【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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 今回は本編にほぼ関係のないお話です。
 また本筋にも関係しないお話ですので、こういうルートがあったかも知れないという体でお読み下さい。

 また原作キャラとの恋愛描写がございます。苦手な方は飛ばして下さいませ。


袖引の寄り道 小傘の場合

 さて、今回は本筋離れて、ついでに本来無かった道を少しだけ覗き込む。すると面白いお話がたくさん転がっていたのでした。

 

 そんな、あったかも知れない。ないかも知れない。そんな狭間なお話です。どうか与太話として一つ。

 

 

 

 人里にある、人のいいお爺さんが経営する甘味所、甘灯茶屋にて小傘ちゃんに呼び出しをされた私。いつもが如く薄暗い席にて、思い思いのお菓子をつついております。

 世間話をちらほらとしておりましたが、何故だか、少しだけ上の空のようなそんな気配が伝わって参ります。

 これでも長い付き合いですからね。何だかんだいって伝わるものは伝わるのです。気になった事はとりあえず聞いてみるに限ります。

 

 さてさて、どうしましたか? では芸がありませんね。なんと聞きましょうか。そうですね、小傘ちゃんも私も花も恥らう女の子。ここは一つ、がーるずとーくらしく行ってみましょうか。

 

「恋の悩みです?」

「え? うーん」

 

 何故か、驚いたような表現を浮かべた後首をかしげる小傘ちゃん。

 

 首をかしげる姿も、様になってるなーなんてぼんやり眺めておりましたが、小傘ちゃんはなんと言うか悩んだようで、あーとかうーんとか繰り返しております。

 

「そんなに話辛い事です? でしたら別の話題を」

「あ、違う違うんだよ、話しやすいというか、一番話したいというか」

 

「でしたら、是非是非」

「うーん、そうだなぁ。あのさ、袖ちゃん。最初に会った時のこと覚えてる?」

 

 なんでそんな話になったのかと、こちらも首を傾げつつ記憶を引っ張り出します。

 

「よく覚えてませんが、確か雨の中で出会ったんですよね?」

「そうそう、ずぶ濡れだったんだよ?」

 

「ずぶ濡れ……よく覚えてないですねぇ……」

「まぁまぁ、そんなんだから私の家まで引っ張っていったの」

「私を引っ張るとは、ふふふ、さすが小傘ちゃん」

 

 なんだか可笑しくなってしまってくすくす笑っていると、小傘ちゃんは頬を掻いて。

 

「笑い事じゃなかったんだけどなぁ」

 

 と、呟き、そのまま小傘ちゃんは続けました。

 

「まぁ、いいかぁ。ちなみにその後、裸になったことも覚えてる?」

「……はい?」

 

 何か凄い事を聞いてしまったのですが、全く覚えておりません。……え? 本当に本当です?

 

「覚えてないならいいやー」

 

 そう言い、ペロリと舌を出す小傘ちゃん。ふふんと優越感に浸っている様子は大変愛らしいものですが、聞いた話が聞いた話なだけに、そのまま聞き流すなんて事は出来ません。

 

「あの、あのあの。どうして裸に……いえ、というよりも何故そんな事に……」

「んーこれはねー、あ、大丈夫だよ変な事はしてないから!」

 

 短い髪揺らし、実に楽しそうな表情な小傘ちゃん。ときおり見せる、私を翻弄せんとするこの表情。今回ばかりは負けられませんと気の無いフリを決め込みます。

 

「ふ、ふん。ま、まぁ良いです。そんな事より……」

「今でも思い出すなぁ、袖ちゃんの裸」

「ごふっ!?」

 

 思わずむせ込んでしまいました。もうそれはげっほげっほと、そのまま涙目で小傘ちゃんを見遣りますと、冗談冗談、なんてけらけらと笑います。

 滅多に他の所で見ることが出来ませんが、時折こうして翻弄してくる親友さん。

 驚かす妖怪の本領発揮というかその揺さぶりは中々のもので、いつも私が振り回している分、ぶんぶんと振り回されます。私だけ、という点に特別感を感じなくもないのですが。そんな事より……

 

「あの、そろそろ本題に……」

「えっ、あ、そうだね! えーと……」

 

 もう、裸の件は諦めました。もう全く気になりませんとも! ……気になりませんとも!

 そんな事を自分に言い聞かせつつ、はぐらかされている気がする本題へ。親友の悩みともあれば、黙まっておりませんとも!

