ログ・ホライズン 〜見敵決殺の冒険者〜(改稿中)   作:業炎

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この作品は作者の能力の限界上一部場面をなくなくカットしています。その為原作を余り知らない方には読みづらい作品になっているかも知れません。どなたにも読んで頂ける様に試行錯誤はさせていただくのでこれからどうかこの作品を宜しくお願いします。




始まりの第一章
1殺目 ハサンという男


 

ハサン=サッバーハは手に持った食物を口に投げ入れた。

 

 

(味がしないな…………)

 

 

目の前に置かれたサンドウィッチを一切れ咀嚼し、顔を顰める。まるで水でふやかした味のない煎餅の様な、決して美味いとは呼べない味に表情を顰めっ面から徐々に虚しさの篭った物に変わる。此処で不味いと吐き捨てられればどれだけ良いかと思案してしまう。食感は普通のサンドウィッチで、決して吐き気が込み上げてきたりなどの体調不良はない。それでも余りに虚しくなる。

 

(他の3人は………)

 

ハサンは気を紛らわすつもりで共に行動している3人に視線を移す。

 

「…………………」

 

まずに見たのは白いローブを着込み、側に背丈以上はある長杖を置いた目つきの悪い三白眼に眼鏡をかけた付与術師のシロエ。

 

「…………………」

 

次にがっしりとした体格の体を覆う様に鎧を着込んで男らしくも、明るい瞳と垂れめのまなじりが少年ぽい守護騎士の直継。

 

「…………………」

 

黒曜石のような艶やかな瞳に一括りに纏められた黒髪、小柄なシュッとした体型に闇に紛れる黒い軽装束を纏った暗殺者のアカツキ。

 

「「「…………………」」」

「はぁ……………」

 

三者三様、手を付けている食事はそれぞれ違う。腹の足しにすべく量が多いが味のない料理を食すシロエと直継、味のする生の果物を齧るアカツキ。誰も言葉を交わさない。ただ沈みきった食事風景に一足早く食事を終えたハサンは大きく溜息を吐くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

"エルダーテイル"

日本人だけで約10万人、世界的には2000万人の愛好家がいるオンラインゲーム。其処の弧状列島ヤマトの東部、エルダーテイル日本サーバーの中心都市"アキバの街"

 

其処で冒険者として生きていく事を、唐突に課せられたシロエは情報不足の焦燥感や戦いの恐怖の克服に内心を焼かれながらも心の支えとなる事があった。

 

(ハサンが味方で良かった)

 

街の外のマップ『書庫塔の林』にて戦闘訓練の際に倒したモンスターの剥ぎ取り中、横で黙々と作業をこなすハサン=サッバーハの存在がシロエに大きな安心感を与えてくれている。

 

まず、シロエ自身は付与術師という職業だ。その本分は味方のサポートであり、攻撃はからきし。相手のレベルが低ければシロエ1人でもなんとか出来なくはないが、レベルが高いモンスター複数体を相手取るとなるともう無理だ。後衛職である付与術師のステータスでは為す術なくやられてしまう。

 

直継は守護騎士という職業だ。職業の特徴である高い防御力と体力、敵の注意を引きつける特技などで敵の攻撃を一手に引き受けるタンク役。攻撃も出来なくはないが、防御寄りなぶん火力に欠ける。シロエの補助があれば攻撃役にも転じられるがそれでも心許なさはある。

 

アカツキはハサンと同じ暗殺者という職業だ。武器攻撃職という部類に分けられ、高い攻撃力で攻勢に出る純アタッカーである。でも、彼女は面と向かっての戦闘に向いているとは言い難い。どちらかというと素早い動きで敵を撹乱しながら攻撃する単独戦闘に向いている。それにまだ知り合ってばかりの小柄な少女に前線を任せられる程、シロエも直継も焦ってはいないし冷めてもいない。

 

 

ハサンはアカツキと同じ暗殺者。しかし、アカツキのそれとはまるで毛色が異なる。いや、既に彼は別種の生物……言うなれば犬と猫の差、そもそもの比較対象から異なっているのだから。

 

("歩み寄る死"なんて呼ばれる訳だ……)

 

