ログ・ホライズン 〜見敵決殺の冒険者〜(改稿中)   作:業炎

10 / 16
6殺目 パルムの深き場所にて





 

彼は気配を断つ。呼気を限りなく小さくする。目を細め闇に溶け入ることを意識下に置き、全てと一体化する様に歩き続ける。彼の横を人型の鼠が群れで通りすがる。彼等は彼に気付かない。誰として彼を知覚できない。いなくなる一団を確認し、彼は再び歩き始める。そして入りくねる迷宮の十字路に着く。

 

 



〜霧の都(ミスト・シティ)〜



 

 

スキルを使い周囲を霧で満たす。視界は水蒸気によって覆われ、彼自身あまり見えているわけではない。しかしまるで周囲の地形を理解しているかの様に十字路を右に曲がり、そこに鼠人間(ラットマン)3体が立っている事を確認する。

 



(アカツキの調べ通りだな)



 

小さな忍びの前調べを称えつつ、彼は剣を引き抜きうちの一体に狙いを付ける。

 

 



〜死の一閃〜



 

 

首を跳ね飛ばす。鳴き声を上げられない程の鋭さを有する一閃に首を切り離されても体は未だに消えない。それによって他の2体は死神が間近にいる事に気付かない。

 

 



〜死の一閃〜

 

 



短いリキャストが終わり、再び放たれる一撃。今度は胴を捉えたその一撃にラットマンの体力が消し飛ぶ。そして2体分の身体が同時に消滅した音で、残されたラットマンは漸く側に居た2体が居なくなった事に気づく。それでもラットマンに彼は見えていない。圧倒的恐怖を振りまく存在が真横にいるにも関わらず決して気づく事がない。それは彼の持つサブ職業、死神によって得られる『消命』という常時発動系スキルのお陰である。

 

 




消命とはゲーム内効果で戦闘時に相手のヘイトが向きにくくするスキルだ。しかし、現実になったこの世界では彼の様にコツを掴んだ者が使用すれば、それこそ堂々視界に映りに行かない限り気づかれない程のステルス能力と変化する。

 

 



〜核穿ち〜



 

 

逃げ出そうとする最後の一体の背後から容赦なく剣を突き出し貫く。即死が決まり、ラットマンは消滅した。それを確認すると役割を終えた男は剣をしまい元来た道を戻る。最後の最後まで気を抜かず消命を維持し、仲間達が待っているキャンプ地へと戻った。





 

 

 

◇





 

 

 

「今戻った」



 

ハサンがキャンプ地へ戻って来たのはシロエがマリエールへの途中報告を終えて、耳元から手を退けた時だった。直継はしけたツラで塩で味付けしたサンドウィッチを食し、アカツキは蜜柑を剥いて口に入れている。



 

「おかえり、どうだった?」



 

「ああ、排除しておいた。逃しもしなかったし、この先から此処まで安全だろう」



 

ハサンはシロエの持っている地図上に指を這わせて自身が向かったポイントを示す。それはこれから通るルート、中でも曲がり角などで視界に優れない場所。目的はこれから移動するに当たっての強襲の防止である。




 

 

ラットマン、一体一体は弱いが鼠の如し繁殖力で1つの群れの頭数は数十から百を超える。その上バットステータスである疫病を振りまく厄介な連中だ。その上人型な分知能が発達していて狡猾でずる賢く、奇襲なども得意とする。4人のレベルがレベルなだけ有って正面からの戦闘は今の所発生していないが、待ち伏せしているラットマンも先程ハサンが倒した連中の様に存在するのだ。

 

「それにしても、シロエ殿は地図を描くのが得意なのだな」

 

ハサンの成果を地図に書き込んでいくシロエの様子を見ながら、アカツキは感心する様に言う。

 

「CADみたいなもんだよ。僕はサブが筆写師だしね」

 

「CADとはなんだ?」

 

「パソコンでやる製図。大学でやるんだよ、工学部だし」

 

「シロエ殿は大学生なのか?」

 

シロエは頷き、もうすぐ卒業だったと付け足す。ハサンも直継もそれぞれ現実での事が頭を掠める。

 

