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見やすいようにまとめました!
~ぷれぜんとを渡そう~
・・・あれから一週間がたった。
あの手合わせはヨシテル様の部下が覗き見していたらしく、そのおかげか俺の剣の腕が噂として城内に一気に広まった。
そして義昭様は俺のことをいたく気に入ったようで、ヨシテル様に『正虎を私の側近としたい』と言ったそうだ。
しかし当然ながらその申し出は却下された。確かに突然現れた奴に身内を任せるのは愚行だ。そして結果がヨシテル様の側近だった。
このヨシテル様の考えとしては『正虎の人柄を私自ら見極めます』
とのことらしい。
なんてことだ、より重要な立場になってしまったじゃないか。将軍の側近とはなぁ・・・。
しかしどちらにしろ俺は足利家に仕える身になる、さすがに接し方は変えた。ただ義昭様は接し方を変えるとかなりがっくりしていた。拗ねてるようにも見えた。
さて、突然だが今は明朝。俺は庭にいる。
それは「正虎さ~ん!」お、来たな。
小柄な薄緑の髪をした、これまた男の娘が走りながら手を振る。
名前は相田コタロウ。コタロウとは昨日初めて会い意気投合したのだが、その話題が牛乳とは。
ちなみに俺は毎日一番最初に飲む飲み物は牛乳と決めている。
話をするに恐らく頑張り屋だろう、俺に『一緒に特訓しましょう!』と言ってきたからだ。
「正虎さん、今日はボクと一緒に頑張りましょう!」
「ああ、ところで特訓とは具体的に何をするんだ?」
「それは決まってます、素振りです!」
素振りか、妥当だな。
「それじゃあ、始めましょう!」
「よし!」
――――
――
―
「いい汗かけましたね!」キラキラ
「ぜぇ~、はぁ~・・・」グッタリ
この子はバカなのだろうか、素振りが千回超えたあたりから数えるのをやめたよ・・・。ああ、もう昼頃だなぁ。太陽が真上で輝いている。
「ではボクはお風呂で汗を流します、今日の夜には城に戻らなければなりませんからね。」
「そ、そうか。湯冷めしちゃ・・・駄目だからな・・・。」
「はい、今日はありがとうございました!また一緒にやりましょう!」
「あ、ああ、こっちこそありがとう。」
コタロウは元気に走っていった。まだ走れるとはなんという体力、凄まじいな。
ちょっと休憩して男湯に行こうか・・・。
――――
――
―
やはり汗をかいたらお風呂だ、いい湯だった。
「正虎さ~ん」
「あ、どうも。風呂上がりで申し訳ないですが何の用でしょう?」
「義昭様がお呼びだそうですよ。」
「それはどうもありがとうございます、髪を乾かしたら参りましょうかね。」
「それがいいかと、では私はこれにて」
「それはそうと俺に対しては別に敬語じゃなくていいですよ、一番の新参者だし。」
「さすがにヨシテル様とのあの手合わせを見て、それに側近に就かれたのですからそんな恐れ多いことは。」
「恐れ多くないんだけどなぁ、まあ出来ればでお願いします。」
「くすっ、わかったわ。」
さて、早く乾かさなければな。
――――
――
―
うん、乾いた乾いた。義昭様の部屋はっと、ここだったな。
「義昭様。正虎参上申し上げます」
「正虎!待ってましたよ!」スパーン!
