さて、まだまだ物語の進展があまりない中とある人物が動きます。
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見やすいようにまとめました!
翌日、ヨシテル様と義昭は剣術の稽古、ミツヒデ様は任務でいないそうだ。もう歩いても大丈夫だと思うのだが、医者は明日まで様子見と言い、ヨシテル様と義昭は「明日までは横になっていなさい!」とのこと。特に最近は義昭が怖くなってきている、ハイライトが仕事してない時があるのだ。
なので寝たままで申し訳なかったが親衛隊の隊長は快く話してくれた。
「そういえば近々大友様がお見えになるそうよ。」
「大友様?どういう人なんだ?」
「ええと、青色の頭巾と『どれす』というのかしら、とにかく青色を意識した服装をしていらっしゃるわ。」
「うぅん、なかなか想像しにくい服装だなぁ。あ、お見えになるってことは武将なのか?」
「武将ね・・・キリシタン大名で戦国乙女の一人よ。豊後を治めているそうよ。」
「地図でいうとどのあたりになるんだ?」
「このあたりね、かなり西の方よ。」
指をさされている場所は九州地方か、すごい遠いな。車は運転できるんだけど戦国時代には無いしなぁ、残念だ。馬か・・・誰かに教わらないといけないかもしれない。
「じゃあ私は警護団の報告を聞きに行くわ、大体はこれくらいの時間に聞いているからね。」
「そうか。すまないな、仕事があるのに見舞ってもらって。」
「いいのよ、私もあなたに一目置いてるんだから。またね。」
そう言って隊長は退室して行った。
「豊後か、本当にいつか行ってみたいもんだ。」
はやる気持ちを抑えきれずつい起き上がり窓を開ける。窓から見える景色はきれいに整えられた庭と剣術の稽古の最中であろうヨシテル様と義昭の姿が。
バレる前に窓をそっと閉じる、危ない危ない。バレてないよね?
急ぎ気味に布団へ戻る。・・・何も反応がないから多分大丈夫だ。
そういえばこの部屋の天井にも足利家の忍びはいるのだろうか?訓練用の槍の柄で天井を叩いてみる。
「誰かいるか~?」
すると天井の板が一枚引っ込み、そこから一人の忍びが飛び降りてきた。
「いじゃあっ!」
「ふふふっ。なんですか、その奇声は。」
「うっ、本当にいるとは思わなかったから・・・。」
出てきた忍びもこれまた女性だ、やはりこの世界は強い女性がたくさんいるのだろうなぁ。
「と、とにかくなんでこの部屋の天井裏にいたんだ?」
「ヨシテル様と義昭様に害のある人かどうか自分の目で確かめに来たんですよ。でもその必要も、もうないようですね。」
「それは何故だ?普通ならもっと確かめると思うんだが。」
「私はこれでも忍軍の組頭ですよ?人を見る目は自分でもある方だと思ってますし、部下から聞いた話ですが義昭様からとても良く思われているとか。」
「・・・確かに義昭様からは良くしていただいているなぁ。ああ、そういえばなんだけど俺には敬語を使わなくてもいいんだよ。」
「いえ、これは癖です。お気になさらず。」
「そうか?まあ良いのか。ここでは俺は新参者だから気を使わなくても。」
「それはなりません。貴方はヨシテル様と義昭様が認め側近となった人です。」
「うぅん、こそばゆいんだよなぁ。」
「では私はこれにて失礼します。」
天井へ一気に跳び、戻って行った。板はきっちり戻してくれたようだ。それにしても暇だ。散歩でもしたい。見つからないようにすれば大丈夫か、よし散歩に行こう。
そう思い音をたてないように襖を開ける。・・・開かない!?何故だっ!
