ログ・ホライズン 〜見敵決殺の冒険者〜(改稿中)   作:業炎

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8殺目 ススキノ大脱出

 

エッゾの帝国、旧世界の札幌に相当する地域でその一部にススキノの市街地が存在する。多くのNPCが暮らす農業地域を含む城塞都市、というのがススキノがゲームだった頃の設定である。現にゲートに通じる道以外、周囲を森が覆っている。

 

 

その森の中でひっそりと息をひそめる男が1人。そう、ハサン=サッバーハである。

 

 

彼はシロエから緊急時の切り札として、外での待機を言い渡されたのだ。セララの出迎えはシロエと直継、アカツキの3名。ハサンはリスポン地点更新の為に一度街に入ったのち消命で姿をくらまし街を出て、脱出に使用する出口側の森に隠れている。

 

(退屈だな)

 

冒険者の肉体のおかげか、体は暖かい。北海道の寒さに負けるような事はない。しかし、手持ち無沙汰で退屈なのは事実である。体を動かしたくても隠れる都合上音を出してはいけない。その為動く事ができない。

 

(んっ?)

 

そのまま少しボンヤリと雲で覆われた空を見上げているとゲートから大勢の冒険者が出てきた。神輿に乗った男と、他の冒険者とは違う灰色のローブを纏った男にハサンの意識が向かう。

 

(あいつは確か………)

 

何処かで見たことがある気がしたハサンは、顔の造形でゲーム時代の頃のキャラを推測する。そして、そうだそうだと答えに至る。

 

(デミカスに灰鋼のロンダーグか……)

 

ハサンは明らかに嫌そうな顔をする。デミカス(デミクァス)という男とロンダーグという男に、彼は心当たりがあった。ゲーム時代から無軌道な行動が目に余っていた問題プレイヤーの武闘家、デミクァスと火蜥蜴の洞窟で手に入る秘宝級のローブを纏った二つ名持ちの妖術師、ロンダーグ。まさか、馴れ合いを嫌うデミクァスとロンダーグが組むとは思っていなかったのか、ハサンは少し頭を捻る。

 

(これは、出番が来そうかな……)

 

出来れば自分が出なくても良い状況なら良かったのだが、2人以外にも大勢にデミクァスの配下らしき冒険者が堂々と待ち伏せを開始する。そんな隙だらけの背中に今すぐにでも不意打ちをかましたくて、手がウズウズするハサン。痒いところに手が届かない時の表情である。

 

(なんなら今すぐ大立ち回りを………いや)

 

少し考えて辞める。今のハサンなら別に十数人程度の冒険者はなんともない。しかし、無駄に暴れて、(害悪プレイヤーとはいえ)無差別に殺すのは流石に躊躇われる。それに、味方が街の方より現れた。

 

 

人数は3人。うち背が低い赤っぽい髪の少女がセララだとハサンは直ぐに理解したが、シロエの横を歩く猫人の姿に目を見開き硬直した。

 

(マジかよ………)

 

其処には放蕩者の茶会時代から交友のある盗剣士の猫人族、にゃん太が居た。あまりの展開に完全に思考が停止、シロエとデミクァスのやり取りは耳に入らなくなる。

 

 

ドォォーー!!

 

「!?」

 

大地を捲る様な轟音で止まった思考が動き出す。どうやらデミクァスとにゃん太、2人の一騎打ちが始まった様で、空気を裂く様な豪腕がにゃん太に迫る。それをにゃん太は得物のレイピアで可能な限り逸らしてダメージを抑える。そしてお返しとばかりに盗剣士特有のデバフを付与する剣撃がデミクァスの四肢へと放っている。

 

『もしもし、ハサン?』

 

「 ! もしもし?」

 

念話がシロエとハサンを繋ぐ。そしてハサンに指示が飛んだ。

 

『恐らくデミクァスは業を煮やして一斉攻撃を仕掛けるはずだ。その足止めを頼める?』

 

「ああ、とっくに準備は出来てる」

 

ハサンの力強い承諾にシロエはうんと頷き念話を切る。そして来たる時が来た。

 

「くそっ!しゃらくせぇ。ヒーラー、俺の手足を回復しろ!暗殺者部隊!この猫野郎をぶち殺せ!」

 

とうとう怒りが限界点に達したのか、声を張り上げ指示を飛ばすデミクァス。その怒声が生んだ一瞬の隙に彼らの内心が公になっている。

 

 

しかし、秤にかけたのだろう。悪行に手を染めススキノで暮らすか悪行から逃げて宛もなく彷徨うか、どちらが優先されるべきか彼らは吟味し剣を握りしめる。答えは決まった、それならば善なす者もそれに応えなければならない。

