現界突破   作:逆本 兼幸

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豊後へ無事到着した正虎達。
そこは京の町に劣らぬ活気に溢れた町であった。


~高く高く歌えよ~

 

―豊後―

 

「着きましたよ!ここが我が豊後です!」

 

着くなりバイクから降りてぴょんぴょんとジャンプしながらソウリン様は言う。

 

見回してみると京の町にも劣らないほど活気があり、ところどころに外国人らしき人も見える。

西洋料理などで使う食材、野菜ならパプリカやエシャロットが売っている。ワインの看板を掲げてる店もある。

そしてなにより俺の目を引いたのは立派に建っている教会。屋根には十字架が。

 

「では早速この豊後で一番腕の良い技師のところへ行きましょう。」

 

ソウリン様は前を歩いて行く、俺はそれについていくようにバイクを押して歩く。

機嫌が良いのかソウリン様はスキップで歩いていくのでその後ろ姿はもはや子供そのものである。

微笑ましいことこの上ない、すれ違う人たちもソウリン様を見てほっこりとした顔をしている。

 

さて、置いて行かれる前について行こう。

 

 

 

 

 

―丹生島城―

 

なんということでしょう、ソウリン様は腕の良い技師をお城に来させたようです。

思い切ったもんだな・・・、一般人の俺にはそんな発想はできんなぁ。

 

「オーこのカラクリ、なかなか面白い構造をしてマース。」

 

今このバイクを見てくれている技師は南蛮技師の中でもとても優秀だそうだ。でも言葉は似非外国人の口調そのものだ。

そのうち「フジヤ―マ、テンポーラ」とか言ったらどうしよう、とちょっとした不安と期待していた。

 

「ナルホドー、ここに燃料が入っているのデスね?・・・で、その燃料があと半分もナイというわけデスね~。」

 

ほんの少しの時間だけで燃料のある場所がわかるとは流石優秀な技師だ。ソウリン様は「えっええ、そうですね。」と目を逸らしながら相槌を打つ。

ソウリン様にこのバイクの構造がわかるわけがないので直後俺がフォローを入れる。

 

「はい、このバイクの燃料はガソリンという液体でして・・・」

 

技師はとても興味深そうに聞いてくれた、そしてなにか思いついたような顔をした技師が俺とソウリン様に言った。

 

「いいことを思いつきマシタ!もしうまくいけばこれからの燃料の心配もしなくて済みマスよ~!」

 

俺はとても驚いた、何故なら現代の技術でも実現が難しい半永久的なエネルギーをこの技師は出来ると言っているのだから。

 

「そ、そんなことが可能なのですか!?」

 

「あくまでうまくいけばの話デース、こればっかりはチャレンジデース。」

 

「むむ、・・・ではお願いします。」

 

「任せてくだサーイ。」

 

そういうと早速技師はバイクに向かった、ちなみにソウリン様はガソリンの話のあたりでついていけなくなったのか明らかにわかってなさそうな顔をしている。

 

「というわけでソウリン様、もう夕方ですがこれからどうしましょうか?」

 

「・・・・え?あっはい!では御殿に行きましょうか!」

 

 

 

 

―丹生島城 御殿―

 

さて、この御殿ではただいま宴会の真っ最中だ。

何故かといえば御殿に着いた途端、ソウリン様が「せっかくですので宴会をいたしましょう!」と言ったことが切っ掛けだろう。

ソウリン様は俺を城の皆に紹介してくれた、そのおかげですぐに打ち解け、今では話も盛り上がる程だ。

 

「へぇ~!正虎様は練り切りがお好きなんですか~。」

 

「ええ、柔らかくて、あの適度な甘さ。濃いお茶と合うんですよ。」

 

「とってもよくわかります!」

 

「確かに練り切りは美味しい、だが私は固焼き煎餅が好きだな!」

 

「お、煎餅ですか。醤油の固焼き煎餅は俺も好きですよ。」

 

「流石正虎殿!わかってらっしゃる!」

 

左手に持っていたお猪口に注いでもらっていた酒を飲む、こういう時間はとても充実した気分になるもんだ。

こんな感じで侍女と兵士と話し合う、すると侍女がそういえばとあることを言う。

 

