チャンピオンリーグに呼び出された。
受けループでもないパーティーに無限グライオンを利用しようとする事は愚かであったし、絵面が非常に地味になるということも考慮するべきだった。
スモモのジムで、格闘タイプだしいけるやろ! と考えたのがいけなかった。さっさとキッスで終わらせるべきだったのだ。負けて悔しいのか泣いちゃうし、こちらとしても外聞が悪かった。
他のジムリーダーはガブバシャでさっさと終わらせたが、流石の害悪戦法は問題だったらしい。
やべー。まじやべー、っべー。
いや、本当に。
何がやばいかって、トレーナー資格を剥奪される可能性があるのである。
トレーナー資格が無いと言うことは、非常にヤバイということだ。ポケモンを連れての外出は資格がないと許可されないし、モンスターボールの所持も――六つまでだが――許されない。
俺がこの世界に来てから一番最初にやったことは、トレーナー資格の取得だと言っても過言ではない。
加えて、ポケモンセンターの利用もトレーナー特権だし、何より収入に直結する。
一応、騎士道の売れっ子である俺はCM出演などもやっているのだが、イメージが傷つくと莫大な違約金が取られるのだ。
タマゴ島購入に家建設、百を越す大小様々なポケモンの食費で手持ちの金は少ない。違約金が発生すれば――不自由はないが――新しい仕事を探さざるをえないだろう。
このポケモン世界、チャンピオンリーグ関係者はかなりの権力を持っているのだ。四天王はその最上位と言ってもいい。人間的には一癖も二癖もあるだろう。
シンオウなら、頭がもじゃもじゃした人やキクコ似のBBA、虫使いに……あと一人は誰だ? Ptはなにぶん、数年前のことだからあまり覚えていないので仕方ないね。
取り敢えず、その三人だけでも異色の組み合わせであることが分かるだろう。
そんな人間を相手に、僕は大丈夫なトレーナーです! と宣言しなければならない。彼らは変人だが、ポケモンへの思いは真摯なものだ。欺ける相手ではないし、欺こうとするのも良くない。
しかも、これは非公式で内密に言われたものだと思っていたが、普通に周知されている。誰だリークした奴は! 許さんぞ! グギィィ!
取り敢えず、チャンピオンリーグに行こう。ウルガモスに掴まって、空へ飛び立った。
チャンピオンリーグの制度はゲームとは違う。どちらかと言えばアニメに近いのだろう。一般トレーナーと四天王含むトレーナーがリーグ方式で戦って、優勝したのがチャンピオンに挑める、というルールだ。
いきなりチャンピオンと戦った俺って、結構(後ろ盾の権力が)凄いのである。
また、滅茶苦茶人が集まるので、土地だけは馬鹿でかいのである。デッカイ塔が建ってるだけじゃない。
で、会議室的なところに呼び出され、目の前に四天王がいる。
「キミ、相当クレイジーなんだって?」
「いえ、真面目です」
「相当悪いウワサを聞くぜ」
「エゴサーチはオススメしません。自分のことは自分にしか理解できないのですから」
目の前のもじゃもじゃ……赤い髪のオーバさんが、いきなり失礼な質問をぶつけてきた。
結構、フランクなんスね。もっと逆○裁判ばりにギチギチした形式でやるのかと思ってた。
「悪い男でもなさそうだけど、いい男でもなさそうだね」
「僕もそう思います。冷たそうな人だ」
キクノさんと四人目のゴヨウさんがそう俺を評価する。……結構悪いのね。目つきが悪いからかね。残念だが生まれつきだ。
「エイジ君、ハッサムやウルガモスの他に、虫ポケモンを育てたことはあるかい?」
虫の四天王、リョウ。やっぱり虫ポケモンに興味があるようだ。騎士道バトルの見せ合いの段階で、手持ちにいたポケモンも把握しているとは珍しい。
トレーナー資格がかかった質問だ、慎重に答えなければ。
「シュバルゴ、アメモース、ヌケニン、ヘラクロス、ペンドラー、そのくらいです」
「おや、テッカニンはどうしたんだい?」
「……忘れてました」
……虫ポケモン好きの前で、やっちゃあいけないことをしたかもしれない。一匹作ったけど、バトンなら他でもいいからなぁ。他の運用は考えたこと無いし。
「……なるほどね。協会がうるさいから顔を立てたけど、別にいいんじゃないかな」
ん?
「ギンガ団の事があるから神経質になってるだけだよ」
おお?
