【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

4 / 62
懐かしき白黒のおもひで

 季節はそろそろ卯月から皐月へと移り変わる頃。いつの間にか女の子の月から男の子の月になり、空を目指す魚介さんもそろそろ出番かとウキウキしてる頃だと思われます。

 

 いつもいつとて子供達は風の子、外を元気にはしゃぎまわっております。

 寒がりな大人達も、そろそろ上着をしまい込み始め、そろそろ本格的に移り変わった事がわかります。

 

 博麗神社もさすがに花見で一杯と洒落込み過ぎたようで、肝臓の休憩日なのか暫く宴会の噂も聞きません。

 

 そんな名残雪も完全に溶け、新しい季節を完全に迎えたそんな頃。

 

 私、韮塚 袖引。懐かしんでおります。

 

 

 何時もの様に閑古鳥が鳴く店でボンヤリしつつ、お客さんが来るんだか来ないんだか分からない日々を過ごしておりました。

 仄かに薄暗い店内に水を打ったような静けさが広がっており、遠くで子供達がはしゃいでいる声が聞こえてきます。

 

 そんな中、奥に引っ込みまったりとお茶をしばいていると。邪魔するぜーとの声と共に訪問者が一人。

 

 やや、人間様が来店されたとあれば、居ても立ってもいられませんと店に飛び出しました。

 ドタバタと奥から飛び出してみれば、そこにいらっしゃったのはお得意様では無いけれど良く良く見知ったそのお顔。

 白黒のお洋服を御召しになさった、綺麗な金の髪を持つ女の子。霧雨魔理沙さんがご来店なされました。

 

 

「おや、霧雨さんの所の娘さんじゃないですか? ご機嫌麗しゅう」

 

 今は懐かしきそんな呼び方。

 そんな呼び方をされたお客様は嫌そうな顔に変わり。ムッとしながら此方に返します。

 

「ム、その呼び方はよして欲しいな」

「いやはや、懐かしくて。お久しぶりです魔理沙さん」

 

 何年ぶりでしょうか、和服を御召しになさったり、お洋服が白黒になる前から知ってる身としては、百年の知己の様なお方であります。

 

「おう、久しぶりに寄ってみたぜ。袖引ばぁちゃん」

「ム、ばぁちゃんは止めて欲しいですね」

 

 この子が小さい頃にこの店に入り浸っていた時期があったり、子供の頃に散々喧嘩していたりと、もうすでに怒るとか悪癖とか、もう既に通り越した仲にございます。

 

 ばぁちゃんと呼ばれた意趣返しとばかりに

「なんです?お父様と喧嘩して匿って欲しいんですか?」

 なんて昔の事を掘り出してみました。

 

 よく親子喧嘩をして此方に来てたのを思い出します。あの時は拗ねていたり、大泣きしていたりと、表情の豊かな子でございましたが、そのままスクスクと育って頂いた様で、今でも異変解決に一役買っていたりとお元気に活躍していると、良い噂も耳にします。

 魔理沙さんは頭をガシガシと掻き、嫌そうな顔で返答しました。

 

「あぁ、もう、しつこいぞ!」

「あぁ、すいません。ついつい」

「まったく……」

「で、当店に何の御用でしょうか? お客様?」

「……真面目にされるのも何というかアレだな」

「注文の多いお客様ですねぇ」

 

 昔みたいに喧嘩したいのでしょうか?

 もうこの子限定では悪癖は鳴りを潜めていますが、今も喉元に何というかイガイガした物が来ているのも事実です。

 まぁ、大人の余裕を見せつけてあげてるんです。うん。

 

 またも、頭を掻きつつそっぽを向いて魔理沙さんは続けます。

 

「まぁ、あのアレだ」

「どれです?」

「あー、もう元気にしてるかな……って……」

 

 最後の方は小さくなっていきましたが、バッチリと聞き取ってます。可愛いですねーこの子。

 昔もこんな素直で可愛い子でしたが、今や森の妖怪が怖れる魔法使い。人間とは分からないものですね。

 

 すっかりと私の背を追い抜いて、名実共に大きくなってやって来た古き知り合いに、奥に上がるように勧めます。

 途中少し低めになっている鴨居を見てこんな低かったか? なんてお声を上げておられました。

 

「無理も無いですよ、前回お越しになられたのは随分前ですから」

「……そうだったな」

 

 何かを思い出す様に魔理沙さんは此方を見て呟きます。

 

