「ゴメンね、ゴメンね、置き去りにしてしまって…
助けに行ってあげられなくて!
あの後もっと戦いが激しくなっていって…
戦線縮小して、フロリダ諸島はもう敵の勢力圏になってしまって…
ごめんなさい、菊月ちゃぁん!」
「解ってる、大丈夫、大丈夫…
…いや、大丈夫じゃない。
本当は辛かった…
寂しかったんだ…
寂しくて、あの島で眠りにつくまでずっと泣いていたんだ…
だから夕月とまた会えて嬉しい!
人の身体とは良いものだな、
おまえの温もりを感じられるぞ。
こうして抱きしめていると、
とても心地良い」
失われた時間を取り戻すように、
お互いの身体をしっかりと抱きしめ合う二人…
菊月を覆っていた禍々しい赤いオーラは消え、
今は優しい青白い光が彼女を包んでいる。
…しかし、
「菊月ちゃん、身体が!」
光が強くなるにつれ、ゆっくりと希薄になっていく菊月。
そう、これは…
「私の今世での役割は全て果たされた…と、いうわけか」
再会、
そしてすぐさま訪れる、
別れ。
まだ触れることができるが、菊月の身体が透けてきている。
「この御世に人として、ウィッチとして生を受けている夕月は…まだちょっと時間があるみたい。
でも、哀しまない。
いつか私も、菊月ちゃんのところへ行くから。
ツラギの島に、夕月も行くね」
「ああ、待っている」
優しい笑顔を夕月へ向ける菊月に、更なる変化が現れた。
白に近い銀髪だった髪にサアッと濃い色が付き、
赤かった瞳も濃く深い色に…
艶やかな美しい黒髪、
そしてオニキスのような黒い瞳。
「み、みみ…」
「強くなったね、本当に頑張ったね夕月!」
「美幸ちゃぁんっ!」
もう一つの姉妹の再会。
嬉しそうにしながらも美幸は少し、俯き気味に言う。
「私は、何もしてあげられない本当にダメな姉だった。弱くて、役立たずで…」
「そんなことない!
いつも美幸ちゃんのこと感じてた。菊月ちゃんを通して、ずっと夕月のこと守ってくれていたよね。
最後に駆逐水鬼のシールドが消滅したのは美幸ちゃんがやってくれたんでしょ、お陰で勝てたんだよ!
最初から、
今でも、
これからもずっと、
夕月の自慢のお姉ちゃん、
大好きだから、美幸ちゃん!」
厚く、熱く、抱擁する姉妹。
今度こそ、
本当の別れの時。
「私いくね。これからは菊月ちゃんの側にいてあげようと思うの。あの子、ああ見えてものすごく寂しがり屋だから」
「知ってる、すごく泣き虫なのも。昇子さんにもよろしくね」
「うん、ひとみにもよろしく言っといてね」
青白い光の粒が、フワリフワリと宙を舞い。
もう殆ど消えていく美幸の身体。
涙を拭い、
最後は笑顔を浮かべて、
姉妹は暫しの別れを告げた。
「またね、
菊月ちゃん、
美幸ちゃん、
いつかまた会う日まで…」