【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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読んで下さってる皆様、本当にありがとうございます。

お礼を述べたかったので、この場を借りて言わせて頂きました。


春と夢だよ 袖引ちゃん

 さて、ひゅんひゅんと飛び交う弾幕は空を彩り、宴を盛り上げる。傍から見ればやはり相当綺麗なものでございます。えぇ……傍から見る事が出来たのなら。ですが。

 空に咲き誇る花火ですら近づけば火の塊。綺麗な物ほど不用意に近づいてはなりません。そんな事を只今実感しております。

 

 では引き続き、酔って暴走した愚かな小妖怪の小話を。

 

 私、韮塚袖引 弾幕ごっこしております。

 

 

 さて、私くらいの身長でありながら、アリと山くらいには格の違う萃香さんに、勢いのまま喧嘩を吹っ掛けてしまった私。今にも震えが来てしまいそう。しかしながら、私、後悔はしておりません。なぜなら、彼女は魔理沙さんを傷つけた。あまつさえ宴会に来れないような大怪我さえ負わせたというのです。

 

 そんなの絶対に許せないじゃないですか。

 

 と、いう訳なので、心もとない秘策を持ちつつ空へ浮かび上がった次第でございます。向こうは向こうで、肩をぐるぐると臨戦態勢。酒の席の一興とでも思っているのか、先日の果てしない絶望感は感じられません。……まぁ、果てしなくないというだけで、絶望感はひしひしと肌やら脳やらを駆け巡っているわけなのですが。

 そんな震えを、お酒やら、憤りやらで打ち消しつつ始まりますは弾幕ごっこ。前回のにっちもさっちもいかなかったあの結果を塗り替える機会が訪れたのです。

 

「そろそろいいかい?」

 

 下ではやんややんやと喝采が上がり大熱狂。そんな声に紛れつつ萃香さんが、やろうか、と手の平をちょいちょい。そんな挑発に乗るように私も言葉を返します。

 

「えぇ。──では、行きますっ!!」

 

 それを言い終わるが早いか、私はびゅんと弾かれた矢の様に飛び出しました。弾幕を展開させつつ一直線に萃香との距離を詰めました。萃香さんもぽつぽつと弾幕を飛ばしておりますが、私が何をするのか興味があるのか、避けられない程ではありません。

 そして、一気に切り札(スペルカード)を切りました。

 

「えい、夕符『逢魔が時の童歌』」

 

 現在では、暮れ六つの鐘の代わりに、歌が流れるそうで。そんな情景を弾幕に……なんて言っている暇はありませんでしたね。ともかくとして、私を中心に波状に広がっていく弾幕を展開しました。近寄ったのは弾幕の密度がそちらの方が高いからですね。

 しかし、当然ながら百戦錬磨の鬼の方。すいすいと余裕の表情で躱していこうとしております。しかししかし、それ位は私も予測済み。だからこそ、私は()()を発動したのです。

 

 そんな事も知らずに、萃香さん楽しそうに弾幕を飄々と避けており余裕の表情。ふふふ、これならば成功すると確信出来ます。いえ、むしろ勝ったと言ってもよいでしょう! そんな事を思いつつ、右手をぐいと引きました。

 丁度、萃香さんが余裕の表情浮かべ声を掛けて来ました。

 

「へぇ、私に接近戦? 度胸あ──なっ!?」

 

 一瞬にしてそんな余裕のあった顔が驚きで染まったのです。なぜなら、萃香さんの身体が弾幕の方にいきなりぐいぐい吸い寄せられていくではありませんか!

 

 えぇ、何を隠そう私の能力です! 普段は触れることが叶わなければ発動すら出来ない能力ですが、今回ばかりは弾幕ごっこの前に萃香さんに触れております。故に能力を萃香さんに行使できました。

 いくら萃香さんであろうと、この能力は予想出来ますまい。弾幕にあたってもらって私の勝利です。えぇ、勝てるのです。知識とちょっとのズルさえあれば勝て……あれ?