 それからは勝手知ったる他人の家が如く、魔理沙さんは座蒲団やら茶菓子を置場所から取り出してきます。

 それなら私もと、お茶を用意すべくお湯を沸かし始めようと、釜戸に向かおうとしたら魔理沙さんに呼び止められます。

 何やら湯を沸かすならこいつがいい、などと言い出しまして、何やら八角型の物体をヤカン下に座蒲団の要領で置きます。話を聞けばその六角型の物体は八卦炉と呼ばれる魔法の品だとか、出力を調整することで、その八卦炉さんでお湯が沸くらしいです。

 便利な時代になりましたねぇ、そんな便利な物を使いこなす魔理沙さんを眺め、小さかったあの子が本当に成長したんだなぁ、としみじみ思います。

 

 

 思えば、私よりも小さかった背丈が、グングンと伸びて、いつの間にか背が追い越された辺りから、だんだんと来店回数も減り、いつの間にか店に訪れなくなっていった様な気がします。

 

 勝手に戸棚から茶葉を出す金髪の女の子を眺めていると、昔の事を思い出します。

 

 

 

 始まりは確か……そうでした、そうでした。

 何代か続いていらっしゃる、霧雨店の方でお買い物させてもらった時に出会ったんでしたっけ。

 

「いらっしゃい。お、韮袖呉服の!」

「はい、お久しぶりです」

「今日はなんの用で?」

「今日は──」

 

 その時にはもう霧雨店の店主様は(わたくし)が妖怪であることや、呉服屋を営んでおります事も、ご存じでした筈です。

 

 えぇ、勿論あれですよ、緊張なんてしてませんでしたとも。

 私とて大人の女性、()()()()に買い物してみせましたとも。

 

 そんな、優雅に買い物をしている最中に店舗の外からタッタッタッと、此方にやってくる小さな足音を聞き付けました。

 その音はどんどんと近づいて来て店先に居た私に突貫をかましました。

 

「うぷっ」

「おっと、大丈夫ですか?」

 

 その突撃してくる人間様をお怪我のしないように受け止めさせて頂きました。突然の事に弱い未熟者の私と言えども、近づいてくる気配を感じていれさえすれば、身体能力はこちらが遥かに上、大した苦労も無く私めの腕に小さな影はすっぽりと収まりました。

 

「お?」

 

──綺麗な金髪。そんな印象を抱きました。

突然現れた壁に驚いているようで、その幼子はこちらを見上げてきます。

 

「こんにちは」

 

 突然の来訪者に、怪我無く受け止められて良かったと、驚きで胸を高速で弾ませつつ挨拶をしてみます。

アイサツは大事です。

 

「だれ?」

 

 

 確かそんな事を返されたと記憶しております。

 

「こら、()()()。こんにちはされたら、こんにちはだろうが!」

 そんな店主様の優しい叱り声が聞こえてきました。

 

「う、こんにちは」

 

 金髪の子は怒られた事に、首を竦めながらもこちらに挨拶を返してくれます。

 

 

「はい、こんにちは」

 

 挨拶をもう一度し、挨拶をしてくれた幼子をふんわりと抱き締めたまま店主様の方に向き、この子は?と質問させて頂きました。

 

「あぁ、そいつはうちの娘だ。魔理沙と言う」

 

 少し()()()()ながら、店主様は魔理沙さんを此方に紹介して頂けます。

 

「可愛い子ですね」

「いやはや、お恥ずかしい限りで」

「う?」

 

 こちらを見上げている可愛いお顔を見つめます。

 

 私は一度魔理沙さんを離し、魔理沙さんの目線まで屈みます。

 

──私と彼女の目線が交差します。

 

「はじめまして、私は韮塚 袖引と言います。」

「にら? そでひき?」

「えぇ、袖ちゃんと呼んで下さい」

「そでちゃん! そでちゃん!」

 

 嬉しそうに私の名前を連呼する。幼い魔理沙さん。

さすがにここまで幼いと悪癖も黙っています。

不思議と緊張もしません。

 嬉しそうにこちらの名前を連呼する表情に釣られて私も笑ってしまいました。

 

「えぇ、袖ちゃんです」

「魔理沙に新しい友達が一人、だな」

 

 なんて店主様も笑っていらっしゃる。

 

 

 これが、魔理沙さんとの出会いでした。

 

 

 

 基本的には自給自足な生活を送ってはおりますが、月に一回位は生活必需品を買い出しに向かいます。

 買い出しの店舗の中には霧雨店も含まれており、商品の代金の代わりに子供服を要求された。なんて事もあった筈です。

 そこで魔理沙さんに出会う度に挨拶されます。

 

