静かに、二人の後輩は決意する。   作:いろはにほへと✍︎

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When we are in love often doubt that which we most believe.

―La Rochefoucauld―

『我々は恋をすると、現在はっきりと信じているものまでも、疑うようになるということが、しばしばあるものである』



勘違い的嫉妬

 「お前、またいるのか」

 

 思わず嘆息を漏らす。高海との奇跡的な邂逅から一週間が経った。

 

 「だからー、ヒッキー先輩と仲良くなりたいんですって」

  

 「ヒッキーは止めろ」

 

 こいつは由比ヶ浜とも親交があるようで、何かと影響されている。

 

 「比企谷先輩、私、実は読書家だって知ってました?」

 

 「いや、知ってるわけないだろ。……で、何読むの」

 

 訊くと、高海は少し嬉しそうな表情になった。

 

 「もしかしてー、興味あるんですかー? 私に」

 

 「いや、お前にはないから」

 

 「仕方ないから答えてあげましょう」

 

 「だからないって」

 

 なんで俺の周りには話を聞かない奴らが多いんだ。

 

 「んー、最近は一般文芸ですかねー。今は、湊かなえの告白を読んでます」

 

 「あー、それか。読んだことあるわ。それ結末で、先生の復讐劇が……」

 

 「ちょっと! なにネタバレしてるんですか! だから……」

 

 「おい、ちょっと待て。何を省略した」

  

 本当に失礼だなこいつ。俺は友達がいないんじゃなくて、つくらないんだ。

 

 × × ×

 

 最近、せんぱいが女の子と仲良くしている。

 

 名前は 高海 美奈。 確か一年F組。雪ノ下先輩ほどではないけど、人気があるって聞いたことがある。もちろんあの可愛さだ。雪ノ下先輩みたいな綺麗さではない愛嬌。運動も勉強もできて、でもどこか抜けているーー。せんぱいが好きそうだ……。

 

 数学の授業は耳に入らず、私はひたすら考えていた。

 

 

 一日の授業を終え、奉仕部に向かう。が、目の前に顔見知りが見えて、思わず物陰に隠れる。

 

 せんぱい、……と高海さんだ。

 

 「比企谷先輩、なかなかでしたよ告白」 

 

 高海さんの言葉に私は固まった。……告白? せんぱいが?

 

 「そうか。で、どうだった?」

 

 「んー、こういうのいいなって思いました。こういうの慣れてませんでしたから」

 

「お前も好きなのか。嬉しいな」

 

 気付いた時には駆け出していた。話を聞く限りではせんぱいが高海さんに告白したということだろう。

 

 遠回りして奉仕部に向かう。真偽を確かめる必要があるのだ。

 

 目の前に部室が見えたところで、ドン、と誰かとぶつかった。

 

 「あ、ごめんなさ……、結衣先輩」

 

 「ごめんねー、いろはちゃん」

 

 「あの! せんぱいが高海さんに告ったってホントですか?!」

 

 「え? 美奈ちゃんに?!」

 

 「どうかしたのかしら? 部室の前でうるさいのだけれど」

 

 部室の前で騒いでいると、戸が開いて雪ノ下先輩が現れた。

 

 「おい、どうかしたのか」

 

 雪ノ下先輩に尋ねようとすると、同時にせんぱいが現れた。

  

 「せんぱい! 高海さんに告ったんですか?」

 

 訊くと、せんぱいは呆れたような顔になった。

 

 「……は?」 

 

 × × ×

 

 「なんだー、せんぱい。本の話ですかー」

 

 「だいたい、なんで俺のこと気にしてんの。好きなの?」

 

 「そんなわけないじゃないですか、気持ち悪いです」

 

 思わず冷たい声を出してしまう。

 

 せんぱいは面倒そうな顔をすると、紅茶の入った湯呑に手を伸ばした。

 

 「ところでお前、高海と知り合いなのか?」

 

 「いえ、別に」

 

 「じゃあなんで名前知ってるんだよ」

 

 「知らないんですか? 彼女総武で結構人気ですよ」

 

 「そうか。知らなかったわ」

 

 「全然、意外そうじゃないですねー」

 

 思わず頬を膨らませてしまう。というかなんで、湯呑で紅茶飲んでるんですか。

 

 「まあな、客観的に見てもモテそうだしな」

 

 んー、気に入らない。全くもって気に入らない。

 

 「せんぱい、彼女のこと好きなんですか?」

 

 意地悪く尋ねると、結衣先輩も雪ノ下先輩も動きを止めた。

 

 「ヒッキー?」

 

 「比企谷くん?」

 

 二人の声が重なって、部室にこだました。

 

 「んな訳ねえだろ。客観的に見てって言っただろ。……あれだ。お前らと同じってことだよ」

 

 瞬間、時が止まった。私はもちろん、結衣先輩、雪ノ下先輩も同時に頬が赤く染まった。

 

 「……きょ、今日はもう終わりにしましょう」

 

 頬を赤く染めた雪ノ下先輩が開きかけの本をパタリと閉じた。

 

 「おう、今日は早いな。まあ、早く帰って小町に会えるんだから得だな」

 

 「そ、そう。ではもう閉めるわ」

 

 そう言うと、そそくさと解散させた。

 




あはははっはあっはっはははははは。疲れた。

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