 小傘ちゃんは少し悩み、よしと頷いてから話始めました。 

 

「あのね、今ね、好きな人が居るんだ」

「おぉ、誰です誰です?」

 

 懸想している人がいるなんて聞き思わず身を乗り出します。女子たるもの恋話はいつの世も、切って離せる事は無いのです。

 そんな私の乗り出し方に、えへへと笑いながら答える小傘ちゃん。

 

「その子はね、いつも近くにいてね」

「ほうほう」

 

 その子ということは、年下でしょうか、或いは子供のような子なのでしょうか。もしかして里の子ですかね。想像が膨らみます。

 

「でね、とっても優しい子なんだ」

「それはいいですねぇ」

 

 ふむふむ、優しい子でしたら小傘ちゃんを預けても問題ないでしょう。ちょっぴり寂しい気もしますが、それは自然の摂理、仕方の無い事です。

 小傘ちゃんは、続けます。

 

「その子ね、いつも頑張ってるから支えてあげたいなって」

「おぉ、良妻発言ですねぇ」

 

 さすが、小傘ちゃん。私の自慢の親友です。何処に出しても恥ずかしくの無い……。ふむ、何故か親の様な感覚になってしまいますね。

 そんな当の小傘ちゃんは、何故かため息を吐き、水を口に含みます。そして何事か呟いた後、私に向き直りました。

 その表情は真剣そのもの、そろそろその子とやらの名前が来るぞ。なんて身構えました所、小傘ちゃんが言葉を発しました。

 

「あのね、私はね。袖ちゃんの事を言ってるんだよ?」

「ほうほう私の事……」

 

 私の事とはあれですかね、私の事とは……あれ? えーと、今何を話していたのでしたっけ? 確か小傘ちゃんの思い人の事を話していたはず。そのはずです。

 で、小傘ちゃん曰く、私の事と。

 

 ふむふむ、ふむふむ……とりあえず落ち着く為に水を飲みましょう。飲みましょう。

 少しばかり震える手で、湯飲みをとり口へ含み……

 

「え、えぇえぇぇええぇぇえぇ!?!?」

 

 がぼがぼと、盛大にせき込む事になりました。

 

「えへ、驚いた?」

 

 何故か、楽し気な小傘ちゃん。困ったことにこう意識すると直視できないというか、そう言う目で見られていたのかとか、喜んでいる自分がいるなとか、ぐるぐるぐるぐると頭が回転を続け、私に落ち着く暇を与えません。

 

 そんな考えがまとまらず、あうあうとしておりますと、小傘ちゃんが手を伸ばしてきて、思わず声を上げてしまいました。

 

「ひゃっ、な、なにを」

「拭こうかなって。むせてたし」

「え? あ、そ、そうですよね! で、ではおねがいします」

 

 口をずい、と出しますが、拭いてもらうという行為に恥ずかしさが同居しておりまして、その恥ずかしさは満点。

 しかしながら今更断る事も出来ずに、赤面したままもじもじと、悶えるような時間を味わい、ふきふきとふき取って貰うのでした。

 

 終わったころには、顔は湯だっている所の騒ぎではありません。もうへそでは無く、顔で茶が沸かせてもおかしくはない位にはしゅうしゅうと煙を上げております。

 拭いてもらった後、私はしばらく返答する余裕が無く、小傘ちゃんもこちらの返答を待つかの如く黙ってしまい、変な沈黙が空気を支配してしまいました。

 

 時間が経つこと数分。いまだ返答すら出来ぬ私は、とりあえずの突破口と世間話を持ち掛けようとしました。いえ、正確にはしようとしたんです。

 しかし、何かにつけて話そうとするたびに他人の口から借りてきたもののように、うんともすんとも言えず。もうどうしたものやら。

 いつもの小傘ちゃんとなら、いつも小さな話題を見つけては、それについて小一時間程話す。なんて簡単に出来ますのに。今回ばかりは上手く言葉が出てきません。

 様子を伺わんとばかりに、小傘ちゃんをちらりと見つめました所、こちらを微笑みながら見つめておりました。その頬には赤みが少しかかり恥ずかしがっている事が分かります。

 

 そうです、小傘ちゃんだって勇気を出してこの事を告げてきた筈なのです。逃げるなんて選択肢ははなからありません。

 私だって小傘ちゃん大好きですし、意識をした瞬間に顔を直視できなくなる位の惚れこみ度。きっと素敵な事なのでしょう。

 

 しかしながら、すぐさまに、はい、とは言えず、その間隙を見つけたのか、するりと私の心の暗い影がひそひそと囁きました。このような私でいいのか、と。それは隙間風の様にすぅと通り抜け、私の心の熱を奪い、頭を冷やしていこうとしていきました。

