小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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3、美幸の戦い、其の一

「ウミガメ、こちらウミツバメ1!」

 

呼びかけに応答はない、

インカムからは不快なノイズしか聞こえない。

 

母艦はそんなに遠くはないはずだが…

 

やはり怪しい。

 

ネウロイが出現すると無線が通じ難くなることがあると聞いたことがあった。

 

「美幸ちゃん…」

 

普段は陽気な夕月が怯えきって美幸のセーラー服の袖を掴んでいた。

 

とにかく冷静にと、

自分に言い聞かせる。

 

美幸も怖かった。

 

何せ、初会敵だったのだから。

 

しかし上官として、

姉として取り乱すわけにはいかない。

 

落ちついて、

 

判断して、

 

指示しなくてはならない。

 

一度大きく深呼吸して、

キッと口を固く結び、

目に強い意思を込める。

 

覚悟を決めた美幸。

 

「まだアレがネウロイかどうか確定したわけじゃない、けど見逃すこともできない」

「でも…」

「千里眼でアイツのことを詳しく教えて」

「う、うん」

 

赤く変色した瞳で謎の怪異の観察を再開する夕月。

 

「色は黒、口には歯、赤い一つ目、尾鰭を左右に振って海面を泳いでくる、体長は100メートル以上ありそう」

 

基本ネウロイは水を嫌う。

 

故に侵攻を水際で食い止めているという側面があった。

 

それだけに洋上を渡るこの怪異の出現は今後の戦局に多大な影響を与えかねない。

 

事の重大さに美幸はゴクリ唾を飲み込む。

 

しかしまだ情報が少なすぎる。

 

飛べるのか?

 

潜れるのか?

 

攻撃力は?

 

耐久性は?

 

コアの位置は?

 

「夕月」

「ふにっ」

 

夕月の両頬を手のひらで包み、

コチンと額を合わせる美幸。

 

「アンタはこの距離を保ちながらアイツの観察を続けて、でもこれ以上近づいちゃダメだからね」

「美幸ちゃんは?」

「沖島へ戻って準備してくる。私が戻ったらアンタはそのまま帰投」

「何の準備?」

「交戦して戦力を確かめなきゃ。100メートルなんてデカブツ、今持ってる7.7ミリ機銃だけじゃ心許ないからね」

 

心配させまいと健気に笑顔を作って言ってみたが、夕月の赤い瞳にみるみる涙が溜まっていき、

 

「ダメッ、ダメェーッ!」

 

しがみつくように抱きつく。

 

「危ないことしないでよぉ、美幸ちゃん!」

 

少し困った顔になりながら、優しく夕月の頭を撫でて、

 

『大丈夫、お姉ちゃんに任せて』

 

それは頭の中に直接響いた言葉だった。

夕月はこれがなんなのかよく知っている。

 

美幸の固有魔法《魔法伝信》。

 

美幸は魔法波を飛ばし、そこに意識を乗せることで声を出さずにメッセージを伝えることができる。

 

「伝えたいことは強く思ってね、そうしたら読み取れるから」

「知ってるよー」

 

相手が美幸に伝えたい思いがある場合はそれを読み取ることも可能。

 

つまり通信機なしで意思の疎通ができるのだ。

 

欠点があるとすれば、

魔法力を持ったウィッチでなければ美幸の魔法伝信を受信出来ないこと。

 

「頼むね」

「うん」

 

ストライカーユニット零式水上偵察脚の金星四三型魔導エンジンが唸りをあげる。

 

監視の為に残った夕月、

美幸が戻るまで千里眼を使い続けなくてはならない。

 

これは魔法力を消費し、

負担が大きい。

 

「夕月頑張って、すぐ戻るから!」


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