【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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 魔理沙との絡みは、合間合間にポツポツと入れていく予定です。


拐かしだよ 袖引ちゃん

 秋の神々(姉妹)が信仰を集めつつ、季節を楽しみ。

 人々が、運動やら食物やら読書やら、秋を満喫しつつ、畑仕事も一段落。

 紅の葉がヒラヒラと舞い落ちる。

 そんな情景を楽しみつつも、そろそろ冬に備え始めるそんな頃。

 

 時期は大山鳴動し、蛇やら蛙やらの神様がおいでになさった、お山の異変が終わった後。

 博麗神社の宴会も終え、妖怪も、妖怪退治側の人間も次の異変を心待ちにしていた頃に。

 

 

 この私、韮塚 袖引 誘拐されております。

 

……えぇ。

 

 

 えーと、何から話したものでしょう?

 とりあえず、現状をば。

 

 新しく出来たとか降ってきたとか現れたとか、様々な噂が囁かれている神社の巫女様と、小脇に抱えられながら飛行しております。

 

 え? 何を言っているかわからない?

 えぇ、(わたくし)もわかりませんとも。どうしてこうなってしまったのか。

 ひとまず分かる事は、ガシッと私を小脇に挟み飛行する遥か年下の巫女様と、その巫女様に対しカチコチになった哀れな小妖怪が空に居るという事だけです。

 

 何度も繰り返しても現状が掴めません。えぇ掴めませんとも。

 

 もし、誰かお助け下さいませ。

 

 

 さて、時は遡り、異変が終了し宴会も終わり、いつも通りまったりと、人一人居ない店内を眺めておりました。

 ゆるゆるとお茶をしばいていましたところ、お茶っ葉が切れかけていたことに気づきました。

 前回の買い出しで忘れていたな、なんて思いつつも重い腰をよいしょ、と上げ、看板を下ろし、戸締まりをし、秋の色も深まる中、スタスタと出掛けました。

 あぁ、言い忘れておりましたが、看板を下ろす時は踏み台を用いております。

 取り付け棒を持ち、腕を精一杯伸ばしたところで、そのままですと届きません故。忌々しい背丈ですね本当。

 

 さてさて、お茶となりますと表通りまで出ないと購入できず、人通りの多い表通りまで出向くことになります。

 ふらふらと人を避けつつも、進んでいましたところ何やら講釈の様な声が何処からか聞こえて参りました。

 そちらの方に誘われる様にユラユラ歩いて行きましたところ、何処かで見たような巫女服に、この紅葉の中、夏に立ち戻ってしまったかの様な色合いの髪と服を御召しになさった方が、何やら勧誘中のご様子でございました。

 一人お立ち台に立ち、此方に来て日にちも浅い為、見向きもしない人間様が多い中、神の威光を切々と説いておりました。

 

 あれこそは最近お山にやって来た、神々家族の一員様、博麗の宴会で見かけたきりですね、と思いつつ、その家族を思う涙ぐましい努力を見守っておりました。

 

 え? 博麗神社の宴会に出向くのかって?

 えぇ、たまにお邪魔させて頂いております。知り合いの方々もいらっしゃるのでその方達に誘われれば、付いていったりと色々と。

 まぁ、その話はおいおいと。

 

 話を戻しまして、その人間様、確か、東風谷 早苗様でしたか。宴会で見かけたと致しましても、向こうもこちらもこれといった面識もございません。本当に見かけただけですので向こうが知らない可能性だって充分にございます。こんなちんけな妖怪なぞ知らなくて当然とも言えます。

 

 ともあれ、その東風谷様の演説を立ち止まって聞いていました所、立ち止まる人が少なく、また童女の風体をしている為か、視線と視線が交差しました。有り体に言って目が合うって奴ですね。

 目が合ってしまった以上、これ以上妖怪風情が此方に居ても邪魔になるだけだと判断し、右向け右をしつつ去ろうとします。

 

「あ、待って下さい!」

 

 そんな声が後ろから聞こえて来ましたが、他の人間様を呼び止めているのだと判断し、テクテク歩いていました所。肩をポンポンと叩かれます。

 肩を叩く人は誰ぞ? と振り返ります。

 目に入ったのは白色、緑色、そして顔を上げると緑髪の先程、お立ち台に登っていらした現人神様がいらっしゃいました。

 

「あ、あの先程見てましたよね?」

 

