【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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3月7日 一話前にこの話の導入を投稿させて頂きました。
 順番が前後してしまい大変申し訳ありません。


紅い霧だよ 袖引ちゃん

 シーンと静まり返った野の道をひとり寂しくウロウロなんかしております。

 遠くから聞こえるのは血走った獣や空気に当てられた妖怪ばかり。

 普段でしたらテクテクと里の外れを歩き回れば、木こりの方や畑仕事に向かう方などがいらっしゃいますものですが、本日は人ひとり見当たらず、寒々とした風景が広まっております。

 草木もまるで息を潜めるかの如く陰っており、自身の草履が地面を蹴る音が聞こえてくる始末。

 

 本来真夏の頃であり、路端には瑞々しい赤茄子がなっていてもおかしくない時期。いえ、なっている事にはなっていますが、そんな赤もこんな天気ではとんと目立ちません。

 そんなのあんまりだとハァと溜息を吐き、空を見上げると、空は血の様に紅く染まっておりまして、おどろおどろしい雰囲気の空が此方を睨み返します。

 夕焼けの様な燃え盛るような赤とは違い、目が痛くなるような紅色が目に飛び込んで来て、鬱陶しいったらありゃしません。

 

 幸い、私は鬱陶しく感じたり、洗濯物に難儀したりする程度で済んでおりますが、人間様たちはそうも参りません。

 曰く吸い込んだら体調を崩した、霧を見ていたら気分を悪くしたなど、様々な苦情が耳に届いております。

 人間様の間では、これは明らかに異変だとまことしやかに囁かれておりました。

 

 まぁ、私も間違いなくそうだとは思っておりますが、異変にしては穏やかというか何というか、脈々と受け継がれて来ています博麗の巫女が解決した中にはもっと凄まじい物もございまして、正直穏やかだなー、なんて牧歌的な気分でいるのも事実です。

 

 しかし、里の管理者や稗田家、そして、人里の守護者様達はそういう訳にも行かず連日会議を開いているそうで、なかなかに権力者というものも暇では無いのだななんて思ってしまいます。

 素早く開かれた会議で決定された事項は、一先ずの厳戒令、つまるところ外出禁止令。隊員が体調を崩したりと怪我をしたりとガタガタになっている自衛団の再編。

 また、人里の守護者は博麗神社に直訴しにいくなどと相成ったそうです。

 

 そんな訳で人里も、人里の周辺も人間様は居なくなり、騒ぐのは妖怪ばかり。なんて様相を呈しております。

 

 さてさて、そんなこんなで幻想郷は紅い霧の異変の真っ最中。 

 そんな霧の異変にひょんな事から少しだけ関わってしまいます。 

 紅き霧の中、私を待ち受ける受難とは!?

 

 

 この私、韮塚 袖引 見回りをしております。

 

 

 普段、閑古鳥が鳴く店内ではございますが、なんと今回はお客様がいらっしゃっております。

 綺麗な銀色に所々青が入り混じり、黒で短めなの私からすると少し羨ましい絹のような長髪を腰ぐらいまで伸ばし、更にはお胸に自己主張の激しいお山を二つお持ちなさっていらっしゃる寺子屋の教師兼、人里の守護者の上白沢 慧音先生がいらっしゃっております。

 惜しむらくは客としていらしていないという点ではございますが、厳戒令が敷かれている今、来客があるだけマシだと思いましょう。

 

 

 さて、そんな普段は出会ったら世間話に洒落込む程度の仲の彼女ではございますが、今回は何の為にいらっしゃったのかいまいち分かっておりません。

 ガラッと戸を開けたと思ったら商品に脇目も振らず、ツカツカと此方へと歩み寄り、お邪魔するぞ、のお言葉と共に会議の次第を話して頂いているという流れでありまして、ゴーっと右耳から左耳へ流れて行く言葉は形にならず、いきなりお話され面食らっている私にはもう何がなんだか分かっておりません。

 分かっている事と言えば、目の前にある大きなお胸が羨まし──

 

「おい、ちゃんと聞いているのか韮塚?」

「ひぇゃ! ひゃい!」

 

 下らない事を考えておりましたら顔を覗き込まれた様で、目の前に怪訝そうな先生のご尊顔がございました。

 ぼけっとしていた分驚きも大きく、声にならない声を上げてしまい、顔が茹で上がります。

 そんな態度に溜め息を吐きつつも上白沢先生は更に言葉を続けます。

 

