「また出てきたよウジャウジャと」
「任せろ、道はオレが切り開く!」
保田ひとみは九九式二号三型二〇粍機関銃の安全装置を外し戦闘態勢になる。
背中に背負う扶桑刀、
銃弾を撃ち尽くしてもこれを抜き、一機でも倒すという決意の表れである。
「オレはもう絶対に逃げない!
聖川丸の仲間たちを皆殺しにした、あの空母野郎まで夕月を届ける!」
瞳が黄金の輝きを放ち、極限まで集中し高められた魔法力を銃に込める。
二人の接近に気が付いた艦載機型ネウロイが振り向き、牙を剥き出しにして襲いかかってきて、迎撃の赤い光弾を放ってきた。
「夕月、離れるな!」
「うん!」
魔法陣を展開、シールドが光弾を跳ね返す。
回避行動を殆どしないし魔法力の出し惜しみもしない。
ひとみはもともとそういう器用な戦い方なんて出来ない。
大馬力の火星一三型魔導エンジンが、彼女の高まった魔法力を受け止め、スペック以上の性能を発揮している。
「どけぇええっ!」
そのまま一気に必殺の間合いまで接近、引き金を引く。
青白い光弾となって銃口から弾き出される弾丸はネウロイ三体を瞬く間に蜂の巣に変えた。
そのまま正面に立ちはだかる敵機をとにかく撃つ、
払いのけるように撃って、
撃って、
撃って、
撃ち落とし続けた。
すれ違う敵、
後ろに付こうとする敵は全て無視、優速で一気に振り切ってしまう。
強引なまでに勢いに任せてに道を開き、ひたすら突入を試みる。
ひとみの本領発揮、猪突猛進だった。
「ひとみちゃん…」
鬼神の如き戦いぶりだったが夕月はその様子に危うさを感じていた。
《奇跡の魔法力の発現》
ウィッチの能力以上の絶大な力を発揮するが、これは燃え尽きる前の蝋燭の炎の揺らめき。
これを発現した二人、
美幸は生命力を使い切って命を落とし…
夕月は命に別状は無く、魔法力の枯渇もなかったが…
その後、精神が酷く不安定になって錯乱したのはもしかしたら影響なのかも知れない。
九九式の弾丸が尽きたが、直掩機群を抜けてない。
「夕月ぃっ!」
「ハイ!」
ひとみの全身が黄金の輝きを放つ。
噛み付こうと飛びかかってきた円形のネウロイに九九式の銃身を叩き付けた。
バラバラになる銃と粉々に砕け散るネウロイ。
背中の扶桑刀を抜くと、魔法力を帯びた刀身が黄金のオーラを纏っている。
「行くぞぉっ!」
黄金のオーラが、ネウロイの赤い光弾を跳ね返す。
そのまま突進し、すれ違い様の斬撃。
突進は止まらない。
斬って、
斬って、
斬り進み続けて、
艦載機の群れを抜けて空母ヌ級の直上に飛び出した時、
ヌ級が二人に向けてビームを放ってくる。
二人が艦載機群を抜け出す地点を予測し、狙いすましていた回避不可能な迎撃だった。
ひとみ、扶桑刀を構えて受け止める姿勢。
「ウオオオオッ!」
最大魔力を振り絞り、二人の盾となる巨大な魔法陣を展開した。
激しく衝突し、
拡散する赤い光線。
扶桑刀が圧力に負けて折れ飛び、ひとみの左眼に当たり鮮血が飛び散った。
強風が衝撃に耐え切れず破損、発火。
…が、それでも耐えた。
耐え切った、
ビームの奔流は通り過ぎた。
満身創痍になっていたが、
ひとみは健在だった。
だが、
もうこれ以上戦闘を続行する魔法力は残っていない。
ストライカーユニット強風も、起動限界に達していた。
「き、切り札は…
最後まで、とっておくもん…だ」
力尽きるひとみ。
黒煙を引きながら海上へと、
墜落していく…
そして、
まだそこにいた夕月が…
パチンと弾けた。
シャボン玉のように跡形もなく消えてしまった。
『!』
流石のヌ級にも何が起きたのか理解が追いつかない。
撃墜したのか?
一人はともかく、
もう一人は余りにも手応えが無さ過ぎる。
「後は…頼んだぜ、夕月…菊月」
困惑するヌ級の様子に、
会心の笑みを浮かべるひとみ。
固有魔法《影分身》
魔法力で夕月の分身体を作り出し、自分の大立ち回りで敵の目を見事に欺いてみせたのだ。
「ぶっとんじゃえーっ!」
夕月は気付かれず、別の角度からヌ級の至近まで接近。
ありったけの魔法力を込めた二五番爆弾を、
必中の間合いで放った!