小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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37、英霊への鎮魂歌

「ゴメンね、ゴメンね、置き去りにしてしまって…

助けに行ってあげられなくて!

 

あの後もっと戦いが激しくなっていって…

戦線縮小して、フロリダ諸島はもう敵の勢力圏になってしまって…

 

ごめんなさい、菊月ちゃぁん!」

 

「解ってる、大丈夫、大丈夫…

 

…いや、大丈夫じゃない。

本当は辛かった…

 

寂しかったんだ…

寂しくて、あの島で眠りにつくまでずっと泣いていたんだ…

 

だから夕月とまた会えて嬉しい!

 

人の身体とは良いものだな、

おまえの温もりを感じられるぞ。

 

こうして抱きしめていると、

とても心地良い」

 

失われた時間を取り戻すように、

お互いの身体をしっかりと抱きしめ合う二人…

 

菊月を覆っていた禍々しい赤いオーラは消え、

 

今は優しい青白い光が彼女を包んでいる。

 

…しかし、

 

 

「菊月ちゃん、身体が!」

 

 

光が強くなるにつれ、ゆっくりと希薄になっていく菊月。

 

そう、これは…

 

 

「私の今世での役割は全て果たされた…と、いうわけか」

 

 

再会、

 

そしてすぐさま訪れる、

 

別れ。

 

 

まだ触れることができるが、菊月の身体が透けてきている。

 

 

「この御世に人として、ウィッチとして生を受けている夕月は…まだちょっと時間があるみたい。

 

でも、哀しまない。

いつか私も、菊月ちゃんのところへ行くから。

ツラギの島に、夕月も行くね」

 

「ああ、待っている」

 

 

優しい笑顔を夕月へ向ける菊月に、更なる変化が現れた。

 

白に近い銀髪だった髪にサアッと濃い色が付き、

赤かった瞳も濃く深い色に…

 

艶やかな美しい黒髪、

そしてオニキスのような黒い瞳。

 

 

「み、みみ…」

 

「強くなったね、本当に頑張ったね夕月!」

 

「美幸ちゃぁんっ!」

 

 

もう一つの姉妹の再会。

嬉しそうにしながらも美幸は少し、俯き気味に言う。

 

「私は、何もしてあげられない本当にダメな姉だった。弱くて、役立たずで…」

「そんなことない!

いつも美幸ちゃんのこと感じてた。菊月ちゃんを通して、ずっと夕月のこと守ってくれていたよね。

 

最後に駆逐水鬼のシールドが消滅したのは美幸ちゃんがやってくれたんでしょ、お陰で勝てたんだよ!

 

最初から、

今でも、

これからもずっと、

 

夕月の自慢のお姉ちゃん、

 

大好きだから、美幸ちゃん!」

 

 

厚く、熱く、抱擁する姉妹。

 

今度こそ、

本当の別れの時。

 

 

「私いくね。これからは菊月ちゃんの側にいてあげようと思うの。あの子、ああ見えてものすごく寂しがり屋だから」

 

「知ってる、すごく泣き虫なのも。昇子さんにもよろしくね」

 

「うん、ひとみにもよろしく言っといてね」

 

 

青白い光の粒が、フワリフワリと宙を舞い。

もう殆ど消えていく美幸の身体。

 

涙を拭い、

最後は笑顔を浮かべて、

 

姉妹は暫しの別れを告げた。

 

 

 

「またね、

 

菊月ちゃん、

 

美幸ちゃん、

 

 

いつかまた会う日まで…」

 


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