「正虎さん」
「ぱああぁ!!」
後ろから誰かに話しかけられた、一人膝カックン状態になってしまった。見るとさっきの忍び組頭が。
「だからなんなのですかその奇声は。そういえばなんですがヨシテル様からのご命令でして『正虎が外に出ようとしたときは、決して出さないように』とのことです。」
「そ、そんな。暇をどうつぶせばいいんだ。」
「いえ、私たちとしてはそもそも暇を潰さず、寝ていて欲しいのですが。」
むぅ、確かに説教はもう嫌だしなぁ、仕方がない大人しく寝るか。俺は散歩を諦め布団に入る。組頭はどことなくホッとした感じだ。口元が見えないので雰囲気だけだが。
「良かったです。もし聞く耳持たぬのであれば、気絶させて寝かせようと思ってました。」
なんて事を聞こえるように呟くんだろう。おかげで寒くないのに震えが止まらない。俺が布団に潜り込んだことを確認して組頭はまた天井から退室する。あの人は普通に出られないのか、毎回あの登場の仕方だったら俺は毎回驚いでしまうんだ、頼むよ・・・。
そんな考え事をしていても布団に入っていれば睡魔は襲ってくるもの、俺はそのまま目を閉じた。
――――
――
―
気が付くと荒地、漫画で見るような岩場の荒地だ。
<ここは・・・どこだ?こんな風景見たことがない・・・。>
<ククク、ようこそ正虎。>
誰かに声をかけられる、周りを見渡したが誰もいない。
<だ、誰だっ!?どこにいる!?>
<ここじゃ。>
前の空間が突然歪み一人の少女が出てくる。白く長い髪のツインテールに赤い目をしている、額に目のマークがついていて頬には紫色の線が走っている。
<普通じゃないな、何者だ?>
<我はカシン居士。お前はヨシテルの下にいるな?>
<そうだが、それがなんだというのだ?>
<至極簡単なこと。我が家来となり我が手足となれ。>
<断る、俺はヨシテル様と義昭様に拾われた身。その恩義を忘れて他者の下へは行かんよ。>
<ククク、強がりおって。そうじゃ、我の下へ来るならばいずれお前を元いた世界へ帰してやろう。>
まるで世界の半分をお前にやろう的なやつだな、しかもいずれって・・・。というか、
<何故俺が異世界から来たと知っているんだ?>
<ククッ何故だろうなぁ?>
むぅさすがにそう簡単には教えてはくれんか。
<それにそう言ってもいずれなんて永遠にこないのだろう?>
<ほう、わかっておるではないか。当たり前じゃ、何故我がそんなことをせねばならぬのじゃ?>
<いや、それは俺に聞かれても・・・。>
どこか面白そうに笑うカシン。なんなんだ一体、俺を漫才のパートナーにしに来たのか?
<ならば我のしもべにしてやろう、光栄に思うがよい。>
なんということでしょう、家来からしもべにランクダウンしました。冗談じゃねぇぞ。
<何と言っても無駄だぞ。俺はヨシテル様達の下で生き、時が来れば帰るだけだ。>
するとますます笑みを濃くしたカシンは俺に問いかける。
<クッククク、それはどうかな?>
<正虎・・・。>
いつの間にか右側に義昭が居た。今までいなかったのになぜ居るんだ?
<正虎、私たちを捨てて帰ってしまうのですか・・・。私たちを裏切るのですか・・・?>
<・・・俺は裏切りませんよ。>
<じゃあ誓ってください、私を裏切らないと。私の言うことを聞くと。>
<よ、義昭様?何をおっしゃられてるのですか・・・?>
<誓えないというのですか?やはり裏切るのですね・・・。>
・・・違う。この義昭は『義昭』じゃない。まだ会って数日間だが『義昭』はそんな事は言わない!
俺は義昭の両肩に手を置く。肩に手を置かれた義昭は少し驚いた顔をしている。
<・・・お前は『義昭』じゃない。消えろ。>
すると義昭は霧散した。やはり幻だったか。
<我が術をはねのけるとは、やはり面白い奴よ。ますます我が家来に欲しくなったわ。>
<俺を堕とすために『義昭』を使ったのか、お前は。>
<クッハッハッハ!それのなにが悪い?我にとっては取るに足らぬ存在じゃ>
こいつっ!俺の恩人をコケにしやがって!
<ぐぬ・・ふん!>
自分の頬を両手で挟むように叩く。とても痛いがこれでいい。そして深呼吸で息を整える。
<何をしておる?とうとう怒りで気が触れたか?>
<バカ言え。こういう時でこそ冷静じゃなきゃならない。俺のいた世界じゃ先に手を出したら負けなんだよ。>
カシンは面白くなさそうな顔をする。
<ふん、つまらぬ。暇つぶしに来たというのに面白くないではないか。>
<今回は俺の勝ちだな。お、あの光は・・・。>
光で覆われている場所がある、直感だがあの光に行けば目が覚めるのではないか?