「おー、そでちゃん!」

「はいはい、こんにちは」

 

 こんな感じのやり取りをしていました。

 月を追う毎に魔理沙はスクスクと育っていき、目に見えて大きくなっていくのが分かります。

 

 まぁ、それだけ大きくなっていけば、我も強くなって参りますし、色々とありました。えぇ、色々と。

 

 あまり思い出したくも無いのですが、えぇと確か理由は忘れましたが大福帳、つまり出納帳をたまたま持ち歩いていた時に魔理沙さんがそれを見つけ、見せてとせびられ、魔理沙さんには分からない物だから駄目だ、とか断った事が発端だったかと思われます。

 

「いいじゃん見せて!」

「駄目です、これは大事な物なんです」

「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから!」

「駄ー目ーです」

「えーいいでしょー、見せーてー」

 

 魔理沙さんが袖を掴みグイグイと引っ張って大声で喚いてきます。

 そんな事をされて、忌まわしい悪癖がガンガンと戸を叩きます。

 子供だから子供だから、と我慢をしていましたがそろそろ限界です。

 

「いい加減にしないと──」

「ケチー、そでちゃんのごうつくばり!」

 

 ぶちんと何かがキレる音がしました。

 蜘蛛の糸並みに細い私にしてはよく頑張った方だと思います。えぇ、本当に。

 

「あぁ、もう、しつこい!」

「何でだよ! いいだろ!!」

「良くない! はーなーせー」

「うー、そでちゃんのケチ、バカ!」

「馬鹿とは何だ!!」

「バカなもんはバカだ! バーカバーカ!」

「馬鹿と言った方が馬鹿だ! 馬鹿!」

「今、バカって言った! そでちゃんはバカ!」

「うるさい! えぇい、もう行く!」

「ふんだ、ケチなそでちゃんなんて知らない! 何処にでも行っちゃえ!」

「何処にでも行くよ! うるさいなぁ!」

 

 そんな感じで喧嘩別れしたことを覚えております

 

 その後は酷い物でした。

 自宅に辿りつき、速攻で布団に潜り込み。

 

「あぁぁぁぁぁ、子供相手になんてことをぉぉぉ!!

 魔理沙さん最後の方涙目でしたよね。あぁぁぁぁ」

 

 などの奇声を筆頭にうがぁぁぉぉ、とか、うぼぁとか思い付く限りの声を上げた事を覚えております。

 

 

 後日、霧雨店に謝罪に訪れた所、あの日は魔理沙さんも大泣きして帰っていったみたいで、店主様が何が起きたのかと思ったよ。などと笑って仰っていました。

 

 当の本人様は柱の影に隠れ、こちらを伺っていました。

 まぁこういった事は大人である私から謝るもの。

 

「魔理沙さん、ごめんなさい」

 

 と、腰を折り、出来る限り丁寧に謝ります。

 魔理沙さんも此方の様子を見て、

「こっちこそ、ごめんね」

 と、素直に謝って下さいました。

 

 仲直りも済みましたし一件落着。などとほっとしておりましたら。

 

「でも、あの時はそでちゃんが悪い」

 

 と、魔理沙さんが言い出しました。

 

 思わず、仲直りしたのにいきなり罵詈雑言が飛び出し、修復した仲をぶち壊しにする所でした。危ない危ない。

 とりあえず聞き間違えかも知れません。聞き直してみましょう。

 

「何て言いました?」

「そでちゃんがケチなのがいけない!」

 

 ビキッ、と耳の近くで音がなったような気がしました。

 まぁ、せっかく一件落着でしたし。全てを無にするのも悪いでしょう。ここは大人の余裕をですね──

 

「なんだと!?」

 

──あ。

 

 売り文句に買い文句、悪癖さんが光より早く反応したかと思われます。

 

「そでちゃんがわーるーい!」

「あぁ、もうこいつは!!」

「そでちゃんのケーチ」

「うがぁぁぁ」

 

 これには霧雨店の店主さんも大笑い。

 

 こういった風に、魔理沙さんの幼少期は出会うたびに喧嘩しているぐらいには良く喧嘩をしておりました。

 その度に反省会を開いておりましたので、忘れたくとも忘れられない事も多い。そんな時期ですね。

 

 

 そうそう、初めてこちらに魔理沙さんがいらした時も忘れる事が出来ません。

 