 

 先ほどからぐいぐいと引っ張っているのですが、なかなか思い通りにいきません。ぐいぐいぐいと引っ張ろうが、当たってくれる気配すら。それどころか楽しみが増えたとばかりに、嬉々として躱す大妖怪さんが目の前に一人。……え、あのちょっと。

 

 みるみると顔が青ざめていくのが、鏡を見なくとも丸わかり。困った事に、次善の策など思いつく訳もなく。ただ、弾幕が消えるのを待つだけでした。

 弾幕終わってみれば、いい汗かいたと言わんばかりのお顔と、青空よりも青い顔した顔が対面しております。

 そんな血色の良い方は、ぷかりぷかりと浮きつつ瓢箪を一煽り。

 

「ふぅ、なかなか危なかったかもね。私がそっちの能力を知らなかったら、だけど」

「知らなかったら……え? ……あっ!?」

 

 

 そそそそ、そうでした、もう見せているではないですか。私のちんけな能力はもうあの時に見せているではないですか!! 

 酒が入っているとは言え、憤ってたとは言え、すっかりさっぱりと先日の事を忘れていた私。そんな愚か者をもう、どうしたものやら。恥ずかしいというよりは、あまりの間抜けっぷりに、がくんと膝から崩れ落ちてしまいそうです。まぁ、膝つく場所なんてどこにもありませんが。

 ともかくとして、情けない限りの醜態を晒してしまい、もう力尽きてしまいそう。

 しかも、下から聞こえて来る歓声に見られていたことに気づき、青い顔が一瞬にして真っ赤か。火鉢でもここまで早く赤くなることは無いでしょう。

 

 情けないやら、恥ずかしいやらの板挟みにして、目の前には立派な角の大妖怪。さて、次はこっちの番かな? なんてのたまっている始末であり、彼女がちょいと本気を出せば、私なんぞ儚く消えてなくなってしまうことでしょう。

 現に弾幕の厚みは増し、避けるのがだんだんと難しくなっていきました。秘策を失った私ではどう足掻こうが対処出来ない力の差。それをまじまじと見せつけられた気分です。

 こうなった場合、弱小妖怪の私のやる事なんて一つです。全てを投げ出して許しを請うのです。そうしてしまえば、少なくとも余計な傷は負わずに済む事でしょう。まずそうすべきなのです。 

 

 ……まぁ、諦める気持ちなんて、どこにもありませんが。

 

 恥ずかしさで茹る顔を極力忘れる様にしつつ、気合を入れなおし、ギン、と相手を見据えます。

 見えるのはどう足掻いても勝てそうにない大妖怪。けれど一矢報いたいじゃないですか、友達を傷つけられて黙っていたくないじゃないですか。私がどうなろうと、これだけは絶対にやり返したいのです。

 

 だからこそ、無理と感じる弾幕ですら切り抜けようと心に決め、弾幕を散発的にしつつ回避を試みます。通常弾幕にして膨大な量。切り札が来てしまったら……なんて考えたくもありません。

 

 しかしながら、だらだらと弾幕ごっこを続けられる訳も無く。天高く萃香さんは札を掲げました。

 

「じゃあ、いくよ。袖引!」

 

 切り札の宣言が果たされようとしておりました。発動なんてされてしまえば、私は……いえ、絶対に避けきるのです。

 そう心で宣言しつつ、萃香さんをしっかりと見ました。蜘蛛の糸の様な、僅かな可能性を引き寄せる為に。

 

「鬼火『超高密度燐禍術』!!」

 

 

 火の弾幕が大波の様に押し寄せて来ます。上へ下へ、必死に避けますが、次第にじゅっとと掠める回数が多くなっていきました。火傷がひりひりとし始め、熱が体力を奪っていきます。

 もうダメなのか、なんて思いそうになる度に必死に弾幕に喰らいつき、一個一個乗り越えていきました。

 

 きっと私以外には一瞬の時間。されど、私には永遠に終わらないのか、なんて弱気になってしまう程に長い時間を抜け、ようやく、弾幕の雨を抜け切りました。

 

 抜けた先には、萃香さんが目をまんまるにしている姿。

 

「本当に驚いた。いや、まさか、これを抜け切るとは思ってなかったよ」

「ふ、ふふふ、どうです? 私とて、これ位は出来るのです」

 

 ひりひりと痛む身体を抑えつつ、背一杯の虚勢を張りました。そんな態度に萃香さんは満足げ。にやりにやりとしつつも、新たな札を掲げました。

 

「ほんと、根性あるよねぇ。ま、次で終わりかな?」

「……っ、それは……!」

 

 次なんて来たら、本当に受けきれません。そのまま墜落は必定と言えるでしょう。しかし、ここで、ここで終わる訳にはいかないのです!

