【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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大変お待たせしました!


おまけだよ、袖引ちゃん

「え? 今ので終わりじゃないんです?」

 

 射命丸様の驚愕した表情が目に入ります。

 まぁ、確かに今ので終わり。めでたしめでたし、なんて感じる人も多いのでしょう。実際私もそうでした。

 ですが、紅魔館の中で忘れてはならないのがもう一人いらっしゃいました。

 それを知るのはこの話。まぁ、後日譚の様なものでございますがお聴き下さいませ。

 

 時期はそうですね。確か、紅魔館でじたばたした後、少し時が立ちレミリア様が博麗神社へと通い出した頃。

 何やら紅魔館周辺だけに雨が降り注ぐなんて珍事が起きた後のお話でございます。

 

 

 私、韮塚 袖引 相談を受けております

 

 

 いつもいつとて、人様がいらっしゃらない店内で、ふぅ、とため息一つ。

 その響きは憂鬱からくるものでは決してなく、完成したぞと言う達成感からはみ出たもの。

 えぇ、そうです。ついに完成いたしました。慣れない服装の仕立て故、確認の為にここと紅魔館をいったり来たりなんて事もあった中。ついに、めいど服と呼べるものが注文数完成いたしました。

 この際だから屋敷中に居る全てのメイドの服を作ってくれなんて、注文を主様から頂いてしまいまして。嬉しいやら忙しいやら、夜なべして、せっせかせっせか、とやっておりましたが仕事の山はうず高く。まるで富士のようだなんて嬉しい悲鳴を上げておりました。

 そんないつ終わるかも分かりもしない、不治の山を一刻も早く終わらせねばなんて思うこと幾星霜。

 先程のため息とともにようやく完成致しました。

 

 さて、さっさと届けてぐーすか寝ましょう。なんて思いつつ、荷物をまとめ、戸締まりをし、紅魔館へと飛び立ちました。

 久方ぶりに飛ぶ青空は澄みわたっており、少し眩しい程。まるで仕事が終わった事を祝福して下さるようでありました。

 

 さて、蒼穹の下ふわふわと飛んでおりますと、見えてまいりました紅い館。

 ひとまずの納入やら質問やらで通い詰め、十六夜様に助言を願ったり、お茶をご馳走になったり。………お菓子を頂いたり。

 

 まぁまぁまぁ、決して怠慢をしていた訳ではありません。ましてや、お菓子目当てで通い詰めるなんてこと致しませんとも。

 ただ、十六夜さまが拵えて下さる西洋のお菓子は絶品でございまして、お誘いあらばついつい乗ってしまうもの。

 紅魔館へ訪れた日はなんだかんだと長居をし、夜に発奮する。なんて妖怪らしい生活で御座いました。

 

 とは言ったものの、訪れたらレミリア様について何処かにいってしまわれていたり、と紅魔館にいらっしゃらないなんて事もございました。

 しかし、レミリア様が仰る通り、十六夜様は完全で瀟洒なめいど様。普段は天然な面もございますが仕事とあれば、まさしく別人。

 予め、私が来訪することを見越し、指示書と共にくっきーとやらを代理の妖精さんに渡されたときは驚きやら美味しいやらで、尊敬の念が一層深くなってしまった程です。………あくまで仕事の面で、ですよ? 

 

 そんな紅魔館への来訪も慣れていき、だんだんと十六夜様を始め、紅魔館の皆様と親交を深めていきました。紅様にも顔を覚えて頂き、よく世間話なんかもしてくださる程。実に、ありがたい事です。

 しかし、他人は他人。昨日の事ではございますが、最終確認をば、なんて思いつつ尋ねに行きました所、何故か紅魔館周辺だけに周辺にのみ雨が降っておられ、これは、不思議な事だなんて思いつつ紅様に挨拶をしたところ、本日は立て込んでいるから明日にしてくれないか、と心苦しい顔。

 そんな顔をされてしまっては引き下がるという事が筋というもの。

 踏み込んでしまった挙句、疎まれるなんてことも予想可能な範疇でございました故、すごすごと引き下がった次第でございます。

  

 

 さて、そんなこともありました昨日の今日。本日もあわや門前払いかなんて内心戦々恐々としつつも見えてまいりました。紅き館。

 澄み渡る晴天の下、昨日の雨なんぞどこ吹く風といった表情で本日も真っ赤に建っておりました。

 