 

 けれど……けれど、不安を振り払うように、もう一度だけ小傘ちゃんの顔を見ると、ん? と首を傾げる小傘ちゃん。先程から何も話していないのに、ずっと待ってくれている小傘ちゃん。私を信頼しているのか、それとも私を本当に、好きでいてくれるからなのでしょうか。

 

 その考えが浮かんだ瞬間。とくん、と心臓が跳ねた気がしました。鳥肌が立ち、景色が広がった様に感じます。

 

 あぁ、これがきっと、恋、なのかもしれません。相手を愛しいと思う気持ち。相手を信頼する気持ち。不安すらも期待に変えていけるような、そんな不思議な力を持った熱い塊が、すとん、と私の胸に収まった気がしました。

 理屈ではない感覚のような何かが、心の影を打ち消していき、そのまま返答する力に変わっていきました。 

 

 私はゆっくりと口を開きます。間違えないように、伝わるようにしっかりと。

 

「お待たせしました、小傘ちゃん」

「うん」

 

 小傘ちゃんから返ってくるのはその一言のみ。ですが、その言葉は裏打ちされた信頼と共に私の背中を押していきました。

 

「私は……いえ、私も、小傘ちゃんの事が大好きです。不束者ですが、どうか末永くお願いします」

「……ありがとう、袖ちゃん」

 

 その返答を聞き、胸に温かい気持ちが広がっていきました。安心とも、充実感とも違うその感覚。なんとも言えませんね。

 ただ、微妙な空気になってしまったのは否めず、転換とばかりにそそくさと会計済ませ二人でお外へ。

 

 

 表に出ますと時刻はまだ日が高く、まだまだ遊べるぞ、とそんな所。とりあえずいつもの如くブラブラとし始めたのですが……

 

「袖ちゃん」

「ひゃ、ひゃい! 何でしょう! こが、小傘さ、小傘ちゃん!」

 

 といったやり取りが何度か起きまして……いえ、あれなんですよ? 小傘ちゃんがいきなり可愛くなったのがいけないと思うんです。今まで友達でいた時には平気でした所作がもう……もう、悶える位に可愛いのです。

 んー、と首を傾げる所作は何故かきらめいて見えますし、色が分かれる真珠なような目で覗き込まれたときなんて、もう一瞬固まってしまいましたとも! 可愛いすぎませんか小傘ちゃん! 

 それに、ギクシャクしながらも手をつないだりと、恋人らしい事も致しました。しちゃったんです!

 

 

 そんな視点変われば、行動変わる。あばたもえくぼ、なんて言葉に頷いてしまう程の驚きの変わりようで、小傘ちゃんにたくさんのびっくりを提供しつつも、だんだんといつもの調子に戻ってきました。……戻って来たはずだったのです。

 

 だんだんと日が暮れ始め、そろそろおかえりの時間。ただ妖怪にとってはここからが始まりの時間とも言える時間でして、そういった意味でドキドキとしてしまいます。

 

 だんだんと平時の受け答えに戻せてきており、だんだんと自信がついてきた私。そんな中別れを惜しむ男女が、接吻を交わし分かれた所を見てしまった私は、いつか小傘ちゃんともそうなるのかな? なんて少しばかり情欲的な想像を巡らせてしまいます。

 小傘ちゃんも見ていたのか、わーすごいねーと声をぼそぼそとかけて来ます。当たり前ですが、その距離は寸前。小傘ちゃん特有の優しい香りが鼻腔を擽っていき、思わず先程のおかしな状態に戻りかけました。

 

 そんな妖怪特有のドキドキと、私の女としてのどきどきが重なって。だからこそあんなやり取りになってしまったのだと思います。そうです、そうに違いありません。

 

 そんなどきどきしつつも、次はどうするかの話題に移りました。ここでお別れするのなら、先程の様に接吻の一つや二つ交わした方がいいのかな。とか、もう少し一緒に居たいなとか、あわよくば……と思考を巡らせながら歩いていると、小傘ちゃんから返答が。

 

「じゃあ、袖ちゃんの家で食べたいな」

「もちろん……へっ!?」

 

 わた、私を食べる? 考え事をしながら歩いていたせいか、部分部分しか聞き取れませんでしたが、そう言う内容だった気がします。

 いつもでしたら夕食のことだな、なんてすぐに気が付くところですが、今回ばかりは事情が違います。なんといってもお付き合いを始めた初日でございます。いずれはそうなるだろうなとか、別に悪く無いどころか……と思考が明後日と本日を行ったり来たり。非常に元気に跳ね回っております。