「あの、正虎様。こういった酒の席でのことなんですが・・・。」

 

「む、何かあったので?」

 

「いえ、何かあるというかこれから起こってしまうというか・・・。」

 

「うむ・・・。あの事か、確かにあれは言いづらいな・・・。」

 

侍女の言葉に兵士は何かを感じ取ったのか、二人ともどこかへ目を逸らし、歯切れが悪い。

 

「気になりますね、話してもらえますか?」

 

「ええ、それはもちろん。むしろ聞いて欲しいくらいです。」

 

そういうと侍女は酒を一口飲み、喉を潤す。宴会ならではの喧騒もあまり気にならないほど俺は侍女の言葉に集中する。

そして侍女が口を開いた。

 

「正虎様、ソウリン様にはお気を付けください。」

 

「・・・へ?ソウリン様に?何故です?」

 

「ぬ・・・ソウリン様は酔われたらあまり手に負えんのだ。」

 

それって・・・

 

「つまり酒癖が悪いってことですか?」

 

「身も蓋もない言い方をすればそうなります。」

 

「本当に容赦のない言い方だな、でもその通りだ。特に酔った勢いで武器を持たれたら厄介だ。」

 

そんなに悪いのか・・・。どれ程のもんか気になるが、俺のいた世界でもいわゆる酔っ払いはとても厄介なものだ。それはやっぱりこの世界でも変わらないんだろう。

するとソウリン様がワイングラスを片手にこっちに向かってくる。

 

「む、噂をすればソウリン様が向かって来られる。」

 

「本当ですね。で、では私たちはこれにて失礼します。」

 

侍女と兵士が慌てたように俺を残してそそくさと去ってしまった。ま、まずい、そうこうしている間にもソウリン様が向かってくる。

顔が真っ赤になってるあたり酔ってそうだ。

 

「ましゃとら~のんれますか~?」

 

つかまってしまった・・・。呂律が回ってないところを見ると相当酔ってそうだ。

こういう時には相手の気分を害しちゃ駄目だ、酔ってるから短絡的になってる可能性があるからだ。

できるだけ笑顔で・・・

 

「ええ、ソウリン様。飲んでますよ。では俺は料理を取りに・・・。」

 

「まちなしゃ~い!」

 

くっ、着物を掴まれた。これじゃ逃げられん。

その隙にソウリン様は俺の前へ回り込んで来る、潤んだ目をして上目づかいでこっちをみる。

これで酒の匂いがなかったら多分惚れてたかもしれない。

 

「な、なんでしょうか?」

 

「・・・つぎなしゃい。」

 

ワイングラスをずいっと差し出してくる。本当に・・・こういうのがなければ・・・。

俺は少し項垂れたが、ある疑問が湧きあがった。一体ソウリン様はどれほど酒を飲まれたのだろうか?

近くにあったワインを取って注ぐ、ついでにその疑問をぶつけてみることにした。

 

「一体どれ程飲まれたんですか?」

 

「あそこのたるひとつぶんれすよ~えっへへへ~。」

 

・・・マズい、あまりの衝撃的な発言だったので手に取ったワインを落としかけた。

それに俺は酒は好きだが酒に弱いんだ、すぐに顔が赤くなる。これは本当にマズい。酒豪というのは飲み比べが大好き・・・な気がする。

樽に満タンに入った酒を飲み干せるソウリン様と飲み比べなんてしたら、急性アルコール中毒待ったなしだ。

ここはなんとしても逃げなければ。

 

「なるほど~あの樽ですか。では俺は料理を取ってきますので。」

 

「ましゃとら~きいてくださいよ~みんながこれいじょうのんじゃらめっていうんれすよぉ~。」

 

「そ、そうなんですか。では料理を・・・。」

 

「わたひらってもうりっぱな『れでぃ』なのれすからへいきなのにれすよ~?」

 

「あ・・・あの、料理を・・・。」

 

「そうはおもいましぇんかぁ?ましゃとらぁ?」

 