 ようやっと目の前に辿り着きまして、ひゅるひゅると高度を低くし、門の前へと降り立ちます。まずは紅様にご挨拶と致しましょう。

 

 姿が見えていたのか笑顔を差し向けて下さる紅様にご挨拶。

 

「こんにちは。荷物のお届けに参りました」

「はい、こんにちは。……昨日は追い返すような真似をしてしまい、すいませんでした」

 

 笑顔で挨拶を返してくださった後、すまなそうな顔で謝ってくださいました。

 そんな事をされてしまっては私としても困ってしまうもの。慌てて、紅様を静止します。

 

「そんな、とんでもない! むしろお忙しい時に大変失礼いたしました」

 

 手をブンブンとやりつつ紅様に佇まいを直して頂けるようにしますと、願い通じたのか元通りにしてくださり一安心。紅様も少し照れたようなお顔をお見せくださり、それにてひと段落。

 気にならないなんて言ってしまうと嘘になってしまいますが、踏み込まぬこともまた商売にとっては重要な事。先程の事は水になり雨になり流してもらう事と致しまして、軽い世間話を交えつつ、開門をお願い致しました。

 紅様も分かって頂けたのか、門を開けてくださいまして、さぁどうぞ、なんて仕草をしてくださいます。そんな仕草に合わせつつ、紅様が一言。

 

「中でお嬢様がお待ちです。……どうかお気をつけて」

 

 何やら不穏な言葉を掛けられつつも招き入れられます。

 レミリア様とお話していると無茶苦茶な事を要求されることもしばしば、また不機嫌な時はその機嫌が行動に出やすい。なんて事を紅様にお聞きした事もありました。

 故に、本日はレミリア様のご機嫌でも悪いのか、なんて思ってしまいまして、気が引けてしまいます。

 しかも、待っている、だなんて素敵滅法なお言葉までついているではありませんか。私が何かやらかしてしまったのかと震え上がらずにはいられませんでした。

 

 しかし、せっかく出来上がったものをわざわざ遅らせて届ける様な事はしたくありませんし、待っているという事は、こちらの行動は筒抜けの可能性がございます。私が目と鼻の先に来ている真っ赤な館から目を背け、踵を返してしまえば、レミリア様は烈火の如く怒り狂ってしまうかもしれません。そんな事をしてしまったら私なんぞ障子紙同然。ちぎって丸めてさようなら。でしょう。

 そもそも商売である以上は、信用という物は命よりも重い重要な物。誠実であるという信頼は何物にも代え難き物です。此方が何かをしでかしてしまったのなら、拳骨くらいは甘んじて受けましょう!! ……出来れば避けて通りたいものですが。

 

 まぁ、それはさておき、門番様の暖かいお心遣いにより、心が冷え切ってしまった所で、大きな扉の片割れをグイグイと押しつつ中に入っていきました。

 

 中に入るとこれまた十六夜様が出迎えて下さり、会食を行える様な非常に広い食堂へと通されました。燭台が西洋机の上に適度に並べられており、蝋燭が揺れます。

 十六夜様が椅子を引いて下さり、ここで待っていて欲しい、なんて言葉と共に何処ぞへと去ってしまいました。

 よくお話をさせて頂いている紅様や十六夜様ですら何も言って下さらず、私はもう気が気でございません。何かやらかしてしまったのは、もはや確定と断定してしまっても差し支えない程。

 この現状は沙汰を待つ罪人が如きであり、心臓は早鐘を打ち続け、座っている椅子はなんだかとても居心地の悪い物に思えてきてしまいました。

 

 そんな蝋燭の火のようにゆらゆらと心を揺らしておりますと、遂にレミリア様がやってきてしまいます。

 私としてはもう既に土下座をせんばかり。

 

「さて、今回は頼みたいことがあるんだが」

「はい! もうなんでもやりますとも!! 土下座ですか!? 土下座ですね!!」

「え? いや、土下座は要らない。と言うか何故土下座なの……?」

 

 少し困った様なお顔でそう答えられ、地面に頭を擦りつけんとしていた私も急停止。てっきり死刑宣告が下されるかと思われていましたがてっきり違う様子。対面のレミリア様も、十六夜様もこちらに白い眼を向けておられ私の顔は真っ赤っか。紅い館の主従より赤くなってしまい立つ瀬がございません。