「ああぁい!?」
なんと俺が襖を開ける前に義昭様が開けてしまった、びっくりして飛び上がってしまった。
「よ、義昭様。突然開けられるとびっくりしてしまいますし、そもそも俺が開けるのが普通では・・・」
「そんなことはいいのです、さあ早く早く!」
手を引かれ、まるで引きずられるように中に入る。
「それで義昭様、今日はどういった御用で?」
「正虎に聞きたいことがあるのです、なぜ敬語なのですか?」
「は・・・?いえ、それは当然でございましょう、現に俺は部下なのですよ?」
「ならばこれからは私と二人きりでいるときは敬語をやめてください。」
「それは色々マズいのでは?」
「い~え。これは譲りませんよ。」
う~むなぜこんなに頑ななのだろうか、二人きりか・・・。
「・・・わかったよ、二人の時は普通に話すよ。」
義昭様の顔がパァッと明るくなった、よほど嬉しいようだ。
「じゃあこれから二人きりの時は敬語は使わない、様付けもダメでいいですね!」
「呼び捨てってことか?それは駄目だろう。」
「さっき『わかった』と言ったではないですか、二言こそダメですよ。」
「むっ、これは一本取られたな。」
義昭がしたり顔をしている。まんまとはまってしまったか。
「では本題に入りましょう。私は正虎がいたという世界の話が聞きたかったのです。」
――――
――
―
もう夕方か、我ながら随分と長話してしまったな。しかし義昭の反応が面白く、つい話してしまうというのが正解だろう。
「義昭様、正虎さん。ヨシテル様がお呼びです。」
侍女だろうか襖の向こうから声がかかる。
「ヨシテル様がお呼びとは。何にしても参りましょうか義昭様。」
「待ってください、正虎。姉上のところへ行く前にお願いがあります。」
「なんでしょうか、俺にできることならなんなりと。」
「では頭を撫でてください。」
そう言うと義昭はずいっとこっちに近づいてきた。
「・・・よろしいので?」
「はい!お願いします!」
ゆっくりと義昭の頭に手を置き、なるべく優しく撫でる。さらさらしていてやわらかい。ずっと撫でていたくなるような撫で心地だ。
「・・・はふぅ、いい気持ちです・・・。」
顔は見えないがどうやら喜んでくれたようだ。
「義昭様、そろそろ行かねばなりませんよ」
そう言って手を離す、義昭はとてもいい笑顔だった。
「また撫でてくださいね?」
「・・・二人の時なら喜んで。」
「今はそれでいいです、さあ行きましょう。」
今はって言った?大勢の目の前で撫でろなんて言われたら恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
――――
――
―
「ヨシテル様。正虎、義昭様とご一緒に参上いたしました。」
「どうぞ、入ってください」
俺と義昭はヨシテル様の部屋へ入る。
「正虎、この一週間に貴方の人となりを見てまいりました。」
い、いつの間に・・・。
「そして私は決断しました。私、足利ヨシテルは正虎を正式に足利家の側近になることを認めます。」
正式に・・・?ってことは俺は。
「これからは貴方にも仕事を頼むつもりです。よろしくお願いしますね。」
「は、はい!こちらこそ!」
「やはり姉上はいつだってより良い判断をしてくれます、私の誇りです。」
ちらっと見ると義昭がまたしたり顔をしている。かわいい。
「では明日から仕事を言い渡しましょう、下がっていいですよ。」
「了解いたしました。」
「義昭も下がっていいですよ。」
「わかりました。では正虎行きましょう。」
「はい。」
―翌日―
明け方、俺はヨシテル様の部屋へ向かっている。俺にとって初仕事だ、何をすることになるやら。
「おや、正虎ではないか。」
「あ、ミツヒデ様。おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
明智ミツヒデ様と鉢合わせた、実は三日前もこうだったのだ。あの時は夜中だったから廊下の曲がり角で鉢合わせたときにお互い変な声出しながら腰抜かしたっけ。
俺が「かっらああぁ!」でミツヒデ様が「ぴゃわああぁ!」だったな。だがお互い親近感がわいたのかなんとなくうまがあった。
「これからヨシテル様のところへ行くのか?」