「そうか。では私とは殆ど同じ歳なんだな」

 

一瞬の静寂。シロエと直継は完全に硬直しており、衝撃の事実に震えている。ハサンは「あ〜あ」とでも言いたげな目で男2人を冷たく見る。

 

「えっ!?」

「まじかよっ!?」

 

ほぼ同時にツッコミが入った。

 

「そんなに意外か?」

 

アカツキは落ち着いているハサンに視線を向ける。彼は分かって当然だとばかりに笑い掛ける。

 

「冗談だろ、ちみっこ。だって、ちみっこ身長ないじゃふぎゃっ!?」

 

言葉を叩き潰す様な鋭い飛び膝蹴りが顔面に突き刺さる。痛そう(小並感)

 

「主君、バカ直継を蹴ってもよいだろうか?」

 

「だからそういうのは事前に断り入れろよ!」

 

「だいたいバカ直継は身長の事をあげつらいすぎだ」

 

「胸のサイズはさらに壊滅的じゃゴギャっ!?」

 

2人の漫才はそれとして、シロエは内心冷や汗をかいていた。直継の様に直接口にはしないものの、身長が小さいが為に年下と認識していた節があるからだ。

 

「ハサンは、気づいてたの?」

 

「ああ、正確にじゃあないけどな。20歳は超えてると思ってたよ。振る舞い方が子供っぽくなかったし、観察眼には自信あるしな」

 

2人の漫才じみたやり取りにクククと笑うハサンはそう言いながら自分の目を指差す。

 

「 ! 子供………か」

 

対してシロエの表情に陰りが出来る。子供というキーワードからハサンは1つ心当たりにぶち当たる。

 

「あの双子か?」

 

「 ! …………うん」

 

ゲーム時代に2人が先生がわりをしていた2人の初心者プレイヤー。姉弟の双子で色々な場所を冒険した仲である。証拠として大災害直前まで2人は双子と一緒に居た。アキバの街に引き戻された際に逸れてしまい、その後もこちらの生活に適応すべく忙しくしていた所為で出会う事は出来なかった。シロエはどこかのギルドに入るのを見たという。

 

「なんか………胸騒ぎがする」

 

ハサンの真剣な顔を見て、シロエは確信めいた物を感じる。彼の予想は必ず当たる、そんな気がしてくる。寧ろ、今回の様な悪い事は外れて欲しい、でも彼は胸騒ぎがすると……不安があると言った。つまりは、その内自分達も何らかの形でその渦に巻き込まれるのだろうという推測がシロエの中で生まれる。ハサンも顔をしかめる。

 

「主君、どうかしたのか?」

 

「えっ?」

 



ハサンが振り返ると岩の上に立ったアカツキと目が合う。ただし、それだけではない。少しでもどちらかが顔を前に動かしたら唇が触れ合いそうな近距離で見つめ合う。

 

「すっ、すまない!」

 

「えっ……あっ、うん」

 

あまりに急な出来事に呆然とするハサンと顔を真っ赤にするアカツキ。それに顔をニヤつかせる直継と先程の暗い顔から苦笑に変わるシロエ。さっきまでシロエとハサン、2人の間に流れていたものとは違うピンク色めいた空間が広がっていた。

 

 

その後直継の顔面に飛び膝蹴りが飛んだのは言うまでもない。

 

 




死の一閃
名前の通り、即死効果を付与した斬撃で敵を斬る。即死成功率は敵エネミーに対して素の値で30%程度、現状の装備で50%程度。もし即死しなくてもそれ単体で大ダメージを与えられる為即死を狙わない場合でも普段から重宝している技。

核穿ち
武器を心臓目掛けて突き刺さす技。通常では当たれば即死、失敗すればミスでダメージを与えられず、成功率も死の一閃より低く産廃技扱いされていたが、現実となった現在では使用者の技量で即死率が決まってくる。因みに現在時点で成功確率100%を誇る。(元より使用回数がまだまだ低いが)

霧の都
周囲を水蒸気の霧で覆う技。某狩ゲームの煙玉よろしく使用すれば過度な接近、攻撃を行わなければ発見される可能性を限りなく減らせる。あまり広々とした空間では効果が薄い。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。