 そうやって小さくなっておりますと、レミリア様が可愛らしい咳払いを一つ。仕切り直しとばかりにこちらを見据えました。先程の私の顔より、真っ赤なお目めがぱっちりとこちらを向いており、思わず吸い込まれてしまいそうでした。

 そんな紅の海に溺れておりますと、その下に位置する小さなお口が開きました。

 

「私の妹の相談を受けてくれないか?」

 

 そんな声を聞き、目から目を離しますと、レミリア様の表情は真剣そのもの。からかわれている訳ではないようです。妹君がいらっしゃったなんて初耳ではございますが、商人たるものお客様の要望には出来るだけご期待に添える努力せねばなりません。しかもご依頼してくださる方は、今後お得意様になってくださるかもしれない素晴らしいお方。答えたくなるのも人情でございます。……お菓子の恩もございますし。

 そんなこんなで迷うことなど微塵も無く頼み事をお受けする事に致しました。レミリア様の妹君でありますし、きっと聡明なお方なのでしょう。

 

「かしこまりました、その件お受けいたします」

「袖引ならそう言ってくれると思っていたわ」

 

 私が承諾の意をしましますと、レミリア様はにやりと口角を上げ口の前で手を組みつつ、妹様の説明をはじめました。

 

「私の妹は狂っていてね」

「……え?」

 

 今日のお茶っ葉はね、みたいな非常に軽い調子でレミリア様が語った内容は、私にとって到底聞き流すことの出来ないお話でございました。

 狂っている、なんて聞こえておりましたが、軽い冗談と言う物なのでしょうか? 余りにも鮮烈なお言葉であった為、思わず聞き返してしまいました。

 私が聞き返した事に少し不機嫌そうになりつつ、レミリア様は死刑宣告にも似たお言葉を仰りました。

 

「だから、私の妹は気がふれてるのよ」

 

 気が触れているとはまた突飛なお言葉がお口から飛び出したものです。ひょっとして私、とんでもない安請け合いをしてしまったのではないでしょうか!?

 冷や汗とも脂汗ともとれる汗をだらだらと垂らし、焦っておりますと、更にレミリア様は口を開きました。

 

「で、その妹と話してきて欲しいのよ」

 

 事情をよく聞くと、魔理沙さんが忍び込み、妹君と出会ったそうです。その後弾幕ごっこを経て外に連れ出すと約束をしたそうです。しかし、495年と言う長い間閉じこもっていた妹君は外に出るか悩んでいる。との事。

 私に頼んだ理由は、妖怪で人里に住んでいて、幻想郷の魅力を知っているだろうという事で白羽の矢が立ったそうです。

 因みにこの事が起きたのは昨日のことであり、運が悪ければ暴れ出すかもしれないとの事。

 

 えぇ、はい。………どうしましょうか?

 

 まず、495年閉じ込められていたという折り紙つきの箱入り娘様でいらっしゃった事に驚いた、というか度肝を抜かれたというか。私の年齢の倍くらい生きておられるのに世間を知らないとなると、何を話したものでしょうか。

 そもそも、気がふれているなんておっしゃっておりますし、まともにお話出来るかどうか。それ以前の問題として、私のような弱小妖怪がお役立てできることなんてございますでしょうか。ただ、千切られて紙吹雪のように舞う姿しか想像できません。

 とは言え、頼まれた事は頼まれた事。頼んだからには何か意図があるのでしょうし、断る気もございません。

 更には魔理沙さんが連れ出そうとしただなんて、興味も沸くもの。少し関わってみたくなったのも事実です。

 

 さて、色々な説明を受けながらも再び図書館へと、足を踏み入れ更に奥にある地下へと踏み入っていきました。

 

 先程は興味が沸いただなんて、格好つけておりましたが、いざ目の前にしてみますと、震えが止まりません。

 ありとあらゆるものを破壊する能力なんて物騒な能力をお持ちだそうで、本当に死んでしまうかもしれないなんて思ってしまい、ついつい震えが来てしまいます。

 コツコツと階段を降りる度に、心臓が縮んでいくようなそんな気すら起きてしまう程。

 そんな、心臓をバクバクとさせている私についてきて下さる方は、レミリア様と十六夜様。どちらも私とは違い平然とした顔つきで進んでおりました。

 薄暗い階段を下っておりますと、出来れば外に出してあげて欲しいものだわ、なんてレミリア様のポツリとした呟きが耳に入ります。

 

