【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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お邪魔します 袖引ちゃん

 畳に襖、ちゃぶ台にお茶の湯気が立ち上ぼり、ゆらゆらとちゃぶ台を囲む四つの人影を見回します。

 

 秋の空は澄みわたっており高く広々とした様子から秋高し、なんぞとは申しますが、今現在おります場所は標高もお高いお山の頂上。

 

 引き続き、守矢神社からお送りしております。

 

 場所は境内から一人と二柱が生活していらっしゃる居住空間。

 

 畳や襖、ちゃぶ台が配置され、我々が良く知る家屋に近い物。

 見回すと、魔理沙さんが着ていらっしゃる様なお洋服のお仲間さんの様な物が壁に掛けてあったり、使用用途が分からない箱というか板というか何とも言えない物が部屋の隅に置いてあったりと、所々人里の民家では見られない様な物もございましたが、概ねは我々が想像する日本家屋でした。

 

 そんなこんなで再び始まります。

 

 

 私 韮塚 袖引 お邪魔しております。

 

 

「や、やっと泣き止んでくれました」

 

 緑の巫女様はこちらの様子が落ち着くのを見て、疲れたように呟いております。

 先程まで、ぐずぐずと泣いていた身体も満足したようで、しゃくり上げも収まります。

 

 いえ、私はアレですよ? 怖くて泣いたりなんて、みっともない事は致しません。

 先程の失態は私の身体が勝手に起こした事であり、大人な私はあれぐらいでは動じません。

 失禁しそうだった? 何を言っているか良く分かりませんね。

 個人的には、ハラハラと涙を流しているつもりでしたが端から見るとそうではなかった様子。緑の巫女様はひたすら泣き続ける私を見てあたふたと宥め賺し、緑の神様はどう反応したものか、と悩んでいた様子。

 結果的に、社務所に引っ張っていく訳にもいかず、居住空間まで更に拉致されたという流れでした。

 

 何度もしゃくり上げながら

 

「お気になさらず」

 

 と、申した筈なのですが、此方の巫女様は人情に厚い様で聞く耳を持たず、擦りむいていた膝小僧や、転んでいた時に出来ていた()()()()を冷やして頂いたりと様々な応急手当てをして頂きました。

 

 その時に、私、恥ずかしい事に、おきしどーる? でしたか、謎の液体を擦りむいた膝小僧に振りかけられまして、大変染みたというかなんというか、えぇ、びっくりしてしまいまして。

 一瞬、東風谷様は、お天道様の目に入らない所で追い討ちを掛けていく腹積もりなのか、と勘繰ってしまいました。

 

 その後、その、おきしなんちゃらさんについてそれとなく聞いてみますと、傷が出来た時にかける焼酎とほぼ同じとお答え頂けまして、無い胸を撫で下ろしました。

 

 さてさて、泣き止んで(わたくし)何をやっているのかと申しますと──

 

 膝をつけ、三つ指を突き、頭を畳に擦りつけております。

 

 俗に言う土下座ですね。

 

 

「大変、申し訳ありませんでした」

 

 

 誠心誠意を徹底し、ひたすら謝り倒します。

 情けない? あなた方は身分が天の上にある御方、例えば所属する組織のお偉い様に粗相をしてしまった場合、どうなさいますか? こうしますよね。

 

 これは決して、誇りを捨ててヘコヘコしている訳では無く、生き残りを賭けた生存競争なのです。その為でしたら誇りだろうが身体だろうが投げましょうとも!

 

 そんな思考を投げ捨て、出来るだけ畳と一体になろうと平身低頭しておりますと、東風谷様からお声が掛かります。

 

「あぁ、そんな事止めてください!」 

 

 やめろ? 生きることをやめろと仰っておられますのでしょうか? 流石に生存を諦める程、私は長く生きてはおりません。精々、二百五十年程でしょうか? まだまだ若造な私としては、明日を生き生きと生き延びていたいのです。

 故に土下座を継続しようとしましたら、肩を持ち上げられ強制的に正座に戻されました。

 

 私は謝ることすら許されないのかと悲嘆にくれる間も無く、東風谷様は仰いました。

 

「貴方の様な容姿の妖怪さんにこんな事させてる。って知れたら何言われるか分かったものじゃ無いです!

