ログ・ホライズン 〜見敵決殺の冒険者〜(改稿中)   作:業炎

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長らくお待たせいたしました。




進展の第二章
11殺目 彼の居ないアキバ


シロエが引きいるセララ救助隊が、アキバに戻って既に数日が経過した。

 

 

にゃん太が発見した味のする料理は三日月同盟の屋台『クレセントムーン』にて販売が行われアキバの街に賑わいと活力を与え始めた。

 

 

その為に、アカツキとヒロインXはクレセントムーンの店員として働いた上でヘンリエッタに弄くり回されて、シロエはアキバの現状を変えるべく書類の中に埋もれて、直継は食材確保に奔走し、日に日に疲労を蓄積して行く。三日月同盟の面々も同様である。唯一元気そうなのはにゃん太と美少女2人を弄り倒して気力を補給しているヘンリエッタ位のものだ。

 

 

しかし、其処に居るべき筈の青年の姿は見当たらない。

 

 

ハサン・サッバーハは、こういった時誰よりも気を遣いまくって奔走するのが常である。しかし今の所その姿を誰1人見ていない。理由も一部を除き、誰も知らない。知っている者も誰にも明かしていない。

 

 

『少し、行く所がある』

 

 

彼はそれだけ一部の者に告げてセララ救助隊を途中離脱した。その意味を理解できた者はいない。しかし彼の真剣な表情に、ただならぬものを感じたのか、誰も詳しく問い詰めるような事はしなかった。

 

「主君………」

 

みんなが寝静まる中、ギルドホールを抜け出したアカツキは月を見ながら自身の主君の名をつぶやく。風が吹き、彼女の纏めている黒髪が音を立てて揺れる。昼間の謙遜は静まり返り、すっかり闇に落ちたアキバには自分以外誰もいないのではないかという不安感と恐怖が影を落とす。いけないと思ってももう遅い、その影は大きさを増していき手が勝手に肩へと向かう。触れた肩は震えていた。

 

(弱くなってしまったな………)

 

昔は一人で居ても苦ではなかった。時々むなしさこそ湧いてきても寂しさや悲しさを感じることはなかった。でも今では人といることに慣れてしまった。それを彼女は弱くなったと表現する。

 

毎日ヘンリエッタに着せ替え人形にされたり、三日月同盟のメンバーに話しかけられたり。少し絡みが面倒だと感じたりもするが、嫌いではないと感じている。みんな自分の事を年齢相応に扱ってくれる(ヘンリエッタ以外)。年下の子は敬語を使うし同世代なら砕けた口調で話してくれる。メンバーに極度に堅苦しい人物がいないのも彼女の軟化を進めた要因だ。

 

しかし彼女の心はどこか満たされない。ハサンの傍というポジションに自分が居ないことで誰かに取られてしまうのではないかという不安を覚えてしまう。

 

「何してるんですか?」

 

「…………!?」

 

アカツキは突然の問いかけに驚き、勢いよく後ろを振り返る。其処には見覚えのある金髪のアホ毛を揺らすヒロインXが立っていた。後ろに背負った二刀の聖剣が月明かりを受けて淡い光を放っており彼女の背後だけやたらと明るく見えるが、今のアカツキにそんなことを考えている余裕などない。彼女は非常に観察力が優れており、勘も鋭い。

 

「どうせ、あの人(・・・)の事でも考えていたんでしょう?」

 

「うっ………」

 

あっさり見抜かれ顔を顰めるアカツキ。その表情から「わかっているなら口にしなくていい」と言いたげなのがだれにでも分かる。

 

「……あの人は昔っから何にも変わってないんです」

 

ヒロインXはアカツキの前に出て、被っていた帽子を脱ぐ。その際に髪を縛っていたゴムを取り外し髪を大きく散らばらせた。月明かりを反射する金色の髪、碧く輝く瞳。その全てがアカツキの視線を、そして意識を惹きつける。

 

「何かあったら飛び出していって、ボロボロになって帰ってくる。酷い時には病院に担ぎ込まれる事もあって、それでも私達には理由すら教えてくれない」

 

髪を手櫛で梳きながら、クスリと笑って言葉を続ける。

 

「先生やご両親に聞いたら、ある時は不良達に絡まれてた特に関わりのない人を助けてたり、ある時は他人が川に落とした物を探してあげてた時もありました」

 

彼女は見惚れるような立ち振る舞いでアカツキの方に振り返りまだまだ話を続けた。

 

「私もハサンさんに救われた事があるんです。それも、今までいた世界が一変する様な」

 

其処から話し始めたのは彼女が彼に出会うきっかけとなった出来事。

 

「私は英国の父と日本人の母から生まれたハーフで、容姿も母似で良く男性に好かれたんです。でもそれが鼻についたのか、気の強い女子達にこっぴどく虐められてて…………」

 

少しだけ、ヒロインXの顔に影が差す。それでも彼女の声は悲しみで歪まない。

 

「男子達も関わり合いになりたくなかったのか離れていって、私は一人ぼっちでした。でも、ある日あの人が手を差し伸べてくれたんです」

 

 

『大丈夫………な訳ないよな。ほら、手を出して』

 

 

「その後、彼は私に色々な物をくれました。馬鹿な事を言い合える友人、私の居場所、平和な学校生活。とてもじゃありませんが、一生返せる気がしません」

 

涙がホロリと零れ落ち、彼女の頬に一筋の痕を残す。それだけ彼女にとって、大切な事なのだろうと、アカツキは理解し頷く。

 

「私も主君には色々と救われた。この体の事もそうだが、今こうしてここに居るのも主君が手を差し伸べてくれたからだ」

 

「………………」

 

何故かアカツキの発言に黙り込むヒロインX。その目は嗚呼やっぱり、かという現実をまざまざと見せつけられた時の絶望感に近いものが込められていた。

 

「やっぱり、そうですよね〜………」

 

「?」

 

真面目ムードから一変、髪を縛り直し帽子を被ったヒロインXは大きな溜息を吐きながらそう呟く。その反応に意味が分からないと首を傾げるアカツキ。

 

「少しくらい、『一目惚れだった』とか『前から気になってた』とか………。恋愛感情とかあってくれても良くないですか?いや、助けて貰ったので文句はありませんが、なんていうかこう………」

 

「はっ、はぁ………」

 

「それにあの人はお礼をいつも断るんです!折角用意したお礼の品物も代金押し付けて実質買いあげた様なものでしたし!言葉でお礼を言っても『別に気にするな』とか『自己満足でやっただけだ』とかを素で言うんですよ!?照れたりとか笑ったりとかもせずにさも当然の様に!」

 

すっかりいつものテンションに戻ったヒロインX。彼女の帽子とポニテは人格切り替えのレバーか何かではないだろうかと言う疑問がアカツキの脳内を掠めた。

 

 

ただ言える事は、狙っている者は相当数いるという事だけである。

 


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