「ええ、初仕事を言い渡されるようなので。」
「この時間ならヨシテル様は鍛錬に励んでおられるぞ。」
「むむ、それは。どうしよう。」
「時間があるのなら私が稽古をつけてやろうか?」
「それは有難いです。コタロウと特訓した時は素振りしかしなかったからなぁ。」
「コタロウの素振りに付き合ったのか、それはさぞ腕が疲れただろうな。」
「はは、おっしゃるとおりで。」
「では稽古で正虎に一番合っている戦い方を見つけようか。」
「戦い方ですか。」
「そう、例えば私ならこのクナイを無数に投げて戦うのだ。」
「なるほど、遠距離での攻撃ということですね。」
「その通り、では行くとしよう。」
ミツヒデ様についていくように歩く、この方向は訓練所だったかな。
――――
――
―
「さて、訓練所に着いたぞ。まずはここにあるそれぞれの武器で木人形に撃ちこんでみるのだ。」
「わかりました。」
さすがに訓練所、どれも木製のようだ。それに木人形も何体かある。まずは木刀かな。
「ではいきます。」
木人形に全力で上段に撃ちこんでみる。
「ほう。」
木人形は音をたてて壊れてしまった、やっちゃったかこれ・・・。
「なるほど、一発の威力は見事なものだ。では次は速さを意識して斬ってみよ。」
「あ、はい。」
どうやら壊してしまっても大丈夫なようだ。木人形との間合いを一気に詰め下から斬りあげる。今度は壊れはしなかったが、真剣で切ったような痕ができた。
「ふむ、速さはまあまあといったところか。次は槍を使え。」
よし、どんどんいこうか。
――――
――
―
ふう、これでぜんぶ試したか。
「どうだ、正虎。お前はどの武器が手に馴染んだのだ?」
「そうですね、双剣と槍でしょうか。」
この二つかな、双剣は右手は普通に持つけど左手は逆さに持った方がよく馴染む。
「そうか。それにしてもその双剣の持ち方は見たことがないな。」
「まあ、俺も内心びっくりしてますよ。」
こんな変な持ち方は見たことがないよなぁ。
「ふむ、お前は恐らく相手の攻撃を受け止め、弾き、攻めに転じる戦法が一番合うかもな。」
なるほど。カウンターというやつだな、それは好きな戦法だ。それに右手なら両手での威力と比べてもあまり遜色ないし。
「槍なら一撃の威力を重視した戦法が最もよいか。」
確かに槍で木人形を力任せに横に薙ぎ払った時は、槍と木人形の両方を壊してしまったが気持ちがよかった。
「では次は技を身に着けようか。」
「技・・・?足払いとかですか?」
「そんな技じゃないさ、今からやってみせよう。」
ミツヒデ様が木人形に何本かのクナイが投げる、すると刺さったクナイが爆発した!
「うわっ!火薬仕込みなのか・・・?」
「ふふふ、これこそ我が必殺技『朱雀剛爆砕』!」
ミツヒデが得意気に眼鏡を上げる。
「いやこの超常現象は無理があるでしょ。」
もう絶対無理だよ、これ。
「何を言っている、お前が互角に打ちあったヨシテル様も必殺技を持っておられるのだぞ。」
やっぱり俺と打ちあったときは手加減してくれていたのか。
「ちなみにヨシテル様はどんな必殺技を?」
「『天剣一刀雲切』という必殺技を使われる。居合抜きですべての物を斬る技だ。」
「『天剣一刀雲切』・・・。」
あの大泥棒と一緒にいる、トマトが嫌いな侍の斬鉄剣みたいなものか?
「お前はどんな必殺技を身に着けるのか今から楽しみだ。だが今日はもうよしたほうが良いだろう。」
「へ・・・?あ、初仕事!忘れていた・・・。」
「心配無用だ、私からヨシテル様に伝えよう。お前は湯を浴び汗を流すのだ。そのままでヨシテル様へ会うのは無礼にも程があるぞ。」
確かにそれはそうだ。
「わかりました、では俺は浴場へ行きます。今日はありがとうございました。」
「ああ。お前が上がる頃にはヨシテル様も鍛錬を終えられているだろう。」
――――
――
―
あの後ミツヒデ様と別れ、風呂にて汗を流し終えた。髪は乾いたはずだし、ヨシテル様の鍛錬終わってるといいな。
そんなことを考えているうちにヨシテル様の部屋に着いた・・・が、なんだか違和感が。緊張感というか・・・。
とにかく入るか。
「ヨシテル様、正虎参上いた「正虎ですか!?早く来てください!」」
どうしたのか切羽詰まってるようだ。ともかく入ろう!
