日は正虎さんの武器を見に来ました。」

 

「へぇ~、兄ちゃんは正虎ってのかい。俺はここの店主だ、よろしくなぁ!」

 

「ははは、よろしく・・・。」

 

この男、自己紹介の時に相手の肩をたたく癖があるのだろうか、かなり痛いぞ。

 

「じゃあ俺はまだ仕上げがあるからよ、何か用があったら呼んでくれや。」

 

男が奥に引っ込んだ、さて見てみるか。

 

近くにあった刀を手に取る。かなり重いけどそりゃそうか、鉄だもんな。

鞘から少しだけ抜いて刃を見てみる。

 

・・・・・・・・。

 

「どうしたんですか?」

 

そうして刃を見ていたのが長かったんだろう、不思議に思ったコタロウが話しかけてきた。

 

「いや、なんというか。元いた世界じゃ刀は男たちの憧れだったんだよ。でも実際に手に持ったら嬉しさより恐怖がある。」

 

「・・・え?、なぜですか?」

 

「俺はただの一度も人を殺したことはない、でもこの時代じゃどうしたって人を殺さなきゃならない時だってある。その時がやってきてしまうのが怖いんだ。人を殺してしまうのが怖いんだよ。」

 

コタロウは気まずそうにうつむいてしまった。いくら謎の力で強くなってヨシテル様から鍛錬を積ませてもらっても、俺は元々一般人だったんだ。

ただいつかは来てしまう、人を殺さなければならない時が。

 

「でも、正虎さん。それじゃあ、あなたはすぐに死んでしまいますよ・・・?」

 

涙声ながらコタロウは言う。しかしその通りだ、戦や合戦が当たり前のこの時代で不殺なんて言っていたらいいカモだ。

 

「大丈夫だ、そこはわかってる。それに武装してないんじゃヨシテル様達はおろか自分の身さえ守れないもんな。」

 

俺はコタロウの頭に手を置き撫でる、少なくともコタロウが泣かせてしまった原因はこの俺だ。

すると少しずつ収まってきた。良かった。

 

「ありがとうなコタロウ。ちゃんと武器は買うしな。俺も武装すればそう簡単にはくたばらんさ。」

 

「・・・グスッ、ほ・・ほんとですか・・?」

 

「ああ。」

 

コタロウは俺にしがみついてきた。とても強い力でしがみついてるので痛い。まるでコアラのようだ。

 

 

 

 

 

 

「さあ、コタロウ。そろそろ刀を見ようじゃないか。」

 

コタロウの手に肩を置く。コタロウは落ち着いたのかいつも通りの顔に戻っていた、いやちょっと赤くなってる。

 

「そ、そうでしたね。すみません・・・。」

 

「お~い兄ちゃん!あんまり恋人を泣かせるんじゃねぇぞ!」ニヤニヤ

 

店主が奥ののれんから顔を出している、見てるんじゃないよ。

コタロウは顔を真っ赤にして目をぐるぐる回してとても弁解できそうにない。仕方がないな。

 

「店主、あまりからかってやらないでもらいたい。コタロウをからかって良いのは俺だけだからな。」

 

「ま、正虎さんまで何言ってるんですか~!?」

 

ふふふ、コタロウが慌てふためいてる。なんともかわいいもんだ。店主は爆笑し始めた。

 

「がっはっはっは!!面白ぇな兄ちゃん達!気に入った、好きな刀を持ってけよ!金は取らねぇ!」

 

なんと漫才のお礼に刀をただでくれるらしい、これは嬉しい誤算だな!

一方のコタロウはようやく顔以外は元通りに。

 

「それは助かる、ありがとうな店主。コタロウ?大丈夫か?」

 

「うぅ~、正虎さんまでからかうのはなしですよぉ・・・。」

 

「はは、悪かった。お詫びに後で甘いものでもどうかね?」

 

「絶対ですからね!?」

 

「絶対だから安心していい。まずは刀を見ようじゃないか。」

 

「はい!」

 

「あ。俺今まで刀なんて見たことないんだったなぁ、コタロウ良い刀ってどういうものか教えてくれないか?」

 

「ええ、もちろん。そのためにボクが同行したんですからね。」

 

俺はコタロウと店主に良い刀と俺の戦法に合う刀の選び方を教えてもらった、そうして俺が選んだ刀は柄頭が音を立てて合体・分離する珍しい刀二本だ。

この二本の刀を買う際に店主は「兄ちゃん、その刀を二本とも鍛えなおしてやるよ」といってくれた。

ただ時間はかかるのでしばらくしてからまた来てくれとのこと、その間にコタロウと甘いものを食べに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

店から出た俺はコタロウがとても美味しい甘味処があるということで行ってみることに。

その店はあんこ入りの大福とお茶が絶品だとか、今から楽しみで仕方がない。

 

「あ、あそこです。・・・良かった、今日は空いてるみたいですよ!」

 

お、あそこかぁ。中々立派だ、隣の家の二倍近くはある。名前は・・・『蝶』か、良い名の店だな。

店の外に設置してある長椅子に既に座っているコタロウの隣に座る。コタロウはさっきからそわそわしている。

 

「いらっしゃいませ、何にいたしましょう?」

 

「大福二つにお茶も二つお願いします。」

 

「承りました。」

 

店員の女性は店の中へ。コタロウのおすすめだ期待が高まるなぁ。

するとそわそわしていたコタロウが、

 

「正虎さん、本当に死んじゃダメですからね?」

 

まだ心配してたのか、こりゃあコタロウの中で不安がまだ取り切れてないんだな。

 

「ああ、俺だってまだ死にたくはない。死に急ぎたくはないし。」

 

