小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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10、砲雷撃戦

最初に動き出したのは菊月、

白波を立てて海面をダッシュ。

 

怪魚は菊月に照準を合わせ、

砲身から赤い光弾を吐き出した。

 

光弾は僅かに菊月を逸れ、

海面に水柱を立たせる。

 

続けて赤い光球が飛んできた。

 

「む、速射重視か」

 

破壊のエネルギーはビームでなく光球状にすることで充填無しの連射が可能な代物らしい。

 

両舷全速、

速力にものをいわせた回避、

命中弾無し、

潮吹雪を切りさきながら接近、

 

直立の姿勢で慣性に任せて海面を滑り…

 

両脚に青白く光る魚雷発射管が現れた。

 

左足を持ち上げて魚雷発射、

飛び魚が跳ねるように海中へと放り込まれた四連装魚雷、

 

四本の白い雷跡が一気に迫るが…

 

怪魚はそれを回避しようともせず動きを止め、

その巨体が海中に沈み込む。

 

魚雷は直撃コースだが、

 

「何故避けない?」

 

不可解な行動、違和感、

ジワリと圧迫を与えてくる。

 

瞬間、

立ち上がる潮壁、

真っ白になる視界、

 

海上の菊月は激しい津波を食らってバランスを崩す。

 

「くっ、目潰しのつもりか!」

 

体勢を立て直し、

砲門を構えた菊月だったが信じられない光景を目の当たりにすることになった。

 

100メートルを越す巨体が海面から跳ね上がり、

 

空中を舞う。

 

スズキが『針外し』をする為に海面から飛翔するかの如く。

 

怪魚は菊月が放った雷撃を見事に外してみせた。

 

「うわぁっ!」

 

そのまま菊月のところへ落下してくる怪魚。

 

この巨体を回避する術はなく、

下敷きになって海中に飲み込まれてしまう。

 

巨体を押し付けられ、

水圧で身動きが取れない菊月は必死に怪魚の鼻先にへばりついていたが、

閉じられた怪魚の口からは赤い光が漏れてきた。

 

「このまま、この距離で、水中で撃つ気か、相打ち覚悟の一撃を!」

 

 

海中から轟音が轟き、

巨大な水柱が立ち上がった。

 

 

周辺に、

暫くの間海水の雨が降り注がれる。

 

無残に上半分が吹き飛んだ怪魚の身体がゆっくり浮かび上がってきた。

 

再生が始まり、

黒い外殻がパキパキと音を立てながら形成されていく。

 

その中心には仄かに光を灯す赤い結晶。

 

この赤い結晶こそ、怪異《ネウロイ》のコアである。

 

このコアこそ唯一にして絶対の弱点であり、

逆にこれを破壊しない限りネウロイは何度でも再生して復活するのだ。

 

 

コアの側に立つ菊月。

 

無論無傷ではなかったが、どちらのダメージが大かは一目瞭然である。

 

「魔法シールド、この御世のウィッチというものは便利なものだな…」

 

この状態からの反撃は不可能と判断して展開していたシールドを解いた。

 

爆弾を手に赤い結晶を見下ろす。

 

爆弾は森美幸の魔法力が込められ、

 

彼女の遺品となった三番爆弾。

 

 

「詰みだ、最期に言い残すことは?」

 

『見事也、吾が名は駆逐艦広開土大王(クァンゲトデワン)、願わくばこの名を貴殿の胸に刻み給え…』

 

「広開土大王、確か古代高句麗の王君の尊称だったと記憶している 」

 

『吾が名を知り御国を知るのか…

そうか、吾が御国はやはりあるのだな、どこかに存在しているのだな…

そうか…』

 

菊月の手から、

爆弾が放たれる。

 

 

炸裂し激しい爆煙が起こった。

 

無防備に晒された赤い結晶、

コアを粉砕。

 

再生中だった黒い巨大な怪魚の身体がひび割れ、

 

乾いた音を立てて砕け散った。

 

銀色の粒子が辺りに舞う、

太陽光を反射してキラキラと光り輝く。

 

菊月はその中心に立っていた。

 

上空に気配を感じ、

蒼空を仰ぎみる。

 

規則正しい雁行の編隊飛行は、

航空歩兵としての練度の高さを容易に想像させる。

 

舞鶴航空ウィッチ部隊。

 

「何だ、森美幸一飛曹…、なのか?」

 

「北郷少佐か…」

 

 

扶桑海軍公式記録では、

1942年5月4日、隠岐諸島沖にて怪異発見。

 

敷設艦沖島所属、森美幸一飛曹の爆撃によって撃破されたことになっている。

 


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