小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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36、姉妹の再会

「はあ、はあ…」

 

「ぐううぅ…っ!」

 

菊月と夕月、二人とも満身創痍になっていた。

 

夕月は違和感を感じる。

 

 

「どう考えても基本スペックはあっちが上。

練度にも差はない筈…。

なのに、互角。

というか、菊月ちゃんの動きが鈍い気がする。

 

一体どういうこと?」

 

 

よく観察してみると、菊月の様子が少しおかしい。

時より苦しそうに頭を押さえ、イヤイヤと首を横に振るような動作が見られる。

 

 

「菊月ちゃんも戦ってる!

駆逐水鬼と戦ってるんだ!

 

え、それだけじゃない、

もしかして、

 

美幸ちゃん…!」

 

 

夕月は確信した。

 

今、駆逐水鬼菊月と戦っているのは夕月一人ではなく…

 

駆逐艦菊月、

そして森美幸もまた、

 

暴走する駆逐水鬼と、その内面で戦っていたのだ。

 

 

「勝てるよ、私たちこの戦いに勝てる。

もう終わりにするよ、駆逐水鬼!」

 

 

菊月が光弾を放つ。

夕月は素早く動き、初弾を回避。

 

これ以降は動きを読んで、着弾予測が立てられた攻撃となる。

 

互いに接近しながら光弾を放つ。

 

菊月二弾、

夕月初弾、

 

赤と青の光弾が衝突して空中で炸裂。

その間も二人の動きは止まらない。

 

菊月三弾、

夕月二弾、

 

空中に描かれたシールドがお互いの光弾を受け止め、炸裂。

夕月のシールドはそれで破壊されるが、

菊月のシールドは健在。

 

菊月四弾、

夕月に命中し爆煙が巻き起こる。

 

夕月三弾、

菊月は余裕で青白い光弾をシールドで受け止めようとしたが、直前でシールドが消滅。

予想外のことに対処出来ず直撃。

 

爆炎を振り払い、大破状態の駆逐水鬼が姿を現わすが…

目の前に砲口が突きつけられた。

 

同じく大破状態の夕月がそこに立つ。

 

 

「お互い大破で、もう一発で轟沈だけど…

菊月ちゃんは四発撃って、私は三発撃った。

睦月型駆逐艦は一回装填で砲撃は四回まで。

菊月ちゃんはもう撃てず、私はもう一発撃てる。

もうこの距離じゃ回避できない。

 

詰みだよ…駆逐水鬼」

 

「この菊月が、紙一重の戦いで破れるか…

いい腕だ、いい勝負だった。

強敵と、全力を出し切る砲雷撃戦の果てに沈んでいく…

 

本望だ。

 

私を沈める貴艦は誰だ、名を教えて欲しい。

貴艦の名は…?」

 

 

菊月は敗北を悟り、もう観念したのか瞳を閉じて、その身を敵に預けている。

 

それは、

 

憎しみに駆られた狂気の駆逐水鬼ではなく…

 

誇り高き歴戦の戦船、

睦月型駆逐艦菊月そのものだった。

 

菊月に向けられる12センチ砲の砲口がユラユラと揺れて…

 

海面へ、投げ捨てられた。

 

 

「う、撃てるわけ…

撃てるわけないー!

これ以上菊月ちゃんを傷つけるなんて出来ないーっ!」

 

 

泣きながら菊月に抱きつく夕月。

 

 

「血を分けた姉妹なのに!

魂で結びついた姉妹艦なのに!

 

傷つけ合って、

殺し合うなんて…

 

そんな再会しかないなんて!」

 

「……何だ、暖かい、え?」

 

 

菊月の瞳から流れていた血涙が止まる。

 

 

「き…、貴艦は一体、誰なんだ?」

 

「菊月ちゃん、私、夕月だよ…」

 

「ユヅキ…?

ユウヅキ…?」

 

「私は…

敷設艦沖島のウィッチ、森夕月(ユヅキ)であり、

睦月型駆逐艦12番艦夕月(ユウヅキ)。

 

森美幸の血を分けた妹で、

菊月の御霊とも繋がる姉妹艦」

 

 

菊月の瞳が再び開く。

 

もう血混じりでなく、

透き通る涙が零れてくる。

 

 

「夕月、夕月なのか…」

 

「菊月ちゃん!」

 

「夕月…!」

 

「菊月ちゃぁん…」

 

「夕月ぃ!」

 

 

二人は厚い抱擁でお互いの存在を確かめる。

 

 

前世での大戦、

ツラギ島の襲撃で菊月が擱座して離れ離れになってから…

 

 

悠久の時空を超え、

 

 

人の肉体を得て、

 

 

数奇な運命に翻弄され、

 

 

死闘を経て、

 

 

姉妹艦は、

 

今、再会を果たしたのだった。


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