小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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14、敷設艦沖島にて、其の四

その日、その場所、

菊月は戦友たちと共にあった。

 

高栄丸、吾妻山丸、そして敷設艦沖島。

それと…姉妹艦である、睦月型12番艦夕月。

 

一大作戦の支援の為の水上機基地設営作業を完了し、

給油作業の最中だったのだが…

 

敵は空からやってきた。

 

わんさとやってきて爆弾の雨を降らせ、

低空飛行で銃弾を撒き散らしていく。

 

設営したばかりの水上機基地は破壊され、

補給艦玉丸は爆破轟沈、

 

夕月も中破炎上…

 

菊月は補給作業を直ちに中止、

敵の注意を旗艦である敷設艦沖島から逸らし、自分に向くように動きを見せた。

 

 

「こい、私のところへ、こい!」

 

 

敵機から放たれた8本の魚雷、

必死の回避行動を試みる菊月だったが…

 

「ああああっ!」

 

かわしきれずに1本が右舷に命中、機関室をやられ大破。

 

「菊月さん、しっかりしてください!」

 

第三利丸が重傷の菊月を必死に曳航するが…

 

「もう、いい。ここに私を置いていけ…」

「そんな…」

 

菊月は沈められずに、ある島の海岸に擱座することになる。

艦隊は各自バラバラに退避行動を取り…

 

 

菊月は、そのまま投棄。

 

死に切れず、

かと言って生きているわけでもなく、

 

ただ棄てられてしまった。

 

 

「夕月も沖島さんも、なんとか無事だったか。

皆、後は頼む…

 

 

逃げてくれ…

 

逃げてくれ…

 

逃げて…

 

 

逃げ…

 

 

 

イヤだ…

 

 

逃げないでくれ…

 

 

私を…

 

 

棄てていかないでくれ、

 

 

 

私はまだ死んでない…

 

 

 

私を独りにしないでくれ…!

 

 

誰か、

 

 

誰か…!

 

 

 

夕月ぃ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊月が瞼を開けると、

夕月が上にのしかかり、体重をかけ親指を首に食い込ませるように絞めていた。

 

「ユ、ヅキ…」

 

夕月から激しい殺意を感じる。

 

その両手に込められた腕力は明らかに息の根を止めにきている。

 

このままでは殺されて…

 

夕月を跳ね除け、

殴って目を覚まさせるか、

 

…と、一瞬考えたが止めた。

 

 

(受け入れよう、夕月が望むまま、

受け入れよう…)

 

 

菊月は観念した。

 

抵抗することを諦めて、この行為を受け入れることにしてしまった。

 

夕月の頬を優しくなでた。

憎しみに満ちた視線を向けてくる夕月に対し、苦痛をおくびにも出さず、

 

慈愛さえ感じる表情…

 

殺意に充ち満ちた夕月の顔色が変化して、

 

怯えと戸惑いが表情に表れた。

 

腕の力が抜け、

首にかかった手が外れる。

 

「何で抵抗しないの!

 

殺されるところなのに、

 

何受け入れてんのよぉっ!」

 

半狂乱で頭を抱え、

そのまま蹲ってわめき散らす夕月。

 

「何でアンタは美幸ちゃんにそっくりなの?

 

美幸ちゃんみたいに私に優しくするの?

 

おかしい、こんなのおかしい!

 

夕月、頭の中がグチャグチャになる!

 

もう耐えられない、

もうイヤ、

夕月も死にたい、

 

美幸ちゃんのところに逝きたいぃっ!」

 

「ダメだ!」

 

蹲る夕月の身体を起こし、

肩を強く掴んで声を荒げた。

 

「今私がここに在るのは、おまえを守る為だ。

美幸と菊月の御霊は同化して、今の私がいる。

おまえを守りたいという美幸の意思は私の想いなんだ!」

 

「う、うぅ」

 

「死にたいなんて言わないでくれ…

 

お願いだ…」

 

「美幸ちゃぁん」

 

夕月が菊月の胸の中に入り、菊月がその夕月を包むように抱き抱える。

 

二人して泣いた。

凍てついた心が、

氷解していく…

 

菊月の優しさは美幸と全く同じ。ようやくそれを感じることができた。

 

 

「菊月ちゃん…」

「美幸で構わない」

「ううん、美幸ちゃんが生まれ変わって新しいお姉ちゃんになったから、やっぱり菊月ちゃん」

「おまえの意思を受け入れよう」

「えへへ」

 

二人は同じベットで一つの毛布を被り、お互いの体温を気持ち良く感じながらいつまでも喋っていた。

 

やがて夕月が眠そうにトロンとしてきたので、菊月は話すのを止めて頭をゆっくり撫でた。

 

撫でられると、

夕月は心地良さそうに微睡みの中へ…

 

「夕月を守るのが、私がこの御世にある為の存在理由…」

 

虚空を見つめて深く考える。

 

「広開土大王は、護るべき御国が存在せず己の存在理由を失ってしまったが為に暴走し…

 

彼我は表裏一体、奴と私は全く同質の存在…」

 

そこで考えるのを止めた。

 

得体の知れない恐怖心が悪寒を走らせる。

 

とにかく今は夕月の温もりを感じながらゆっくり眠りたい。

 

懊悩を無理やり心の奥にしまい、夕月の身体を抱き寄せて眠りについた。

 


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