 

 しかし、しかしですよ、いきなり、私をた、食べたいだなんて。小傘ちゃんの食いつきが良すぎではないでしょうか。いつも振り回す立場であったが為にグイグイくる小傘ちゃんに、もうついて行けておりません。まぁ、吝かではないどころか、むしろ気持ちは嬉しい限りなのですが。

 すると小傘ちゃん、私の手を握り、私を引っ張るように歩き出しました。

 

「じゃあ、早速行こうよ!」

「え……? ま、まって下さい! まだ準備が」

 

 心とか、床とかその……あれです。まだ、日も落ち切ってませんし……しかしながらこうまで小傘ちゃんが積極的だとは驚きです。思わずその、動悸がですね。

 そんなばくばくする胸の内などつゆ知らず、小傘ちゃんは、あれ? そうなの? と立ち止まり進路を変更。

 

「じゃあ、足りない物を買いに行こうか」

「売ってるものなんです!?」

 

 心とか、準備とか。最近の商売という物は非常に便利なものになりましたねと、ぐるぐるした頭が考えますが、そんな事なんて気にならないとんでもな言葉を、小傘ちゃん口にします。

 

「え、大根とかの事だよ?」

「大根使うんですか!?」

「あれ、袖ちゃん大根使わない派?」

 

 つ、使う使わないなんてあるのでしょうか。少なくとも私は初耳ですが、小傘ちゃんは使うのでしょうか……大根。もしかして小傘ちゃんて意外と、意外と……?

 先ほどから七転八倒な心情なんて知らないであろう小傘ちゃんは、ズルズルと私を引っ張っていき八百屋さんへ。

 

「袖ちゃん。どれにする?」

 

 目をキラキラさせながら問いかけて来る小傘ちゃん。とても輝いております。えぇ……とても。こうならば毒喰らわば皿までと、湯だった頭のまま買い物を済ませましたとも! 

 

 

 ただ、ただですね。夕陽がぼんやりと煌めく帰り道。炊事の煙立ち、みそ汁の香りが漂って来る中。小傘ちゃんにえ? おゆはんの事だよ? なんて言われてしまっては、もう……もう。

 真っ赤に染まる空に似た、真っ赤に顔を染めた妖怪がそこにはいました。まったくもって、劇的でも何でもない理由ですが。

 

 そんな愚かな私の気づいたのか、クスリと笑う小傘ちゃん。夕陽に染まったその顔はとても綺麗で、ちょっぴり妖艶な私の親友。いえ、恋人でしたか。こ、恋人ですよね?

 

 そんな愛しの恋人さんが、ぼそりと呟きました。

 

「そっちでも良かったかなぁ……」

「なっ……!?」

 

 しっかりばっちりと耳に届いた私は、今度こそ耳まで夕陽色に染まります。否定も、肯定も出来ずにただトクトクと動く心臓の音が耳まで聞こえてくる。そんな気分でした。

 ちらりと小傘ちゃんはこちらを見遣り、ふふっ、と笑う。そんな姿になんて言葉を返せばよいのでしょうか。二の句が継げません。

 

 そして小傘ちゃんが一言。

 

「ふふふ、……驚いた?」

 

 実にその目は喜色満面。微笑む姿はとてもとても。可愛いものでした。

 

 もうしてやられたやら、弄ばれたやら、ちょっとした悔しさとか嬉しさとか、もういろんなものがない交ぜになり、先ほどとはまた違った意味で言葉が出てきません。胸がいっぱいという奴でしょうか?

 結局何も言い返せずに、手だけをしっかりと握り返しました。離れないようにしっかりと。

 

 小傘ちゃんは、優し気な笑顔をこちらに向けた後。ゆっくりと歩き出しました。

 

「帰ろっか?」

「えぇ、帰りましょう」

 

 そんな感じで私には恋人が出来ました。とても可愛らしく、時々小悪魔さんな愛しい人。今はただ手を繋いで歩いて帰ります。一緒に、私の家へ。

 

 長く伸びた影はずっと重なっていた事でしょう。ずっと、ずっと。

 

 

 

 

 その後は……まぁ、あれです。色々と楽しかったですとだけ。

 

 そんな嬉し恥ずかしな私の小話は、これにて幕引き。この後は皆様のご想像にお任せ致します。まあ、色々な事がありそうな予感は致します……

 

 

 

 ……えへへ。私、幸せです。


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