 ですから、もう大丈夫です!」

 

 更には、諏訪子様からも

 

「そーだよ、こっちが悪かったのは早苗から聞いたから、とりあえず土下座は無し」

 

 と、静止が掛かります。

 

 御神託とあっては従わない訳には参りません。

 また土下座を繰り返そうという姿勢から、正座へと素早く移行。

 その素早さは風よりも速い自信があります。

 

 しゃきっと姿勢を正す私を見て、東風谷様はたじろいておりましたが、気にしている余裕はありません。諏訪子様が是といえば是、否と言われれば否となる力関係です。

 どんな要求でも答えねばなりません。

 

 当然、死ねと言われれば、死ぬしかありません。彼女にとって私なんぞ吹けば飛ぶちり紙同然です。

 

 ですから、可及的速やかに此処から去らなければなりません。さもないと、命が何時消し飛ぶか分かった物ではありません!

 穏やかに華麗に、ヘコヘコしつつ撤退するのです!

 

 そんな心中はさておき、人前で大泣きしてしまうのは恥ずかしいものです。

 

 私から何か言い出す事も出来ず、守矢神社側二人も何か言って下さらないので、気まずい時間が流れます。

 

 ちゃぶ台を囲みつつ、沈黙が支配します。

 緑の巫女様は、脱出法を思い付いたようで、あ、私、お茶汲んで来ますね! と慌ただしく去ってしまいました。

 行かないで、と割りと切実に願いを込めて、お構い無く。と固辞致しましたが聞き届けられず、逃げられてしまいました。

 

 残されたのは哀れな小妖怪と、偉大なる祟り神様。

 当然話し掛ける事なぞ出来ず、秋だというのに、頬に汗が伝っていきます。

 

 カチコチと時計が時を刻む音が、静かな居間に響き渡ります。

 

 所在無く部屋を見回したり、畳に視線を這わせていました所、諏訪様も同じような行動を取っているのに気づき目がバッチリと合ってしまいます。

 見続けるのも不敬かと思い、すぐさま目をそらしますが諏訪子様は、はーっ、とため息をつき、此方に話しかけてきます。

 

「うちの早苗が迷惑を掛けたね」

「いえいえ、とんでもありません

 此方こそ粗相をしてしまい申し訳ありませんでした」

「まぁ、うん。それも此方に責任があると言えばあるし……」

 

 と、お気になさっていられるご様子。

 意外と気にしてしまうんだなー、などと考えましたが、良く良く考えてみれば自分の容姿が原因であることに気づきました。

 

 神様は、子供を嫌うことは殆どありません。

 何故なら彼等は()()()。故に混じりっけ無しの信仰を神へと献上します。

 大人達でも信仰の濃淡はございますが、何れも子供の疑うことを知らぬ信仰には劣ります。

 知らないが故に、誰も踏み入れた事の無い白雪の様な信仰を神へと捧げるのです。 

 ですから、神々への贄に選ばれた人間は、子供が多い。

 

 だからこそ、神様は子供には甘く、弱い。

 

──贄 子供──

 

 これは妖怪にも共通する事でもありますね。信仰が畏れに変化すると妖怪の説明となります。

 

 元々妖怪は神であったり、神が妖怪になっていたりと定義が幻想郷の如くフワフワしているので、こんな感じだと思います。

 

 さて、長くはなりましたが、結論から言ってしまえば、諏訪子様からの恩情が享受出来るのではないか!

 その一点に尽きます。

 

 齡二百歳余りといった若造ですが、それでも潜ってきた修羅場は多いのです。冷静になってしまえば、此方のもの。

 巧みな話術で見事、この神社から逃げおおせて見せましょう!

 

 そう心の中で決心し、何処か気まずそうにしていらっしゃる蛙の神様へ言葉を告げるため、口を開こうとします。 

 

──その瞬間、誰かがやってくる音が聞こえ、襖に視線を送ります。

 その音の方に顔を向けてしまい、千載一遇の機会にもそっぽを向かれてしまいます。

 

 そして、その足音はどんどん近づき、スッと襖が開きます。

 

「騒がしいけど、どうしたんだい?」

 

 二柱目の神様がご光臨なされました。

 

──私は石になりました。

 

 いえ、考えてみればすぐにでも分かることでしたが、何分どう切り抜けるかに頭がいっておりまして、もう一柱の御方が完全に頭から抜けておりました。

 あの足音が聞こえた時に、無理矢理にでも離脱を試みるべきでした。

 あぁ、なんたる間抜け。口をポカーンと開けて、自ら状況を不利になるのを待つとは、あまりの間抜けさに与太郎に改名することを考えてしまう位です。

 

 

