静かに、二人の後輩は決意する。   作:いろはにほへと✍︎

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しのぶれど 色に出でにけり 
わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで

―平兼盛―

『人に知られないようにずっと思いを秘めてこらえてきたが、とうとう気持ちが素振りに出てしまったようだ。「何か思い悩んでいるんですか」と人から尋ねられるほどに』



俯瞰的客観性

 「あ、せんぱい」

 

 昼休み。廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。

 振り返ると、やはり一色いろはだった。

 

 「なんだ。なんか用か」

 「いや知り合いいたら話しかけるのが当然じゃないですかー……」

 「話しかけたことないから分かんなかったわ」

 

 言うと、一色は俺の顔を下から覗き見る。

 それから少し考える素振りを見せると、口を動かした。

 

 「……っていうかせんぱい。なんか元気ありませんけど、どうかしたんですか?」

 「あ、いや、別に……。ちょっと考え事をな」

 

 不意に聞かれて訥々と答える。

 だが一色にはそれも見通されていたようだ。訝しげな視線を送ってくる。

 

 「まさか、誰かに告られたとか!」

 

 ……え? 何この娘……。エスパー?

 

 「……あ、いやそうじゃなくてだな。あー、まあ、えっと……」

 

 思わず口ごもる。すると、からかうような笑顔だった一色の表情が、徐々に真剣なものになっていった。

 

 「……美奈ちゃん」

 

 一色がぽつりと呟く。

 

 「た、高海がどうかしたのか」

 「……ばればれです」

 「なにが」

 「告られたんでしょ。せんぱい」

 

 違う、と言いかけてやめる。

 実際事実だし、嘘はつきづらい。それなら誤魔化すしかない。

 

 「ないこともないこともないが、ないことはないかもしれないし、きっとない」

 「つまりあるんですね」

 「……」

 

 やだ。いろはす怖い。

 一色の突き刺すような視線から逃れるために、俺は背中を向けると軽く手を振って別れようとした。

 

 「じゃあな」

 「……行かせるわけないでしょ」

 

 一色に肩を掴まれる。

 俺は当然逃げようと藻掻く。

 しかし妙な抵抗をすれば叫ぶと耳元で囁かれて、何も出来なくなった。

 

 「とりあえず移動しましょ」

 

 何か反論する間もなく、俺はそのままベストプレイスへ連行された。

 昼飯買ってないんだけど……。

 

 × × ×

 

 「せんぱい。それでおーけーしたんですか?」

 

 一色はベストプレイスの階段に腰を下ろすと、食い気味に顔を近づけてきた。

 当然俺は少し後ずさりする。

 

 「……保留」

 

 小さく一言だけ呟いた。対して一色はくるくると髪の毛をいじっていた。

 一色はその手を止めると、じとっとした目で俺を見る。

 

 「どうする予定ですか」

 

 鋭く問い質すような眼光に思わず怯んでしまう。同時に違和感を覚えた。

 そしてそれを取り払うように、俺は口を動かした。

 

 「どうするって、お前には関係ないだろ」

 

 普通に聞けば、突き放すような声音だった。自分でも、こんな冷たい声が出るのかと驚く。

 ちらと一色を見ると、目が潤んでいた。

 え……。マジかよ。女の子泣かせちゃった?

 

 「せんぱい。もう一度聞きます」

 

 目を潤ませた一色が俺の目を見つめる。

 

 「……はい」

 

 清く正しく美しく。いい返事だ。

 

 「おーけーするんですか」

 「まだ考えてます」

 

 即答した。

 もっときつく聞かれる、詰問されるんじゃないかと身構えていたが、それほど厳しくない声音だった。

 

 「じゃあわたしならおーけーしてくれますか」

 「いや、そういう問題じゃ……、って、え?」

 

 突然の質問に、理解が追いつかなくて素っ頓狂な声を出してしまう。

 ……なに言ってんのこいつ。今そういう冗談やめてくれない?

 

 「私なら付き合ってくれますか? 即答してくれますかって聞いてるんです」

 

 「いやなにそれ、なんの冗談? 笑えないんだけど」

 

 「私も笑えません。……せんぱい、いい加減にしてください……」

 

 消え入るように呟かれた声に、思わず反応して、一色の顔を覗くように窺った。今にも泣きそうな瞳がじとっと俺を見据えていた。

 

 「一色……」

 

 「……はい」

 

 「本気なのか? …………まあこう聞くのも失礼か」

 

 「はい、全くその通りです」

 

 途端ににこっと笑う一色。やはり笑顔が似合っていて、俺もつい笑みを浮かべてしまう。

 

 「えーっとなんだその、ありがとう。……でも、さすがに即答はできない。一週間いや、一日でいい。時間をくれないか」

 

 懇願するように一色の目を見る。

 こんなに美人な子に告白されるなんて、まさに身に余る光栄だ。中学の頃だったら即答だったろう。

 でも今は違う。

 考え方が違うのだ。客観性の先にこそ行き着く場所があって、それが俺のアイデンティティだと思う。

 俯瞰的に見て、全てプログラムのようにトレースすることが、俺の中の正しさだと思う。デバッグのように確認して、修正して。そうやって俺は先を決めるのだ。

 一色は一つため息をつくと、いつものあざとい笑顔を浮かべ、空を仰ぐ。

 昼下がりの空は澄み切っている。

 

 「仕方ないですね、但し、ちゃんと決めてくださいよ?」

 

 「ああ、分かってる」

 

 俺は短く返事をすると一色の持っていたパンを半分もらって、昼休みを終えた。

 ……だって昼食ないんだもん。

 

 

 

 




お久しぶりのこの作品。
中二恋と同時に完結しそうです(笑)
美奈ちゃんと一色、どっちになるかは……。

今日、から紅の恋歌見てきました。
最近はアマガミというアニメに、コナンに、河合荘(漫画)に忙しい……。俺ガイル延期の代わりに河合荘が4/28発売……!
(河合荘とアマガミは最高の青春漫画・ゲーム)

とりあえず、俺ガイルとコナンと河合荘とアマガミは最高ということであとがきを終えようと思います。

ご覧いただきありがとうございました!

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