 と、声を掛けられます。これはあれでしょうか視線を向けられて不快だったから、とか言いつつ慰謝料を請求されてしまうのでしょうか。

 

 どうしましょう、(わたくし)お茶の代金とその他雑多な物を購入出来る位の金額しか財布に入れておりません。

 もし、その程度の金額じゃあ満足出来ないとおっしゃられてしまっては、貧しい体つきではございますが、この身を捧げる以外ございません。

 お山の神様は、過去は生け贄も受け取っていらっしゃった、とのこと。きっと供物に捧げられてしまうのでしょう。

 さらば、私よ。長くも短い妖生?でした。

 

 今生の別れを告げ、緑の巫女様にきちんと向き直ります。

 

「はい、煮るなり焼くなり好きにしてください」

「はい??」

 

──うん?

 

「生け贄に捧げるつもりでは?」

「生け贄!? 何のお話ですか?」

 

 おや、どうやら違う模様。

 哀れな生け贄に捧げられた小妖怪は妄想の産物であったと証明されました。

 では、なんでしょう?流石に妖怪を神道に勧誘するなんてことは、余程の常識知らずでもないとやらないでしょうし───

 

「あの、守矢神社に興味ありますか?」

「え? あ、はい。……はい?」

「やっぱりあるんですね! 先程からこちらを見ていたのでそうかなって。しかし、貴女の様な女の子が宗教に関心があるなんて、流石は幻想郷ですね!

 おっとと、いけないいけない。まずはこの子の勧誘を成功させないとですね! 小さな信仰であっても、大きな一歩! 待っていて下さい、諏訪子様、神奈子様!」

 

 

 いきなり宗教に勧誘をしてきたかと思いましたら立て板に水、水を得た魚──いえ、この場合は風を得た翼でしょうか?

 ともかく物凄い勢いでお話しされております。

 

 というか、まさか宗教勧誘をして頂けるなんぞ露とも思わず、ついつい肯定とも取れる返事をしてしまいました。弁明をさせて頂きたいのですが、聞き入れそうな様子ではございません。

 ですので、巫女様のありがたい機関銃の様な速さで続けられるお話に耳を傾けていらした所。

 

「そういえば、今日は貴女は一人ですか?」

「え、えぇ。いつも一人とも言えます」

「いつも、一人だなんて、親御さんは居ないんですか?」

「えぇもう、随分前に……」

「そんな、じゃあ普段は貴女一人で……?」

 

 おや? どうしてだか、話が噛み合っていないような気がします。

 しかし、そんな事よりも初対面の人間様に対して、私は悪癖を押さえ込むのに背一杯。短い背でございますので、いつ爆発するかわからない爆薬を抱え込むだけで精一杯でございます。

 ですので、爆薬と供に違和感まで抱き込みつつその話は続いてしまいます。

 

「えぇ、普段は一人ですね。人里の外れで呉服屋をやっております」 

 東風谷様は今の言葉が衝撃的でしたのか、口に手を当て驚きの表情を浮かべました。

 

「そ、そんな、そんな年でそんな苦労を……」

 

 そして、それを言ったきり黙りこんでしまいます。

 

 私とて、気遣いの出来る大人の女性。この時点でこの現人神様は、何か勘違いをなされているぞと気がつきます。それを訂正させて頂く為、話に割り込もうとしました。

 

「あの、巫女様───」

「決めました! うちに来てください!」

 

 ──はい?

 口に出せていたかは明瞭ではございませんが、心の中には確実に今の言葉に対する疑問を感じていました。

 

 ウチニキテクダサイ、何かの祝詞でしょうか?

 私は宗教関連はからっきしでございます故、残念なことにありがたい祝詞を仰られてもよく理解出来かねます。

 

「いえ、違いました! うちの子になりましょう!大丈夫です。諏訪子様も神奈子様もお優しいです!」

 

 私抜きで話が進んでいるようです。おかしいですね、どうも不穏当な言葉がポンポンと小気味良く飛び出して来ているような気が致しますが、脳がそれを受け付けてくれません。

 なんというか、理解する事を拒んだというか、そんな感じの曖昧模糊な理解度でした。

 

「でしたら、早速挨拶に向かいましょう!」

 

 と、緑の巫女様は私をむんずと掴み、小脇に挟み込みました。

 いくら私が軽いといえど、力持ちですねーなんて呑気な事を考えていると、視界がどんどんと高くなり、いつの間にか人里を見下ろして居ました。

 

──え?