 そんな自己嫌悪など露知らず、そのお方は此方に気づいた様ですが、諏訪子様が先に話し掛けてしまいます。

 

「いやー、早苗がさー」

「へぇー、そんな事が──」

 

 何やら目前で、御二人が話をなさっておりますが内容が全く頭に入って来ません。

 巧みな話術? 何を言っているか分かりませんが、とりあえず考える事は一つです。

 

──帰りたい──

 

 えぇ、もう物凄く帰りたいです。今すぐにでも帰って布団にくるまってしまいたいです。

 

 そんな石となることに全力を注いでいた(わたくし)に天からのお声が掛かります。

 

 

「うちの子になるんだって?」

 

 蛇を象徴する方の神様は此方の顔を覗き込み、少し愉快そうにそう仰いました。

 

「い、いえいえいえ!! そんな、身に余る光栄な事ではありますが!辞退させて下さいませ!私には帰るべき場所も御座います故!」

 

 いきなり話し掛けられた身としては、百点満点と言えるでしょう。

 心の何処かで予測していただけとも言いますが、まぁ結果が宜しければ全て良しです。

 

 その返答を聞き、半ば本当に飼うつもりでいたのか残念そうにしつつ、こう仰いました。

 

「あら?残念ね。面白い子だと聞いたし是非移住して欲しかったのだけど?」

「恐れ多くも私なんぞは、そんな過分な評価を受けとるには些か、器量が足りないかと思われます……」

 

 私とて、誇りを持つ妖怪の末席。飼い猫の様に扱われるなぞ我慢なりません! いえ、小傘ちゃんとか親しい人にされるなら悪くないかな、と思わなくも無いのですが……

 兎に角、どうにかして回避を試みます。

 

 どう辞退したものかと悩みつつ、次の御言葉を待っていると別の所から声が聞こえてきました。

 

「お茶入りましたー!!」

 

 八坂様が二の句を告げる前に、二柱のお声を介する巫女様が暖簾を頭で押しつつやってまいりました。

 

 流石は巫女様、どうにか神様から過分なご寵愛を受けそうになっている自分の身を救出して下さるのか、と思いましたがそうでもなく。

 

 此方に近寄って、お盆をちゃぶ台に置き、此方にどうぞ、の一声を掛けて下さり、お茶をコトッと置かれます。

 

 その後、二柱の会話に混じっていってしまいました。

 和気あいあいと、笑い話に興じているようですが強大な神気に押し潰されそう。もとい、緊張で死んでしまいそうな(わたくし)めにはろくに耳に入ってきません。

 

──気まずい

 

 いえ、東風谷様や二柱様の団欒の姿を眺めるのは非常に和みますが。和むんですけれど。

 

 忘れられて幸いと言うべきか、忘れられて不幸と言うべきか、進むことも退くことも出来ずに部屋の片隅で置物となっている私の処遇をどうにかして欲しいなーなんて思ったりなんて致しましてね。

 

 そんな思いが伝わってしまったのか話題の矛先が私に向いてしまいます。

 

「いやー、でも可愛いですよね」

「まぁ、確かにね」

「子供っぽい妖怪というか子供の妖怪というか」

 

 

 と、六つの鉾が此方に向きます。

 意識せずに、崩しかけていた正座をバッ、と再び正します。

 そろそろ、ぴりぴりと足の方から悲鳴が聞こえておりますが、何のその。

 生きる為でしたら100万年だろうと全力で正座を続ける所存です。

 

 ですが、その……どうにかして欲しいなんて贅沢を言って申し訳ありませんでした。

 もう、何も言いませんのでこの地獄から解放してください。なんて処罰を言い渡される罪人のような心持ちで神様方の御言葉を座して待ちます。

 

 守矢一家の皆さんは此方を暫く見つめたあと、諏訪子様が口を開きます。

 

「さて、ほったらかしにして悪かったね

 改めてうちの早苗が色々と迷惑を掛けてすまなかった」

 

 と、頭を下げて下さいます。

 まさか、神様が頭を下げるなぞ思ってはおらず、反応が遅れた私を置いて、諏訪子様は更に続けます。

 

「んで、だ。

 何か詫びをさせてくれないかい?」

「え?」

 

 わざわざ、神様がこんな妖怪風情に謝り、あまつさえ、何かを施して頂けるなんぞ、生きて此処から出ることが出来るのか、なんて考えていた私には想像のつかないお話でありました。

 そんな、呆気に取られた様な顔を悟られたのか、諏訪子様は事の顛末を語って下さいます。

 

 

「早苗は私達の子みたいなもんさ、うちの子が誰かに迷惑を掛けたなら親が謝るのが筋だろう?

