【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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春待ちだよ 袖引ちゃん

 さてさて、時間を大幅に進めまして、現在まで。雪降る竹林にてカラスに狼、そして私の妖怪の集いで立ち話。三人あつまりゃ文殊の知恵だなんて申しますが、出てくるのは私の過去話ばかり。一区切りいたしまして一息つく。白い息に交じり、ちょっとだけお疲れ色。

 先ほどからひっきりなしに手帳に描き込む射命丸様に、適度に心地よい反応して下さった影狼さん。道中の暇つぶしには十分だったようで、もうそろそろ妹紅さんの家へ辿り着く頃。

 

 

 私、韮塚 袖引 一休憩しております。

 

 

「ふぅ……」

 

 今思えば謎多き当時であったな。なんて思いつつ、春雪異変の事を話終えました。いや、まだ色々と解けていない謎もございますが。

 

「ほぅほぅ、なるほど、では次はこう行きましょうか」

 

 楽しそうな、射命丸様のお顔。次はどんな事を書かれてしまうのだろうと、まだ第一の記事も読めていない私としては空恐ろしい想像をするばかり。紙面の中で私はどんな八面六臂の活躍を見せているのでしょうか。

 まぁ、そんな事を想像しても暗くなるばかり、何とかなるの精神で目をそらしつつ、影狼さんの方へ向きます。

 

「袖ちゃん大変だったね。左腕ついてる?」

「ついてますよー、右腕はもう一つ前の異変で取れたのですけど」

「それは……壮絶だねー」

 

 

 適度に流して下さる影狼さん。影狼さんは影狼さんで色々と苦労しておりますし、お互いに共感しているからこそのこの対応。実際同情位しかやる事ありませんからね! ……だんだんと悲しくなってきました。

 

 さて、雪が足元に空はきらきらと晴れ、目の前の竹林は爽やかに。そんな光景眺めつつ、サクサク音鳴らし歩く三人。手帳を書き終えたのか、ぱたんと閉じる音が耳元に届きます。

 にこにこな顔でこちらを向く天狗様。頭の中の記事は完成したのでしょうか? そんな事を考えているうちに射命丸様からご挨拶。

 

「ではでは、ご協力ありがとうございました! そろそろ寒いので私はこれで! では皆さん、次回号をお楽しみに―」

 

 そう言うが先か後か、文さんは生い茂る竹と、まだ残る雪を器用に避けつつ空へ飛び去っていきました。

 

「相変わらず物凄い速さ……」

 

 そんな感心したような、呆れた様な言葉を呟いた後に、影狼さんはこちらを振り向きます。

 

「しかしまぁ、本当に色々と大変な事をやってるね。……イジメられるの好きなの?」

 

 ニヤニヤとちょっとだけ楽しそうな狼さん。見る人が見ればきっとゾクゾクしてしまうような素敵な表情。日本狼の本領発揮、なんて言葉も浮かんでしまいますが、生憎とその趣味はございません。

 

「ち、が、い、ま、す!」

「あら、そうなの……残念ねー」

 

 けらけら笑う人狼さん。冗談めかしてはおりますが先程までの目は本気。友人の意外な一面というべきか、はたまた狼の本性というべき物がちらりと見えたようで思わず身震いしてしまいます。……寒いですからね、寒さのせいという事にしておきましょう。

 

 さてさて、お天道様もいまだお隠れになっている今、先ほどのやり取りは見なかった事に致しましてサクサク歩いていきます。雪を踏み分けそろそろ見えて来る頃、だなんて思っている内に見えてきましたちょっと雰囲気のあるお家。

 少しだけ趣があるというか何というか、冬は隙間風が入りそうなそんなお家。妹紅さんのお家が目の前に現れました。

 

「わぁ、相変わらずボロボロの家」

 

 隣では影狼さんが口に手を当て正直な感想を発しました。まぁ何というか、その感想ごもっともな物でございまして上白沢先生に連れられこちらにやって来た時は大層驚いたものです。歴史深いというか何というか、先生も大層心配されておりました。

 

 そんなお家に近づいていきますと、何処からかほんのり甘い香りが鼻を擽っていきます。そんな匂いに影狼さんも気づいていたようで、甘酒の匂いだねーなんて話しつつ戸まで近づきます。

 

「ごめんくださーい」

 

 そんな感じで声を張り上げると、はいよーと家の裏側の方から声が帰ってきます。裏にとてとて回りますと、どうやら焚き火の最中だったようで、薪がパチパチと音を建てているのを妹紅さんが眺めておりました。

 