 その呟きを聞き、なんというか、お姉さんなんですね、なんて緊張する頭の片隅で思いつつ、気合いを入れ直しました。

 とは言え、私が死んでしまった所で大した事があるわけでもありませんし、魔理沙さんのお友達が増えるのならまた本望。せっかく頼まれた事でもありますし、しっかりと妹君をお外に出してみましょう。

 そんな事を考えていると、いつの間にか扉の前に辿りついておりました。ここまでついて来て下さったお二人は、変に刺激すると話辛いから、ということで図書館で待っているそうです。

 

 さて、正真正銘、私一人。鬼が出るか蛇が出るか、と言った気持ちで扉に手を掛けました。

 玄関や門よりは遥かに小さい扉を両手で、えい、と押し開けます。きぃ、と音と共に誰かを待っているが如く、すんなりと扉は開きました。

 

 中に入ると、レミリア様同様に私と同じくらいの背丈の少女がちょこんと座っておりました。

 まず目にはいるのは、今日び珍しさも薄れた、魔理沙さんを彷彿とさせる短めの金髪。その上に、レミリア様やパチュリーさまもつけていらっしゃる帽子の様なものが鎮座しておりました。

 身につけていらっしゃるお洋服は赤を基本とした上下一体型。頭の金と服の赤の対比はなかなか鮮烈な印象をこちらに与えて来ます。

 そして、背中につけていらっしゃる羽にあたる部分にはレミリア様とは違っておりまして、背中から枝のような細い物が一対突き出ており、その枝には結晶の様な物がぶら下がっておりました。

 私が入ってきた事に気づき、此方にレミリア様同様に整った顔を向け、問い掛けてきました。 

 

「誰?」

「魔理沙さんのお友達ですよ。韮塚袖引と申します」

 

 タラリ、と汗をかいてしまいます。今はあまり力を感じないと言えどお相手は格上も格上。一瞬で千切られる程の力の差がございます。

 更に、妹様がお持ちになっているのは、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力。機嫌を損ねてしまえば、どかん。と行かれるのは目に見えております。

 故に、言葉を選びつつ慎重に慎重に、会話を試みます。

 私の言葉に反応したのか、妹様は此方に身体を向けてきました。

 

「あなたも巫女さん?」

 

 そんな質問が飛んできまして、ついうろたえてしまいます。

 巫女? 何故、巫女なのでしょうか。巫女要素は何処にも無い筈なのですが……ひょっとして、魔理沙さんが変な事でも言ったのでしょうか?

 とにかく、ここは正直に答えましょう。変に答えてしまったら最後、熟れた赤茄子の様に……なんて事になりかねません。

 

「いえ、しがない呉服屋でございます」

「服をつくるんだ? 私の服も作ってくれる?」

「えぇ、勿論」

 

 とんとん拍子に会話が進んでいきます。狂っているだなんて聞いて身構えておりましたが、どうやら杞憂の様子、レミリア様も茶目っ気のあるお方ですね、だなんて事を徐々に思いつつ会話を進めていきます。

 妹様は服飾と言う言葉に食いついたのか、少し身を乗り出して来ました。

 

「ふーん、作ってくれるんだ、どんなものを作ってくれるの?」

「注文して頂ければ、どんなものでも努力いたしましょう」

「じゃあ、ザディエ」

「ざで……?」

「ザディエよ、ザディエ」

「えーと、それはどんなものなのでしょうか?」

「知らないなら良いわ」

 

 ピシリ、と温まってきていた部屋の温度がぐんと下がった。そんな気がしてしまいます。せっかく、とんとん拍子に会話が進んでいたのに、私の無知がゆえに妹様がそっぽを向いてしまわれました。

 当然、そんな極寒な空気に私が耐えられるはずも無く、ガチガチと恐怖で震え始めました。悲しい事ですが、弱い者は強い者には逆らえないのです。

 ひとまず、機嫌を損ねてしまった事を何とか挽回しようと話題の転換を図ります。

 

「そう言えば、魔理沙さんとはどんな事をおっしゃっていましたか?」

「私と魔理沙が結婚するんだって」

「ぶふっ!?」

 