 

「アンカーハウル!」

 

死者の叫び(ヒステリック・シャウト)!」

 

左右の茂みから直継とハサンが飛び出し、8名の暗殺者部隊を半分に分担、それぞれにタゲ集中を放ち動きを封じ込める。突然の乱入者に各員動きを止める中、ハサンは剣を向けて告げる。

 

「さぁ、貴様らの罪を数えろ」

 

そして、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

策士シロエが出した真正面からリーダー格を倒してのススキノ脱出という案にセララは困惑していた。側にいたにゃん太とシロエ、そして話だけ聞いた直継、ハサン、そしてアカツキの5名。幾ら高レベルでもブリガンディアの数十人を相手取るのは不可能だと考えていた。

 

 

しかし彼女は真に理解していない。自身を救いに来た一団の戦闘能力、その高さに。

 

「おらっ!」

 

直継がタゲ集中の特技を用いりながら敵をその場に留めさせ、攻撃を盾で受け止め凌ぎ続けている。4人の攻撃を諸共せず、懸命に後衛を護ろうとする直継を彼女は凄いと感じた。

 

「おいなんだよ此奴!」

 

「化け物がァァァァ!!」

 

「くそっ!くそっ!!」

 

「さっさとくたばれぇ!」

 

しかし、暗殺者は別だ。防御が薄い暗殺者が盾役を担うケースはまず無い。あったとしてもそれは盾役無しでの場合が殆どだ。だがその常識は目の前で覆されている。ハサンは躱す、躱す躱す躱す。攻撃がまるで見えているかの様に躱し続ける。

 

 

その姿に彼女は背筋が凍る様な感覚に襲われていた。刃に臆する事なく、スレスレを躱すハサンの動きに自分を重ねて顔を青くする。自分ではあんな事出来ない、そう理解し考える事を辞める。

 

「にゃん太班長と直継に連続ヒール!」

 

「はっ、はい!!」

 

そして彼女は彼女の出来る事に意識を集中させ始めた。その活躍が少なからずこの戦いに貢献した事は言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

(嗚呼、なんと平穏な事か)

 

そんなトチ狂ったような事をハサンは考えていた。4人に武器と殺意を向けられて如何すれば平然と居られようか?いや、居られる訳がない。

 

 

シロエ達は冒険者でこそあるが元々は一般人、それも敵意や殺意に免疫があるとは到底思えないような生活をしている。今立っていられているのも守るべき存在、守ってくれる存在がいるのが大きい。

 

 

しかしハサンだけはその例から浮いている。何故なら彼は現実でこれ以上の殺意を体験しているからだ。1ミリでも動けば、それこそ身震い一つしよう物なら首が飛ぶと錯覚する様な恐怖。剣を見るだけで全身が刻まれるような予感。師匠を仰いだ者から向けられたそれらに適応すべく彼はひたすらに鍛錬を続けた。

 

 

第六感を手にして攻撃の4割を躱せる様になった。しかしそれでは後の6割を躱せない。上へ、上へと望んだ……その結果が第七感の習得である。

 

 

死視感、死を視る感性。それは決して相手の死期を見るものでもなければ、死を齎す不思議な線と点を見る訳ではない。それはただ、攻撃を先に読み可視化する能力。死をもたらす敵意や殺意の篭った攻撃の軌跡を赤黒い物として見切る程度の能力。

 

 

彼の師匠は「まだまだだな……」と言っているが、常人なら不可能な領域にハサンは片足を突っ込んでいる。

 

「何っ!?」

 

四方を囲み、ひたすらに攻撃を繰り返している暗殺者達から驚愕の声が漏れる。何故なら彼は背後からの攻撃を、まるで見ているかの様に完璧に躱しているのだから。まあ、彼からすれば手緩すぎて欠伸が漏れていたが………。

 

「もう動くな」

 

〜ショックブレード〜

 

「「「「!?」」」」

 

4人の動きが止まる。少量のダメージと共にそれぞれのステータスに数秒間の行動不能が付与される。普段でも有用性の高いその技だが、その数秒が勝負を完全に分けた。その数秒内ににゃん太はデミクァスを倒し、アカツキがロンダーグを背後から一撃。

 

 

指揮系統を失った雑兵など恐れる事なし。そう言わんばかりに放蕩者の茶会の面々は召喚笛を吹き鳴らし、グリフォンとバハムートの幼竜を呼び出し南の空へと飛んだ。

 

 




一巻はこれにて終了。次は二巻、オリジナル要素を盛り込んでいきます。

ヒント……Aさん(頭文字)

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