小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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6、美幸の戦い、其の四

目の前が真っ赤に光って、

チカチカしたと思ったら、

 

激しい衝撃を感じて…

 

後は、

もうワケが解らない。

 

碧い海面と、

蒼い空が交互に見えて、

 

世界がひっくり返ってる?

え、何か違う?

 

 

あれ、

 

 

水?

 

 

海水…?

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

海面に、美幸の身体がプカリと浮かび上がる。

 

まだ状況を把握できず、

しばらくぼんやりと海面から空を眺めていた。

 

身体が重い、

 

怠い、

 

やたら寒くて、

 

何だか眠たい…

 

「怪魚が…、ケホッ」

 

苦しくて咳混むと、

血咳が出てきた。

 

自分の身に何が起こったのか、

 

途切れそうな意識の中で

記憶の糸を辿ってみる。

 

あの時、

もう一発、爆弾を当てようと突入したら、

 

怪魚が大きな口を開けてこっちを向き、

口の中から何かが出てきた。

 

アレは、

 

例えるなら…

 

砲門。

 

口から砲門が飛び出し、

赤い光線、ビームを放ってきた。

 

シールドを張っていて直撃は避けたが…

 

そのまま吹き飛ばされ、

そこから記憶が途切れている。

 

 

海水が赤く滲む、

美幸の周りが赤く染まっていく。

 

 

「血、私の血…、私は…」

 

 

もう、助からないらしい…

 

情けなくて、ホロリと瞳から涙が零れた。

 

結局、

功名心に囚われて判断ミスをしてしまった。

 

整備班長に心配されて、

能美大佐にも、

夕月にも、

無理してはいけないと言われていたのに。

 

怪魚はまだ身体の再生中ですぐには動きそうにない。

美幸は残りカスのような魔法力を集中させて、今のうちに出来ることをしなくてはならなかった。

 

 

『北郷先生、来てますか?』

『これは…魔法伝信、森美幸か?』

『報告します、敵は100メートルはある巨大な怪魚、ネウロイの亜種です』

『そうか』

『対空迎撃の赤い光弾を放ってきます、近づく際は注意を』

『解った』

『機銃は殆ど通じませんが、魔法力を込めた爆弾による攻撃は有効です』

『なるほど、魔導爆弾か』

『口の中に砲門を持っていてビームを撃ってきます。シールドごと吹き飛ばす威力です』

『よくぞここまで調べた、流石だな』

『それから夕月にゴメンと…』

『え?』

『後を…お願いします』

『まさか、森一飛曹っ!』

 

これでもう、

魔法力は尽きた。

 

やがて命も尽きる…

 

再生を終えた怪魚が美幸を見ている。

 

一つ目が赤く爛々と光を放っていた。

 

悪趣味にも、

ゆっくり死んでいく様を見届けようとでもいうのだろうか?

 

が、それは見当違い。

怪魚は別の意図を持って美幸を見ていたのだ。

 

 

『小さき君よ…』

 

 

低く、やたら響く声…

 

 

『勇敢なる小さき君よ、よく戦った』

 

 

まさか、

怪異が人語を解するとは!

 

 

『苦しまぬよう止めを入れてやる。最期に吾の名を刻み、逝くがよい…』

 

 

怪異に名前、

そんな概念があるなんて…

いや、そもそもコレはネウロイなのか?

もしかして、もっと違う別の何かなのだろうか?

 

 

『吾の名は広開土大王。古の聖君の名を冠する戦船也』

 

 

「くぁんげとでわん…?」

 

 

怪魚の口が開き、

砲門が見えた。

 

エネルギーを充填、

砲門が赤く輝きを放ち始める。

 

美幸は、

いよいよ迫る最期の刻を悟り、

瞳を閉じた。

 

 

ビームは放たれた。

 

 

美幸の身体は赤い光の中に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呑み込まれなかった!

 

 

 

「美幸ちゃぁあああんっ!」

 

ビームは美幸に届く前に、

青白い魔法陣に防がれて拡散した。

 

美幸も完全には防ぎきれなかったビームを跳ね返したのは、

 

夕月のシールド。

 

ビームが切れた一瞬の間、

海面に漂う美幸の身体を抱き上げる。

 

「バカバカバカバカーッ!」

「夕月…」

「こんなになって、こんなヒドイことになっちゃって!」

 

大粒の涙を零しながら美幸に頬ずりする夕月。

 

その間にエネルギー充填を終え、

攻撃体勢になる怪魚。

 

 

「美幸ちゃんを」

 

 

放たれる赤い光線、

同時に展開する、

青白い魔法陣。

 

 

「イジメるなぁあああーっ!」

 


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