小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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9、夕月と菊月と(挿絵有)

 

【挿絵表示】

 

 

巨大化な六芒の魔法陣に、

天から青白い光芒が注がれる。

 

怪魚が光に目を眩ませているのか攻撃を中断して苦しそうに唸っている。

 

遥か後方にいた北郷らウィッチ部隊も、

水平線の向こうに青白い光柱が立ったのを見た。

 

やがて光が小さくなり、

現象は終息していく。

 

 

「美幸ちゃん…え、誰?」

 

 

海面に、

美幸の代わりに一人の少女が立っていた。

 

夕月が一瞬見間違えた彼女には、

いくつも美幸と共通点があり、

また、

いくつも異なる点があった。

 

長い銀髪を靡せ、

水面を蹴って、

彼女は前へ進む。

 

熱い闘志を秘めたルビーのように赤い瞳は、

 

真っ直ぐに怪魚を見据えていた。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

相手はちっぽけだった。

 

広開土大王級駆逐艦、

広開土大王、

全長135m、

全幅14m、

排水量3200t、

 

という己の体格に比べて。

 

素早く空を飛び回るが、

アレはどう見ても艦載機の類ではなく人間が直接空を飛んでいる。

 

 

小さく、

貧弱で、

脆い、

生身の人間。

 

己が戦うべき相手は、

己と同じ艦艇でなくてはいけないという認識があり、

適当に追い払っておけばいいとタカをくくっていたのだが…

 

思わぬ攻撃力の高さに驚愕させられた。

 

降下しながら放ってきた爆弾には特殊な力が込められており、想像以上の破壊力を秘めていた。

 

迎撃の銃撃も妙なシールド機能で跳ね返し、効かない。

相手を舐めていた己を恥じた。

 

この後は尊敬の念を込め、

全力を尽くし、

この果敢に立ち向かってくる倭人の戦士を殺す。

 

容赦はしない。

全戦闘力を以って、徹底的に叩き潰す。

 

それが、

戦士である《小さき君》への礼儀であり、

戦士である己の流儀である。

 

 

そして、

それは全くの予想外。

 

倒した筈の小さき君が、

再び立ち上がり、

前より一層激しい闘志を向けてきた。

 

解る、

解るぞ…

 

この気配、

この霊気、

 

身体は小さき君のままだが…

中身は別モノになっている。

 

アレは…

 

 

《戦船》だ。

 

 

吾と同じ、

在りし日の戦船の魂を受け継いだものに違いない。

 

よき敵と巡りあった。

 

吾が望んだ、

好敵手が現れた。

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

怪魚は巨大な咆哮をあげた。

 

海面に波紋が広がる程凄まじい雄叫びだった。

 

銀髪の少女は怪魚に向かって疾走する。

 

「また戦さ場に身を投じる日がくるとはな…」

 

手を前に掲げると、

青白い光が集束して銃が…

 

否、銃というには大きな口径の

《砲》が出現する。

 

砲を怪魚に向け、

 

「いけっ!」

 

砲身が唸りを上げ、

辺りに轟音が響きわたる。

 

砲口から青白い光弾が発射され、

光弾は怪魚の顔面に命中。

 

 

「グギャアァァアアアアアッ!」

 

 

怪魚は顔面の上半分を吹き飛ばされ大きな悲鳴をあげていた。

 

銀髪の少女は怪魚の様子を確認すると海面をターンして身を翻し、一旦引く。

 

彼女の懸念は…

 

「何が起こってるのよぉ」

 

全く状況が解らず、

身を縮めて衝撃波に耐えている夕月。

 

「無事か?」

 

銀髪の少女がその夕月の身を案じて側まで寄ろうとしたが、夕月は近づく彼女を避けて身構えた。

 

「誰なの、美幸ちゃんじゃないよね!」

 

怯えと猜疑の視線を盛大に向けてくる夕月の態度に少女は戸惑う。

 

「夕月、もっと後方へ下がれ、説明は後からする」

 

7.7ミリ機銃の銃口が銀髪の少女に向けられた。

 

夕月の瞳の中の怯えと猜疑はより強く、

怒りさえ含んでいる。

 

 

「夕月に命令するなぁっ!

アンタ誰って聞いてるでしょ、美幸ちゃんはどうしたのよぉっ!」

「わ、私は菊月だ。美幸のことは後で説明するから、今は避難してほしい」

「ううぅ…」

 

つい命令口調になってしまったのは失敗だったな、と、

菊月を名乗った少女は反省する。

 

嘆願すると夕月はしぶしぶ言うことを聞き下がっていくが…

 

夕月の菊月を見る瞳は冷たく、

猜疑心は根深そうだった。

 

「ふざけてる、ムカつく!」

 

わざと聞こえるように吐き捨てていく夕月。

まさかの拒否反応に、深く溜息をつく菊月。

 

「今は戦いを優先しなければ…」

 

気持ちを切り替えて。

怪魚と再び対峙する。

 

 

菊月と広開土大王、

 

各々の姿形は異形になり果ててはいるが…

 

その身に宿す魂は同じ、

戦船の御霊。

 

敵対する二隻の戦船が海上で対峙する、

 

やることは、

一つしかない…

 

 

 

砲雷撃戦開始!


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