舞鶴鎮守府、
ウィッチ専用宿舎にて。
「お、おまえは誰なんだ?」
「菊月、睦月型駆逐艦9番艦菊月。望むなら森美幸でも構わない」
ひとみの口がひん曲がってへの字を描き、
「何言ってんのか、さっぱり意味解んねーよっ!」
「理解してもらわなくても結構だ」
「美幸はこんな言葉遣いしてなかったし!」
と言いつつ上から下まで一通り見回して、
「まあ、この丸っこい顔とチビでチンチクリンなところはそのままだな」
菊月のほっぺたを指でムニムニと摘んで弄び始める。
菊月は黙ってされるがまま、
それどころか意外と心地良さそうな…。
(昔はムキになって怒ったもんだが…
何だコイツ、ちょっと可愛い)
能美の時もそうだったが菊月はどうやらこういうスキンシップに抵抗が無いらしい。
「ひ、と、み、ちゃん…」
「わっ!」
髪が逆立ち、
瞳が赤く変色、
青白い魔法力のオーラまで漂わせてる尋常でない夕月が…
昨日も夕月を怒らせたが、今日もまた別の地雷を踏んだらしい。
「おい、夕月が前より何か変だぞ?」
「うん、いろいろあって私に対する依存が強くなった」
あの日以来、
就寝は必ず同衾するようになり、スキンシップの多めな能美大佐に殺意を催したりするようになったり、
菊月としては夕月の暴走っぷりを身を以て体験している為、いつか刃傷沙汰にならないかハラハラしているところであった。
「久々に陸に上がったんだ、風呂でも入ってさっぱりしてこようぜ」
「それはいいな」
「わーい、菊月ちゃん洗いっこしようね!」
「それはちょっと…」
菊月、
夕月、
ひとみ、
年若い三人の海の魔女。
修羅場を潜り、各々浅くない傷を心に負ってきたが、今は和やかに時を過ごしたい。
「あの~」
「ん?」
間延びした声を掛けられて振り返る。
そこには白を基調とした海軍の士官服姿の女性。
襟の階級章を確認し、三人は直ぐに佇まいを正して敬礼で応えた。
「失礼しました、何でしょうか中尉」
「あ~いえ~、そんな畏まらずに~、大した者ではないので~」
「はぁ…」
何だか力の入らないやたら間延びした口調の変わった上官ではあるが、女性士官ということはウィッチなんだろうか?
そういえばここはウィッチ専用の宿舎だっけかと思い出す。
「え~と、沖島の森一飛曹と、妹の森二飛曹に、聖川丸の保田一飛曹ですか~」
「はい…」
どうにも会話のテンポが遅く要領を得ない。
早く風呂に入りたい三人はちょっと辟易してしまう。
「自己紹介まだですね~、私、金丸昇子と言うものです~」
ペコリと頭を下げたウィッチは金丸と名乗った。
「蒼龍飛行隊の!」
「有名な人?」
「夕月、失礼だぞ。百発百中の魔女、金丸中尉だ」
「ほえーっ」
金丸昇子は、
第二航空戦隊正規空母蒼龍所属のウィッチであり、扶桑海軍に金丸有りと讃えらる爆撃の名手。
正確無比な爆撃技術はもちろん、固有魔法《炸裂》は爆弾の破壊力を飛躍的に高め、超ド級戦艦すら一撃で轟沈させる威力を発揮する。
「今回実戦を経験した御三方に、お話を伺いたくて~」
それは構わないのだが…
風呂に入れるのはいつになるのだろうかと心配になっていたら、金丸が三人に提案。
「これからお風呂でもご一緒して~、そこでゆっく~りとお話しませんか~?」
「ハイ、そうしましょう!」
「菊月ちゃんと洗いっこー」
「やっぱりするのか…」
金丸昇子は、
意外と空気の読める人だった。