「誰かと思えば袖引ちゃんと影狼ちゃんか、どうしたんだい?」

「えーと、その炭を切らしてしまいまして」

「私はそのついでよー」

「あー、はいはい炭ね。とりあえずこっちに来なよ、寒かったでしょ?」

 

 ちょいちょいと手招きをする妹紅さんにつられ近づきますと、じんわりとした火の暖かみが冷えきった身体に染み渡ります。そして影狼さんも私も、焚き火のそばに寄り腰をおろしました。

 

「あー、暖かい」

「ですねぇ……」

 

 影狼さんも私も、なんだかんだ身体は凍えていたようで、火に当たりほっと一息。そんな様子に妹紅さんはクスリと笑いつつ、よっこらっしょっと立ち上がりました。

 

「そりゃ良かった、丁度甘酒を作ってたんだ飲んでくかい?」

「頂くとするわー」

「私もよろしいでしょうか?」

「もちろん、ちょっと待ってて」

 

 そう言うと、奥へと引っ込んでいく妹紅さん。

 

 ちなみに、今目の前で煮えている甘酒さん、時代はなんと妹紅さんよりも古い歴史を持っていらしているらしいです。古墳があった時代からあったとかなんとか。

 私的には甘酒と言えば夏に飲むものでございまして、江戸の方でも「甘い、甘い、甘酒ー」なんて歌とともに商人の方が売っておりました。

 今では冬に飲むものとして定着している気が致しますが、実の所夏の季語であったりと、どちらかと言えば夏に関係のある飲み物であったりします。とはいえ冬に飲む甘酒もまた格別ではございますが。

 

 別名、一夜酒なんて呼ばれております甘酒さん。一夜のお酒だなんてこの面子に相応しい言葉。

 

 とかなんとか考えておりましたら、妹紅さんが器を三つ持ちつつ、帰って参りました。

 

「はいよ、お待ちどうさん」

 

 手渡される器に注がれるは、美味しそうな白濁した飲み物。少しドロッとした液体は独特の風味を放っており鼻をついていきます。

 恐る恐る口をつけますと──

 

「んぐっ!? けほっけほっ」

 

 あまりの熱さに思わず咳き込んでしまいます。つぅーと口の端からトロリと顎まで滴っていきました。

 

「あっ、垂れてしまいました。勿体無い」

 

 口から垂れてしまい指ですくい取り舐めていると、影狼さんの視線に気がつきます。

 

「………袖ちゃん、わざとやってる?」

「はい? 何がです?」

「いや、何でもないよ……」

 

 影狼さんはそう言うと甘酒に口をつけます。妹紅さんは苦笑いしつつもふいと目を逸らしました。……一体何なのでしょうか?

 

 さて、甘酒すすり暖まりつつも、焚き火を囲んでおります。真白の地面の中からちょっとだけ見えている地面。パチパチ弾ける薪達。酔えるものではありませんがお酒も入り気分も良い。

 そんな空気の中、ポツリと妹紅さんが言葉を溢します。

 

「しかしなぁ、こう焚き火を囲むのも久しぶりだよ」

 

 そう言うと、ズズズと器傾ける妹紅さん。ゆるゆると燃える火に照されたその表情は穏やかなものでした。

 そんな言葉にコクコクと頷く影狼さん。

 

「まぁ、そうねー私も火を囲むなんてやらないわね。狼だし」

 

 元が狼であったために、そもそも火を囲むということをしない影狼さん。

 

「私も覚えがありませんねー囲炉裏ならありますが」

 

 野宿なら覚えがありますが、誰かと焚き火を囲むのは珍しい気がします。

 

 とまぁ、こんな感じに三者三様に孤独な面子ではございますが、私、割りとこの集まりは好きだったり致します。

 妹紅さんも口調が乱暴な事がございますが、基本的には面倒見が良い。影狼さんも臆病な所はございますが人が良く、何だかんだでノリが良いのです。

 お互いがお互いに少し距離を離し座っておりますが、その距離もまた悪くはありません。

 

 紅魔館の様に騒がしいのも、小傘ちゃんと馬鹿をやるのもまた楽しいものですが、こうやってポツリ、ポツリと会話が続くのも素敵な事。

 聞く手に回る事が多い私ではございますが、たまには話題を振るのも悪くありません。……普段はもっぱら聞き手なんですからね? 本当ですよ?

