一種の欲望からきているように思う
ああもなりたい、こうもなりたい
こういうふうに出世したい
という欲望から迷いがでてくる
それを捨て去れば問題はなくなる
―松下幸之助―
比企谷先輩は事故から一週間ほど経つと、松葉杖で登校し始めていた。
絶対に学校に行かないとかなんとか言っていたが、結局は来ている。
私がどれほど心配していたと思っているのか。
まあ私にも責任の一端、いやかなり責任がある訳で……。
それで私は、あるはずの無い距離感を、先輩との距離感を覚えていた。
きっと先輩のことだから、笑わずとも、無愛想に許してくれるだろう。
分かってはいた。
分かってはいたのに、何故か妙な距離感を覚えて、私は自ら距離をとっていた。
これが所謂、贖罪というやつのだろうか。
いや、そんなものではないのだろう。
つまるところ、私の自己満足。
あの人ならそうでも言いそうだ。
どうやら少しずつ毒されてきているらしい。
文化祭の時に見た先輩の考えや行動に。
× × ×
チャイムが鳴り、廊下に出る。
お手洗いに行こうと歩いていると、偶然、比企谷先輩を見つけた。
ついでにいろはも。
「はあ」
思わず、ため息が漏れる。
どうして好きな人とそのライバルの邂逅を見なければいけないのか……。
今回ばかりは私が悪いことに変わりはないと思って、静かに、二人の会話に耳を傾けた。
「せんぱい。もうけが治ったんですか?」
「いや見てわかんないの? 何のための松葉杖?」
「あー、それ、けがしてたからなんですか。てっきりあの、け、けんごう? なんちゃらかと同じかと思いましたよ」
「お前、言っていいことと悪いことの区別くらいつかないの? あれは、もう人間じゃないから」
「へー。そうなんですか……、まあどうでもいいですけど」
いろははつまらなそうにそう言うと、スマホで時間を確認する。
十秒おき位のペースで確認していた。
……いや、どんだけ会いたかったんだよ……。
「じゃあもうチャイム鳴るから行くわ」
「えー!」
「えーってなあ……。もう、一分も無いぞ」
「せんぱい。私のために遅れてくれないんですか……?」
「当たり前だ」
「えー!」
「だから、えーじゃないっつーの」
……どこのバカップルだ。
まったく、けしからん!
恋人(未来)を置いて、他の女子と話すなんて……!
私は身を隠していたところから離れると、すぐに先輩のところ……、ではなく、教室に向かった。
ヘタレ? 今の私には無理。
× × ×
事故から一ヶ月ほど経った。
高海が最近、姿を見せなくなった。
前まで毎日のように、昼休みに来ていたが最近はめっきり無くなった。
たまに廊下で見かけてもすぐに行ってしまうし、避けられているようだった。
一色に尋ねてみると、事故のことを気にしている模様、と言われた。
そんなこんなで、気まずい空気が、ここ一ヶ月ほど流れ続けていた。
気にするなと言ったが、やはり無理があるか……。
自分を庇って目の前でヒキガエルがひかれたのだから。
ノーノー。卑屈になりすぎだ。
ヒキガエルは小四の頃のあだ名。
最近は……。言われてましたね。
ヒキガエルって。
〇ノ下雪乃に。
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺は変わらず罵倒される毎日だからな。
問題は高海だ。
別に来て欲しい訳でもないが、行き違いや思い違いは解決しなくてはならない。
以前、痛いほど学んだことだ。
俺は以前、勝手に登録されていた高海の番号を出すと、そのまま電話をかけた。電話は苦手だが、致し方ない。
「本物が欲しい……!」よりはマシだからな。
俺は自分の黒歴史に悶えると、相手が出るのを、ただひたすらに待った。
× × ×
放課後、友達と別れると、一人でサイゼリヤに向かった。
入って、注文をすると、私のスマホが大音量で鳴り始めた。
焦って、応答ボタンを押す。
……誰か確認し忘れた……。
だが、マイク越しに聞こえたのは、知っている、安心する声だった。
『高海?』
『……はい』
『よ、よう』
『こんばんは……』
『えーっとな、えっと……』
『………』
『あれだ』
『なんですか……』
『ほら、高海も無事で、俺もまあ』
比企谷先輩はそんな感じで、脈絡もなく話を始める。
そこからまたしどろもどろに先輩は言葉を紡いでいく。
慰めようとしてくれているのか、私との間に妙な間を感じたのか。はたまた、ただの優しさなのか。
予想は立てることが出来ても、解決はできない。
『……つまり、そんなに気にする必要は無いってことだ』
どうやら私が考え込んでいる間に、比企谷先輩の中でなんとか解決はできたようで、突然、終止符が打たれた。
おかげで沈黙が流れる。
『…………あの。……私、どうしたらいいんですか』
『……何が』
『私は先輩と離れたいわけじゃないです』
『……』
『寧ろ、近くにいたいです』
『……そうか』
『でも、今は……』
言いかけて、遮られる。
その言葉は捲し立てるようだった。
『だから、気にすんなよ。俺はまったく気にしてないしな。なんだ? お前は気にしてほしいのか?』
先輩は励ましたいのか、私を煽るようだった。
『…………いえ。……先輩はやっぱり優しいですね』
『は?』
先輩は何を言っているのだ、と言わんばかりに返してきた。
『だから、私は、先輩が好きです』
本当に突然だ。
隠そう、隠そうと思っていた本心を、私はその時、つい口から漏らしてしまったのだ。
『…………は?』
先輩は変わること無く、また同じ返事とも言えぬような返しだった。
ヒキタニ先輩から改名!
あれぇ? 評価が赤くならないなぁ?
皆、待ってるよ!
あ、まだ八オリ決定してないです。
友達と別れてから
サイゼ行った理由は特にないです。