・・・駄目だ、ちっとも話を聞いてくれない。この世界の武将は悪酔いしかしないんだろうか。

ヨシテル様の酔った姿はちょっとドキッとしたが、ソウリン様の酔い方はホントに酷い酔っ払いのそれだ、一瞬でもドキッとした自分が少し恥ずかしい。

 

「正虎様~!こちらに新しい料理がございますよ~!」

 

先ほどの侍女が手を上げて助け舟を出してくれた。その隣に兵士もいる。

ありがとう、是非とも乗らせてもらうよ。

 

「あ、ああ!今行くよ!」

 

・・・ん?行こうとしたらソウリン様が不機嫌な顔で俺の手を掴む。

ソウリン様の手は俺の手と比べて少し小さいが柔らかい。とてもあんな大砲をぶっ放そうとした手とは思えないほどである。酒で体が温まっているからか俺の手よりも暖かい。

しかしそろそろ離してもらえないと、行けないな。

 

「あの~ソウリン様?」

 

「む、すこしくらいつきあってくれてもいいれはないれすか・・・。」

 

・・・。

 

「・・・わかりました。俺の配慮が足りませんでした、すみません。折角の宴ですもんね、とことん付き合いましょう。」

 

するとソウリン様はさっきの不機嫌顔とは打って変わってパァっと嬉しさが見てわかるほど笑顔になる。

侍女はそんな俺とソウリン様を見て察したのか苦笑いを浮かべて、気にしないでといった風に手を振ってくれた。

軽く手を上げ反応を返してソウリン様の方へ向かい合ってお互い思う存分に話をして盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

夜、この時代は町の光があまりないので夜空の星がとてもよく見える。

この星空に立派な月ともなれば、どうしたって見てしまうものだ。俺は縁側に腰を掛け、前の二条御所の時のように見ている。

 

「あれ?正虎様?こんなところで何を?」

 

「うひぃっ!!?」

 

気配がまるでしなかったのに急に声を掛けられたので、慌てて立ち上がって振り返る。

そこにはソウリン様のお付きの侍女が居た。呆れた様子で。

 

「何故驚かれるのですか・・・、ここは比較的安全な場所だというのに・・・。」

 

「む、それは仕方がないでしょう。自分でもわかりませんが驚いてしまうんです。」

 

「そういえば先ほどの宴でソウリン様と話し合われていましたね。」

 

「ええ、ソウリン様は俺のいた世界の話にとても興味があったようで、かなり話しましたよ。」

 

「ソウリン様も大変お喜びになっていましたよ、見ているだけでこちらも楽しかったです。」

 

「いやいや、茶化さないでいただきたい。」

 

やれやれ、この世界でも女はそういう話は大好きなのだろうか。まあ、俺にはあまり縁のない話だったんだがな。

・・・ふ、ふふ、自分で思っていて悲しくなってきた・・・。

 

「あら、将来正虎様に恋をする人は苦労しそうですねぇ。」

 

「む、俺はそんなに鈍感ではないつもりですが。」

 

「そうお思いでいらっしゃるのが何よりの証拠です。」

 

人というのはここまで憐れみを持った顔ができるんだなぁ・・・、ただしその意見は認めない、認めたくないが。

・・・うぅ、さすがに冷えてきた。そろそろ布団にもぐりたい・・・。

 

「そ、そういえば俺はどこで寝ればいいんですかね?」

 

「ご安心を。そのために私が来たのです。こちらへどうぞ、今日正虎様がお泊りになるお部屋へご案内します。」

 

侍女が歩き出す、案内してくれるのだからここは大人しくついて行こう。

 

 

 

 

 

案内された部屋にはもう布団が敷かれていた、侍女に礼を言った後侍女はその場を後にしたので俺は布団にもぐる。

ああ、なんと暖かいし心地いいんだ。すぐに睡魔がおそいかかり、俺は瞼を閉じた。

その5分後その部屋からは寝息しか聞こえなかった。

 

 

 





何故だ・・・何故ムラサメや鬼灯におねだりミッションが無いんだああぁ!!

それにしても更新スピードが落ちてしまってますが乙女小説への熱が冷めた訳ではないのでご安心を。


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