俺は早速その場所へ目指し歩く。
<待て!>
<何だ?まだなにかあるのか?>
<・・次はこうは行かぬ!覚悟せい、この堅物!>
<できればこういうのはこれっきりにして欲しいもんだが、将棋とかなら相手になるぞ。>
<将棋だと?よかろう。将棋で貴様を完膚なきまでに叩きのめしてくれるわ!>
カシンは手を上下にバタつかせながら勝利宣言をしている。なんともかわいい仕草だ、将棋は楽しみになってきた。一時は頭に血が上りかけたが、こういった関係を築けるなら良い選択をしたなと思う。
光る場所まであと少しと言ったところでカシンの方へ振り向く。
<カシン!そういえばお前は背が低いな!>
<な、なんじゃと~!待て正虎!その言葉後悔させてやるぞ!>
<はっはっは、さらばだ!>
カシンをからかい光る場所へ急いで入る、捕まったらえらいことになるからな。すると光はより一層強くなり目を開けてられないほどになり、ふいに浮遊感を感じた。
これで目が覚めるのか、俺はそのまま意識を手放した。
―
――
――――
「――ら!――さとら!正虎!」
ううん、誰かが体を揺すってくる・・・。俺はまだ寝たいんだ・・・。でも俺の名前を呼んでるってことは何か用があるのかな・・・じゃぁ起きよう・・・。俺は目を開ける。するとヨシテル様と義昭の顔が。なぜか涙目で。
「ああ!正虎!目が覚めたんですね、良かった!」
義昭は強い力で俺に覆いかぶさるように抱き着いてくる、キツイキツイ・・・。ヨシテル様もとても安心した表情だ、いや義昭を止めてください。
「よ、義昭様。力緩めてください・・・苦しいです・・・。」
「あ。ご、ごめんなさい。」
上体を起こす。朝の陽ざしが眩しい。でも何故俺の部屋にヨシテル様や義昭様が居るのだろう。昨日会った隊長と組頭、見たことはないが白い巫女服を着た人までいる。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
「正虎、貴方はうなされていたのです。」
ただうなされていただけだと思うんだが、ただそれにしてはここにいるメンバーは異常だ。やっぱりなにかあったんじゃないか?
「ヨシテル様、俺がうなされていただけなら何故ヨシテル様達はここへ?」
「・・・あなたがうなされている時、額に目の紋章のようなものが浮かんでいました。ただ事ではないと組頭から報告を受けたのです。」
額に紋章だって?しかも目の紋章なんてカシンと同じじゃないか。
「巫女の守り人の話ではあれは恐らく洗脳の呪術ではないかと。夢か幻かに心が屈した時、その呪術の主を絶対とするそうです。」
「正虎は私の名を呟いていました。夢に私の幻が出てきたのですか・・?」
義昭はそう聞きながら腕に力を入れる。痛いがそれほど不安だったんだろう。
俺は義昭の頭に手を置き、優しく撫でる。できる限りその不安を和らげるように。
「ええ、義昭様。でも所詮は幻です。現に俺はこうして戻ってこれたのですから。」
「うぅ、本当に良かったです・・・。」
さらに力を入れてくる。正直とても痛いがそれでも撫で続ける。
「正虎、あなたは呪術を破りました。つまり精神的にもとても強いということ。これは素晴らしいことですよ。」
「ヨシテル様・・・、ありがとうございます。皆もありがとう。」
「さあ今日は宴にしましょう!」
『はい!!』
笑顔いっぱいにヨシテル様は腕を上げる。義昭や隊長、組頭と巫女の守り人までいい笑顔で同じく腕を上げ返事をする。
俺?もちろんやったさ。高々と手を挙げたとも。
その日の宴は盛大だった。正直盛大すぎるのではと思ったのだがヨシテル様と義昭がとても楽しそうにしていたので、良いか。
そして深夜、一回り大きい満月が光り輝く。たしかスーパームーンだったな、こういうの。
この二条御所で宴が開かれたなんて嘘のような静けさだ。縁側に腰を下ろし月を見上げる。月は俺のいた世界と変わらない、いつも夜に見ていた月だ。
しかし月は変わらずとも俺のいる場所は変わってしまった。いつかはまたビルの合間に見える月を見ることができるんだろうか。
・・・後ろから誰かが近づいてくる、誰だ?とりあえずすぐに動けるように腰を少しだけ浮かせておく。
「正虎?こんなところで何をしているのですか?」
どうやらヨシテル様だったようだ。ほっとした俺は浮かした腰をおろす。
「いえ、少し月見をしていました。」
「なるほど。私も隣に座って月見をしても良いですか?」
「ええ、もちろん。」
ヨシテル様が隣に座る。初めて会った時と変わらず白を基本としている着物を着ているようだ。月の光がヨシテル様をよりいっそう美しく魅せる。
「宴は楽しかったですか?」
「ええ、あんなに楽しい宴は元いた世界でも滅多にないものです。」
「そうですか、良かったです。」
そして少しの間お互いに無言になる。
「俺は・・・」
「・・・はい。」
「俺は決してヨシテル様や義昭様を裏切りません。
