ログ・ホライズン 〜見敵決殺の冒険者〜(改稿中)   作:業炎

6 / 16
2殺目 アカツキの想い

 

日が落ち、太陽の光が失われた森に明かりなどない。しかし月の微かな明かりが木々の間から零れ落ちる。そんな近代都市では味わえない様な自然の一時を静かに感じながら、アカツキは身軽な身のこなしで太い木々の枝々を飛び移りながら個別行動開始前に決めた合流地点へと移動していた。

 

(ハサン=サッバーハ……エルダーテイル五本指に入る凄腕の暗殺者)

 

ふと思い起こしたのは同職業の男の姿。持っている装備品は古参であるという事もあって剣と各種防具のレベルに差があるのは分かる。しかし、それ以上に彼はアカツキと異なる戦術を用い、それでいながら暗殺者としての風格を漂わせている。

 

 

ハサンの攻撃は有無を言わさない一撃の剣。アカツキの様な相手の不意を突く忍びの様な戦い方とはまた違う。それでも彼はまさしく暗殺者、命の灯火を一瞬にして搔き消す。

 

(かっこいい)

 

彼女は彼の戦い方を素晴らしいものだと思う。勿論自分の戦い方を悲観しているわけではないが、彼の戦い方は決められた戦術、例えるに敷かれたレールから大きく掛け離れており、下手すれば役立たずにすらなり兼ねない綱渡りな物だ。しかしそれに浪漫と通説を破る快感がある事はアカツキも理解出来る。

 

(それに………)

 

思わず熱くなる頰を冷ます為に頭を振る。彼女は自分でも初めてなこの感情に制御の仕方が分からず困惑していた。

 

 

彼女は大学生でありながら圧倒的に身長が足りていない。そしてその容姿から子供と勘違いされ、居酒屋で飲酒をお断りされる程だ。生真面目な彼女の1番のコンプレックス。それに加えて数歳年下である近所の中学生から同い年と勘違いされて告白された事がトラウマで恋愛には疎遠、特に惚れ込む異性もいなかった。しかしそれが今、この異世界に来て急に現れた。

 

 

元を辿ればゲーム時代、高身長の男をプレイヤーキャラに選び寡黙なキャラを演じ、ボイスチャットで会話を交わした事はなく文面での会話を主としていた彼女だったが、ハサン=サッバーハは優しく語り掛けた。

 

 

今日は全国的に日差しが強い事だったり、最近ゲーム内で金策の為に特定のモンスターを狩る事が流行っている話だったり、大学生のアカツキが興味を持つ様な政治経済の話からエルダーテイル内の事、天候や趣味についての事、話した事は多岐に渡る。

 

 

よくもまあこれだけの話題を、自分の様な無口でサッパリした相手にするものだと呆れた事もあった。でもそのやり取りが知らず知らずの内に彼女の楽しみになっていた。しかし彼とてアカツキだけを相手に出来るわけではない。ある時期を境にパーティーを組む事は出来なかった。その後暫く、彼女はどこか物足りなさを感じていた。

 

そしてこの世界で目が覚めた数日後、有る意味リアルでの再会を果たした。

 

『久し振りだな、アカツキ』

 

彼は彼女を覚えていた。ゲーム時代と見え方は変わった。状況も環境も一変した。それでも彼はいつもの様な振る舞いを取っていた。

 

 

だからこそ、アカツキは自身が女である事を明かす事に恐怖を覚えた。外見を変化する薬剤を譲って貰い、いざ口にしようとしたときにその問題にぶち当たったのだ。今まで性別、容姿を詐称していた事を知ったら彼はどう思うだろうか?嫌われるのではないか?などと言いようもない不安が彼女を苦しめた。

 

 

それでも飲まざるを得なかった。手足の長さが元と大きく異なる所為で自由が効かない状況。それを打破しなければならない以上薬は飲まざるをえなかった。その結果、彼の反応は………。

 

『ヘェ〜〜』

 

なんて事もない。変な目で見る事なく、そういった動揺が現れた訳でもない。まるで前から知っていたかの様な適当な驚き方に、拍子抜けしたと同時に、嬉しかった。直継はちみっこ呼ばわり、シロエも身長と性別の大きな変化に何やら思う所のある様な微妙な顔をしていた。でも彼は変わりなくにこやかに振る舞う。

 

 

その時の笑顔が、彼女の胸を撃ち抜いた。もしかしたら心労の溜まった状態で吊り橋効果的な事が起こったのかもしれないとも考えた。でも、それでも良いと思った。

 

(今は………)

 

安全な街まで帰る事に意識を戻す。だいぶ移動した事でもうすぐ集合地点という所まで着いていた。気持ちを引き締め直し、次の枝に移動する為に足に力を入れようとした瞬間、遠くの方でシロエの物でも、直継の物でも、ましてやハサンの声でもない、野太い男の声が響いて来た。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。