 

 全くと言って良いほどには理解が追い付いていません。

 確か、お茶を買いに行ったのが始まりだった事は覚えております。

 そして、今、宙に浮いております。

 

 一体、何が起きているのか分からないまま、どんどんと人里から離れていきました。

 日光は秋の強くもなく弱くもない絶妙な具合でこちらを照らし、眼下には秋の神様の恩恵を受けた、紅色や、黄に染まった木々がポツポツと見えていました。

 

 秋の空 露をためたる 青さかな

 

 なんて、著名な俳諧の方は仰られたそうですが、秋の柔かな日射しの元、突き抜けるような青空の中我々は空を駆けています。厳密には飛んでいるのは一人で、こちらは抱えられている身ですが。

 

 おかしいですね、誘拐犯と話していた筈では無かったはずなのですが。

 いきなりな事に心身共に縮み上がってしまい。ぽかーんと阿呆の様に口を開けるばかり。

 

「暴れないで下さいね。落ちちゃいますから!」

 

 風が吹きすさぶ中、声を張り上げるように東風谷様はそんな事を仰いました。

 その声が元で(わたくし)、我に返りまして。現状把握。更には吹き荒れる風のように荒々しい口がベラベラと喋りだします。

 

「はなーせーー!」

「うわ、だから暴れないで下さいって!」

「何処につれてく気だぁぁ、はーなーせーーー! すかぽんたん!」

「そんなに、暴れると落ちちゃいますって!

──そうだ! えいっ!!」

 

 じたばたと空中で暴れだした所、天罰ならぬ天誅を首元に頂きました。

 かなり強い力で脛椎を狙って叩いたようで、なかなか首にズシンと衝撃が走りました。

 妖怪退治の名人である霊夢さんとも互角にやりあったなどとも聞きますし、元々退魔の素養があるのでしょう。

 なかなかの威力です、やりますね。──えぇ、泣いてなんていませんとも。

 ただ、私に浮力を与えている加護の様な風のせいで目に塵がですね……

 まぁ、痛いだけで気絶はしません。しかし、人間だと勘違いしてやっているのかは分かりませんが。誘拐しておいて殴るだなんて、魔理沙さんや霊夢さんにも負けず劣らずの破天荒具合ですね。いい傾向です。

 なんて、そんな事を思う余裕がございましたら、もう少し冷静に話合う事や、自分で飛べるなどの証明も出来たとは思うのですが、気が動転している最中(さなか)、その様な事は頭からはすっかりと消え去り、ただ、じたばたを継続する以外の選択肢はございませんでした。

 じたばたを継続している私を見て緑の巫女様は、驚いておりました。

 

「あ、あれ? 気絶しませんね?」

「暴力まで振るいやがって! もう許さん! 覚悟しやがれぃ誘拐犯!」

「一応、もう一度!」

 

 えいっ!! と言う声と共に首に衝撃が走りました。

 お馬鹿ですね、この子。そんな事で気絶するなら世の中誘拐犯だらけです。()()でも起こらない限り気絶なんてしません。

 

 ふふふ、見ていて下さい。これから華麗な逆転劇の後、東風谷早苗さん、もとい誘拐犯さんを撃退してみせましょう!

 いくら温厚な私と言えど、ここまで話を聞かないようでは怒ります。いえ、悪癖はポコポコ出てきていましたが。

 と、とりあえず、妖怪の恐ろしさを新人の巫女様に教えてあげると致しましょう。無名の妖怪の恐ろしさをここに刻んであげます。

 

 さぁ、華麗な反逆劇の幕開けです──

 

 

 

 

 気がつくと、そこは神社の境内でした。

 

 

 ───あれぇ?

 

 

 さて、反逆虚しく神社まで誘拐の憂き目に会いました。これから私どうなってしまうのでしょう。

 ぐへへへで、ぐひょひょな展開

 など待つ訳も無く。

 

 ゆるゆると神様に御対面させて頂く事と相成りました。

 

 強いて言うなら、あれですね。

 同じ背丈ぐらいですのに格の違いがはっきりと分かってしまうのは、悲しい事です。

 

 さて、その話は次回に持ち越しとさせて頂きます。

 

 ではでは、()()続きお楽しみ下さる事を願っております。

 

 


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