 毎月の買い出しの為、霧雨店の方に訪れて珍しく喧嘩も無く。帰路につく事に成功し少し上機嫌なまま家に辿り着きました。荷物を降ろしていると、ガラガラと店先の戸の開く音がしまして。閉店の看板を立て掛け忘れたかなぁと思い。急ぎ、対応に走ろうかとした所で声が聞こえて参りました。

 

「へぇ~ここがそでちゃんの家」

 

 その聞き覚えのある声に、ん?と少し首を捻りながら奥から飛び出してみれば、そこには小さい影。

 

 思わず、二度見してしまいました。

 

「あ、そでちゃん発見!」

 

 その金髪の少女、魔理沙さんは此方を指さし喜んでおりました。

 

──とりあえず状況を整理しましょう。

 突然の事でうまく回らない頭を無理矢理回し考えます。

 私はいつも通り人里で、買い物をさせて頂き。特に大した失敗もなくルンルン気分で家に辿り着いた筈です。

 

 そして暫くしたら、魔理沙さんがやって来ていた。

 

──うん……うん?

 

 魔理沙さんは此方の家の事を知らない筈です。ということは、いつの間にか一人で後に着いてきていた。と考えるのが妥当でしょうか。

 

 そんな事を落ち着いて考えておりました。えぇ、落ち着いていましたとも。

 手に持っていた鞄をボトッと落とし、魔理沙さんにカラクリみたいなんて言われていましたが。

 

……落ち着いてましたよ?

 

 

 とりあえず来てしまったからには家に帰さない訳にも参りません。

 時刻は既に太陽の沈みかける頃。

 山の尾根に太陽が沈んで行き、赤と黒の色合いが里を支配する。

 そんな頃になっておりまして、サクサクと行かないと夜になってしまいます。

 

「魔理沙さん、お家に帰りましょう」

「やだ!」

「何でです?」

「ここに泊まる!」

 

 後から聞いた話では別の友達の家に泊めて貰った事が余程楽しかったらしく、人の家で泊まる泊まると言って聞かなかったらしいです。

 

「駄目です、親御さんが心配してしまいます」

「いいよ、そんなこと」

「良くありません! さぁ帰りますよ!」

「やーだー」

 

 魔理沙さんの手を引っ張って行こうとしたら、無理矢理にでも泊まりたいらしく、戸に掴まって抵抗します。

 

「そもそも家には一人分しかありません!」

「いーいーの!」

 

 こんなやり取りをしていたらまた、苛々が募って参りました。

 

「いい加減にしてください」

「ケーチー」

「ケチじゃない!」

「ケチだもん!」

「もういい!無理矢理連れてく!!」

 

 もう既に半泣きになりかけている魔理沙さんを能力を使い()()()()()いきます。

 自分の目論見を壊された魔理沙さんは滂沱(ぼうだ)の涙を流しています。

 

 引き摺って、引き摺られている私達を、端から見たら寺子屋を卒業するかしないかの子供が、寺子屋に入るか入らないかの子供を引き摺っている様に見えるのでしょうね。

 

 魔理沙さんもすっかり泣き止んでおり、もう私達の間に会話も無く、無言のまま彼誰時を歩いていきます。

 傾いた太陽が少しだけ寂しそうに私達を照らします。

 

 無言を切り裂く様に私は口を開きます。

 

「今度は、ちゃんと親御さんに許可をとってきて下さい」

「きょか?」

「そうです。親御さんに泊まりたいと話して来てください。私は大歓迎ですから」

 

 それを聞いた魔理沙さんはパァッと顔を綻ばせつつも

 

「うんっ!」

 

 と、元気良く返事をしてくれました。

 無事、店主様の元に送り届け、その日は帰って頂きました。

 

 

 我が家に戻りまた、あぁぁぁだとかうぉぉぉとかやっておりましたが二度もお見せする物ではありませんので割愛します。

 

 ただ次の日には、布団やら茶碗やらが一人用から二人用に増えており、手狭な家の中が更に狭くなっていました。

 

 

 

 私と魔理沙さんの付き合いは妖怪から見たら短く、人間から見たら長いものです。

 それ故、ここだけでは語り尽くせない、そんな経験や思い出も沢山ございます。

 せっかくの機会ではございますが、富士のお山よりも高く積もりに積もった思い出を引っ張り出すのは、またの機会とさせて頂きます。

 

 ではでは、長話にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。




 何となく、魔理沙と絡ませてみました。

 人間と妖怪の違いを上手い事表現してみたいものですね。

ご感想、お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。