「と、いう訳だ、悪いが韮塚、裏門の見回りをお願いしたい」

「はい……はい?」

「おぉ、引き受けてくれるか! 感謝するぞ」

「ちょ、ちょっとお待ち下さい! えーとどういった経緯でそうなってしまったのでしょうか?」

「なんだ聞いていなかったのか? 自衛団が人手不足なんだ、今は妖怪の手すら借りたい。で、韮塚に白羽の矢が立った訳だ」

 

 異変の状況が思っていた以上に深刻であった様でそんな事を要請されてしまいます。

 当然、愛する人間様の為でしたら一肌、二肌、なんなら諸肌脱ぐ所存では御座いますが、一つ問題がございました。

 

「いえ、私は構いませんが、人里の方で反対意見は出なかったのですか? 一緒になって襲うなどの心配とか?」

「ん? あぁ、君は人間に直接的な被害を加えないからな。まぁ、反対意見があることにはあったが私が押し切った。人手が足りなさすぎるとな」

「なるほど……愚問ですが、上白沢先生の能力を使うというのは?」

 

 この人里の守護者さまは歴史を食べる能力をお持ちでありまして、私が此処に住み着いてから幾度かその能力の発動を目にしたことがございます。

 此処にある筈なのに、此処に無いという感覚は薄気味悪い感覚でございまして、初めて目にした時は大層たまげたものです。

 実は、そんな便利な能力を使わないのかと、過去に小さな異変が起きた際にも質問させて頂いたのですが、その時は決まって優しい笑顔と共に、こう仰います。

 

「私は守護者であって保護者では無いからな、本当に危険な時までとっておくさ」

 

 そんな人間の為という言葉を考えつくした優しいお方に頼まれたとあってはやる気もむくむく沸いてくるものです。捩じり鉢巻絞め、たすきを掛けんばかりの勢いで了承し、裏門へと赴きます。

 まぁ、武器なんて物騒な物を振り回せる訳も無く、素手かつ何時もの格好な訳ですが。

 

 最後に先生は私を見て少し心配そうな顔つきになり、ありがたいお言葉を掛けて下さいました。

 

「頼んでおいてなんだが……絶対に無茶だけはするんじゃないぞ、危なくなったら逃げても構わんからな!」

 

 そんな優しい言葉を背負いつつも、えっほえっほと現場に急行いたします。

 住んでいる地点が裏門に近く良く裏門を利用したりしてまして門番さんとは仲が良く、事情も通っていたようで門番さんに門を通して頂きました。

 この門番さん達が戦うのはあくまで最終手段との事で、基本的には人里へと到達する前に対処してしまう事を目的としております。

 

 やるべき事はこの霧の異変で舞い上がり、人里に乗り込もうとする小物を追い払う事と、たぶんあり得ないだろうが大物がやってきた場合、専門家が到着するまでの時間稼ぎだそうです。

 それと、上白沢先生は命名決闘法がこの前施行されたので、そこまでの危険は無い筈とも仰っておられました。

 

 ですが、それはあくまで人間と異変を起こした妖怪のお話、もっと言えば異変を解決出来るほどの力を持った人間と、異変を起こせるだけの知能を持った妖怪に限定されますので、あくまでも気休めにしかなりません。

 先生もその事には重々承知の上だからこそ、自衛団の再編やらで揉めていたり、挙げ句の果てにはこんな弱小妖怪に頼む流れとなったのでしょう。

 

 そんな方々に気を回す先生の苦労を軽減するためにも、里に近づこうとする不埒者を()()()()()()

 とは言え、幾つか存在する門の中でも、あまり存在自体が知られていないような小さな裏門から訪れる、という方もあまりは多くないのかそこまで来客は多くありません。

 時々引き寄せられますのは、霧に当てられた獣であったり、小妖怪などに拳骨やら説教やらをして回り、様々な舞い上がり方をしている者たちを追い返していました。

 気付けば辺りは薄暗く、いつの間にか日が暮れ始めていた事に気づきます。

 

 そんな誰そ彼時の中、暗闇を切り抜いた様な黒い球体がフワフワと此方に寄って参ります。

 

 その大きな黒団子を眺めていると、フラフラと木にぶつかろうとしておりました。

 さすがに、そのままぶつかってしまうのを黙って見ている訳にもいかず、ついつい声を掛けてしまいます。

 

「あの、危ないですよ?」

「おー? どこらから声が」

 

 反応を返してくれますが、球体状態からの解除する気配は見えず、そのままふわっと木の方へ向かっていきます。

 あ、と声を上げた時にはもう遅く、ドスンとぶつかってしまいました。

 

「あ、痛ぁ!」

 

