「はあ、はあ…」
「ぐううぅ…っ!」
菊月と夕月、二人とも満身創痍になっていた。
夕月は違和感を感じる。
「どう考えても基本スペックはあっちが上。
練度にも差はない筈…。
なのに、互角。
というか、菊月ちゃんの動きが鈍い気がする。
一体どういうこと?」
よく観察してみると、菊月の様子が少しおかしい。
時より苦しそうに頭を押さえ、イヤイヤと首を横に振るような動作が見られる。
「菊月ちゃんも戦ってる!
駆逐水鬼と戦ってるんだ!
え、それだけじゃない、
もしかして、
美幸ちゃん…!」
夕月は確信した。
今、駆逐水鬼菊月と戦っているのは夕月一人ではなく…
駆逐艦菊月、
そして森美幸もまた、
暴走する駆逐水鬼と、その内面で戦っていたのだ。
「勝てるよ、私たちこの戦いに勝てる。
もう終わりにするよ、駆逐水鬼!」
菊月が光弾を放つ。
夕月は素早く動き、初弾を回避。
これ以降は動きを読んで、着弾予測が立てられた攻撃となる。
互いに接近しながら光弾を放つ。
菊月二弾、
夕月初弾、
赤と青の光弾が衝突して空中で炸裂。
その間も二人の動きは止まらない。
菊月三弾、
夕月二弾、
空中に描かれたシールドがお互いの光弾を受け止め、炸裂。
夕月のシールドはそれで破壊されるが、
菊月のシールドは健在。
菊月四弾、
夕月に命中し爆煙が巻き起こる。
夕月三弾、
菊月は余裕で青白い光弾をシールドで受け止めようとしたが、直前でシールドが消滅。
予想外のことに対処出来ず直撃。
爆炎を振り払い、大破状態の駆逐水鬼が姿を現わすが…
目の前に砲口が突きつけられた。
同じく大破状態の夕月がそこに立つ。
「お互い大破で、もう一発で轟沈だけど…
菊月ちゃんは四発撃って、私は三発撃った。
睦月型駆逐艦は一回装填で砲撃は四回まで。
菊月ちゃんはもう撃てず、私はもう一発撃てる。
もうこの距離じゃ回避できない。
詰みだよ…駆逐水鬼」
「この菊月が、紙一重の戦いで破れるか…
いい腕だ、いい勝負だった。
強敵と、全力を出し切る砲雷撃戦の果てに沈んでいく…
本望だ。
私を沈める貴艦は誰だ、名を教えて欲しい。
貴艦の名は…?」
菊月は敗北を悟り、もう観念したのか瞳を閉じて、その身を敵に預けている。
それは、
憎しみに駆られた狂気の駆逐水鬼ではなく…
誇り高き歴戦の戦船、
睦月型駆逐艦菊月そのものだった。
菊月に向けられる12センチ砲の砲口がユラユラと揺れて…
海面へ、投げ捨てられた。
「う、撃てるわけ…
撃てるわけないー!
これ以上菊月ちゃんを傷つけるなんて出来ないーっ!」
泣きながら菊月に抱きつく夕月。
「血を分けた姉妹なのに!
魂で結びついた姉妹艦なのに!
傷つけ合って、
殺し合うなんて…
そんな再会しかないなんて!」
「……何だ、暖かい、え?」
菊月の瞳から流れていた血涙が止まる。
「き…、貴艦は一体、誰なんだ?」
「菊月ちゃん、私、夕月だよ…」
「ユヅキ…?
ユウヅキ…?」
「私は…
敷設艦沖島のウィッチ、森夕月(ユヅキ)であり、
睦月型駆逐艦12番艦夕月(ユウヅキ)。
森美幸の血を分けた妹で、
菊月の御霊とも繋がる姉妹艦」
菊月の瞳が再び開く。
もう血混じりでなく、
透き通る涙が零れてくる。
「夕月、夕月なのか…」
「菊月ちゃん!」
「夕月…!」
「菊月ちゃぁん…」
「夕月ぃ!」
二人は厚い抱擁でお互いの存在を確かめる。
前世での大戦、
ツラギ島の襲撃で菊月が擱座して離れ離れになってから…
悠久の時空を超え、
人の肉体を得て、
数奇な運命に翻弄され、
死闘を経て、
姉妹艦は、
今、再会を果たしたのだった。