再び豊後へと向かうため船着き場を目指す。
日がほんの少しだけ傾き始めた、メーターで時間を確認すると14時ちょうどだった。
モトナリ様と別れた後バイクをしばらくの間走らせている。
「正虎さん、もうすぐ船着き場ですよ。」
「そうですか。船に乗るなんて中々経験したことなかったんですよ。」
「ええっ!?こんなバイクを乗りこなせるのにですか?」
「まあ、機会がなかったものでね。」
「じゃあ遠出するときにはどうするんですか?」
「大体はこういったバイクや車といった乗り物で行くんですが、かなり遠い所へ行くなら飛行機で行きますね~。」
「え、くるま?ひこうき?それってどんなものですか?」
「車はそうですね・・・、このバイクを並べて屋根を付けたような感じですか。飛行機というのは空を飛ぶ大型の乗り物です。」
「・・・想像が難しいです・・・。」
「ま、まあ紙と筆があれば絵を描きますのでそれまでのお楽しみということで。」
「むむっ、わかりました。・・・あ!見えてきましたよ!」
おおっ、海が陽ざしを反射しまるで宝石のようにキラキラと光っている!む、あれが船着き場か。船が停泊して・・・っ!?
なんだあの船は!?まるで教科書やゲームで見る西洋の船じゃないか!?大きくて立派な帆が特徴的な船だ。
「ふふん、驚きましたか?正虎さん。」
後ろから得意気な口調でソウリン様は言う。何故ソウリン様が得意気なのだ・・・。
「え、ええ。驚きました。」
「あの船は何を隠そう、豊後の技術力で造り上げた南蛮船なのです!」
なるほど、それでソウリン様が得意気になったのか。納得がいった。しかしあれだけの船を造りあげれるとは、本来の目的であったバイクの燃料の代わりが見つかるかもという期待は高まってくる。
―船着き場 正面―
「着きましたね、ここからはバイクは押して行きましょう。」
「押して行くのですか?相当重いんじゃないんですか?」
「大丈夫です、車輪が転がってくれますので見た目ほどの重さはないはずですよ。ソウリン様は前へ、俺が押して行くので。」
そんな会話をしていると警備員らしき人がやってきた。
「・・・ソウリン様ではないですか!豊後へお戻りになるので?」
「あ、はい。これから出る船に乗せてもらえますか?」
「もちろんです。お連れ様も豊後へ?」
「ええ、その通りです。このバイクも乗せてもらえると有難いのですが・・。」
警備員はバイクを見て、驚いたように目を見開いたがすぐにどこか納得したような表情になった。その様子を見て俺はこの船着き場に行くまでの間にすれ違った兵士たちの態度を思い出した。
「大丈夫です、ただ置き場所については船員が指定させていただいてもよろしいですか?」
「問題ないです。」
「じゃあ正虎さん、早速行きましょう!」
ソウリン様はウキウキといった様子で船へ乗り込む、警備員は元の持ち場に戻ろうとその場を離れようとする。
俺にはとある疑問が一つだけあったのだがあの警備員の様子だと船員も恐らく答えることのできる疑問なのでバイクを押し、船へ乗り込んだ。
―船 甲板―
バイクは船内の作業室に置き、俺は今甲板から海を見ている。ソウリン様は部屋で休むと言っていた。
とある「〇これ」をプレイしたことがあり、影響を受けた俺は一番近い海辺を見に行っていた事がある。
お世辞にも綺麗とは言えないような海辺だったので、それなら綺麗な海を見たいと思い遠くに行ったこともある。
今見ている海はどの海よりも綺麗で、しかも船からは今まであまり見れなかったのでとても新鮮だ。
底はさすがに見えないが表面近くはとても澄んだ青色をしている、ところどころで日光を反射しまるでラピスラズリのような輝きである。
・・・ん、船員が二人やってきた。さっきの疑問を聞いてみるか。
「すみません、ちょっといいですか?」
「ん?ああ、あんたはソウリン様の。いいぜ、何でも聞いてくれよ。」
さっき乗船したところを見ていたのかどうかはわからないけど、自己紹介の手間は省けたと思っておこう。
「ソウリン様についてどんな印象がありますか?」
「印象か~、お前どう思う?」
「う~ん、オイラはとにかく新しい物好きって感じがしますぜ。」
「やっぱりその印象があるよな~、新しい物の中でも特に南蛮物が大好きみたいだぜ。」
ふむふむ、なるほど。
「あのバイ・・・カラクリを見た時どう思いました?」
「さっきあんたが置いたカラクリかい?奇抜だなと思ったんだがソウリン様が居たんじゃ納得だな。」
「あれってソウリン様の新しい南蛮物ですかい?」
ぬ、バイクだと説明するのは面倒だな。ならその南蛮物とやらということにしておこうかな。