「アツくはないが、そんなに騒ぎ立てる事でもないだろ」
流れ変わったな。
「大丈夫だということで、騎士道協会に報告して解散ですかね」
よくわからんが開放された、やったぜ。彼らのOKの基準は全くわからなかったが、今の問答になってない問答でも許可が出るとは。
こうして、シンオウ地方保身の旅は終わりを告げた。評判に多少の傷は付いたが、傷の上からチャンピオンリーグのOKサインという金メッキを塗ったので問題ないだろう。
流石に、これ以上の問題はないだろう。もうちょっと慎重に動かなければならないという教訓も得た、意外と俺の評判が悪いことも分かった。
暫くは大人しくして、経済基盤を整えよう。
エイジの召喚理由、その背景がまたアホらしいと、四天王は感じていた。
ギンガ団が一般人やら建物やらに色々とやらかしたせいで、トレーナー協会に苦情が掃いて捨てるほど殺到したのは記憶に新しい出来事であった。
ポケモンとともに生きる歴史を持つ「人類史」で、ポケモンに関する問題を無視することは出来ない。
そのため、素行に問題アリとされたトレーナーやギンガ団に加担したトレーナーがエイジと同じように査問され、資格剥奪や罰金、逮捕など色々な処罰を受けたのだ。
更に、一般人――主にジムリーダーファン――からエイジに対する苦情が雲霞の如く湧き出たとあれば、情勢が情勢なので無視できない。
こういった経緯で、マイナー競技の売れっ子に対する悪評を問題視した騎士道協会が、無駄に持っている権力で圧力をかけ、無理矢理エイジを召喚させたのだ。
問題なしと判断されれば、それはチャンピオンリーグのお墨付きを得たということになる。
なんとも欲にまみれた理由で呼ばれたことに、呆れ半分怒り半分で四天王は応じたのだ。しかし、シロナは問題ないとだけ言って欠席したので、四天王は増々乗り気ではなくなったのだ。
結果、問題アリと声高に叫ぶ世論――一部のうるさい連中――とは反対に、問題なしとの結論が出た。
エイジはそれ以上、トレーナーとのバトルをすることはなかったが、騎士道のバトルはいつも通り続け、低IQのテレビ番組でなんやかんやと騒がれていた。
ポケモントレーナーに潔白が求められる時代になったのだ。
グレーではなくホワイト。ブラックは消去すべし。
善人には追い風が、悪人には向かい風がそれぞれ吹いた。エイジも少なからずその風に曝されてはいるが、地位を脅かすものにはなっていない。例え四天王がNGを出したとしても、彼を擁護する声は幾らでも上がるだろう。
なぜなら、彼の放つ光はあまりにも眩しすぎるからだ。
普通のバトルとは異なる方式であるが、デビューから無敗の百連勝とは、あまりにも難しすぎる行為だ。
プロ同士のバトル、その平均的な勝率は三~五割。バラツキはあるが大体がその層に位置する。そして、四天王やチャンピオンであれば頭一つ飛び抜けて、八割近い勝率を叩き出す。
競技に生きる者の宿命だ。
どれほどの強打者であっても打率が十割になることは有り得ないし、どれほど良いチームでも負ける時は負ける。更に、常に最高のコンデションが保てるとは限らない。
ポケモンでも同じことが言える、技が必ず命中するとは断言できないし、傷ついた時に万全の状態と同じ威力の技を放つことは出来ない。生き物の性に囚われているのだ。
だが、エイジはそれを乗り越えた領域に足を踏み入れる。
瀕死寸前の状態でさえ、ポケモンは膝を突くことすらおろか、技の威力を落とすことすら無かった。試合の日が続いたときでさえ連戦連勝。勝利の威光に影を落とすことはなかった。
試合を実際に見る者は少ないだろうし、編集された映像に目を通すトレーナーの方が多いだろう。競技の存在を初めて知った人間も多いはずだ。内容も知らない人間が大多数を占めるに決まっているのだ。
だが、踏み越える。
百回戦って百回勝つトレーナーに、注目しない世界はない。その経済をポケモンに大きく委ねる社会で、無敗というのは大きな称号の一つ、偉大な業績の一つである。
彼の光に惑わされ、騎士道に転向しようと言うトレーナーは増加傾向にあるのだ。そこには目に見えない熱狂がある。空の盃を傾け、美酒の味を想像しているトレーナーが山ほど存在する。
積み重なる影の頂は、悪を寄せ付けないのだ。
騎士王が堕ちる時は、彼自身が足を踏み外したときだけだ。