 向こうが弾幕を展開するのなら、せめてやり返すとばかりに、こちらも弾幕を展開し返そうと画策します。弾幕ごっこは美しさが命。なれば、ぶつかり合いはとても美しいものとなるでしょう。

 そんな直撃覚悟で、萃香さんに合わせ口を開きました。

 

「さぁ、受けてみるがいい! 本物の鬼の力ってやつを!」

「くっ、引符『押して駄目なら、引いてみろ』!」

「おいおい、相討ち狙いかい? 符の壱──うわっ!?」

 

 その時です。萃香さん目掛けて、地面から紅い稲妻が迸りました。すんでの所で萃香さんが回避すると、その物体は物凄い速度で空へと駆け上がって行く何か。

 怒りを隠そうとしない萃香さんがばっ、と下を睨みつけます。するとレミリア様が、何かを投げた格好を隠さないままに、白々しく言葉を発しました。

 

「あら、手が滑ったわ」

「おい、コウモリもどき。またボコボコされたいのかい?」

「私は吸血『鬼』だって言わなかったかしら? それよりも、前、見た方がいいんじゃない?」

「……あ」

 

 萃香さんが口論に夢中になっている間に、私の発した弾幕が目前にまで迫ります。流石に萃香さんと言えど、ギリギリであったようで身を捻って躱しました。

 

「あっぶなぁ……」

「逃しません!!」

 

 ひと悶着ありましたが隙は隙。これを逃す手は無いと、全力で弾幕を()()()()()()()

 

 彼方へと飛んでいった弾幕を引き戻す事により、萃香さんの背中に弾幕が飛来。ほっと一息をついていた間隙を見事に狙えたようで、避ける暇も無く、遂に直撃しました。

 そんな光景を見届けたのにも関わらず、私は半信半疑。そんな状態から確信に繋げたいが為に、ぼそりと呟きました。

 

「はぁ、はぁ……あ、当たった?」

「うわちゃー……まさか負けるとはねぇ」

 

 そして、弾幕が消え残滓の中から頭を掻きつつ登場する萃香さんを見て、ようやく確信がじわりじわりと沸いてきます。そんな実感を噛みしめるように言葉をぽつりぽつり。

 

「か、勝ったの……? 勝ったん、ですよね?」

 

 じわじわと喜びが舞い込んでくる中。拍手の音が舞い込んで来ました。というか、一部は大穴だーとか、儲けたとかの悲鳴も聞こえたり、聞こえなかったり。

 

 もうへなへなとへたり込みたいくらいの心持ちで勝った、勝ったといっておりますと、耳元から声が。

 

「そうそう、おめでとう」

「わっひゃあ!?」

「邪魔が入ったとはいえ、勝負は勝負。お見事だ」

 

 すぐ隣を見ると、先程までの傷はどこへやら。不自然に綺麗な萃香さんが隣にいらっしゃいました。

 

「え? あの、お、お綺麗ですね?」

「それ褒めてるのかい? まぁ、いいや。しかし大したもんだよ。散らしてたとはいえ勝っちゃうなんてね」

「散らす?」

 

 私が疑問符をたくさん浮かべていると、説明して下さる萃香さん。萃香さんの能力は疎と密を操る程度の能力だそうで、今回はその力を使い私に合わせて下さったとの事。

 それを聞いてもう、色々と脱力してしまった私なのですが、なんでそんな事を、と最後の力振り絞り聞いてみると、萃香さんはこう答えました。

 

「え? 本気出したらすぐ終わっちゃうじゃん」

 

 もうその時点でどっ、と疲れ押し寄せまして。へなへなへなと地面へと降り、ぺたんと座り込みました。

 すると近寄ってくる見知った方々。お疲れ様と言いつつ、酒を注ぐ姿はいつもの事ながら安心してしまいます。

 