 ゴチンなんて音が響きそうなくらい綺麗にぶつかった彼女は頭を抑えつつ、正体を表します。

 小さな身体に、金色の短髪、黒を基調とした白黒のご洋服を纏った闇の妖怪さん、ルーミアさんが姿を現しました。

 

「おー誰なのだー?」

「韮塚 袖引です……ってこの件何回目ですかね?」

 

 一応何度か顔を合わせている筈なのですが、何故か一向に顔を覚えて貰えません。何となく寂しく思いつつも毎回自己紹介を致します。

 

「何処かで会ったような気もするけど、別人の気もする」

「いえ、私は私なのですが……」

「ふーん? まぁどうでもいいや。何処かの誰かさん、さよならー」

 

 自己紹介をしましたがルーミアさんに興味無さげに聞き流され、そのまま人里の方に流れて行こうとしてしまいます。

 当然、そんな事を看過することは出来ず、彼女の元へと駆け寄り慌てて引き止めした。

 

「ちょ、ちょっとルーミアさん、何処に行くんですか!?」

「んー? 向こうから美味しそうな匂いがするから行くだけよ」

「そっちは人里です。引き返して下さい」

「えー良いじゃない、減るもんじゃないし」

「いえ、色々と減りますから」

「そんなの私の勝手でしょ、邪魔しないで欲しいなぁ」

「駄目ですって!」

 

 フラフラと去ってしまいそうな彼女の袖を右手でがしっと掴み、そのままグイグイと引っ張ると彼女はあからさまに面倒くさそうな顔を此方へと向けます。

 その後、はぁ、と溜め息を吐き、ボソッと言葉を発しました。

 

「あぁ、もう面倒臭いなぁ──」

 

 そう言い彼女は自身の周囲に闇を展開し、黒い球体を形成していきます。

 あまりの生成の速さに手を引き抜くタイミングを外し、黒い球体に右腕が飲み込まれてしまい、引き抜いた時にはもう既に時遅し。

 

 ゴリッと嫌な音がし、肘から上を残して右腕が()()()()()()()()()

 

「ぐっ──」

 

 子供染みた()()()()から血がドボドボと溢れ出し、痛みが津波のように押し寄せます。無くなってしまった喪失感と軽くなったという不気味な身軽さを感じ、気分が悪くなっていきました。

 ぼけっとしている暇も無く、即座に能力を使い痛みを()()()ます。この際血がいくら流れようが問題ありません。妖怪ですので多少の我慢は効きます。

 そんな血みどろな右腕から目を放し、再び球体に目を向けますと、何かを咀嚼するような音を響かせながら、黒い球体が声を発します。

 

「美味しくないなー、ねぇ、邪魔だから退いてよ」

「……そうもいきません、ここを任されてますから」

「お堅いなぁ」

「えぇ、ですから……とっとと帰れ糞餓鬼!」

 

 このまま黙ってやられるのは私とて我慢なりません。命名決闘法なんぞ知った事かと、バッ、と左腕を振り上げ能力を発動。

 私の能力は一度対象に触ってしまえば一定時間再びその対象に能力を発動できます。

 そして、食べられたとしても右手で触った事には変わりません。振り上げた左腕を勢い良く振り下ろし、ルーミアを地面に()()()()()()()

 グン、と引っ張られた黒い球体は地面へと激突し、ゴンと厭な音がこちらへと響いてきます。

 

「いったぁ……いきなりひど──」

 

 そんな声が聞こえてきますが無視、そのまま左腕で引き抜く様に何もない空間を思いきりグイッ、と()()()()()()

 すると、ルーミアが球体から勢い良く飛び出し、驚いた顔が目の前に飛び込んで来ました。

 そのまま私は後ろに引いた握りこぶしを驚愕を浮かべる顔に思いきり叩きつけます。

 

 ゴス、と嫌な音がし、私ぐらいの小さな身体が地面をゴロゴロと転がっていき、近くにあった木に激突。

 そのままぐったりと動かなくなりました。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 緊張と興奮がない交ぜとなった精神状態が血を滾らせ自然と息を迸らせます。食い千切られた右腕の断面からはドボドボと血が溢れだし、血の溜まりを作っていきます。

 多少下品ですが歯で着物を引きちぎり、腕の元へと結わい付け、片手で難儀しつつも簡易的な止血を行いました。

 前にも述べた通り、落武者の逸話がある私は、腕っぷしはそこそこだと自負しておりまして、今回みたいな荒事でもそこそこは戦えます。

 ふっ、どうです? 右腕という文字通り手痛い犠牲を払いましたが、なかなか久しぶりの喧嘩沙汰だろうとも上手くいったようで……

 