「は、はい!失礼します!」
中に入ると・・・
「正虎!あ、あの蜘蛛をなんとかしてください!」
蜘蛛相手に抜刀しているヨシテル様の姿が、何だこれ。見れば柱に小さい蜘蛛がいた。刀を振り回したのかヨシテル様の周りには斬られたであろう筆やらの残骸が。
「ヨ、ヨシテル様?何をされておるのですか?」
「わ、私は蜘蛛が大の苦手なんです!」
それで普通刀を抜くするかね・・・。とりあえず足元にあった紙を取り蜘蛛を乗せる。
「さすがにヨシテル様が苦手であればここでは殺しません、外に放り投げますよ。」
「そ、そうですね。さすがに蜘蛛といえど命あるものですからね。」
抜刀しておいて何を言っているのだこの人は、その構えは斬り捨てる気満々じゃないか。そう思いヨシテル様を見ると、涙目であった。かわいい。
「そら!」
窓を開け蜘蛛を放り出す。これでよし。
「正虎、もう蜘蛛は居ませんよね?そうですよね?」
「見たところ蜘蛛は一匹だけのようですし大丈夫だと思いますよ。」
「本当ですね?う、嘘をついたらひどいですよ?」
『嘘をついたらひどい』なんて言葉を生で聞けるとは思わなかった。しかし本当にいないのでそう言うしかない。
「大丈夫ですよ、それより刀を鞘に納めてはくださいませんか。」
「あ。そ、そうですね。正虎ご苦労様です。」
ようやくヨシテル様は刀を納めてくれた。今日のこの出来事でこれまでのヨシテル様のイメージは粉々に砕け散った事は言うまでもない。
「で、では、改めて。正虎に任務を言い渡します。」
不安そうに目で蜘蛛がもういないかキョロキョロしないで下さい、かわいいから。
「正虎、貴方の任務は私の護衛です。」
「護衛ですか?蜘蛛から守ればよろしいので?」
「そ、それは忘れてください!・・・コホン、護衛と言ってもそれは形式上です。貴方には今後義昭の護衛もやってもらうつもりです。そのために、これからは私の鍛錬に付き合ってもらいます。」
「わかりましたが二つ質問が。」
「なんでしょうか。」
「鍛錬の内容は如何様なものでしょうか、また、鍛錬を行われる時刻を聞きたいのですが。」
「内容は剣術の指南と言ったところでしょうか、わかりやすく言えば弟子です。時刻については明朝、夕刻に私の鍛錬場に来ていただきます。」
「時刻は了解しました。まさか弟子にしていただけるとは、思ってもいませんでした。」
「ミツヒデから聞きましたよ、なんでも変わった双剣と槍の戦法を見つけたとか。ふふふ、今からが楽しみですね!」
なんだろう、ヨシテル様は俺をボロボロにしないと気が済まないんだろうか。そんなに蜘蛛との対峙を見られたくなかったのか。
「死なない程度にお願いします・・・。」
と言ったあとで「さすがにわかってるか」と思い直した。
「大丈夫です、私は戦国乙女の一人ですよ?加減はわかってます!ふふふ!」
前言撤回。本当にわかってるんだろうか、心配だ。俺の身が。
というわけで家臣から側近へグレードアップ!まあ実際にはこのくらいの地位がないと武将クラスの人とは話ができませんからね。
作者の嫁?エロねーちゃんだよ。
正虎の構えはF〇の野良犬さんからです。作者はDD〇Fで『死なない野良犬』を考えたほど野良犬さんが好きです。
槍に関しては前〇慶次郎から。
ちなみに正虎は一般人なので炎をだしたり光らせたりはできません。