彼の装備は暗殺者としての機動力を奪う代わりに即死攻撃の成功確率を引き上げる装備を重点的に纏っている。その上、彼の持つ武器は通常攻撃にも即死効果を追加する効果がある。防具との相乗効果で彼の握る幻想級武器『告死の剣』は即死率10%という高さを誇り、その剣から放たれる即死効果を持つ技は本来より遥かに高い即死確率を有する。

 

 

要は彼に斬りつけるチャンスがあれば、特殊なエネミー以外なら何であろうとも確率ではあるが、体力満タンでも殺す事ができる死神の様な男なのだ。現に今日も、その火力も相まって3分の2は彼がとどめを刺している。

 

 

勿論シロエ達は決して彼に戦闘を押し付ける事なく、自分の脚で自分の戦いを模索している最中だ。それでも、彼の強さには背中を任せられる安心感がある。それに戦闘で臆する様子がなく、敵の迫力で腰を抜かし掛けたシロエや大きな一撃を受けて体勢を崩した直継やアカツキの補助までこなしている。シロエや直継より小さい170cmちょいの背丈、それでも背中は誰よりも大きく見えていた。

 

 

(それにしても…………)

 

 

シロエは不意に微かな気配を感じた方向に目を向ける。それによって周囲を警戒する為、男3人より離れた場所を動き回るアカツキの視線が時たま彼に注がれているのに気づく。彼女とは戦闘スタイルが異色の暗殺者、それでも優劣どうこうを争いなどしない。どちらもどちらで素晴らしい、それがハサンとアカツキの共通認識である。

 

 

それにハサンは温厚で面倒見が良く、懐の深さも段違いだ。他者の意見をちゃんと尊重できる器量も持ち合わせている。このストレス溢れる時代にどんな生活を送ったらそんな人格者になるのか不思議なくらいだ。

 

 

本人はその話題になる度に「まあ……うん……」と染み染みと懐かしむ様な、それでいて何かに恐怖する様な声になる為、聴きづらくなって未だ誰もその真相を知らないのは完全に蛇足である。

 

「あー、取れた取れた。がっぽりだぜ」

「こっちも終わった。そろそろ引き時だな」

 

粗方素材は剥ぎ取れ、採取用の鉈にべっとりと付着した血液を振り払う直継とハサンを見てシロエも杖を下ろし待機していた呪文をキャンセルする。

 

「はぁ…………」

 

そして肩を竦めながらため息をついた。人というのは色々と背おい込みすぎると特に意識せず溜息が漏れるものだ。

 

「何かあるなら、いつでも言えよ?」

 

軽くシロエの背を叩いてハサンは笑い掛ける。それだけで微かに感じていた重圧が薄れたような気になり、肩が軽くなる。彼はきっと特に意図せず、辛気臭い表情をしていたシロエを心配してやった事なのだろうが、人を励ますツボという物を無意識に抑えていると、シロエは昔を思い出しながら考える。

 

 

"放蕩者の(デボーチェリ・)茶会(ティーパーティー)"

 

かつてそれはレイドコンテンツ攻略を目的としたサーバートップのギルドに引けを取らず対等に渡り合ったギルドでもなんでもない伝説のプレイヤー集団。一癖も二癖もあるメンツの中でハサン=サッバーハは常識人の枠に収まる存在だった。誰にでも好意的に接し振る舞う姿は暗殺者という職業に合っておらず、彼の噂だけを聞いて挑んできたPlayer・Killer、通称PKは彼を散々馬鹿にしたという。その後彼らがどうなったかは言うのも恐ろしい惨状だったと茶会内で囁かれていた。

 

 

閑話休題

 

 

彼はどんな事があっても他人を責める真似はしない。失敗は誰しもあると笑いながら言い、次に生かす事が大事だと背中を押す。それで垂らし込まれたプレイヤーは数知れず。そんな若干罪作りな男こそハサン=サッバーハである。

 

「どうした?シロエ殿」

 

気づけば、アカツキも荷物の整理を終えたのかシロエの近くに寄り、下からその綺麗な瞳で彼を見上げる。それを受ける側のシロエは落ち着かない気分ながら、それを悟られぬようにはにかみながら「帰ろうか」と言い歩き始めた。

 

 

陽は落ちかけ、夜が近づいていた。

 

 

 




*シロエの呼び方を主君からシロエ殿に変更しました


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