龍姫の常軌を逸した人生   作:谷上くん
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二話 運命の出会い


 長き眠りから意識が覚醒し辺りを見渡すと、そこはセレナにとって全く知らない場所だった。
 大きな建物?(ビル)が建ち並び、見たことのない機械の塊みたいなもの?(自動車)に人が乗っている。通行人は奇天烈な服装で身を包み何か変な物?(スマホ)を弄りながら通行している。

 視界に映る全てのものがセレナの常軌を逸していた。

 そして今、セレナは沢山の人混みの中にいた。波にどんどん流されている状態だ。流れに抗えず身動きが取れない。

 ーーここは渋谷のスクランブル交差点、日本で一番大きいとされる交差点だ


「ここは…どこなの?確か魔法陣が光って…それで…ここは異世界?…」


 懸命にそれから自分の身に何が起こったのか記憶を辿ろうとしたが思い出せない。思い出そうとすると頭痛に見舞われる。まるで脳が拒んでシャットアウトしているかのようだ。
 これからどうすれば良いのかわからない。セレナは特に当てもなく炎天下の東京の街を歩き始めた。

 歩けばいずれここがどういった場所なのかを知る手掛かりを見つけられると思ったからだ。


「あの金髪の女の子超可愛くない?」

「やばっ!可愛すぎ〜ロシア人?かな?普通に芸能人にいそう…私達とは雲泥の差じゃん!!」

「住む世界が違うって感じ」


 セレナは殆どの通行人が自分のことで反応しているのを見て怪訝に思った。一体自分の何を見てヒソヒソ話しているのだろうかと。

 自分に何か他の人とは違う何かおかしな点があるのだろうか。強いて言うなら今まですれ違った人は見慣れない黒髪の人が多いくらい。

 でも…まぁ

「何でもいい……ん!?…アレは…」


 セレナは街路樹が並ぶ非常に閑静な住宅街に入ったのだが道路の真ん中で住宅街に似つかわしくない異様な光景が視界に映った。
 人間の男があの凶悪な化け物であるヴィルゲルヘンの群れに今にも喰い殺されようとしていた。


「平地にもヴィルゲルヘンっているんだ…山の中でのみ生息してるものだと…って言ってる場合じゃないよね。助けなきゃ!」


 セレナは急いで男に駆け寄り、安否を確かめる。至る所から流血していて、全身傷だらけだが、まだ息はまだある。
 だが頭の方はもうどうにもならないほどに手遅れだった。生まれた瞬間からバグっていたのだろう。


「う…くっ…金髪美女?あぁ生きててよかった。この桐咲 涼介。一生を終えるまでには金髪美女を拝んでおきたかったのだよ」

「えっと…大丈夫?」

「あぁ…混沌としたカオスの世界から来た神聖なる我が身は非常に頑丈なのだよ!フフフッ」


 片目を瞑り、右の掌で顔を覆い、決めポーズし、挙句ドヤ顔で自身の身が健全であることを証明した。
 この男、かなり頭のおかしな厨二病だった。厨二病という存在をしらない異世界の住民であるセレナですらドン引きするレベル!

 ある意味キャラが凄すぎて拍手喝采を浴びせたいくらいだ。勿論皮肉で、哀れみの意味で。


「ーー頭の方が大丈夫じゃないのかな?ま、まぁ今、化け物を倒すから!安心して!」

「フッ…助かる。まだ我が身はこの世界独特の瘴気に順応できていないようだ…」

「そうですか…」


 頭のおかしい厨二病は放置でセレナはヴィルゲルヘンの群れと対峙した。ヴィルゲルヘンは基本一匹狼的な化け物なのだが何故か群れでいることに疑問を持った。

 だが、どの道セレナにとってはどうでも良いことだ。単体でいようが群れでいようが、所詮龍姫の敵ではない。まとめて焼き滅ぼしてやるのみ。


「ーーそいつら危険だぜ。この世界では見たことがない化け物だ。有り得ないほどに莫大な力を秘めてやがるぜ」

「え?異世界…じゃなくて…この世界ではヴィルゲルヘンは存在しないの?」

「…よくわからんがあんな化け物自体存在しないぜ!」


 男の言葉に思わずセレナはキョトンと鳩のような顔つきになった。ヴィルゲルヘンが存在しないなら未だしも化け物自体存在しないというのは予想外だった。
 どれだけ安全な世界なのだろうか。道理でこの男がボロ頭巾のようにズタボロにされているわけだ。よほど生温い環境で生まれ育ったのだろう。


「……わかったわ。えっと少し離れていてくれる?もしかしたら巻き添えを喰らう可能性があるから」

「あ?おぉ…離れようではないか」


 男は脇腹を抑え、そそくさとセレナとヴィルゲルヘンの群れから一定の距離を置いた。
 それを横目で確認し、セレナはヴィルゲルヘンを睨めつけて威嚇し、そして両の掌を合わせ詠唱を始めた。


『我が身に宿りし深緑の眼を持つ純白の龍の力よ。今ここで放たれん。闇をも照らす白き炎よ、行く手を阻む目先の障害を掻き消せ。最上位魔術 神聖炎(セイクレッド・フレイム)!!』


 詠唱が終わると即座にセレナの足元が着火。最初は灯火のように小さかったが、段々渦を巻いて大きくなり、やがてセレナの周りを青白い炎が渦巻く。
 そしてセレナがヴィルゲルヘンの群れに人差し指を向けると、炎の渦が群れを爆風とともに勢いよく呑み込み、炎はそのままコンクリートの壁に激突。


『ギヂャャャャャャ!!!』


 人通りの少ない閑静な住宅街に断末魔のような叫び声と爆発音が周囲に鳴り響いた。


「とりあえずは終了ね…」


 炎の影響でコンクリートの壁に黒いシミと、地面にヴィルゲルヘンの血が四方八方に飛び散り壮絶な戦いの爪痕を残し、終戦した。

 男はその詠唱と光景に唖然とした。目の前に颯爽と現れた女の子がまさかこんなファンタジー漫画のように魔法を唱え、発動させて化け物を掃討したことに驚きを隠せないのだ。

 男は幼い頃から、そういった類のものに憧れを抱き、いつか習得できるその日がくるまで日々特訓を重ねていた。だが結局、魔術は習得できず今に至る。

 ーーそう!ただの痛々しい厨二病になってしまったのだ

 しかしながら今、目の前で起こっている現象は長年、男が求め続けてきたものそのものだ。


「だが…何故だ!何故このような少女に魔術が!!まさか異世界からの使者か?クッ…何なんだ…君の名は?」

「私?…セレナよ。異世界からの使者…っていうのはわからないけど、ここと違う世界から来たというのは正しいわ。あなたの名前は?」


 異世界だと!?まさか本当に異世界から来たとは思いも寄らなかった。あの規格外の強さは異世界での厳しい生活に耐え得たものなのだろうか。
 男は極度の緊張状態に陥って硬くなっていた表情を緩め、汗を拭い、笑顔で自身の名を告げる。


「我はこの星の…じゃなくて…ついついキャラが出ちゃうぜ…」

「…」

「俺は桐咲 涼介。東京随一の厨二病の男子高校生だ!助けてくれてありがと」


 これが後に地球に現れる史上最悪の魔王を討ち滅ぼす伝説の男女ペアと呼ばれることとなる高校生桐咲 涼介と異世界から召喚された少女、セレナの奇妙な出会いである。