「いったいなぁ、もう」

 

 ……まぁ、非力な私では少しの間気絶させる事が精一杯だった様で、ルーミアさんが頭を摩りながら起き上がってきます。

 どうしたものですかね、あれで私、本気で殴ったつもりだったのですが。

 まぁまぁまぁ、とりあえずお話し合いからしてみる事にいたしましょう。

 始まりこそやや刺激的で、ついカッ、となってしまいましたが、やはり人型を取っている者同士お話し合いというものは非常に重要だと言えます、言えるのです、そうに違いありません。

 そんな内心の動揺を悟られない様にしつつもルーミアさんに話しかけます。

 

「どうです? 頭は冷えまひゃ……」

「……」

 

 ……噛んでませんよ? 動揺で噛むなんて恥ずかしい事なんぞ、とてもじゃありませんが出来ません。今のはあれです。食いちぎった着物の破片が口に残っていた事が気になってしまってですね……

 冷や汗が右腕の血と連動する様にダラダラと流れていきます。

 ルーミアさんも木の根元で起き上がった状態のまま、何をやっているのかとでも言いたげに、じとー、と視線を此方に向けており、非常に辛い物があったりします。

 

 まぁまぁ、一度の失敗と言うものは誰にでも存在するもの。

 とりあえずは咳払いなんかを一つ噛ましまして、仕切り直しとばかりに口を再び開きます。

 

「頭はひぇぁ……」

「……そっちが大丈夫?」

「大丈夫です……えぇ、しばらく放っておいてさえ頂ければ……」

「そーなのかー」

 

 二度噛んでしまうという大失態、霧に隠れてると言えども二度目ともあればお天道様も見逃さない。

 天におわしますお方が見逃さないとあっては目の前にいたルーミアさんが見逃すはずも無く、大丈夫? なんて首を傾げ尋ねられてしまう始末。

 穴があったら入りたいと言うか、今すぐにでも布団に飛び込んでしまいたいものですが、そうは問屋が卸さない。

 恥ずかしい会話の最中にルーミアさんが頬を擦りつつも立ち上がり、土の付いた衣服をパンパンとはたいていきます。

 

 普段でしたら、気絶している最中や会話の最中に退散してしまいますが、今回は人里の防衛線を任されており、後には引けません。

 そしていつもであったら逃走を選んでいたという場面であったばかりに、縛るというごく普通の考えも浮かばず、ただ止血をしていただけという愚かな行動をしてしまった為、再び緊張が走ります。

 完全に立ち直りルーミアさんはこちらへと視線を向けてきます。

 私の腕を貪った跡が未だにべったりとついており、口元同様に真っ赤な口を開きました。

 

「で、まだやるの?」

「いえ、私としては遠慮したいのですが」

「あっそ、ならいいや」

「へ?」

 

 意外にもサクッと引き下がり、もう一度身だしなみを確認し今度は気づいたのか口元を白いシャツでゴシゴシと拭うと、本当に興味が無くなったのか人里とは逆方向にフラフラと飛んでいこうとしてしまいます。

 あまりにも意外すぎて呆けていた私ですが、ルーミアさんが飛び上がるとともに、はっ、と現実に引き戻され慌てて引き止めてしまいます。

 

「待って下さい!」

「何? やっぱりまだやる?」

「いえ、それはちょっと……いえ、そうでは無く! 何故、突然襲撃をやめたんですか?」

「んー? もともと紅白な巫女にやられた憂さ晴らしが目的だったから?」

「憂さ晴らし……」

 

 憂さ晴らしで腕を一本落とした、という事実に落胆しつつ、まだ何か言いたそうにしているルーミアさんの言葉を待ちます。

 ルーミアさんは頭につけていらっしゃる、少し土で汚れているリボンをいじりつつも口を開きます。

 

「それに封印された者同士だったから?」

「封印……?」

「わからないなら、知らなーい」

 

 封印なんて耳慣れない言葉が登場し、そのことについて聞き返しますが彼女はどこ吹く風。

 ここまで話し本当に興味が尽きたようで浮き上がろうとし、何かに気づいた様に此方に再び顔を向けます。

 

「あ、そうそう、名前なんだっけ?」

「え? あぁ、韮塚 袖引です。いや、そんな事より封印の事を……」

「ふーん、覚えづらい名前よね、……袖引ね。わかったわかった。じゃあねー袖引ちゃん。また殺し合おうねー」

 

 封印の事には一切触れず、物騒な言葉だけ残して帰ってしまいました。浮き上がっていく彼女の背中には追って来るなという意思が込められている様に見え、そのまま去っていきます。