 アリスさんやら、咲夜さんに治療を受けホッと一息。

 そして、空では降りてきて即口論に発展したレミリア様と、萃香さんが、本気の弾幕ごっこを繰り広げ、注目は一気にそちらへ。

 お二人ともまぁ、激しい弾幕を繰り広げ、目が回ってしまいそう。そんな弾幕を肴にしつつ、霊夢さんに先ほどのレミリア様の槍の件を聞いてみると、こんな回答。

 

「別に邪魔しちゃいけないというルールは無いわ。みんな空気を読んでいるだけよ」

 

 そんな回答を聞いている内に、いつの間にか、萃香さんとレミリア様の弾幕ごっこも終わっており。萃香さんがこちらにやってきました。

 そしてこちらの顔を見て、悔しさがだんだんと沸いてきたのか、頭をがしがしとしつつ地面を踏み鳴らしました。

 

 

「あーもう、あのコウモリもどきにしてやられた、ってのもあるけど。袖引に負けるなんてぇ」

「さっきの態度はどこに行ったのよ。結果は結果でしょ。受け入れなさいな」

「負けて悔しくないはずないだろぉ!」

 

 霊夢さんがそんな萃香さんをめんどくさそうにあしらっていると、くるりと萃香さんがこちらを向きずんずんと近寄ってきました。

 八つ当たりされるのでは、と身をちょっとだけ引きますが、そんな事はお構い無し。そのまま首根っこ掴まれズルズルと引きずられていきました。

 

「うーがー、袖引、来い! 呑むぞ!」

「え? あの、ちょっと!?」

 

 

 まぁ、そんなこんなで管理者からも反則ではないなんてお墨付き頂き。手加減されていたとはいえ勝ちは勝ち。見事に悔しがらせる意趣返しが完遂できました。

 

 え? この後の事? 気が付くと、いつものお布団の中でございました。

 しかも、青あざがいくつか増えており、しばらくその痛みが続くようなものばかり。ほうぼうに何があったのか聞き回りましたが、皆優しい笑顔で首を振るばかり……本当に何があったのでしょうか。

 

 そんないててと、身体引きずる所でこの異変は終わりを告げました。色々と後が残りそうな異変でございましたが、蓋を開けてみれば、名残雪のようにいつの間にかきれいさっぱりと消えており、夏を迎える事となりました。

 

 

 しかしながら、いつまでも刺さっている棘は抜け切れず。また、見えぬものは見つからず。

 まるで夢のように過ぎ去った春は、霞んでしまった何かを想起させる事には、なりえませんでした。

 

 

 

 

「と、いう訳です。こんな感じで萃香さんと仲良くなりました」

 

 そんな事を話終えると、皆反応は様々。目を丸くしたり、楽しそうだねーと笑っていたり。

 

「毎回こんなことやってるの?」

 

 そんな中聞いてきたのはわかさぎ姫さん。その質問に、えぇ、そんな感じですと返しますと、わかさぎ姫さん苦笑い。

 そんな様子を見つつ、酒傾けながら影狼さんはこんな風にまとめました。

 

「結局さー、袖ちゃんが自爆を繰り返したってお話だったよねー」

「うっ……だから、話したく無かったんですよー」

 

 カラカラと笑い、酒を傾ける影狼さん。そんな雰囲気になったのか、皆さんひとしきり笑い別の話題へ。

 長話終え、思い思いに、お酒を傾け存分に楽しんでおりました。そんな中、小傘ちゃんが、少し心配そうな顔が目に止まりました。

 

 折を見て、皆から少し離れた場所へ。

 

「……大変だったね」

「そうですねぇ、ちょっと大変でした」

 

 わいのわいの、とやっている中、少し離れて月を見上げる私たち。まんまるなお月様は少し雲が掛かり、光を陰らせております。

 

「袖ちゃんは……」

「? なんです?」

「あっ、いやいや何でもない!」

 

 何かを言いかけたみたいですが、結局何も言わずに手をバタバタさせる小傘ちゃん。何だったのでしょう?