 あまりの衝撃につい吹き出してしまいました。なんて事を言っているんですか、彼女は。

 不意打ちなだけあって、その衝撃たるや凄まじく、こんないたいけな見た目な少女が趣味だったのでしょうか、いえ、もしかしたら私が近くにいたが故に、こんな趣味になってしまったのか、とか、様々な言葉が頭の中をぐーるぐる。ついでに私の頭もぐるぐると混乱し、挙句の果てには、同じ体格の私ではダメなのか、なんて思ってしまい、ついつい言葉が口をついて出てしまいます。

 

「お外に出なければ結婚出来ませんよ?」

 

 あ、っと思った時には、既に失言は口を旅立った後。取返しなんぞつきません。いつもでしたら即座に真っ青になって平謝り。しかし何故か、今回は腹の虫が収まらない。腹の虫が収まらないとあっちゃあ悪癖もまた収まりません。

 何というか、ずるいというのが正しいのですかね。そんな羨望にも似た感情が体を駆け巡り、身体を熱くさせていきました。

 私に対して妹様は大して気にした様子も無く、魔理沙さんとの結婚案をぶちまけました。

 

「内婚というやつにするわ、外はつまらないもの」

 

 妹様は結婚する気が満々の様でございますが、私とて魔理沙さんを幼い頃から知っている身。簡単に渡すわけにも参りません。格の差なんてしったる事かドンドンと突っかかっていきました。

 

「お外に出ないのは勿体ないですよ?」

「なに? 私に指図するの? そんなに弱いのに?」

 

 明らかに不機嫌そうになっていく妹様。

 しかし、今の一言で更に私は燃え上がります。めらめらと感情を燃やしていき、悪癖がそれを燃料に元気よく跳ね回りました。

 もう我慢なんぞ蚊帳の外、元気よく買い言葉が口を飛び出しました。

 

「弱いとは何だ!! そっちだって同じ位の背丈の癖に!!」

 

 はっ、と飛び出した後にようやく我に返りました。もう何をやっても後の祭り。

 あぁ、此処が私の死に場所なのですね、なんて思いつつ、ぎゅっと目を瞑ります。こうなってしまった以上仕方ありません。

 まぁ、出来るだけ痛くない様にお願いしたいものです、なんて思っておりましたが、いつまでたっても衝撃がやってきません。

 そろそろ私の愚かな言葉に激昂した妹様が、私を血祭りに上げるべく能力を遺憾なく振るう頃だと思うのですが……

 

 体感的には一刻二刻程の長さでしたが、恐らくは、十数える程の時間だったのでしょう、そろそろと目を開けてみますと、目に飛び込んで来たのはきょとんとした妹様のお顔。

 

「驚いた……まさか喧嘩売られるなんて……魔理沙といい勇気あるのね」

 

 口から飛び出したのはそんなお言葉。あぁ、変な所で姉妹なのだななんて実感させて頂けるような、姉様と良く似たそんな反応。

 そんな反応に唖然としてしまい、顔を付き合わせて少しだけ空白の時間が生まれます。

 

 空白の時間を切り裂いたのは妹様。此方に眼を合わせ、問いかけて来ました。

 

「袖引だっけ? 面白いわ。私と遊びましょ?」

 

 出てきたのは遊びのお誘い。そんな可愛らしい一面も見た目通りあるものだなんて思いつつ、快諾致しました。

 

「いいですよ、何して遊びましょうか?」

「お人形遊び。あなたがお人形」

 

 ん? ……今、変な単語が聞こえた気がします。私がお人形になるとかならないとか。私、この時点でレミリア様のありがたいお言葉を頭の中から追い出していたことに気づいてしまいました。

 気づいてしまったからにはさぁ、大変。緊張で固くなった頭を必死に回転させて、この場を離脱する事も考えましたが、レミリア様からの依頼である以上逃げる訳にもいかず、ただただ緊張するばかり。

 一縷の望みにかけて、私の様な人形と言い間違えた事をひたすら事を祈りつつ、妹様に話しかけました。

 

「日本人形は遊ぶものでは無いのですよ、婚礼道具です」

「壊れれば一緒。さぁ、仲良く遊びましょ?」

 

 まぁ、神も無ければ、救いも無い、いらっしゃるのは悪魔のみ。慈悲も、遊びも無く一方的な人形ごっこが始まってしまいました。……誰か、お助けを。

 

 さてさて、刺激的な場面ではございますがいったんの幕引きをば致します。

 

 妹様とのお人形ごっこ……私、どうなってしまうのでしょう。

 

 

 ではでは、次回も()()続きお楽しみ下さる事を、願っております。

 

 

 

 


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