拾ってくれた恩義を返すことができるまで、いや返した後も俺はヨシテル様達を信じぬきます。
それが今の俺にできる最大の『義』です。」
「ありがとうございます、正虎。・・・一つ訊いてもよいですか?」
「はい、なんでも訊いてください。」
「では。あなたの『義』とはなんですか?」
「これはまた答えにくいですねぇ、俺は『義』という意味は人それぞれではないかと思っています。そしてこれまた意味が幾つかある場合もございます。それをふまえて言わせていただきます。
俺の『義』とは一つは感謝のお返しです。命を助けられた、なら次は俺が命を懸けて守る。
まあ借りは返すみたいなもんですよ。
一つは約束は必ず守る。それが友人や親しい人との約束であればなおのことです。もう一つは筋を通すこと。この三つが俺の『義』です。」
「なるほど、良い『義』です。やはり私の思った通り正虎は義理堅い人なのですね。」
「俺はそんな大層な人間じゃないですよ。元いた世界では俺はただの一般人でしたし。」
「確かにそうかもしれません。けれど私と義昭にとって正虎は大切な人です。」
「ヨシテル様・・・そう言ってもらえるならこの世界に迷い込んで良かったのかもしれません。」
「さて、実はお酒を持ってきているのでこの辺で月見酒と参りましょうか。」
いつの間にかさっきの宴の酒とお猪口が二つある。先にヨシテル様に酒を注ぐ。そしてそのお返しにヨシテル様に酌をしてもらった。
「「乾杯。」」
タイミングぴったりに乾杯し注いでもらった酒を飲み干す。・・美味い。
「ん・・・美味しいですね。」
「ええ、ヨシテル様から注がれる酒なら美味さも上がりますよ。」
「ふふっ口が上手ですね。」
本心なんだが。実際にこんな美人から注がれた酒なら美味いに決まってる。
こうして俺とヨシテル様は月見酒を存分に堪能した。
したのだが。
「まさとら~なんでふたりにぶんれつしてるんですか~?」
酒のほとんどをヨシテル様が飲んでしまったせいで酔っ払い状態に。しかも分裂ってアメーバじゃないんだから。
「ヨシテル様、俺は分裂なんてしてませんよ?」
「じゃあこっちがにせものですか~?」
「いだだ、髪の毛を引っ張らんでください。」
「でもまさとらの『ぎ』はりっぱでしたね~なでてあげます~」
引っ張られたと思ったら撫でられた。何故撫でられることになったかはわからないがとりあえず気持ちはいいな。
「じゃあおかえしにまさとらもわたしをなでてください。」
「それよりそろそろ水をお飲みになったほうが良いのでは・・・?」
「そんなことよりなでてください。」
どうあっても撫でなきゃならないようだ、しかしいつもと違ってなかなか強引だなぁ。これが酒の力か?
そう思ってる間もヨシテル様の頬は膨らんでくる、そんな怒り方を生で見れるとは。とりあえず前のように撫でる。とても気持ちよさそうに目を細める。
「いいですかまさとら。よしあきだけなでてわたしをなでないのはだめですからね!」
「いえ、あの時は隊長たちの目もありましたし。それはどうかと思ったので。」
「むぅ~とにかくだめですからね!こんごはわたしもなでるのですよ!」
「はぁ、ヨシテル様が構わないのであれば。」
「んふふ~ぜったいですよ。ほら、もっとなでるのです!」
撫でれば撫でるほど上機嫌になるヨシテル様。こんな一面もあるのかと俺は内心驚いたがこれはこれでかわいいので良しとしておこう。
するとヨシテル様は俺の胸に顔をうずめた。
「・・・私だって心配したんですからね・・・。」
「・・・ヨシテル様。あの件ならもう心配無用です。ご安心を。」
そのまま撫で続ける、確かにあの時のヨシテル様も少しだけ目に涙を浮かべていた。義昭と同じく相当心配させてしまったのだろう。
でも今の俺にできることはこうして撫でることだけだった。
そのままヨシテル様は寝てしまった。とても安心した表情をしている。
さすがに俺一人ではヨシテル様を起こしてしまうかもしれなかったので一部始終見ていた組頭に手を貸してもらうことに。
組頭はニヤニヤしながらだったがそれでも手伝ってくれたので感謝している。
ヨシテル様を寝室まで運び布団をかける、組頭とは廊下で別れ、俺は自分の部屋へ戻った。
そしてこの先ヨシテル様が酔っぱらってしまったときなるべく近づくのはよそうと心に決めたのであった。
カシン様初登場です!作者的にキャラが掴みやすそうで掴みにくいです。
カシン様はとりあえず人を小馬鹿にしてる感じでいいかと思い早めの登場となりました。
最近じゃこの小説の先を考えることが楽しくて仕方がない毎日です!
幻術で洗脳とかやりそうじゃないですか、人の苦しむ姿が大好きなカシンは。あれ、そんな大物芸人いたような・・・。
そういえばなんですが正虎の強さですが、目安として戦国乙女たちのカーストで言えば下位です。ただ一般人のみのカーストだと最上位です。