 そりゃあ、私達が仕出かしたことなら謝らないよ?だって好きでやってることだからさ。

 まぁ、早苗も私達も此処に来て浅いんだ。今回は見逃してやって欲しいって事で、こんな形になった訳さ」

「え、あ、はい」 

 

  

 呆然としたまま聞いてしまい、ろくに謙遜も出来ないままドドドと状況が流れていってしまいます。

 此方が目を点にしているのが、分かっているのかいないのか、八坂様も威厳マシマシで此方に問い掛けます。

 

「さぁ、小さき者よ、そちの願いを叶えたもう

 ──願いを述べよ」

 

 ちゃぶ台と畳の日常的な場所でございますのに、この身に感じる神聖さは祭壇と見紛う位には神奈子様は輝いておられました。

 そんな神聖さを肌身で受けて平常心で要られる程、強靭な肉体も鉄のような心も、持ち合わせておりません。

 

 愛想笑いを浮かべる事も出来ず、恐らく無表情が幼い顔立ちに張り付いていることでしょう。

 

 思い返せば、先程の諏訪子様との初遭遇の時も無表情が張り付いていたのでしょうか?

 益々不審者ですね。深く考えない様に致しましょう。

 

 こんな考えをぐるぐると頭の中で回していて回答を()()()()()訳にもいかず、頭の中に回答を引っ張り出します。

 

──私の望み、それは……

 

 

「帰りたい……」

「……はい?」

 

 この口がまた勝手な事を言い出しやがりました。

 

 ついつい先程から繰り返すように考えていた事が、ツルッと口から飛び出します。

 

 守矢神社の主祭神もこの願いには驚いたのか威厳を引っ込め固まってしまいます。

 更には奥の院にいらっしゃる方はぷふっと吹き出し大笑い

 いずれ神様になるであろう人間様は、その事態に目を点にしております。

 

 口が滑るとはまさにこの事、この状況で一度出した願いを引っ込めるのは失礼に当たるのでは、と考え、三者三様に反応を示す方達に、少し親しみを感じつつも、半ばヤケクソのまま続けます。

 

「私は無事に帰宅したいのです、それ以外は望みません」

「え? そんな事で良いのかい?」

「はい、それ以外は望みません」

 

 口に出している内にだんだん良い願いではないかという気持ちがムクムクと沸いて参りました。

 金銀財宝が欲しい訳でもありませんし、何より出会ったばかりのご新居さんに富や名声を要求できる程、私は厚顔無恥ではありません。

 そして、先程から何だかんだ良くして下さってくださる方達にそんな事を述べるのも、だいぶ失礼です。

 

 そんな事を考えつつ答えていますと、蛇を象徴する神様は言葉を切ってしまわれます。

 その代わりに蛙を象徴していらっしゃる神様が言葉を継ぎます。

 

「あっははは、お前は本当に面白い奴だ!

 韮塚 袖引だったね。気に入った!

 本当にうちの子にならないかい?」

「い、いえ、そういう訳には……」

「そうかい、残念だ。

 早苗! 送ってあげて」

 

 何となく、誘われて嬉しい気持ちになったりも致しましたが、それはそれ。丁重にお断り致します。

 そんな事を告げて下さった諏訪子さまは笑いながらも、早苗様を帰り道につけて下さいます。

 緑の巫女様は少し驚きながらも、はいと返事をし、此方に寄って下さいます。

 

 念願叶い、神様方は帰宅をお許し下さいました。

 帰れると決まれば、そそくさと居住まいを正し、別れのご挨拶。

 

「この度は誠に御迷惑をお掛け致しました」

「いやいや、面白かったよ」

 

 と、諏訪子様

 

「迷惑を掛けたのはこっちの方さね

 また、いつでもおいで」

 

 そう言って下さる神奈子様

 

「あ、あの本当にすいませんでした韮塚さん!!」 

「いえいえ、お構い無く。

 あ、でも韮塚さんはお堅い感じがしますので、袖引ちゃん辺りでお願いします」

「袖引ちゃんですね! わかりました!」 

「はい、袖引ちゃんです」

 

 

 そんなやり取りをしつつも、気付けば天高く私の醜態を見守って下さったお天道様もそろそろお休みの時間。

 橙色の光が緩やかに畳を照らしております。

 そんな中、八坂様は仕切るように切り出します。

 