「そ、そうですよね!・・・はぁ良かった。」

 

息をつきとても安堵した様子のコタロウだが何故そんなに死にたがりにしたいのだろうか。

別に俺だって死にたいわけじゃないし、でもいつかは帰る方法を見つけなければダメなんだよなぁ。

 

「お待たせしました、大福二つにお茶二つでございます。」

 

大福とお茶を受け取る。これはだ。

お茶の方は確かにかなり濃い目だ。あ、香りが良いな。

 

「では食べましょう、いただきます。」

 

「そうだな。いただきます。」

 

こりゃあ美味い、もっちりした食感に粉砂糖とあんこの甘さがダイレクトに舌に伝わる。こしあん特有のなめらかな舌触りは素晴らしいものだ。お茶を飲む。苦めの茶がこしあんの甘さをより一層引き立てられる。

 

コタロウも幸せそうに目を閉じてうっとりして大福をほおばっている。かわいい。

 

 

 

 

はぁ~美味かった、まさに至福の時間だったなぁ。

 

ん?この時代じゃ珍しいかもだけどシスターのような服を着ている人が通り過ぎた。なんだか背が小さいな。でもところどころ鎧のパーツがあるんだよな。手甲してるし。

 

コタロウは・・・まだ目を閉じてる。どうやら今の人を見てなかったようだ。声をかけようか・・・いや、待てよ?あの服『青色の頭巾』に『青を意識したどれす』・・・。

 

もしかして!

 

俺は立ち上がって急いで歩き、その人に声をかける。

 

「あの!すみません!」

 

「・・?はい、なんでしょう?」

 

なんと金髪に青い瞳!?いや、水色の瞳だ。それにしても本当にシスターみたいな外見だ。

 

「あ、大友様でいらっしゃいますか?」

 

「はい、私は大友ソウリンと申します。あなたは?」

 

「これは先に名乗らず失礼しました。俺は「正虎さ~ん!どうしたんですか~!?」あ、しまった!払い忘れた!大友様、すみません!少し待ってていただけますか?」

 

「え、ええ。いいですよ。」

 

俺は急いで店に会計をしに行く。すまん、コタロウ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・申し遅れました。俺は正虎と申します。」

 

「ボクはコタロウと申します。ヨシテル様の下で武将の一人にさせていただいているものです。」

 

「はぁ、正虎さんはコタロウ殿とどういう関係ですか?あ、あと私の事はソウリンとお呼びくださいな。」

 

「わかりました。実はコタロウとは友人で、今日はヨシテル様のお達しで刀を見てくるようにとのことで。」

 

「ヨシテル様のお達しで刀を?正虎さん、あなたは一体・・・?」

 

「あ、ヨシテル様の側近をさせていただいてます。」

 

「え、えぇぇぇーーー!!!?」

 

大友様の驚いた声が鳴り響く。

 

「そ、そんなに驚くことかな。いや驚くことだよなぁやっぱり。」

 

「あ、ああ当たり前です!ヨシテル様の側近の方だったなんて、どうしておっしゃってくれなかったのですか!?」

 

「えぇ?コタロウ、これは俺が悪いのかな?」

 

「うぅん、一概にそうとは言えないんじゃ・・・。」

 

「だよなぁ。」

 

「正虎さん!コタロウ殿!私を無視しないでください!!」

 

「あ。すみません。そんなつもりじゃ。」

 

「も、申し訳ありません、大友様。」

 

腰に手をあてて頬をふくらませて怒るソウリン様。この世界の女性は怒り方がかわいいのだろう。もしカメラが、スマホがあったら撮るのに。かわいいから。

 

「それで何故言ってくれなかったのですか?」

 

「む、うぅむ。単に忘れていましたというしかないです。」

 

「今後そんな大事なことを忘れてはなりませんよ!」

 

「はぁ、肝に銘じます。」

 

「ところで正虎さん。なんで大友様に声をかけたんですか?・・・ボクを置いて・・・。」

 

コタロウがジト目で見てくる。さすがにあれは失礼極まりなかったな。反省しよう。

 

「すまなかったコタロウ。俺がソウリン様に声をかけたのは親衛隊の隊長から聞いた特徴に似てたからだよ。」

 

「む。とにかくもう置いて行くなんてダメですからね!」

 

なぜ怒る側が一人増えたのだろう、ちょっとした展開に大友様はきょとんとしている。

 

「と、ともかくソウリン様。声をかけたのはこういう訳でございます。大した用もないのに呼び止めてしまい申し訳ございません。」

 

「え、ええ。それはいいのですが。・・・コホン。これからよろしくお願いしますね、正虎殿。コタロウ殿。」

 

「はい。あ、俺に殿つけはいらないですよ。」

 

「よろしくお願いします、大友様。」

 

「はい。では私はこれにて失礼しますね。」

 

ソウリン様は手を振りそのまま歩いて行った。もちろん俺たちも手を振った。

 

「・・・さて、俺たちも行こうか。もしかしたら刀が出来てるかもしれないしな。」

 

「そうですね、行きましょう。」

 

俺とコタロウは刀鍛冶の『武威』へ戻るため元来た道に歩き出す。

どれほどの刀になるか楽しみではあるが逆に使わない方がいいなという気持ちもあるけど。

 

 

 




この刀のくだりはいつかやってみたかったです。戦国乙女という世界は戦国の世なわけですから、刀を持つ、弓矢を引く、極端なものでは戦死などは当たり前だと思うんです。
正虎は平和な現代からやってきたので刀なんて身近にない物だと、ましてや戦死なんて思いもよらない事です。

まあ、作者的には正虎は『不殺主人公』ではなく『不殺される主人公』を目指しているのですがね(笑)

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