 

「そう言えば聞いて下さいよ、この前人間樣とですね──」

「またやらかしたの袖ちゃん?」

 

 何だかんだ長話。姦しいという言葉の通り、結局、焚き火が燻るくらいまでにはお互いに話続けました。

 

 

 

「あー話した話した。お腹一杯よ」

 

 だんだんと発する言葉が少なくなり、静かな空気の中、影狼さんがんーと背中を伸ばしつつそんな事を言いました。

 確かにお互いに話す話題も尽きまして、甘酒の鍋も底をつく。ゆるゆると燃える火もぷすぷすと音を立て、流れた時間を示しております。

 そろそろ帰りましょうかね。なんて思い腰を上げかけますと妹紅さんが最後とばかりに質問を投げてきます。

 

「そう言えば、あの異変の時に二人は一緒にいたよな?」

「「あー」」

 

 ほぼ同時に同じ言葉を発する二人。まぁ、なんといいますか色々ありました。

 

 あの異変というのは、この竹林が中心で起きた終わらない夜の異変。そこで影狼さんと色々とあった訳ですが……

 ちらりと影狼さんの方を向くと、渋いようなそうでないような、なんとも言えない表情を浮かべており、この場話すことは憚られました。

 先ほどは庇って下さった訳ですし、今回はこちらから切り出しましょうか。

 

「えーと、ですね妹紅さん。まぁ、色々あったんですよ、色々と」

「そんな言い方されると凄く気になる」

 

 ……あれ? 助け船を出したつもりが心なしか失敗しているような? 内心に焦りが生じ、困ったと影狼さんの方に顔を向けますと、呆れ返った顔を此方に向けておいででした。

 

「袖ちゃん……」

「ごごご、ごめんなさい!」

 

 もう、地面に平伏するような勢いで謝り倒しますが、影狼さんは呆れ顔のまま。

 そんなやり取りを見ていた妹紅さんはぷっ、と吹き出し大笑い。

 

「あっははは、分かった、分かったから。今のやり取りで伝わったよ。話しにくい事なんでしょ?」

「そうね、ちょっとだけ話したくないかも?」

「分かったよ、聞かない事にする。あと怒るのやめてあげな、たぶん袖引ちゃんも悪気があった訳じゃないさ」

「それはわかってるんだけどねー」

 

 ちらりとこちらに向けられる視線。思わずあう、なんて呟いてしまいますが後の祭り、影狼さんは烈火の如く怒り出しきっと私はめでたく影狼さんの腹の中に納まってしまうのでしょう。

 そんな事を考え、せめて死ぬ前に白玉がもう一度食べたかったとか考えておりました所、突然、影狼さんはケロリと表情を変えました。

 

「あー、やっぱり袖ちゃん面白い」

「え、あの、怒ってないのですか?」

「いや、元からそんなに怒ってないよ?」

 

 けらけらと素敵な笑顔つきでそんな事を言って下さる影狼さん。その態度でようやく影狼さんに弄ばれていたと分かり、激しく赤面する私。その赤面具合といったらもう、先程の焚き火に匹敵するほどなのは間違いありません。

 

「もう、からかわないでください!」

「嫌よ、私の楽しみが一つ消えるじゃない」

 

 もう、周りなんて憚らずにけらけら笑い続ける影狼さん。普段見せない態度を私に見せて下さるのはいいのですが、もう少し心臓に配慮して欲しい物です。

 なんて腹の中で不平不満を漏らしていますと、遂に妹紅さんまで笑い出す。

 

「毎回毎回、袖引ちゃんも面白い位に引っかかるな」

 

 くすくす笑われ、もう私も恥ずかしくてどうしたらいいのか分かりません。困ったことにこの恥ずかしくもこそばゆい気持ちを言葉にして非難出来る程、私の語彙は達者ではありませんでした。故にこう叫んだのです。

 

「もうっ! お二人ともやめてくださーい!」

 

 さらに笑い声が大きくなったのは言うまでもありません。

 

 

 さて、ひとしきり笑い終え、本当の本当に帰り支度。の前に竹炭の事をもう一度伝えた所、快く承諾を頂きまして、ほいほいと完成された品を渡されます。もちろんの事ながらお代もきちんと払い、包み紙にくるみ懐へ。

 

 さてさて、そろそろ帰りましょうかなんて言っておりましたが、もうそろそろ本当に夕焼けの頃。おうちに帰らねばなんて思っておりましたが、影狼さんは耳をひくひくとさせあるものを聞き取ったようで私たちにある提案をしました。

 

「ねぇ、面白そうなものが近くに来ているんだけど一緒に行かない?」

 

 楽しそうなその表情からどんなものかを察した妹紅さんと私。妹紅さんは仕方ないなの様な表情で、私は口元を緩めながら頷きます。まだまだ楽しい時間は終わらないようです。

 