 私はすぐさま追うことが出来ず、彼女が薄暗く紅い空に完全に溶け込んでいくのを見送るばかりでした。

 

 残った私は左手を伸ばしますが、何も掴むことは無く宙を泳ぎます。手を伸ばした先に見える真紅に染まった空は何処と無く不気味で、青く澄み渡る空が恋しくなっていきました。

 

 ルーミアさんが去り、再び静寂が戻ってきます。

 妖怪すらも去った野道は広々としており、何処か寂しいものでありまして、何の気なしに転がっている小石を足で弄びます。

 

 荒く縛った右腕からはポタポタと血が溢れていますが何のその。

 右腕が取れた所で見回りには対した支障はございません。

 妖怪特有の再生力を私も持ってます故、一、二ヶ月も放っておけば、おいおい生えてくるでしょうし、といつもお世話して下さる皆様の為にもと、奉公の精神で見回りを続けていようと決心し見回りを続行。

 途中、石に躓き転がったり、腕が無いせいで起き上がる時にゴロゴロとしてしまいましたが、概ね問題はありません。ありませんでしたとも!

 

 そんな風に右腕から血をポタポタと垂らして見回りを続けていました所、上白沢先生に見つかり先生の自宅へ担ぎ込まれてしまいました。

 どうやら博麗神社からのお帰りに此方へ差し入れを持ってきて下さいましたが、私の様子を見るや吃驚仰天。

 差し入れ放り出し、襟首をむんずと掴みグイグイと引っ張っていかれました。

 私は平気だからなどと抗議致しましたが聞き入れて貰えず、見張りの方のギョッとした顔を通り抜け、人影絶えた人里通り抜け、あっ、という間に先生の自宅。

 

 いつの間にか辺りはすっかり暗く、蝋燭の火を灯りに包帯を巻いて下さっておりまして、一心地。

 なんとなく無くなった肘から先を眺めておりました所、鼻を啜る音が聞こえました。その声に反応し、顔をあげますと、上白沢先生のお顔は少し涙で濡れていらっしゃいまして、私はギョッとし慌てて話し掛けます。

 

「あ、あの、どうかしましたか?」

「どうして、君はそこまで自分に無頓着なんだ! 逃げて構わんと……いや、怪我するのは仕方ない。その後だ! 

 どうして、誰も頼らなかった!」

「え、あの、それはですね……」 

「私は逃げても良いと言った筈だ! こんなにボロボロになって……」

「……はい、その通りにございます」

 

 凄まじい剣幕の前に、ちょっとした油断で、右腕を落とした事や、裂傷が多いのも、先程転んでしまい泥だらけになってしまっているだけです。なんて、ほぼ自業自得だと口が裂けても言えません、えぇ、お互いの名誉の為にも。

 言ってしまったら最後、微妙な空気が流れ、私は恥ずかしさのあまり悶絶してしまいます。

 そんな事を避ける為にも口をつぐんでいますと、ガバッと抱きつかれます。

 いきなり抱きつかれ吃驚のあまりジタバタしておりますと、文句のような優しい言葉が頭上から降って参りました。

 

「全く、自分が頼んだ事とは言え、肝が冷えたぞ……どうして私の周りには自分の身を案じない奴が多いんだ……」

 

 なんて言葉と共に更にギュッと、強く抱き締められます。何となく拒絶する気になれずにその温もりを享受します。

 

 その日は帰ると言っても聞き入れて貰えず、上白沢先生のお家に泊まらせて頂く事となりました。

 あれよあれよと食事やら着替えやらで時が流れ、いつの間にか夜の帳は落ち切り、布団へと乗り込む時間帯。

 腕も即座に生えるわけでは無く、先生に着替えやらを手伝って頂きつつも布団の中へ。

 ぼふっ、と倒れるように飛び込むと、柔らかなお布団は全てを包み込む温かさで身体を暖めてくれます。そんな柔らかさに全身を預けつつも今日の出来事を反芻しようと致します。

 しかし、襲いかかる眠気には抗えず、ルーミアさんに言われていた重要な事が浮かんでは弾けていきます。

 

 ついに、私は押し寄せる波に身を任せ、たゆたう意識の海へ身体を沈めていきました。

 

 この紅い霧の異変は紅白の巫女が動いた次の朝には解決されてしまいます。

 しかし、私の本当の受難はこの先にあったのです。

 

 一旦、ここいらで中断とさせて頂きますが次回もユルユルと紅い異変を続けて参ります。

 

 ではでは、次回も()()続きお楽しみ下さる事を、願っております。

 




ポロリもあるよ!(物理)

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