「さて、もうそろそろ降りないと危ない時間だね、もうお行き」

「はい、お邪魔しました」

 

 いつの間にか、朗らかに接して下さった結果なのか二柱に対する恐怖心も沈み行く日光のように和らぎ、名残惜しい気持ちだけが残照の様に輝いております。

 

 戸口へと移動し、玄関先で二柱様達は此方を見送ります。

 

「んじゃーね袖引ちゃん。色々と面白かったよ」

「はい、洩矢様」

「諏訪子でいーよー」

「え?しかし」

「いいから」

「す、諏訪子様」

「それで良し」

 

 最終的に諏訪子様呼びに改められてしまいました。

 あの笑顔に逆らえる方がいらっしゃる方がいらっしゃるなら是非逆らってみて下さい。私には出来かねます。主に命の問題で。

 次は神奈子様が口を開きます。

 

「では、袖引。また会いましょう」

「はい、是非とも」

「まぁ、また何かあったらうちまでおいで」

「はい」

 

 夕陽に照らされ、柔らかい光のように微笑んで下さいました。

 そして、神奈子様は早苗様の方に向き直り。

 

「早苗、気を付けて行ってくるんだよ」

「はい、行ってきます!」

「よし、じゃあ日の沈まない内に行った行った!」

 

 と、玄関先から押し出されるように外に出されます。

 

 外に出ると、橙色の夕陽が此方を優しく見守っておられます。

 私は玄関に振り返り。感謝の気持ちと共にこう言いました。

 

「お邪魔しました!」

「また来てね」

「うん、またね」

 

 諏訪子様も、神奈子様も再会を楽しむ様な挨拶と共に見送って頂けます。

 

 もう一つの家が出来たようなそんな温かい気持ちと共に帰路につきます。

 燃え上がるような夕焼けを目指すように、飛行し人里へ向かいます。

 

「楽しい一時でした」

 

 自然とそんな声がこぼれます。

 色々ございましたが、終わりよければ全て良しとも言いますし、これはこれで善き一日だったのでしょう。

 

 早苗様のお耳にその言葉が届いてしまった様で、反応なさいます。

 

「本当ですか!?」

「えぇ、とても」

「怒ってるんじゃないかって、ちょっと心配してました」

「とんでもない! 東風谷様には──」

「早苗」

「はい?」

「私だって堅苦しいのは嫌いです」

 

 イタズラっぽい目でそんな事を言われてしまいます。

 自分が言った事ですし、相手様だけに押し付けるのはダメですね。自分は()()妖怪ですし。

 

「では、早苗さんで」

「むー、まぁ良いでしょう!」

 

 何故かむくれられてしまいましたが無事及第点を頂けました。

 

「また……来てくださいね」

「えぇ、またお邪魔させて頂きます」

 

 そんな風に、早苗さんからもお誘いを頂戴し、夕焼けに照らされた真っ赤な紅葉達を眼下に望みつつ、妖怪の山を抜けていきます。

 

 悪癖が顔を出す暇もなく、あっという間に、麓へとたどり着き別れを告げます。

 

「本日はありがとうございました、早苗さん」

「はい! また守矢神社に遊びに来てくださいね!」

「えぇ、ではまた」 

 

 

 と、言葉も短く、夕焼けと紅葉で真っ赤に染まる妖怪の山を背にします。

 

 絶対ですよーと声が追い掛けて来て、振り向けば遠くに大きく手を振る早苗さん。

 

 此方も負けじと大きく二、三度手を振り返し、今度こそ山を後にしました。

 

 

 その後、夜の帳が落ちきった後に住み慣れた我が家へとたどり着き、やはり自分の家が一番だ、と再認識したり、本日、一度、二度では済まなかった失態にふおおおおと、布団でゴロゴロと転げ回りましたが、それはそれ。

 

 とても幸せな気持ちで、眠りにつくことが出来ました。

 

 

 さてさて、夜の帳が落ちてしまい、語り手である(わたくし)も眠りに落ちてしまったので、今回はここで()()()とさせて頂きます。

 

 その後、守矢神社の方達とは良好にお付き合いさせて頂いております。

 早苗さんが我が家を訪問したり、神社を訪ねるためにひと悶着あったりと話は尽きませんが、またの機会とさせて頂きます。

 

 ではでは、またいずれ何処かでお会い致しましょう。

 

 またね。ですかね?




お待たせしました。

妖怪の山で天狗と追いかけっこも考えましたが、それはまた次回。

ご感想などお待ちしております。

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