 

 そんな事をしている内に、首だけの蛮奇さんに見つかり、くるくると引っ張り戻されました。

 さて、そんな事こそございましたが、楽しい時間はあっという間。楽しくお酒を楽しんだ後にはお開きをと、わかさぎ姫さんと別れ、家路を歩いております。

 

 草木も眠る丑三つ時。静まり返った闇の中に、四人の妖怪がぶらぶらと。ちょっとした百鬼夜行ですね。なんて思ってみたり。

 さわさわと夜風を感じつつ、気が付いたら分かれ道。まずは小傘ちゃんが別れ、次に影狼さんと言った所でちょいちょいと手招きされました。

 とりあえずついていく事にしようと、一緒に帰るはずの蛮奇さんに振り返る。すると、察している、と言わんばかりに、じゃあまたね、とふらふらと闇の中に消えていきました。

 やたらの察しのよさに首を傾げますが、とりあえずは影狼さんの元へ。

 

 

 さて、そんなこんなで影狼さんと二人で夜のお散歩。月が儚く照らす道をてくてく歩いております。

 

 何となく話掛ける雰囲気でもなく、月夜の風景を眺めつつ、酔いをじんわりと感じておりました。すると、影狼さんが顔を向けぬまま、こちらに話掛けて来ました。

 

「袖ちゃんはさ……」

「はい?」

「喧嘩っぱやい!!」

「はい!?」

 

 ずびし、とそんな事を言われ思わず固まってしまいます。いえ、そんな事は……ないはず、ですよね? 

 そんなずびし、と指付きつけた影狼さんはコホンと咳払い。

 

「あぁ、いやいや違った、違った」

「え? あの?」

 

 そんなくるくる変わる態度に驚いていると、やり直しとばかりに、二度目の言葉。

 

「袖ちゃんはさ、何か、抱えてるのかもしれない」

「あ……」

 

 少しだけ、少しだけ予想していたような、そんな言葉。話すと決めてから、きっと口に出して聞かれるだろうと思っていたあの記憶。

 ぎゅっと、胸の前で拳を握りました。影狼さんの次の言葉を静かに待ちます。

 ちょっと相談したんだけどね。と前置きをしてから、影狼さんは続きを述べました。

 

「それを、私たちはね」

「はい……」

 

 どう、答えたものでしょうか。どう、言うべきなのでしょうか。私が元々は()()であっただなんて、どう、言えばよいのでしょうか。

 心の中で言葉が、ぐるぐると回り始めます。受け入れてくれるのか、変わらないでいてくれるのか、不安が胸の内でとぐろを巻いております。

 そんな中、影狼さんが言葉を続けました。

 

「聞かない事にした!」

「………え?」

 

 飛び出したのはそんな言葉。予想外というか、悩んでいたのは何だったのかとか。色々な言葉がぐるぐる回る中。影狼さんはこう言いました。

 

「だからね、みんなの前でいつか話せる日まで待つことにしたの」

「待つ?」

「そ、私達妖怪なんだし、百年くらいなら待てるでしょ?」

「……ありがとう、ございます」

 

 じわり、と滲んだのは果たして涙だったのか。目元が少しだけ熱くなり、夜風がそれを冷ましていきます。

 どうしてなのでしょうか、どうしてここまで、こんな私に優しくしてくれるのでしょうか。そんな言葉がふと、浮かんで消えていきました。

 目元をぐしぐしと擦りつつ、その後もぽつりぽつりと話した所で、影狼さんとお別れ。なんて事にはならず、泊ってく? の一言から影狼さんの家でお泊まりな流れになりました。

 

 久しぶりに誰かと眠る、なんて事をしており一日が終わっていきます。

 暖かい、なんて溢した春の夢。二人分の布団寄せあい、ぐっすりと次の日まで眠る事が出来ました。

 

 

 さて、そんなところで今回はここまで。

 ゆったりとした春は終わり、次は夏の季節。の前に少しだけ思い出話を。

 ゆらゆらとした夢も、春の霞もいずれは散っていくもの。忘れられた鬼が現れたように、きっといつか──

 

 

 

 ではでは、()()続きお楽しみ下さる事を願っております。

 

 おやすみなさい。


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