いや、待て。それならもしも今後豊後へ行くときに「ソウリン様から盗んだのか!」なんて言われたらそっちの方が面倒だ。
ここは多少面倒でも正直に言うか・・・。
「いえ、あれはバイクという乗り物でして。俺の乗り物です。」
「あんたの!?よく各地の武将に目をつけられなかったねぇ。」
「あんなカラクリで走ってたら武将に、特に織田に目をつけられてもおかしくないですぜ。」
「え゛、そんなマズいの?」
「そりゃもう、もし鉢合わせたらご愁傷様でやんす。」
「ま、こいつの言うとおりだ。けどあんたにはソウリン様がいるから大丈夫だとは思うが。」
そういえば日本史でも織田信長は新しい物好きだったらしいし。・・・なんか寒気が。
けどその織田信長がいるのは関東の方だったはず。いくらなんでも九州までは来ないだろう。
「けどよう、あんたどこでソウリン様と知り合ったんだよ?武将と知り合えるなんて中々ねえぜ?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。俺は正虎です、訳あってヨシテル様の側近やってます。」
すると船員2人は顔面蒼白となって、二人同時に土下座し始めた。
「す、すみません!許してください!将軍様の側近とは気づかず無礼な態度をとってしまいまして申し訳ありませんでした!!」
「オイラも、ご無礼をお許しください!!」
「ちょ、土下座はやめてくださいよ、何もしませんから、立ってください!」
「ほ、本当ですか・・・?」
「本当です!むしろさっきまでの対応でお願いします!」
この出来事から、今後関わった人には一番最初に側近であることを言おうと心に決めたのであった。
―しばらくして―
二人は落ち着いてくれたようでさっきまでの態度に戻ってくれた。
口調も今まで通りでいいと言ったら泣かれて「あんたはいい人だ!」と言われたのはさすがに驚いたが。
「すまなかったな、取り乱しちまって。でも将軍様の側近だって言われて取り乱さない奴はいねぇぜ・・・。」
「アニキの言う通りですぜ・・・。」
「す、すまない。悪気があったわけじゃなかったんだ。ただ言い忘れてしまった。」
「いや、いいんだ。それにさっきの質問も大いに納得したしな。」
「将軍様の側近ならソウリン様と知り合ってむしろ当然って感じでやんす。」
船員がお互いを見て頷き合う。二人には知り合った理由はとても合点が行った様子だった。
「お?もうそろそろ豊後に着く時間じゃねえか?」
「あ、さっきの騒動で忘れてたでやんす。」
もう着くのか、結構速いな。まだ夕方に差し掛かるかどうかの日の傾き具合だぞ。
「じゃあ俺たちは仕事に取り掛かるぜ、またな旦那。」
「オイラも戻らないと、旦那また会いましょうぜ。」
そう船員は言って船の中へ戻る。旦那か・・・、まさかそう呼ばれる日がこようとは思いもよらなかったな。
そろそろ着くらしいしソウリン様を呼びに行こうか、そうしようか。
俺は甲板から船の中へ移動し、ソウリン様を呼びに行くため部屋へと向かった。
―船着き場 豊後側―
無事船から降りた俺とソウリン様。実のところあの船員たちと会うのは多分これが最後じゃないと思うのは気のせいではないかもしれない。
「さて、豊後はもうすぐそこです。恐らくそのバイクで走って30分もかからないんじゃないでしょうか?」
そっか、そんなにかからないなら夜になってしまう前に・・・、ちょっと待て。
「ソウリン様。今なんと?30分と言いましたか?」
「ええ、言いましたよ?豊後では貿易も盛んで、その中に時計と呼ばれるものがあるのですが、その時計では四半刻の事を30分と呼ぶのです。」
えっへんと胸を張って説明をしてくれたが、俺が驚いたのはこの時代で30分という言葉があることに驚いたのだ。
ならソウリン様は1時間とか24時間とかわかるのかな?
「ではソウリン様。1時間というのはご存知ですか?」
「わかりますよ、半刻つまり30分を倍にした時間ですよね。」
本当にわかるようだ、これならソウリン様限定かもしれないが時間の単位は現代と同じと考えて話してもよさそうだ。
「それじゃあ、行きますよ。道案内お願いしますね。」
「任せてください!」
エンジンをかけソウリン様の案内を頼りに豊後へと走る。メーターの時刻は16時を指していた。
多分こんな時代に将軍のお付きの人に対して無礼を働けばきっとただでは済まないだろうと思い、船員には怖い思いをしてもらいました。
アプリもダウンロードしました、これで乙女たちの性格がより深くわかると嬉しい限りです。