小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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27、扶桑海決戦、其の五

駆逐イ級の至近に大きな水柱が立ち上がった。

 

 

「艦砲射撃? え、違う?」

 

 

舞鶴航空戦隊のウィッチたちは、その不可解な現象に戸惑った。

 

そして彼女を目撃した時、

戸惑いは驚愕に変化する。

 

 

「えーっ!」

「ウィッチなの!」

 

 

水飛沫を上げて海面を割り、滑走するように接近してきたのは銀髪の少女。

 

彼女は手にした大きめの銃を構えると銃身は青白い輝きを放ち、銃口から光弾を放つ。

光弾は放物線を描き、駆逐イ級の至近に着弾。

 

響き渡る轟音と立ち上がる水柱の大きさ、この威力は…

 

 

「すごい、まるで砲撃!」

「陸戦ウィッチの海上仕様ってわけ?」

「アレ、あの子確か養成学校で…」

「心強い援軍がきてくれたな」

「北郷少佐!」

 

 

北郷章香が駆逐イ級と交戦を開始した菊月を眺めながら笑みを浮かべていた。

好奇の視線を菊月へと向けるウィッチたち。

 

 

「敷設艦沖島の森美幸、今は准尉だな」

「美幸ちゃんだったの?」

「おまえたちの中には養成学校で一緒だった者もいるだろう」

「ハイ、知ってます」

 

 

魔眼使いの《サムライ》坂本美緒、

覚醒者《ロサ・バイン》若本徹子、

今や扶桑海軍が誇る二代エースの陰に隠れて目立つことがなかった美幸。

 

しかし今の美幸は海上を縦横無尽に疾駆し、

手にした砲から魔法弾を放ち、

魔導雷撃まででき、

体長100mを越す巨大な艦艇型ネウロイ駆逐イ級と互角の戦いを繰り広げる水上歩兵。

 

 

「白波の魔女か…」

 

 

最初に能美大佐から聞かされた時には呆れたものだったが、

 

確かに今の彼女にしっくりくる、

見事な二つ名だと納得できた。

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

『面白き奴輩よ』

 

 

駆逐イ級が対峙する菊月に語りかける。

その異相からは感情を読み取ることはできない。

 

菊月は冷厳な瞳で目の前の敵を見つめながらイ級の言に耳を傾けていた。

 

 

『小さき君よ、貴様からは吾らと同じ霊性が感じられる。

人の形をしているが本性は吾らと同じ戦船ではないか?』

 

 

コクリ、と首を縦に振って肯定を意に表す。

 

 

『面白きかな!

 

ならば知れ、

吾が名を刻め、

そして存分に戦おうぞ!

 

吾が名は姜邯賛、

李舜臣級駆逐艦姜邯賛也!』

 

高麗(コマ)か…」

 

『!』

 

「攻めよせる契丹軍を撃破し、国を護った高麗の堯将の名だと記憶している。

私は睦月型駆逐艦菊月だ」

 

 

もしかして嬉しいのだろうか?

姜邯賛が俯き気味にユラユラと揺れている。

 

 

『善かろう菊月、ならば勝負と参ろうか!』

 

 

強大な雄叫びを上げて襲いかかる姜邯賛。

 

既に臨戦態勢を整え、

迎え討つ菊月。

 

二隻の戦船、戦闘開始。

 

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

 

空母ヌ級こと独島は違和感を感じていた。

 

通常兵器による攻撃はものの数ではない。

敵の中で脅威となりえるのは不思議な力を持った女兵士。

その中でも爆弾を使う者は特に危険だが、それは比率を考えると決して多くは無い筈。

70機はいた攻撃機の中で女兵士はたった一人しかおらず、その一人は撃墜済みだった。

 

決め手が無くなりダラダラとした消耗戦に移行しかけるタイミングで現れたもう一つの脅威、女兵士の姿をした艦艇。

 

しかしそれは護衛艦である姜邯賛と戦闘を開始し、その刃は自分には届かない。

 

だが士気が落ちかけていた敵勢が息を吹き返し、必死の反撃を始める。

 

まるで注意を引きつけようと立ち回っているような…

 

戦場に何かしらの意図を感じる。

様々な憶測、推測、そして直感から敵軍のもう一手を予感する独島。

 

一応、自らの直掩の為の艦載機を放っておく。


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