静かに、二人の後輩は決意する。   作:いろはにほへと✍︎

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True love is like ghosts, which everybody talks about and few have seen.

―La Rochefoucauld―

『真の恋というものは、誰もが口にするが、実際に見たものは一人もいないという、まるで幽霊のようなものである』



昨日の敵は、今日も敵

「うぅ、重い……」

 

だいたいなんで私一人なの、と心の中で呟きながら、一箱、五キログラムの箱を運ぶ。

 

せんぱいは今日早く帰っちゃったし、生徒会の皆は、今日は仕事ないから休み。私も帰ろうとしたところで捕まって……。

 

「はあ、男子だったら軽々なんだろーな」

 

思わず独り言が漏れる。自分の力がないせいで何度も持ったり降ろしたりで、腕も腰も痛かった。……というか女子一人にやらせるっておかしいでしょ。

 

「大丈夫? 手伝おうか?」

 

私が必死になって運んでいると、背後から女子っぽい声がかかった。普段なら断るが、生憎今日の私にはそんな元気はなくて反射的に振り返る。

 

「ありがとう、お願い」

 

「うん、お願いされた!」

 

 やけに元気な子だな、と思って荷物を置くために下げていた顔を上げる。

 

「え……」

 

 声が漏れる。「高海さん?」

 

 「こんにちは、一色さん」

 

 高海さんは私が知っているということに少しも驚くことなく、私の名を呼んだ。

 

 「え、私のこと知ってるの?」

 

 「だっていつも比企谷先輩の隣にいるもん」

 

 「いや、いつもいるのは高海さんの方でしょ」

 

 「そう?」

 

 「うん」

 

 「まあ、いいや。とりあえず運ぼう!」

 

 まったくもってよくないのだが、そうだね、と呟くと二人で運び始めた。

 

 × × ×

 

 「ありがとう、高海さん」

 

やっとのことで段ボールを運び終え、高海さんに礼をする。高海さんもそんなに力はないようで、少し時間がかかってしまったが一人よりはマシだった。

 

まあ、なにより気になることがあって時間の流れは早く感じたけど。

 

「ううん、気にしないで! いろはちゃんと話せてうれしかったよ! あ、私のことも名前で呼んでくれない? ……友達なんだしさ」

 

 「分かったよ、美奈ちゃん」

 

 私が了承の意を伝えると、彼女はにこぱっと笑みを浮かべた。つられて私の頬も緩む。

 

 「あ、もうこんな時間だ。帰るね!」

 

 腕時計に視線を落とすとすでに六時を回っていた。あいつらどんだけ運ばせたんだ。

 

 「そうだね、私も帰ろ。じゃあ今日はありがとう!」

 

 私は一言お礼を伝えると、踵を返した。が、袖をつかまれて進むことができなかった。

 

 「ん? どうかしたの?」

 

 訊かないわけにもいかず尋ねると、何が恥ずかしいのか、頬を桜色に染めて、もじもじと

こちらに上目遣いをしていた。

 

 「あのさ、もし同じ方向なら一緒に帰らない?」

 

 あー、分かりましたよ、せんぱい。たぶん私の今の気持ちと、せんぱいが戸塚先輩に抱く気持ちは同じです。……なんなんだこの可愛さは! 血反吐がでるかと思いましたよ……。

 

 「えっと、家どこなの?」

 

 一旦落ち着いて尋ねる。

 

 「えっと、比企谷先輩と同じ方向だよ」

 

 は? と思わず口に出しそうになるのを留める。なんでわざわざせんぱいを出すんだ。

 

 「へ、へえ。じゃあ、その先の駅とか?」

 

 「うん、そうだよ!」

 

 「ははは、じゃあ同じだね」

 

 「帰ろうか」

 

 この日、私の敵が一人増えた。

 




正しいはずなのにひらりひらからまわる。

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