小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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7、奇跡の魔法(挿絵有)

 

【挿絵表示】

 

 

二つのエネルギーは激しく衝突、

しばらく膠着したが

 

赤い光が拡散、

 

やがて四方に飛び散って虚空に霧散していく。

 

青白く光り輝く魔法陣は、

 

健在。

 

強力なシールドだった。

 

怪魚が放つ強力なビームを完璧に跳ね返す、鉄壁の魔法陣。

 

しかし、

もともと夕月の魔法力といえば平凡なものの筈。

 

本来のシールド強度などは美幸より劣るくらいである。

 

しかし、

この現象は不可解なこととも言えない。

 

ウィッチの魔法力は精神力の影響を大きく受ける。

 

美幸の窮地を救うべく、

決死の覚悟でこの修羅場に戻ってきた夕月の魔法力は普段の数十倍の力を発揮していた。

 

過去に、

この様な奇跡的な力を発現したウィッチの例はいくつもあった。

 

「うわああああぁぁっ!」

 

怪魚に容赦は全くなく、

繰り返し繰り返しビームを撃ち放ってくる。

 

渾身の魔法力を振り絞って展開したシールドでビームを受け止め続ける夕月だが…

 

奇跡は何度も起きはしない。

 

この魔法力の発現は、

燃え尽きる寸前の蝋燭の炎のようなものだった。

 

この力を発現した殆どのウィッチは魔法力を枯渇させ、

 

あるいは生命力までを使い切っての死…

 

そんな結末を迎える運命にあった。

 

「美幸ちゃんは…夕月が、守るんだから…」

 

みるみる消耗していく夕月。

 

もう一発で均衡が崩れるのは明らかだった。

 

 

『夕月が殺される…

そんなのダメ、

 

ダメえっ!』

 

 

この時、

この場所にいたもう一人の魔女が、

 

もう一つの奇跡の魔法力を発現させた。

 

『助けて、

 

助けて!

 

私の妹を、助けて!

 

お願いだから、

誰か私の大切な妹を守って!

 

私は死んでもいい、

だからお願い…

 

夕月を、守ってぇっ!』

 

 

 

 

魔法力もとっくに尽き、

そもそも命尽きる寸前だった美幸が発した強烈な魔法波。

 

この《魔法伝信》は普段の数倍する広範囲に波紋となって広がった。

 

舞鶴から出撃した北郷章香らウィッチ部隊も全員受けとっていたし、

 

舞鶴に残っていた残留のウィッチ、

 

さらには養成学校の生徒たちまでこの声を聞いている。

 

それだけではなく、

 

魔法力を帯びた声は物理的な範囲を越えて、

悠久の時を越え、

本来は交わらない世界の永き眠りの中にあった、

 

ある御霊の元へも届けられた。

 

 

《解った、今、行こう》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、

代償もあった。

 

魔法力ゼロで使われた魔法は、

美幸の生命力を燃やし尽くしてしまう。

 

瞳は光を失い、

胸の鼓動は静かに、

 

動きを止めてしまった。

 

 

「イヤァアアアアアアアアアッ、

 

美幸ちゃん、そんなのイヤ、

 

イヤだよぉっ!」

 

 

事切れた美幸の身体に縋り付いて泣き叫ぶ夕月。

 

その二人に、

怪魚の放ったビームが迫る。

 

 

夕月は、

 

もう、

シールドを張ろうとしなかった。

 

美幸の亡骸を抱き寄せて、

ただ泣いていた…

 

 

 

 

その時、

 

美幸と夕月の足元に巨大な魔法陣が描かれ、

二人の身体は青白い魔法力の輝きに包まれた。

 

魔法陣は夕月が展開したものでもなければ、

ましてや既に事切れた美幸が展開したものでもない。

 

 

謎の魔法陣は強力なシールドであり、

赤い光線はシールドに阻まれて拡散してしまった。

 

 

「な、何が…」

 

 

戸惑う夕月、

 

この魔法力の輝きの元は…?

 

 

美幸の亡骸が、

青白い光を放ち始めていた。

 

その眩い輝きは、

美幸の身体を曖昧にしていく…

 

 

 

 

 

 

 


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