 さて、竹林を一旦抜けまして道はずれ、もはや見慣れたといっても差し支えのない屋台がそこにはありました。相変わらず狼の聴力をなめてはいけないな、なんて思えば目も油断できないと妖怪の山に住む天狗様の事を思い出します。

 くだらない事を考えつつ屋台の暖簾潜れば、いつもの声が出迎えて下さいます。

 

「あら、いらっしゃい。今日は三人一緒なのね」

 

 クスリと微笑む素敵な女将さんことミスティアさんに出迎えられつつ席に着く、先ほどの焚き木は少し離れておりましたが、今回は席も少ない小さな屋台。必然と席も隣になります。そんな状態に私は少しだけ口角が上がります。他の二人もちょっぴりご機嫌な様子。

 お料理運ばれ、いざ会話劇第二回戦。今度は女将交え、お酒が入り、かなり騒がしく会話が始まります。お酒で口を湿らせれば、その分口は軽くなり、うまい料理に舌鼓打てば、楽しい会話も弾みます。

 次第に距離も近くなり、しなだれ掛かったり、泣きついたり、とかなりの騒がしさ。思わず頬も緩むという物。名誉の為に誰が誰とは申しませんが、しっちゃかめっちゃかになった所で今回はお開きとなりました。

 

 二人は竹林、私は人里となると残念なことに屋台でお別れ。赤ら顔の二人は夜闇の竹林へと消えていき、私も我が家へと引き返します。

 

 

 

 冬の厳しい寒さが体を打ち付け、思わず身震い。こんなのでは酔いが醒めそうだなんて思いつつも帰路を急ぎます。

 

 真っ暗な闇の中、冬のからっと晴れた星空が私の足元を照らしていきました。サクサクと雪残る道を敢えて歩いて帰っておりますが中々に趣深いものです。

 楽しい会話の終わりは一抹の寂しさが宿るもの。騒がしければ騒がしい程その反響は大きくなります。これは仕方の無い事なのでしょうね。

 

 

 はぁ、と白い息を手に吐きかけつつも何処までも続く様な暗闇を見つめました。この闇は一体何処に続くのだろうなんて考えてしまいますが、答えは簡単。人間様の住む所に辿り着くだけなのです。

 てくてく、サクサクと歩き続け不意に止まる。何となく後ろを振り返りますが当然の事ながらそちらも闇。分かっているのは後ろには行った場所が広がっている事だけです。

 

 道に迷った訳でも、立ち止まったわけでも無い、ただ見えないだけなのです。人間様はこういった闇を嫌いますが私たち妖怪はきっと逆。この闇こそ楽しいのであり、この闇は妖怪の味方であり続けます。

 

 人間様からすれば、見えないのであれば外に出なければ良いだけですし。怖いのであれば忘れて寝てしまえば良いのです。

 

 妖怪と人間が共存するこの幻想郷。賢者様は境界の妖怪ですが、この妖怪と人間の境界というのは一体どこに?

 

 

 なんてそこまで考え、なんだかんだ酔ってるのだな、なんて思ってしまいます。お酒は好きな方ですし飲める方でもあります。だからちょっと油断したのかもしれません。

 いっその事、そこいらに寝てしまおうかなんて考えましたが、そろそろ人里も見えて来る頃。落ちそうな瞼を堪えつつ、帰路を急ぎました。

 

 

 

 

 さて、やっとの思いで辿り着き、着替えもそこそこに布団へと飛び込みます。お酒も入り、心地良い揺れがふわふわと。私はその感覚に抗わずに意識を沈めていきました。

 

 

 明くる朝、ぼーっと目を覚ましてみれば寒気が顔を打つ、とは言え貰って来た炭を存分に使い火鉢を囲む。妹紅さんの炭は流石だと感心しつつも外を眺めますと、どうやらお天道様が出ている様子。今日は雪も氷も水になって流れていく事でしょう。

 だんだんと近づいてくる春の足音を楽しみながら、外に出ることに致しました。雪かきをやらないままでございましたし。

 

 そんなこんなで新しい朝が始まります。日光が全てを照らし出し、雪がきらきらと照り返す。そんな光が溢れる世界に踏み出しました。

 

 

 さて、こういった所で一段落。冬もいよいよ過ぎ去り、いよいよ春がやってまいります。春と言えば宴会。宴会と言えば……?

 

 そんなこんなで今回はここまでとさせて頂きます。

 

 ではでは、次回も()()続きお楽しみ下さる事を願っております。

 

 

 春の陽気が待ち遠しいです。


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